不動産という資産 ── 他の資産と、五つ違う
- 他の資産と違うのは五点。流動性・単位の大きさ・借入・実物・動かせないこと
- 借入は損失も拡大させる。利益だけが大きくなる仕組みではない
- 売りたいときに売れるとは限らない。買い手に融資が付くかで決まる
- 地面に固定されているため、その土地の条件がそのまま資産の性質になる
預金、株式、投資信託、債券。資産にはいろいろな形があります。そのなかで不動産だけが持っている性質があります。
良い悪いではなく、性質が違うということです。この違いを踏まえずに他の資産と同じ感覚で扱うと、想定していなかった場面で困ることになります。
この記事では、不動産という資産が他とどう違うのかを整理します。特定の商品や手法を勧めるものではありません。
五つの違い
| 不動産 | 上場株式・投資信託など | |
|---|---|---|
| 流動性 | 低い。売却に数か月かかることがある | 高い。市場が開いていれば売れる |
| 取引の単位 | 大きい。分割して少しだけ売ることが難しい | 小さい。一部だけ売れる |
| 借入 | 借入で購入するのが一般的 | 通常は自己資金 |
| 実物かどうか | 実物。劣化し、管理が要る | 権利。管理の手間はない |
| 場所 | 動かせない | 場所に縛られない |
以下、それぞれが実務でどう効いてくるかを見ていきます。
流動性が低いということ
売ろうと決めてから現金になるまで、数か月を要するのが普通です。買い手を探し、条件を交渉し、融資の審査を待ち、決済する。
自分が現金で買えた物件でも、次に買う人が融資を受けられなければ、買い手の範囲が極端に狭くなります。
融資が付きにくくなる条件があります。
- 再建築ができない 接道義務を満たしていない
- 市街化調整区域にある 建築に許可が要る
- 境界が確定していない 面積が確定していない
- 建物が違法または既存不適格 現行の基準に適合していない
- 耐用年数を大きく超えている 融資期間が取れない
買うときには問題にならなくても、売るときに効いてきます。「安く買えた」物件が、安い理由を抱えたまま手元に残ることがあります。
急いで現金が必要になったとき
不動産は、必要な額だけを切り出して現金化することができません。株式なら一部を売れますが、不動産は建物ごと、土地ごとです。
急ぐと価格を下げることになります。「いつまでに現金が要るか」が決まっている資金を、不動産に充てるのは性質が合いません。
借入は、両側に効く
自己資金の何倍もの資産を持てることが、不動産の特徴としてよく挙げられます。ただしこれは、利益だけを拡大する仕組みではありません。
自己資金1に対して借入4、合わせて5の資産を持ったとします。
資産の価値が2割上がれば、増えた分は自己資金に対して大きな割合になります。逆に2割下がった場合も、同じ計算が働きます。
借入の返済額は、資産価値が下がっても減りません。価値が下がり、家賃も下がり、返済だけが変わらない。この状態が続くと、売っても借入が残ることになります。
借入は資産を大きくする道具であって、損失を防ぐ仕組みではありません。
金利が変われば、前提が変わる
変動金利で借りている場合、金利が上がれば返済額が増えます。家賃は同じ速さでは上がりません。
収支の見通しを立てるときは、今の金利ではなく、上がった場合でも成り立つかを確認してください。
実物であるということ
建物は劣化します。設備は壊れます。持っているだけで費用が発生し続けます。
| 費用 | 性質 |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 毎年。空室でもかかる |
| 管理委託料 | 毎月。家賃収入に対する割合 |
| 修繕費 | 不定期。まとまった額になることがある |
| 火災保険料 | 数年ごと。近年は上昇傾向 |
| 入退去に伴う費用 | 原状回復、募集の広告料 |
修繕は「いつか」ではなく「必ず」来ます。屋根、外壁、給湯器、給排水管。それぞれに寿命があります。
災害の影響を受ける
地震、水害、土砂災害。実物であるため、被害を直接受けます。保険で備えられる範囲と、備えられない範囲があります。
ハザードマップで、その土地がどの区域に入っているかは事前に確認できます。これは買う前に分かることです。
動かせないということ
不動産は場所に固定されています。周辺の環境が変われば、資産の価値も変わります。自分では動かせません。
- 近隣に大きな建物が建ち、日照が失われる
- 主要な事業所が移転し、賃貸の需要が減る
- 公共交通が減便される
- 逆に、道路や施設の整備で条件が良くなる
これらは自分の努力とは関係なく起こります。だからこそ、買う前にその土地の条件を確かめておくことに意味があります。
土地の条件は、買った後には変えられない
建物は直せます。設備は入れ替えられます。しかし土地の条件は、ほとんど変えられません。
| 変えられないもの | 効いてくる場面 |
|---|---|
| 接道の状況 | 建て替えの可否、融資、売却 |
| 用途地域・区域区分 | 建てられる建物の種類と規模 |
| 地盤 | 建て替え時の改良費 |
| 高低差・崖の有無 | 擁壁の維持、造成費 |
| 災害の危険性 | 保険料、売却時の説明事項 |
| 私道か公道か | 掘削承諾、維持費の負担 |
境界の確定と越境の是正は、費用と時間をかければ解決できることがあります。ただし相手のあることなので、確実ではありません。
「魅力」として語られることを確かめる
不動産投資の利点としてよく挙げられる項目を、そのまま受け取らずに見てみます。
| 語られ方 | 確かめること |
|---|---|
| 安定した収入 | 空室が出れば途切れる。返済は続く |
| インフレに強い | 家賃がすぐ上がるとは限らない。金利は先に上がりうる |
| 生命保険の代わりになる | 団体信用生命保険の内容と、残る資産の売却しやすさ |
| 節税になる | 後述 |
| 年金の代わりになる | その時点で建物が何年経っているか。修繕の見通し |
不動産の保有や譲渡には、所得税、住民税、固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登録免許税などが関わります。計算も適用の要件も複雑です。
注意していただきたい点を挙げます。
- 住宅ローン控除は、自己が居住する住宅のための制度です。投資用の物件には適用されません。混同した説明を見かけることがあります
- 減価償却によって課税所得が減る局面はありますが、売却時の取得費が減るため、譲渡益が大きくなります。先送りしている面があります
- 節税を主たる目的とした取引は、税務上否認されることがあります
税務の判断は、必ず税理士にご相談ください。この記事は税務の助言を目的としたものではありません。
他の資産との関係で考える
不動産だけで資産を考える必要はありません。性質が違うのですから、組み合わせ方の問題になります。
| 資金の性質 | 向く置き場所 |
|---|---|
| いつ必要になるか分からない | すぐ現金にできるもの |
| 数年以内に使う予定がある | 元本の変動が小さいもの |
| 当面使う予定がない | 長期で持てるもの |
不動産は、当面使う予定のない資金の置き場所です。流動性が低く、単位が大きいためです。
この整理は、金融機関や資産運用の専門家に相談してください。全体の設計は、不動産の側からだけでは決められません。
知っておくと判断が変わること
相続のときに分けにくい
不動産は、現金のように等分できません。相続人が複数いる場合、共有にするか、一人が取得して他に代償金を払うか、売って分けるかになります。
共有にすると、売却には共有者全員の同意が必要になります。その後さらに相続が起これば、共有者が増えていきます。
管理を委託しても、判断は残る
管理会社に任せても、修繕をするかしないか、家賃を下げるか据え置くか、入居者を受け入れるか。決めるのは所有者です。
買ったときの条件が、ずっと付いてくる
再建築不可、調整区域、境界未確定、越境あり。買うときに安くなっていた理由は、売るときにも同じように効きます。
- その資金は、当面使う予定がないものか
- 急いで現金が必要になったとき、他の手段があるか
- 買い手に融資が付く物件か再建築の可否・区域・境界・建物の適法性
- 借入が、価値の下落局面でも耐えられる水準か
- 金利が上がった場合の返済額を試算したか
- 空室期間を織り込んだか
- 修繕の時期と概算費用を見込んだか
- ハザードマップで災害の区域を確認したか
- 土地の条件を確認したか接道・用途地域・地盤・高低差・私道
- 「節税」の説明を税理士に確認したか
- 住宅ローン控除と混同していないか
- 相続の際にどう分けるかを考えたか
- 他の資産との配分を、専門家と整理したか
まとめ
- 不動産が他の資産と違うのは、流動性・単位の大きさ・借入・実物・動かせないことの五点。
- 借入は利益も損失も拡大させる。返済額は資産価値が下がっても減らない。
- 売れるかどうかは、次に買う人に融資が付くかで決まる。
- 土地の条件は買った後には変えられない。買うときの安い理由は、売るときにも効く。
- 「節税」の説明は必ず税理士に確認する。住宅ローン控除は自己居住用で、投資用には使えない。
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