任意売却 ── 決めるのは、債権者
- 売主が決められる手続きではない。債権者の同意が前提
- 競売の手続きは並行して進む。使える時間には限りがある
- 残った債務は消えない。売却で終わりではない
- 相談先を誤ると、費用だけかかって進まない
住宅ローンの返済が滞ると、債権者は担保である不動産の競売を申し立てます。
その手続きが進む前に、通常の売買と同じ形で売り、代金を返済に充てるという方法があります。これが任意売却です。
この記事では、実際に何が起こり、何が起こらないかを整理します。
競売との違い
| 競売 | 任意売却 | |
|---|---|---|
| 誰が売るか | 裁判所の手続き | 所有者が売る |
| 価格 | 入札による | 市場での交渉による |
| 情報の公開 | 物件情報が公開される | 通常の売却と同じ |
| 引渡しの時期 | 手続きに従う | 交渉で調整できる場合がある |
| 債権者の同意 | 不要 | 必要 |
任意売却は市場で売るため、競売より高くなることが多いとされています。
しかし、常にそうなるわけではありません。
- 時間が限られており、値下げを迫られやすい
- 買主が事情を知っていれば、価格交渉の材料になる
- 権利関係が複雑だと、買主が付かない
- 債権者が示す最低価格を下回れば、成立しない
「任意売却なら高く売れます」と断定する説明には、注意してください。
決めるのは、債権者
抵当権が設定されている以上、抹消に同意してもらわなければ売れません。
債権者が見ているのは、競売にかけた場合と比べて、回収額が上回るかどうかです。
| 債権者が判断すること | |
|---|---|
| 売却価格 | 下限を示される |
| 配分 | 複数の債権者がいれば、その配分 |
| 諸費用の控除 | 仲介手数料、登記費用などを代金から出せるか |
| 引越し費用 | 認められる場合があるが、確約されない |
| 期限 | いつまでに成約させるか |
引越し費用が代金から出るという説明を見かけますが、これは債権者の判断によります。
「必ず出ます」と言う相手は、信用しないでください。
債権者が複数いると難しくなる
第二順位以下の抵当権者、税金の差押えなどがある場合、全員の同意が必要です。
後順位の債権者は、競売になっても配当を受けられない立場にあることが多く、同意の見返りを求めることがあります。
この調整がつかず、成立しない例は少なくありません。
時間の制約
任意売却を検討している間も、競売の手続きは進行します。
おおよその流れです。
- 返済の滞納
- 督促、期限の利益の喪失
- 保証会社による代位弁済
- 担保不動産競売の申立て
- 競売開始決定、差押えの登記
- 現況調査、評価
- 期間入札の公告
- 入札、開札
- 売却許可決定、代金の納付
任意売却ができるのは、原則として開札の前までです。
早い段階で相談するほど、選択肢が多く残ります。
滞納が始まってから動くのと、競売開始決定が出てから動くのでは、使える時間がまったく違います。
残った債務は消えない
売却代金で完済できなければ、差額はそのまま債務として残ります。
任意売却をしたからといって、借金がなくなるわけではありません。
| その後 | |
|---|---|
| 残債務 | 返済の義務が残る |
| 交渉 | 分割での返済を協議できる場合がある |
| それでも困難なら | 債務整理を検討することになる |
残債務の整理は、弁護士または司法書士の領域です。
不動産業者が「残りの借金も何とかします」と説明することは、その業者の業務範囲を超えます。
売却と債務の整理は別の問題として、それぞれ適切な相手に相談してください。
信用情報について
返済の延滞があれば、その事実が信用情報機関に登録されます。
任意売却を選んでも、競売になっても、登録される内容が変わるわけではありません。
「任意売却なら信用情報に傷がつかない」という説明は、誤りです。
登録される期間や内容は機関によって定められています。具体的には、各信用情報機関に開示を請求して確認してください。
手続きの流れ
| すること | |
|---|---|
| 一 | 債権者に相談し、任意売却の意向を伝える |
| 二 | 不動産の価格を査定する |
| 三 | 債権者と価格・配分・期限を協議する |
| 四 | 媒介契約を結び、販売活動を行う |
| 五 | 買主が決まったら、配分案を作る |
| 六 | 全債権者の同意を得る |
| 七 | 売買契約、決済、抵当権の抹消、引渡し |
売却代金を、誰にいくら配るかを示した書面です。
- 優先順位に従って配分する
- 仲介手数料、登記費用、滞納管理費などの控除
- 後順位者への配分 同意を得るための一定額
- 引越し費用(認められる場合)
一人でも同意しなければ、成立しません。
とくに、滞納した税金による差押えがある場合、その解除には別の手続きが要ります。
相談先を誤らない
返済に行き詰まった方のもとには、案内が集中します。
競売開始決定は登記に記録され、公開情報から対象者を把握できるためです。
注意すべき兆候です。
- 訪問や電話で、繰り返し勧誘してくる
- 「借金がゼロになる」と説明する
- 「引越し費用が必ず出る」と断言する
- 相談料や着手金を先に求める
- 宅地建物取引業の免許を確認できない
- その場での契約を迫る
- 親族や第三者に買わせて住み続けられる、と勧める
最後のものは、慎重な検討が要ります。
形式だけ所有者を変えて住み続ける仕組みは、条件が不利であったり、後に立ち退きを求められたりする例があります。
契約書の内容を、独立した専門家に確認してもらってください。
どこに相談するか
| 内容 | 相談先 |
|---|---|
| 返済の見直し | まず借入先の金融機関 |
| 不動産の売却 | 宅地建物取引業者 |
| 債務整理 | 弁護士、司法書士 |
| 生活の立て直し | 市町村の相談窓口 |
| 多重債務 | 法テラス、消費生活センター |
金融機関に相談すること自体は、不利になりません。
返済条件の変更に応じてもらえる場合があります。連絡を絶つことが、最も選択肢を狭めます。
仲介する側の注意
- 債権者との協議は、書面で記録を残す
- 売主に、残債務が残ることを明確に伝える
- 引越し費用を確約しない
- 信用情報について誤った説明をしない
- 債務整理に踏み込まない 弁護士法に触れるおそれ
- 買主に、決済までの不確実性を説明する
- 期限を管理する
- 債権者の同意が前提であることを理解した
- 競売の手続きがどこまで進んでいるか確認した
- 使える時間を把握した
- 債権者が複数いないか確認した
- 税金の差押えがないか確認した
- 残債務が残ることを理解した
- 信用情報への登録について正確に理解した
- 引越し費用が確約されないことを理解した
- 宅地建物取引業の免許を確認した
- 先に費用を求められていない
- (住み続ける提案)契約内容を独立した専門家に見てもらった
- 債務整理は弁護士・司法書士に相談した
- 金融機関との連絡を絶っていない
まとめ
- 債権者の同意が前提。所有者の一存では進まない。
- 競売の手続きは並行して進む。早く動くほど選択肢が多い。
- 残った債務は消えない。売却と債務整理は別の問題。
- 信用情報の扱いは、任意売却でも競売でも変わらない。
- 金融機関との連絡を絶たない。それが最も選択肢を狭める。
不動産事業者、専門職団体の皆様向けにお引き受けしています。手続きの順序と、説明してよい範囲の線引きをお話しします。
構成のご提案とお見積りまで、費用はかかりません。
