市街地再開発事業 ── 権利変換という仕組み
- 二つの型がある。第一種は権利変換、第二種は用地買収。権利の動き方が根本的に違う
- 施行者は五つ。個人・組合・再開発会社・地方公共団体・UR等。誰が施行するかで進み方が変わる
- 事業費の主要財源は保留床処分金。売れなければ事業が成り立たない
- 権利変換を希望しない者は30日以内に申し出て、金銭補償を受けて転出する
駅前の古い商店街が、高層の複合ビルに建て替わる。そこにあった数十人の権利が、どうやって新しいビルの床に置き換わるのか。
市街地再開発事業は、都市再開発法に基づく事業です。土地と建物の権利を、新しい建物の床の権利に変換する。この仕組みが分かると、権利者として関わるとき、あるいは物件を扱うときの判断ができるようになります。
この記事では、二つの型の違い、権利変換の仕組み、そして実務者がどの場面で関わるかを扱います。
二つの型
| 第一種市街地再開発事業 | 第二種市街地再開発事業 | |
|---|---|---|
| 方式 | 権利変換方式 | 管理処分方式(用地買収方式) |
| 権利の動き | 従前の権利が、そのまま新しいビルの床の権利に変換される | いったん施行者が買収・収用し、希望者に床を譲渡する |
| 適する場面 | 一般的な再開発 | 公共性・緊急性が高く、大規模なもの |
| 土地収用 | ― | 収用対象事業になる |
| 施行者 | 個人・組合・再開発会社・地方公共団体・UR等 | 地方公共団体・UR等・再開発会社 |
第一種では、権利は消滅せずに床の権利へ変換されます。手続き上、権利が途切れません。
第二種では、施行者が買収または収用し、権利者はいったん対価を受け取ります。そのうえで、床を希望する者は譲受けの申出をして取得します。権利関係が複雑で調整に時間がかかる大規模事業を、早く動かすための仕組みです。
ほとんどの案件は第一種です。第二種は数が限られます。
誰が施行するか
| 施行者 | 特徴 |
|---|---|
| 個人施行者 | 権利者が1人または数人共同で。小規模。関係者全員の同意が前提 |
| 市街地再開発組合 | 最も一般的。5人以上が共同して設立。区域内の宅地所有者・借地権者の3分の2以上の同意(地積も3分の2以上)で設立認可を申請できる |
| 再開発会社 | 一定割合以上の地権者が議決権を持つ株式会社 |
| 地方公共団体 | 公共性の高い事業 |
| UR都市機構・地方住宅供給公社 | 大規模事業、公的な要請が強い事業 |
組合施行が最も多く、実務で関わる機会も多い形態です。3分の2の同意で設立できるということは、3分の1までの反対があっても事業は進むということでもあります。
権利変換の仕組み
権利床と保留床
| 内容 | 行き先 | |
|---|---|---|
| 権利床 | 従前の権利者に配分される床 | 従前の権利者 |
| 保留床 | 高度利用によって新たに生まれた床 | 売却・賃貸して事業費に充てる |
敷地を共同化し、容積率を高めて建てることで、従前より多くの床が生まれます。従前の権利に見合う分を権利床として返し、余った分を保留床として売る。この売却代金が事業費の主要財源になります。
事業費の相当部分を保留床処分金に依存する構造です。景気の変動、需要の見込み違い、テナントの撤退。これらが直接、事業の成否に響きます。
計画段階で保留床の取得予定者(特定業務代行者、床取得者)を確保しておくことが、事業の安定に直結します。「建てれば売れる」という前提で進めた事業が、完成後に空床を抱える例があります。
等価で変換される
従前の土地・建物の価額に見合う床が配分されます。従前の資産価値がそのまま床の価値に置き換わるという考え方です。
ただし、実際には従前の権利が小さい場合、配分される床が実用に足りない広さになることがあります。その場合、差額を負担して床を増やす(増床)か、転出するかの選択になります。
権利変換を希望しない場合
権利変換手続開始の公告があった日から30日以内に、施行者に対して権利変換を希望しない旨の申出をすることができます(都市再開発法71条)。
申し出た者は、従前の権利に対する金銭の補償を受けて転出します。
この期限を過ぎると、原則として権利変換されます。高齢の権利者や、事業に関心の薄い権利者が期限を知らずに過ぎてしまうことがあります。関わる立場であれば、期限を伝えてください。
借家人の扱い
借家人にも権利があります。従前の建物の借家人は、再開発ビルの床について借家権の取得を希望できます。希望しない場合は補償を受けて転出します。
ただし、従前と同じ条件で入居できるとは限りません。新しいビルの賃料水準は従前より高くなることが多く、実質的に営業の継続が難しくなる例があります。商店街の再開発で、従前の店舗が戻れないという問題はここに起因します。
事業の流れ
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 準備段階 | 勉強会、準備組合の設立。ここが最も長い |
| 都市計画決定 | 高度利用地区等の決定、市街地再開発事業の都市計画決定 |
| 組合設立認可 | 3分の2以上の同意を得て申請 |
| 事業計画の決定 | 設計の概要、資金計画、施行期間 |
| 権利変換計画の決定 | 誰にどの床を配分するか。権利者の同意が必要 |
| 権利変換期日 | 従前の権利が消滅し、新たな権利が発生する |
| 明渡し・除却 | 建物の明渡しと解体 |
| 建築工事 | 再開発ビルの建設 |
| 工事完了・引渡し | 権利者が床を取得 |
| 精算・保留床処分 | 清算金の徴収・交付、保留床の売却 |
準備段階から完成まで、10年を超えることが珍しくありません。権利者の高齢化、相続の発生、経済情勢の変化。この期間の長さが、事業の難しさの一因です。
施行区域になる要件
どこでも再開発事業ができるわけではありません。第一種では、次のような要件が定められています。
- 高度利用地区、都市再生特別地区、特定地区計画等区域内であること
- 耐火建築物の建築面積の合計が、区域内の全建築面積のおおむね3分の1以下であること
- 土地の利用状況が著しく不健全であること
- 高度利用を図ることが、都市機能の更新に貢献すること
二つ目の要件では、一定の耐火建築物は「耐火建築物」から除外して数えます。階数が2以上でないもの、耐用年限の3分の2を経過したもの、建築面積が150平方メートル未満のものなど。老朽化した建物が多い区域ほど、要件を満たしやすくなる構造です。
第二種では、これに加えて面積0.5ヘクタール以上であることと、安全上・防火上支障のある建築物が一定割合以上を占めること、または重要な公共施設の早急な整備が必要であることが求められます。
実務者が関わる場面
区域内の物件を扱うとき
再開発の話が出ている区域の物件は、進捗段階によって扱いがまったく変わります。
- 準備組合の段階 まだ何も決まっていない。実現しない可能性も相当ある
- 都市計画決定後 建築に制限がかかる(都市計画法53条・65条)
- 組合設立認可後 事業が動き始める。権利変換の対象になる
- 権利変換期日後 従前の権利は消滅している。売買の対象が変わる
「再開発の話がある」という情報だけで判断せず、市町村の担当課で進捗を確認してください。そのうえで、買主に説明します。
権利者から相談を受けたとき
- 残るか、転出するか 配分される床の広さ、増床の負担、将来の管理費・修繕積立金
- 期限 権利変換を希望しない旨の申出は30日以内
- 借家人の立場 新しいビルの賃料で営業が成り立つか
- 相続 事業期間が長いため、途中で相続が発生することがある
可否や損得の判断を断定しないでください。再開発コンサルタント、施行者、必要なら弁護士や税理士につなぐのが役割です。
保留床の取得を検討するとき
保留床は、事業の完成前に取得を予定する形(特定業務代行、保留床処分の予約)と、完成後に取得する形があります。前者は事業リスクを負う代わりに、条件面で有利になることがあります。
事業が抱える課題
- 期間の長さ 準備から完成まで10年超。その間の情勢変化を吸収できない
- 保留床処分への依存 売れなければ成り立たない構造
- 従前の権利者が戻れない 配分床が小さい、賃料が上がる、管理費負担が重い
- 準備段階の支援不足 最も時間のかかる段階に、公的な支援が薄い
- 完成後の管理 権利関係が複雑な建物の管理組合運営
とくに三つ目は、再開発の目的と結果が食い違う典型です。にぎわいを取り戻すはずの事業で、従前の店主が戻れず、全国どこにでもあるテナントが入る。この構造は各地で指摘されています。
- 第一種か第二種かを確認した権利の動き方が違う
- 施行者を確認した個人・組合・再開発会社・地方公共団体・UR等
- 事業の進捗段階を市町村で確認した準備組合/都市計画決定/組合設立認可/権利変換期日
- (都市計画決定後)建築制限がかかることを確認した
- (物件を扱う)進捗段階を買主に説明し、記録した
- (権利者の相談)配分される床の広さと増床の負担を確認した
- (権利者の相談)権利変換を希望しない旨の申出の期限を伝えた30日以内
- (借家人の相談)新しいビルの賃料水準を確認した
- 完成後の管理費・修繕積立金の見込みを確認した
- 保留床の処分見込みを確認した事業の安定に直結
- 事業期間中の相続発生に備えた助言をした
- 損得の判断を断定せず、施行者や専門家につないだ
まとめ
- 第一種は権利変換、第二種は用地買収。権利の動き方が根本的に違う。
- 組合施行が最も多い。3分の2以上の同意で設立でき、3分の1の反対があっても進む。
- 事業費の主要財源は保留床処分金。売れなければ事業が成り立たない。
- 権利変換を希望しない者は、公告から30日以内に申し出て金銭補償を受ける。
- 準備から完成まで10年超。従前の権利者が戻れないという課題が各地で指摘されている。
都市計画法から開発許可、区画整理、市街地再開発まで全14分野。自治体の職員研修、専門職団体の講習会としてお引き受けしています。
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