災害ハザードエリアの開発規制 ── 令和2年改正で何が変わったか
- まず区域の種別を正確に。警戒区域と特別警戒区域では効果がまったく違う
- 令和2年の改正で、レッドゾーンでの開発が原則禁止の範囲が広がった
- 市街化調整区域では、条例で認めてきた区域から災害リスクの高い場所を外す方向
- 区域の指定がない=安全、ではない。指定は調査済みの範囲にしか及ばない
災害の危険性が高い場所に、住宅を建てさせない。この方向で都市計画法の改正が行われました。
ただし、どの区域で何が禁止されるかは、区域の種別によって違います。ここを取り違えると、判断を誤ります。
この記事では、区域の区別を整理したうえで、令和2年(2020年)改正の内容を扱います。
まず、区域の種別を正確に
最もよく見られる誤りが、この二つの混同です。
| 土砂災害警戒区域 | 土砂災害特別警戒区域 | |
|---|---|---|
| 通称 | イエローゾーン | レッドゾーン |
| 意味 | 危害が生じるおそれがある区域 | 建築物に損壊が生じ、住民等の生命または身体に著しい危害が生ずるおそれがある区域 |
| 建築の制限 | ない | 居室を有する建築物の構造規制 |
| 開発の制限 | ない | 特定開発行為に許可が必要 |
| 主な内容 | 警戒避難体制の整備、周知 | 上記に加え、移転の勧告など |
| 重要事項説明 | 必要 | 必要 |
警戒区域(イエロー)では、建築や開発そのものは制限されません。
「土砂災害警戒区域だから住宅を建てられない」という説明は誤りです。
逆に、特別警戒区域(レッド)では、構造の規制と開発の許可制がかかります。
災害レッドゾーンと呼ばれるもの
開発許可の場面で「レッドゾーン」として扱われるのは、次のような区域です。
| 区域 | 根拠法 |
|---|---|
| 災害危険区域 | 建築基準法(条例で指定) |
| 土砂災害特別警戒区域 | 土砂災害防止法 |
| 地すべり防止区域 | 地すべり等防止法 |
| 急傾斜地崩壊危険区域 | 急傾斜地法 |
| 浸水被害防止区域 | 特定都市河川浸水被害対策法 |
洪水浸水想定区域は、上記の区域とは性格が異なります。
浸水の可能性を示すものであって、それ自体が建築や開発を制限するものではありません。
| 性格 | |
|---|---|
| 浸水想定区域 | 情報の提供。想定される浸水の深さ等を示す |
| 浸水被害防止区域 | 区域を指定し、開発と建築を許可制にする |
両者は名前が似ていますが、効果がまったく違います。
資料や説明で「浸水ハザードエリア」といった通称が使われている場合、どの区域を指しているのかを確認してください。
令和2年の改正で変わったこと
開発許可の基準として、災害レッドゾーンを開発区域に含まないことが定められています。
令和2年の改正では、この対象が広がりました。
| 従来 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 対象となる開発 | 自己の居住用・業務用は除外 | 自己の業務用も原則対象に |
| 趣旨 | ― | 店舗、事務所、病院、社会福祉施設等も守る |
従来は「自分で使うなら自己責任」という考え方が残っていました。
しかし、店舗や福祉施設には利用者がいます。従業員も、利用者も、その建物の中で被災します。
この点を踏まえて、対象が拡大されました。
市街化調整区域での見直し
市街化調整区域では、原則として開発が抑制されます。ただし、条例で区域を定めて例外的に認める仕組みがあります。
| 内容 | |
|---|---|
| 従来 | 既存集落など、条例で定めた区域で開発を認めてきた |
| 改正後 | 災害リスクの高い区域を、その対象から原則として除外する |
同じ集落内でも、災害リスクの高い部分は対象から外れるという運用になります。
実務上、次の点に注意してください。
- 「隣は建てられたから、うちも建てられる」とは限らない
- 条例の区域が見直されている場合がある
- 過去の資料が現在の運用と合っていない可能性がある
その市町村の条例と、現在の区域図を必ず確認してください。
集落内開発などの制度は、市町村ごとに条例の内容が異なります。他の市町村の例は参考になりません。
移転を促す仕組み
規制と併せて、危険な場所から安全な場所へ移ることを支援する方向も取られています。
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| 開発許可の運用 | レッドゾーンからの移転について、市街化調整区域内でも認めやすくする |
| 立地適正化計画 | 防災に関する指針。居住を誘導する区域の設定 |
| 支援制度 | 市町村による移転費用の補助など |
新しく建てることを禁じても、既に住んでいる人がそこにいる限り、リスクは残ります。
しかし、移転には次の負担が伴います。
- 移転先の土地と建物の費用
- いまの土地・建物が売れるとは限らない
- 集落やコミュニティから離れる
- 高齢者にとっては、生活の再構築そのものが困難
- 先祖代々の土地を離れることへの抵抗
支援制度の有無と内容は、市町村によって大きく異なります。
移転を検討する場合、まず市町村の担当課に相談してください。
「区域外だから安全」ではない
区域の指定は、調査を行い、要件に該当すると判断された場所について行われます。
したがって、次の場合には指定がありません。
- まだ調査が行われていない
- 調査の対象となる地形の要件に当てはまらない
- 想定を超える規模の災害
- 指定の対象とされていない種類の災害
「区域に入っていないから安全です」という説明はできません。
実際に、指定のない場所で被害が生じた例があります。
確認すべきは、区域の指定だけではありません。
| 確認するもの | 分かること |
|---|---|
| 地形 | 谷地形、斜面、旧河道、低地 |
| 古い地図・航空写真 | かつて何があったか。池、水田、崖 |
| 地名 | 水や崩れを示す字が使われていることがある |
| 周辺の状況 | 擁壁、排水、水路の位置 |
| 過去の被災の履歴 | 市町村、地域での聞き取り |
開発許可の基本を押さえる
災害の観点だけでなく、そもそも開発許可が必要かどうかを確認する必要があります。
| 区域 | 許可が必要となる規模の目安 |
|---|---|
| 市街化区域 | 一定面積以上(区域により異なる) |
| 市街化調整区域 | 原則として規模にかかわらず必要 |
| 非線引き都市計画区域 | 一定面積以上 |
| 準都市計画区域 | 一定面積以上 |
| 都市計画区域外 | 大規模なもの |
具体的な面積は、都道府県・市町村の条例で引き下げられている場合があります。
窓口で確認してください。
実務での確認
調査の手順
| すること | |
|---|---|
| 一 | 都市計画の区域区分と用途地域を確認する |
| 二 | 災害関係の区域指定を、種別まで確認する |
| 三 | ハザードマップで浸水想定等を確認する |
| 四 | (調整区域)条例で認められる区域か確認する |
| 五 | 開発許可の要否と面積要件を確認する |
| 六 | 地形と過去の状況を、区域指定と別に確認する |
説明するとき
| 避けるべき言い方 | 適切な言い方 |
|---|---|
| 「土砂災害警戒区域なので建てられません」 | 「警戒区域では建築の制限はありませんが、重要事項説明の対象です」 |
| 「区域外なので安全です」 | 「区域の指定はありませんが、地形と過去の状況も確認しましょう」 |
| 「レッドゾーンだから何も建てられません」 | 「特別警戒区域では、構造の規制と開発の許可が必要です」 |
| 「隣が建てられたので大丈夫です」 | 「条例の区域が見直されている可能性があります。窓口で確認します」 |
災害関係の区域指定は、法令に基づく制限として説明すべき事項です。
また、水防法に基づく浸水想定区域内にある場合、ハザードマップにおける物件の所在地を説明する必要があります。
説明を怠り、取得後に被災した場合、責任が問われます。
区域の種別と、その効果を正確に理解したうえで説明してください。
- 区域の種別を正確に確認した警戒区域か、特別警戒区域か
- 災害危険区域の指定を確認した条例で指定される
- 地すべり防止区域・急傾斜地崩壊危険区域を確認した
- 浸水被害防止区域の指定を確認した浸水想定区域とは別
- 洪水・内水・高潮の浸水想定区域を確認した
- (調整区域)条例で認められる区域か確認した
- 条例の区域が見直されていないか確認した
- 開発許可の要否と面積要件を確認した
- 区域指定と別に、地形と過去の状況を確認した
- 古い地図・航空写真を確認した
- 重要事項説明の対象として整理した
- 「区域外だから安全」と説明していない
まとめ
- 警戒区域(イエロー)では建築・開発の制限はない。特別警戒区域(レッド)とは効果が違う。
- 洪水浸水想定区域はレッドゾーンではない。浸水被害防止区域とは別のもの。
- 令和2年の改正で、レッドゾーンでの開発の原則禁止が自己の業務用にも広がった。
- 市街化調整区域では、条例で認めてきた区域から災害リスクの高い場所を外す方向。
- 区域の指定がないことは安全を意味しない。地形と過去の状況を別に確認する。
