不動産証券化の仕組み ── 誰が何を負うか
- 証券化の核心は倒産隔離。原資産の信用を、原所有者の信用から切り離す
- 現在の主なスキームはTMKとGK-TK。有限会社を使うYK-TKは過去の呼称
- 導管性要件を満たすと支払配当を損金算入できる。法人税がかからないのとは違う
- 優先劣後構造によって、同じ資産から異なるリスクの証券を作る
不動産証券化は、「小口化して投資しやすくする仕組み」と説明されることがあります。それは結果の一つであって、目的ではありません。
核心にあるのは、特定の不動産が生むキャッシュフローを、それを保有していた会社の信用から切り離すことです。切り離すことで、その会社の格付けを超える条件で資金を調達できます。
この記事では、仕組みの骨格と、実務で使われるスキームを整理します。
何のために行うのか
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 資金調達 | 自社の信用力を超える条件で調達できる場合がある |
| オフバランス | 資産と負債を貸借対照表から外す。要件を満たす必要がある |
| リスクの移転 | 特定の資産に関するリスクを、投資家に移す |
| 投資機会の提供 | 結果として、少額での参加が可能になる |
オリジネーター(原資産の保有者)にとっての動機が先にあります。投資家側の利便は、そこから生じるものです。
倒産隔離
倒産隔離(バンクラプシー・リモートネス)とは、オリジネーターが倒産しても、証券化した資産が倒産手続きに巻き込まれない状態を指します。
これを実現するために、次のような手当てが行われます。
- 真正売買(トゥルーセール) 資産の移転が、担保付融資ではなく真の売買であること
- SPCの独立性 オリジネーターの子会社としない、独立した役員を置くなど
- 事業目的の限定 定款で、その資産の保有と関連業務に限定する
- 追加債務の制限 新たな借入や保証を行わない旨を定める
- 倒産申立ての制限 関係者が自ら倒産手続を申し立てない旨の合意
法律意見書(リーガルオピニオン)で、これらが確認されます。格付けを取得する場合、格付会社もこの点を審査します。
実質的に担保付融資と見られると
移転が真正売買と認められない場合、オリジネーターの倒産手続きに取り込まれます。投資家は、想定していた優先的な回収ができなくなります。
買戻し義務、過大な信用補完、価格の妥当性などが、判断の材料になります。
主なスキーム
TMK方式
資産の流動化に関する法律に基づく特定目的会社(TMK)を用いる形です。
| 内容 | |
|---|---|
| 根拠法 | 資産の流動化に関する法律 |
| 手続き | 資産流動化計画を作成し、届出を行う |
| エクイティ | 特定出資、優先出資 |
| デット | 特定社債、特定目的借入れ |
| 資産の保有 | 現物不動産を直接保有できる |
現物の不動産を保有できる点が特徴です。不動産取得税・登録免許税の軽減措置が設けられている場合があります。
GK-TK方式
かつては有限会社(YK)と匿名組合(TK)の組み合わせが使われ、YK-TK方式と呼ばれていました。
しかし2006年の会社法施行により、有限会社は新たに設立できなくなりました。現在は合同会社(GK)を用いるのが標準で、GK-TK方式と呼ばれます。
資料や社内の説明で「YK-TK」となっている場合、実務の現場では通じません。現行の呼称に改めてください。
| 内容 | |
|---|---|
| 器 | 合同会社(GK) |
| エクイティ | 匿名組合出資(TK出資) |
| デット | ノンリコースローン、社債 |
| 資産の保有 | 通常は信託受益権の形で保有する |
| 議決権 | 一般社団法人を用いて、支配関係を切り離す設計が多い |
現物ではなく信託受益権を保有するのが一般的です。流通税の負担、権利移転の簡便さ、金融商品取引法上の扱いが理由になります。
課税の扱い
TMKや投資法人は、一定の要件(導管性要件)を満たすことで、支払配当を損金に算入できます。
法人税が課されないのではなく、課税所得が圧縮される仕組みです。要件を満たさなければ、通常どおり課税されます。
主な要件には、配当可能利益の90パーセント超を配当することのほか、出資者の構成、資産の内容、業務の範囲などがあります。
一方、匿名組合出資については、営業者の段階で分配金を損金に算入する取扱いとなり、性質が異なります。
いずれも要件が細かく、改正もあります。個別の判断は税理士にご確認ください。
優先劣後構造
証券化の重要な要素が、同じ資産から、異なるリスクの証券を作り出すことです。
| 階層 | 性質 |
|---|---|
| シニア | 返済が最優先。損失を負うのは最後 |
| メザニン | 中間。シニアの後、エクイティの前 |
| エクイティ | 損失を最初に吸収する。その代わり、上振れの利益も取る |
キャッシュフローが減少したとき、まずエクイティが減り、次にメザニン、最後にシニアという順で影響します。
逆に言えば、エクイティとメザニンの厚みが、シニアにとっての緩衝材です。この厚みが、シニアの格付けを支えます。
そのほかの信用補完の手段として、超過担保、キャッシュリザーブ、金融保証などがあります。
LTVとDSCR
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| LTV | 借入額 ÷ 資産価値。低いほど緩衝材が厚い |
| DSCR | 純収益 ÷ 元利返済額。1.0を下回ると返済を賄えない |
ローン契約では、これらが一定の水準を割った場合のコベナンツ(財務制限条項)が定められます。抵触すれば、資金の留保や期限の利益の喪失につながります。
関与する当事者
| 当事者 | 役割 |
|---|---|
| オリジネーター | 原資産の保有者。資産を譲渡する |
| SPC | 資産を保有する器。TMK、GKなど |
| アセットマネージャー | 資産の運用に関する判断 |
| プロパティマネージャー | 物件の日常の管理、テナント対応 |
| 信託銀行 | 信託受益権とする場合の受託者 |
| レンダー | ノンリコースローンの貸付人 |
| 格付会社 | 証券の信用力を評価 |
| 投資家 | 各階層の証券・出資を取得 |
アセットマネージャーとプロパティマネージャーは、役割が異なります。前者は投資判断、後者は物件の運営です。
ノンリコースローン
証券化で用いられる借入は、ノンリコースであるのが通常です。
返済の引当てが対象不動産とそのキャッシュフローに限定され、それを超えて借主の他の資産に及びません。
そのため、レンダーは物件そのものの調査を重視します。権利関係、境界、賃貸借契約の内容、建物の状態、法令への適合。これらの調査結果が、融資の条件を決めます。
RMBSとCMBS
| RMBS | CMBS | |
|---|---|---|
| 原資産 | 住宅ローン債権 | 商業用不動産を担保とするローン |
| 件数 | 多数の債権をプール | 比較的少数、または単一 |
| 分析 | 統計的に扱う | 個別の物件を評価する |
| 主な発行主体 | 住宅金融支援機構、金融機関 | 金融機関、証券会社 |
件数の違いが、分析の方法を分けます。RMBSは多数の債権の期限前償還率やデフォルト率を統計的に見ます。CMBSは物件ごとの収益力と担保価値を個別に見ます。
不動産特定共同事業法
複数の投資家から出資を受け、不動産取引による収益を分配する事業については、不動産特定共同事業法による許可・登録が必要になります。
| 内容 | |
|---|---|
| 対象 | 不動産特定共同事業契約に基づき、不動産取引を行い収益を分配する事業 |
| 業務管理者 | 事務所ごとに配置が必要 |
| 小規模事業 | 要件を満たすものは登録制(後述の記事で扱います) |
業務管理者の要件
次のいずれかに該当することが求められます。
- 宅地建物取引士であって、登録実務講習を修了した者
- 公認不動産コンサルティングマスターで、一定の要件を満たす者
- ビル経営管理士で、一定の要件を満たす者
要件は改正されることがあります。最新の内容は国土交通省の資料で確認してください。
調査(デューデリジェンス)の位置づけ
証券化では、原資産の調査結果がそのまま証券の信用力に反映されます。
| 調査 | 見るもの |
|---|---|
| 法務 | 権利関係、境界の確定状況、越境、賃貸借契約の内容、法令への適合 |
| 物理 | 建物の状態、修繕の必要性と時期、耐震性能 |
| 環境 | 土壌汚染、アスベスト、PCB |
| 経済 | 賃料の水準、稼働率、周辺市場 |
境界が未確定であること、越境があることは、法務調査で必ず指摘されます。
売却時に確定測量が必要になり、期間と費用が生じます。ファンドの期間が限られている場合、出口の時期に直接影響します。
取得の条件として、確定測量や越境の覚書の取得を求められることがあります。
- 倒産隔離の手当てを確認した真正売買・SPCの独立性・目的の限定
- 法律意見書の内容を確認した
- スキームを確認したTMKか、GK-TKか
- 「YK-TK」という古い呼称を使っていない
- 資産の保有形態を確認した現物か、信託受益権か
- 導管性要件の充足を確認した税理士に確認
- 優先劣後の構造と、各階層の厚みを確認した
- 信用補完の手段を確認した
- LTVとDSCRの水準を確認した
- コベナンツの内容と、抵触時の効果を確認した
- ノンリコースの範囲を確認した
- アセットマネージャーとプロパティマネージャーの役割分担を確認した
- デューデリジェンスの結果を確認した法務・物理・環境・経済
- 境界の確定状況と越境の有無を確認した
- (不動産特定共同事業)許可・登録と業務管理者を確認した
まとめ
- 核心は倒産隔離。原資産のキャッシュフローを、原所有者の信用から切り離す。
- 現在の主なスキームはTMKとGK-TK。有限会社を使うYK-TKは過去の呼称。
- 導管性要件は「法人税がかからない」ではなく、支払配当を損金算入できる仕組み。
- 優先劣後構造により、同じ資産から異なるリスクの証券を作る。劣後部分が信用補完になる。
- 境界の未確定や越境は法務調査で指摘され、出口の時期に影響する。
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