収支計画の立て方 ── どこで見通しが狂うか
- 単年度の数字では足りない。保有する期間の全体を、表にして並べる
- 入れ忘れやすいのは修繕・入退去の費用・税金。毎年は出ないが必ず来る
- 前提を一つずつ動かして、どこで成り立たなくなるかを先に見る
- うまくいく場合だけの表は、計画ではない。崩れる場合も作る
利回りは、ある一年を切り取った数字です。しかし実際には、年によって支出は大きく変わります。
修繕が重なる年があり、入退去が続く年があり、金利が変わる年があります。十年、二十年という単位で見ると、平らな線にはなりません。
この記事では、保有する期間全体を一枚の表にする方法を扱います。特別な道具は要りません。表計算ソフトがあれば作れます。
なぜ単年度では足りないか
| 年によって変わるもの | 内容 |
|---|---|
| 修繕費 | 給湯器、外壁、屋根、給排水管。出る年と出ない年の差が大きい |
| 入退去の費用 | 原状回復、広告料。退去のたびに発生 |
| 賃料 | 建物が古くなり、周辺に新しい物件ができる |
| 借入の利息 | 返済が進むと、利息の割合が減る |
| 金利 | 変動なら、途中で変わる |
| 税金 | 減価償却が終わると、課税所得が増える |
減価償却費は、実際にお金が出ていかないのに経費として計上できます。この分だけ課税所得が下がります。
しかし、耐用年数が過ぎれば計上できなくなります。収入も支出も変わらないのに、税金だけが増える年が来ます。
木造なら22年、鉄筋コンクリート造なら47年が法定耐用年数の目安です。中古で取得した場合は、経過年数に応じた計算になります。いつ償却が終わるかを、税理士に確認して表に入れてください。
表の形
縦に年、横に項目を並べます。最低でも保有を想定する期間ぶん作ってください。
| 行の項目 | 備考 |
|---|---|
| 満室時の年間賃料 | 各室の賃料の合計 |
| 空室・滞納による減 | 稼働率を掛ける |
| 実収入 | 上の二つの差 |
| 管理委託料 | 実収入に対する割合 |
| 共用部の費用 | 電気、水道、清掃 |
| 固定資産税・都市計画税 | 毎年 |
| 火災保険料 | 数年ごとにまとめて |
| 修繕費 | 年ごとに置く。均等にしない |
| 入退去の費用 | 原状回復、広告料 |
| 運営後の利益 | 実収入から上を引いたもの |
| 借入の返済(元金) | |
| 借入の返済(利息) | 元金と分ける。利息だけが経費になる |
| 税引前の手残り | |
| 減価償却費 | お金は出ないが経費になる |
| 課税所得 | 税理士に確認 |
| 所得税・住民税 | 同上 |
| 税引後の手残り | これが実際に残る金額 |
| 借入の残高 | 年末時点 |
返済額のうち、経費になるのは利息だけです。元金の返済は経費になりません。
そのため、手元のお金は減っているのに、帳簿上は利益が出ているという状態が起こります。返済が進むほど、この差が広がります。
金融機関から返済予定表をもらえば、年ごとの元金と利息の内訳が分かります。その数字をそのまま表に入れてください。
入れ忘れやすい項目
修繕を、年ごとに置く
「年間収入の何パーセント」といった置き方を見かけますが、実際には特定の年に集中します。
| 時期 | 起こりやすいこと |
|---|---|
| 取得から数年 | 給湯器、エアコンなどの設備 |
| 十数年目 | 外壁、屋根。足場代がかかるためまとまった額に |
| 二十年以降 | 給排水管。工事の規模が大きい |
「その年に○○万円」という形で、表の該当する年に置いてください。均等に割ると、資金が足りなくなる年を見落とします。
取得時の一時費用
不動産取得税は取得の数か月後に来ます。初年度の欄に入れてください。
売却時
表の最後の年に、次を入れます。
- 想定売却価格
- 仲介手数料、印紙税、抵当権抹消の費用
- (境界が未確定なら)測量費
- 譲渡所得への課税
- 借入の残債を差し引く
売却価格は、表全体の結果を最も大きく左右します。そして、最も分からない数字です。
一つの数字を置いて「答え」にしないでください。取得価格と同額、一割下、三割下といった形で、複数の想定で計算してください。
とくに残債を下回った場合にどうなるかを見ておいてください。売っても借入が残る状態です。
前提を動かして、どこで崩れるか見る
表ができたら、前提を一つずつ変えて計算し直します。
| 動かすもの | 置き方の例 |
|---|---|
| 稼働率 | 95%/90%/80% |
| 賃料 | 据置き/5年ごとに数%下落 |
| 金利 | 現在/1%上昇/2%上昇 |
| 修繕費 | 想定どおり/1.5倍 |
| 売却価格 | 取得価格/一割下/三割下 |
どの前提が、どこまで悪化したら成り立たなくなるか。これを先に把握してください。
- 稼働率が何パーセントを下回ると、手残りがマイナスになるか
- 金利が何パーセント上がると、返済が収入を超えるか
- 何年目に、資金が足りなくなる可能性があるか
その水準が、現実に起こりうる範囲かどうかを考えます。「起こりにくい」なら進める材料になり、「十分ありうる」なら計画を見直す材料になります。
資金が尽きる年を探す
各年の手残りを積み上げて、累計がマイナスになる年がないかを見てください。
単年度では黒字でも、修繕が重なった年に手元の資金が足りなくなることがあります。そのときに借りられるとは限りません。
手元に置いておく資金の額を、表から逆算して決めてください。
地面の条件を、表に入れる
次の項目は、収支表に入れ忘れられがちです。しかし金額は小さくありません。
| 条件 | 表のどこに入るか |
|---|---|
| 境界が未確定 | 売却時の測量費。数か月の遅れも |
| 越境がある | 是正の費用、または交渉の時間 |
| 擁壁がある | 補修費。建て替え時の造り替えは数百万円規模 |
| 私道に面している | 維持管理の負担、掘削承諾が要る工事 |
| 再建築できない | 売却価格の想定を大きく下げる |
| 浸水想定区域内 | 保険料。水災補償の要否 |
これらは購入前に確認できます。確認したうえで、該当するものを表に入れてください。
融資の相談で見られること
金融機関に相談する際、この表がそのまま資料になります。見られるのは主に次の点です。
- 返済を賄えるか 運営後の利益が返済額をどれだけ上回るか
- 前提が現実的か 稼働率、賃料、修繕費の置き方
- 悪化した場合に耐えられるか 自己資金の厚み、他の収入
- 売却時に残債を下回らないか
都合の良い前提だけで作った表は、見る側にはすぐ分かります。厳しい想定も併せて示すほうが、話が進みます。
作った後は、実績と比べる
計画は作って終わりではありません。実際の数字と比べて、ずれた項目を更新してください。
| 比べるもの | ずれていたら |
|---|---|
| 稼働率 | 想定が甘かったのか、一時的なものか |
| 修繕費 | 次の年の想定を見直す |
| 賃料 | 周辺の相場と比べる |
| 手残り | 累計で足りているか |
年に一度でも見直すと、次の判断が変わります。
相談先
| 項目 | 相談先 |
|---|---|
| 課税所得・税額の計算 | 税理士 |
| 減価償却の期間 | 税理士 |
| 返済予定表、金利の想定 | 金融機関 |
| 修繕の時期と概算 | 建築士、施工業者、管理会社 |
| 賃料の相場 | 地元の宅地建物取引業者、管理会社 |
| 境界・測量の費用 | 土地家屋調査士 |
税額の計算は、必ず税理士に確認してください。この記事は税務の助言を目的としたものではありません。
- 保有を想定する期間ぶんの表を作った
- 元金と利息を分けた経費になるのは利息だけ
- 返済予定表の数字をそのまま入れた
- 稼働率を掛けた満室想定にしない
- 修繕費を年ごとに置いた均等に割らない
- 入退去の費用を織り込んだ
- 不動産取得税を初年度に入れた
- 減価償却が終わる年を確認した税理士に確認
- 売却時の費用を最終年に入れた測量費が必要か確認
- 売却価格を複数の想定で計算した
- 残債を下回った場合を確認した
- 稼働率・賃料・金利・修繕費を動かして再計算した
- どこで成り立たなくなるかを把握した
- 累計の手残りがマイナスになる年がないか確認した
- 手元に置いておく資金の額を逆算した
- 地面の条件を表に入れた境界・越境・擁壁・私道・再建築
- 税額の計算を税理士に確認した
まとめ
- 単年度の数字では足りない。保有する期間全体を一枚の表にする。
- 元金と利息を分ける。経費になるのは利息だけで、返済が進むほど差が広がる。
- 修繕は特定の年に集中する。均等に割ると、資金が足りない年を見落とす。
- 前提を一つずつ動かし、どこで成り立たなくなるかを先に把握する。
- 境界、擁壁、再建築の可否も表に入れる。金額は小さくない。
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