長期修繕計画 ── 周期と積立をどう見積もるか
- 建物の費用は建てた後のほうが大きい。設計の段階で決まる部分がある
- 法定耐用年数と、実際の寿命は別のもの。税務の区分であって劣化の指標ではない
- 計画は作るより見直し続けるほうが難しい
- 積立が足りなくなるのは、当初の設定が低いからであることが多い
建物は、放っておけば傷みます。傷んでから直すと、高くつきます。
そこで、いつ・どこを・いくらで直すかを、あらかじめ決めておく。これが長期修繕計画です。
この記事では、計画の立て方と、実際に足りなくなる理由を整理します。
費用は、建てた後のほうが大きい
建物にかかる費用を、企画から解体までの全期間で捉える考え方があります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 初期費用 | 企画、設計、建設 |
| 運用費 | 光熱水費、保守、清掃、警備 |
| 修繕・更新費 | 外壁、防水、設備の交換 |
| 解体費 | 取り壊しと処分 |
長く使う建物ほど、建設費以外の比重が大きくなります。
建設費を抑えたために運用費が増え、結局は総額で上回る。この逆転は珍しくありません。
設計の段階で決まってしまうもの
- 点検口があるか なければ、壊さないと見られない
- 配管が躯体に埋め込まれていないか
- 足場を組みやすい形状か
- 特殊な建材・設備を使っていないか 交換部品が入手できなくなる
- 設備の更新スペースが確保されているか
建ててしまうと、これらは変えられません。新築を検討する場合、この観点を設計者に伝えてください。
法定耐用年数は、寿命ではない
法定耐用年数は、減価償却の計算に用いる税務上の区分です。
その年数が過ぎたら使えなくなる、という意味ではありません。
| 性格 | |
|---|---|
| 法定耐用年数 | 税法が定める償却の期間 |
| 物理的な寿命 | 手入れの状況による。大きく前後する |
| 経済的な寿命 | 収益を生まなくなるまでの期間 |
適切に維持された建物は、法定耐用年数を大きく超えて使われています。
逆に、放置された建物は、その年数を待たずに使えなくなります。
計画を立てるとき、法定耐用年数を根拠にしないでください。実際の劣化を、診断で確かめる必要があります。
周期の考え方
部位ごとに、傷み方も交換の周期も違います。
| 部位 | 周期の目安 |
|---|---|
| 外壁の塗装・補修 | 十数年ごと |
| 屋上・バルコニーの防水 | 十数年ごと |
| 鉄部の塗装 | 数年ごと |
| 給排水管 | 更生か更新か。躯体より短い |
| エレベーター | 部分更新と全面更新で費用が大きく違う |
| 受変電設備 | 長い周期だが、一度に高額 |
| 空調機器 | 比較的短い |
同じ築年数でも、劣化の進み方は建物によって違います。
- 海に近い 塩害で鉄部の劣化が早い
- 日射の当たり方
- 使い方の激しさ
- 当初の施工の質
- これまでの手入れの状況
周期で機械的に決めるのではなく、診断の結果と突き合わせてください。
まだ持つものを早く直せば無駄になり、限界を超えていれば被害が広がります。
資金が足りなくなる理由
積立が不足する原因の多くは、始めた時点の設定にあります。
分譲時や竣工時に積立額を低くすると、月々の負担が小さく見え、売りやすくなります。
しかし、必要な総額は変わりません。後になって、次のいずれかを選ぶことになります。
| 対応 | 難しさ |
|---|---|
| 値上げする | 合意が要る。反対が出やすい |
| 一時金を集める | 同意を得にくい |
| 借入れをする | 返済の負担が残る |
| 工事を縮小する | 傷みが進む |
どれも、早い段階で適正額を設定していれば避けられたものです。
そのほかの要因
- 資材と人件費の上昇 計画時の単価では足りなくなる
- 想定外の劣化 開けてみたら躯体まで傷んでいた
- 法改正への対応 省エネ、耐震、バリアフリー
- 設備の生産終了 同等品に交換できず、周辺工事が発生する
- 滞納
見直しが本体
長期修繕計画は、数十年先までを見通して作ります。
しかし、その間に前提が変わります。
- 物価と人件費
- 実際の劣化の進み方
- 工法と材料の進歩
- 建物の使われ方
- 法令
したがって、定期的な見直しが計画の一部です。
| 見直すとき | すること |
|---|---|
| 定期的に | 数年ごとに、単価と時期を更新する |
| 工事を実施した後 | 実際の費用を反映する |
| 診断の後 | 劣化の状況に応じて時期を前後させる |
| 法改正のとき | 対応の要否と費用を織り込む |
「計画を作った」ことに満足して、そのまま放置される例が多くあります。
工事の進め方
| すること | |
|---|---|
| 一 | 劣化診断を行う 現状を数値で把握する |
| 二 | 工事の範囲と仕様を決める |
| 三 | 複数社から見積りを取る 同じ条件で |
| 四 | 資金の手当てを確認する |
| 五 | 施工者を選ぶ |
| 六 | 工事中の記録を残す |
| 七 | 実績を計画に反映する |
見積書の金額だけを並べても、比較になりません。
- 工事の範囲が違う
- 使う材料の等級が違う
- 下地補修の数量の見込みが違う
- 足場の仕様が違う
- 保証の内容と期間が違う
仕様書を先に作り、それに対して見積らせてください。
下地補修のように、開けてみないと数量が確定しない項目があります。その扱いを、あらかじめ取り決めておくと後の争いが減ります。
記録を計画につなげる
修繕の履歴は、次の計画の根拠になります。
| 残すもの | 次に使うとき |
|---|---|
| 実施した工事の内容 | 次の周期を判断する |
| 実際にかかった費用 | 単価の見直しに使う |
| 図面と仕様書 | 次の工事の設計 |
| 工事中の写真 | 隠れた部分の状態。後から得られない |
| 診断の結果 | 劣化の速度を追える |
記録が積み上がるほど、計画の精度は上がります。
逆に、記録がなければ毎回ゼロから診断することになり、その費用が余計にかかります。
賃貸と分譲で、難しさが違う
| 賃貸ビル等 | 分譲マンション | |
|---|---|---|
| 決めるのは | 所有者 | 区分所有者の集まり |
| 資金 | 自己資金・借入れ | 修繕積立金 |
| 難しさ | 収支との兼ね合い | 合意形成 |
賃貸では、修繕を先送りしても当期の利益は出るため、判断が遅れがちです。
分譲では、技術的に正しくても、決議が通らなければ実施できません。
- 計画の対象期間を確認した
- 最後に見直した時期を確認した放置されていないか
- 法定耐用年数を根拠にしていないか確認した
- 劣化診断の実施と結果を確認した
- 部位ごとの周期と、その根拠を確認した
- 積立額が計画に対して足りているか確認した
- 当初の設定が低いまま据え置かれていないか確認した
- 資材・人件費の上昇を反映しているか確認した
- (工事)仕様書を先に作ってから見積りを取った
- (工事)下地補修の数量変動の扱いを取り決めた
- (工事)保証の内容と期間を比較した
- 工事中の写真を残す約束をした
- 実績を計画に反映する仕組みがあるか確認した
まとめ
- 建物の費用は建てた後のほうが大きい。点検口の有無など、設計で決まる部分がある。
- 法定耐用年数は税務の区分。劣化の指標として使わない。
- 周期は目安。診断の結果と突き合わせて決める。
- 積立が不足する最大の原因は、当初の設定が低いこと。
- 計画は作るより見直しが本体。放置された計画は役に立たない。
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