建物評価の相場を知る方法
建物の評価は、土地に比べて複雑です。
基本的に建物は、建てたる人の都合のいいように建築するものです。(当たり前ですが)
ですので、中古の建物となると、売主の気持ち(思い入れ)と買主の気持ち(要望)がかみ合わないこともしばしば・・・
売主にとっては、新築価格に若干の減価程度に思っていたとしても、買主にとって建物は満足いくものではない場合、解体費が余分にかかるマイナスの資産でしかありえないということになります。
よく、「不動産が売れない」という声を聞きます。
しかし、基本的に「売れない不動産」というのはありえません。
売れないのは、売主の売りたい価格と買主の買いたい価格がマッチングしないからです。
需要と供給のバランスですね。
このマッチングしないアンバランスな状況が建物(特に中古の建物)に関して多く見られます。
「一般的な買主がその建物をどのくらい評価するか」がポイントでしょう。
売買が成立するためには、買主のその建物の評価次第、ということになります。
中古建物の評価ポイント
本当に大雑把に中古建物(木造建物)の評価額を知りたい場合
1年で1割の減価を行いましょう。
築5年であれば、建築価格の5割の減価。
10年で価値はゼロということになります。
今の木造建物は、30〜40年は十分に耐えうるものではありますが、15年も経過している場合は、評価はゼロであると考えが有力です。
十分に耐えうるものであっても、「中古住宅の評価」という側面からは、それらの機能性は切り離して考えなければなりません。
鑑定評価を参考にして考えれば、
再建築費 — 経年減価 = 中古木造建物の評価
となります。
再建築費とは、現在、対象の建物を新築した場合の建築費のことです。
- 木造の耐用年数 22年
- 築10年
- 再建築費 2000万円
2000万円 — 10 / 22 ≒ 990万円
土地建物の評価ポイント
多くの人が単純に
更地価格+建物価格=土地建物の評価価格
と考えるのではないでしょうか。
ところがなかなかそうはいきません。
この数式が成り立つのは、建物がその土地のニーズにぴったりとマッチしている場合だけです。
土地の立地に合わせて、有効活用されている建物であれば、更地価格に建物価格が「プラス」されますが、有効活用されていない場合、その建物は邪魔な存在でしかありません。
買主は、別に他の建物を建てた方が良いと思っていれば、今ある建物を解体しなければなりません。
その時の数式は、
更地価格 — 建物の解体費 = 土地建物の評価価格
となります。
このように見てくると、更地の評価は単純明快であることがわかってきますね。
そして高値で流通していることにも納得がいきます。
更地は、どんな用途にも対応できるのですから。
建物の積算価格
積算評価 = 土地の評価 + 建物の評価
積算評価は金融機関の担保評価額を測る目安となっています。
債務不履行(デフォルト)に陥った時にいくら回収できるのか?という評価額ということになります。
不動産投資を行う際の融資額は、積算評価額以下に抑えるべきだと言えます。
土地の積算評価 = 前面道路の路線価 × 敷地面積(㎡)
土地に関しては、路線価を乗じるだけとなります。
建物の積算評価 = 再調達価格 × 延べ床面積 × [(耐用年数—築年数)÷耐用年数]
再調達価格とは、現在の価値基準の中で同程度の建物を建築した場合、㎡あたりの費用の額のことです。
新築時の単価
RC(鉄筋コンクリート) | 200,000円 / ㎡ |
---|---|
木造 | 150,000円 / ㎡ |
法定耐用年数
RC(鉄筋コンクリート) | 47年 |
---|---|
木造 | 22年 |
[(耐用年数—築年数)÷耐用年数]
で、減価修正をしています。
築年数が耐用年数を超えた場合は、ゼロです。
収益還元法
不動産鑑定評価基準では、鑑定評価の手法として、
- 原価法
- 取引事例比較法
- 収益還元法
の3つがあります。
「不動産は土地と建物が一体となってキャッシュフローを生むもの」という考え方が欧米では一般的であることもあり、収益還元法が重視されつつあります。
やはり建物単体で収益を生むわけではなく、土地がなければ建物を建てることはできません。
土地があってその上に建物が建つことではじめて収益を生む資産(不動産)といえるのではないでしょうか。
土地がいくらで、建物がいくら、合計でいくらという数式は、前述したように成り立たないこと考えたら収益還元法が主流になっていくのは理にかなっているといえるでしょう。
直接還元法
評価対象不動産が生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和から不動産価値を求める手法
詳細は、前述のとおり。
初年度の想定NOIをキャップレートで割ることで評価額が算出できます。
キャップレート(還元利回り)は、立地条件、建物条件、契約条件について分析していきます。
金融市場における運用利回りと密接な関係があります。
経済全体の動向に注意しなければなりません。
実際に不動産取引の現場では、キャップレート何パーセントでの取引なのかというところに基準を置いている場面も少なくありません。
しかし、直接還元法には欠点もあります。
それは、初年度のNOIが一定、または一定割合で増減する場合しか想定していない点です。
将来の純収益の変動等に関する具体的な想定ができないという側面があります。
この欠点を補うため、最近になって主流になってきたのがDCF法です。
DCF法(Discounted Cash Flow analysis)
一定期間に発生するNCF及び復帰価格を、発生時期に応じて現在価値に割り引きます。
そしてそれを合計する手法です。
入金・出金に着目した分析方法といえます。
2つの指標があります
- 正味現在価値
- 内部収益率結
分析期間における毎期の自己資本に帰属するキャッシュフローをディスカウントレート(期待収益率)によって割り引いて現在価値を求める方法
投下した自己資本が生み出すキャッシュフローから当該自己資本の収益率(内部収益率)を求める方法
目的を不動産の市場価値を求めることとするならば、正味現在価値を中心に分析することとなります。
分析期間は、10年間とすることが多いです。
分析期間終了後に実際に売却するか、しないかには関係はなく、売却することを前提として計算します。
割引率とは
割引率とは、投資家にとっての期待収益率です。
直接還元法においてもDCF法においても、収益還元法を計算する上でのポイントとなります。
割引率しだいで評価額は大きく変わってくるからです。
- DCF法で求められた評価額で不動産を取得
- 想定したNCFどおりに運用
- 予測した復帰価格で売却
そのときの総合収益率が割引率と等しくなります。
割引率はどのように決定していくのか
予測した将来のNCFや復帰価格は、実際の数字とはかけ離れることがありえます。
そもそも全く想定通りなること自体が不可能に近いので、予測が実際の数字とかけ離れるのは、当然と言えば当然と言えます。
この「予測が実際の数字とかけ離れる」ことを「リスク」と定義できます。
通常、リスクに見合うリターンを求めることになります。
これば、ハイリスクを取ればハイリターンであるし、ローリスクであればローリターンであるという考え方の基本となります。
リスク分だけ要求(超過)されるリターンのことをリスクプレミアムと言います。
ですので、割引率とは次のような式で表すことができます。
割引率 = リスクの全くない投資の収益率 + リスクプレミアム
リスクの全くない投資の収益率(リスクフリーレートと言います)は、通常国債の利回りを用います。
DCF法で10年間を分析期間とするのであれば、10年ものの国債利回りを用います。
リスクプレムアムは、それぞれの物件の属性によって決定されます。
立地、規模、築年数などです。
それぞれの物件の属性は、その将来性の見方によっては大きく異なってきます。
評価が一律同じということにはなりません。
リスクプレミアムはそれぞれの物件の属性によって、ほとんど決まると言っても過言ではありません。
ファイナンス理論上の注意点があります。
割引率は、分析期間が長くなれば予測から外れる可能性が高くなると考えられます。
分析期間が長くなれば長くなるほど、リスクフリーレートもリスクプレミアムも大きくなります。
しかし、実務上では、期間の長さを考慮に入れていません。
景気回復の局面で国債利回りが上昇しても、不動産の収益力も改善するとの期待で割引率はほとんど変動しないと説明付けています。
その他の割引率の決定方法としては、以下のようなことが挙げられます。
類似の不動産取引事例を参考にして決定する方法
類似の不動産取引事例があれば、当該物件を比較して補正を行います。
借入金と自己資金にかかる割引率から決定する方法
借入金及び自己資金に係る各割引率をおのおの構成割合によって加重平均します。
投資家等専門機関のヒアリングなどで決定する方法
日本不動産研究所などでデータを取得するのも選択肢の一つです。