建物設備の管理業務
現在、建物を長く活用していこうという流れになってきています。
以前のように、建設して壊し、また建設する、といったようなフロー型から、建てた建物を長く活用しようということです。
長く活用するためには、メンテナンスが重要になってきます。
メンテナンスが行き届いていれば、商品価値も上がります。
メンテナンスによって、清潔感、快適性、利便性、安全性などを向上させることで入居者からの評価が上がってきます。
安全性は、社会的に特に要請されています。
エレベータが誤作動を起こし死亡事故につながったこともあります。
メーカーだけでなく管理している会社(家主)にも社会的非難が集中しました。
このような事故で建物の安全性は疑われ、退室が相次ぎ、入居率の低下どころか新たな入居率もままならないといった事態に陥る可能性は十分にあります。
損害賠償を求められることもあるかもしれません。
建物のライフサイクルコスト(LCC)
ライフサイクルソフトとは、建物のライフサイクルにかかる費用のことです。
中規模ビルのLCCのおおよその内訳は、以下の通りです。
建設費 | 16.1% |
---|---|
企画設計費 | 0.4% |
一般管理費 | 1.8% |
修繕更新費 | 29.0% |
水光熱費 | 31.2% |
保全費 | 21.5% |
これを見てお分かりの通り、
企画設計 → 建設 → 運用・管理 → 解体・撤去
という建物が生まれてから死ぬまでの流れ(ライフサイクル)の中で、建物が完成してから、運用管理していく費用が圧倒的に多いのです。
一般的に建設費の約5〜6倍になると言われています。
建物を建てる時の初期投資(イニシャルコスト)にとかく神経を使いがちですが、実は運用・管理の段階での費用の方が、初期投資(イニシャルコスト)よりも多く神経を使うべきポイントなのです。
効率的、計画的に建物を運用・管理していくためには、建物をライフサイクル(LC)で考えることが重要です。
ライフサイクル(LC)設計のポイント
- 更新性が良いこと
- 保全性が良いこと
- 可変性が高いこと
- 耐久性があること
- 省エネであること
ライフサイクルコスト(LCC)の8割は、設計段階で決まります。
ここで手を抜くと、長い時間をかけて、多額の支出を強いられることにもなりかねません。
建物は、60年くらい利用できるものと考えた時、設備の寿命は、15年〜20年です。
最初の設備を建物の解体撤去するまで使うことができません。
その寿命に合わせて、適切にリニューアルしていく必要があります。
建物・設備 管理の目的
建物、設備を管理する目的
- できるだけ多くのテナント賃料収入を得ること
- 管理費等の適正化
資産価値を向上させること
そのために具体的に行わななければならないこととして、
長期修繕計画作成 | 建物の中・長期にわたって発生する修繕・更新内容とその費用を算定・予測するもの |
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改修履歴の管理 | 修繕・更新履歴などの実績データの他にエネルギーデータなどもあるとより良い |
建物診断 | 人間でいうところの人間ドッグのようなもの |
などがあげられます。
建物保全業務
建物の保全、維持管理は、問題が起きてから行うよりも、あらかじめ故障をする前に適切な処理を施しておいたほうが効率的です。
突然、事故や故障が起きて、慌てて復旧を急ぎ十分な補修ができなくなり、設備全体の修繕周期も把握できなくなり、資金計画も立てにくく行き当たりばったりの対応になっていくのがオチです。
設備に法定耐用年数というものがあります。
しかしそれにとらわれ過ぎてもいけません。
大事なのは、現場の劣化状況です。
それと資金計画では、どうなっているかということ。
その辺りを正確に把握した上で予防的に保全を実施して、適正に維持を図っていきましょう。
維持管理計画
維持管理を効率的に行うためには、維持管理計画が必要です。
維持管理計画は次の3つに分けることができます。
- 日常的なもの
- 定期的なもの
- 修繕に関するもの
01.日常的なもの
日常的なものには、日常清掃、設備の運転作動状況の確認、警備、巡回などが挙げられます。
照明の設定変更、空調温度の調整など、快適な環境をための業務を行います。
電気設備、空調設備、給排水衛生設備、消防設備、など異常がないかの点検がポイントです。
02.定期的なもの
定期的なものとは、設備に異常がないかどうかを専門業者に定期的に点検してもらうことを指します。
エレベーター、エスカレーター、受変電設備、消防設備、機械式駐車場は、定期点検(法定点検)を委託します。
建物を管理する立場からは、点検結果をきちんと確認して、事故が起きないようにしていかなければなりません。
法定点検は、毎月必要なもの、半年に1回、1年に1回のものと点検の回数が異なりますので注意しましょう。
3 修繕に関するもの
修繕に関するものは、修繕計画を維持していくための業務です。
計画には、日常維持管理計画、年間維持管理計画、長期修繕計画があります。
日常維持管理計画
日常維持管理計画は、建物の機能(パフォーマンス)を発揮して維持していくために行うものです。重要な部分であり、計画に実施しなければなりません。
年間維持管理計画
年間維持管理計画は、1年間を通しての実施計画であり、建物の使用に支障がないように時期を選んで行うものです。
月単位で実施するので月例点検と呼ぶこともあります。
建物、電気設備、機械設備などに分割して1年間の計画を作成させます。
管理項目として、
・空調設備管理 ・給排水衛生設備管理 ・清掃・廃棄物処理管理 ・環境衛生管理 ・電気設備管理 ・電気設備管理 ・建築防災管理
長期修繕計画
長期修繕計画とは、建物を中・長期的に修繕(更新)内容の費用を予測して見積もって計画していくものです。
設備が劣化に伴って壊れてしまい、修理が必要となった場合、これらの費用を急いで用意するのは大変です。その費用が多額であればあるほど大変ですね。
修繕更新項目
前述したように「建物の保全、維持管理は、問題が起きてから行うよりも、あらかじめ故障をする前に適切な処理を施しておいたほうが効率的」なのです。
将来の更新、修繕の必要となる費用と時期を予測することが求められています。
それに合わせて資金の準備をしておくことが重要です。
メンテナンス項目(建物診断、補修、修繕、改修、設備オーバーホール)を20年から30年のスパンで計画していきます。見直しは、通常5年ごとに行うことが多いでしょう。
設備の寿命が長くなることによって収益面にメリットのある話があります。
それは、設備の更新によって発生する新たな減価償却分とその工事費の金利分が後ろ倒しにあることです。
このような視点からも「適切な時期」に「適切なコスト」で修繕を行うことが賃貸事業を行う上での重要なポイントとなるのです。
長期的な視野に立ち、
「いつ」
「どこを」
「どのように」
「いくらで」
修繕していくかという計画が長期修繕計画です。
修繕更新項目として
・建築工事 ・電気設備工事 ・空調換気設備工事 ・給排水設備工事 ・昇降機設備工事
があります。
大項目として、
・屋根 ・外壁 ・天井 ・鉄部 ・バルコニー ・床 ・給水設備 ・排水設備 ・電気設備 ・TV受信設備 ・EV設備 ・消防設備 ・ガス設備 ・土木造園
があります。
長期修繕計画に基づいて、修繕していった記録を修繕履歴として作成しておきましょう。適切に修繕が行われているか定期的にチェックしていく必要があります。
リフォーム
建築してから15年を超えたあたりから建築物は劣化するスピードを増していきます。劣化は、建物が寿命を迎えるまで続きます。
そうした中、次々を新築されていく物件に対して競争力を持っていかなければ取り残されてしまいます。
建物が古くなれば、賃料は下がっていきます。
新築の物件と比較したら利用価値が下がっているからです。
入居者が決まらなければ、十分な賃料が取れず、賃貸経営できなくなってしまいます。
建物が古くなり、収益性が低くなっても土地に建物が建っていれば土地の相続税評価額は変わりません。
経年減価とともに賃料を下げていく以外方法はないのでしょうか。
そこで、リフォームという考え方があがってきます。
減価しないようにする方法がリフォームなのです。
リニューアルの内容
01.空気環境
- 空調システムのリニューアル
- 床のOA化
空調にかかるエネルギーの費用は、全体の約40%を占めており、ランニングコストの低減を目指したいところです。さらに快適な空気環境も実現していきましょう。
02.OA化
- OAフロアの敷設
セキュリティの強化、トラブルに対処するための整備を行います。
03.イメージの向上
- エントランスリニューアル
- 外装のリニューアル
イメージの向上を目指すほか、定期的な補修を行うことで機能的にも安全的にも向上を目指しましょう。
04.水廻り
- トイレのリニューアル
- 給湯室のリニューアル
快適で清潔な水廻りを目指しましょう。
05.その他
- 震災への対応工事
長期的な視点を持つことの重要性
修繕を計画的に行っていない → 建物が加速度的に劣化 → 賃料が下がる → 賃料が下がっているのでなかなか修繕にお金をかけることをためらう・・・
→ さらに建物が劣化 → さらに賃料が下がる → 修繕にかけるお金が・・・ → そしてさらに建物が劣化・・・
と、負のスパイラルに入り込んだら、物件はあっという間に不良債権化していきます。
長期的な視点を持つことが重要です。
そのために計画的に修理修繕を行い、資産価値を保つ努力をしていきましょう。