CHIOU / 株式会社地央

建物の評価 ── 同じ建物でも、額が違う理由

この記事の要点
  • 同じ建物でも、誰が何のために評価するかで額が変わる
  • 法定耐用年数は税務の区分。市場価値の指標ではない
  • 土地に合わない建物は、価値を減らすことがある
  • 売主と買主の差は、記録があれば縮まる

「この建物はいくらか」と聞かれて、一つの答えは出せません。

税務署の評価、銀行の評価、市場での評価。同じ建物に、違う額が付きます。

この記事では、その理由と、実務でどう扱うかを整理します。三手法そのものは別の記事で扱います。

目的によって、額が変わる

誰が 何のために 見るもの
税務 課税 固定資産評価額、相続税評価額
金融機関 担保 回収できる額。保守的に見る
会計 帳簿 取得価額から減価償却した簿価
市場 売買 買い手がいくら出すか
保険 再建築 同じものを建て直す費用
どれも間違っていない

それぞれ目的が違うので、額が違って当然です。

問題は、別の目的の数字を持ち出して話がかみ合わなくなることです。

  • 「固定資産税評価額はこの額だから、この値段で売れるはず」
  • 「簿価がまだ残っているから、これ以下では売れない」
  • 「保険の評価額がこれだから、価値がある」

いずれも、市場でいくらになるかとは別の話です。

どの目的の数字を話しているのかを、先に揃えてください。

建物は減っていく

土地と違い、建物は時間とともに価値が下がるのが原則です。

減価の要因 内容
物理的な劣化 使用と経年による傷み
機能的な陳腐化 設備が古い、間取りが合わない
経済的な陳腐化 周辺環境の変化、需要の減少
土地の価値は下がらない、ではない

「土地は劣化しないので、価値が変わりにくい」という説明を見かけます。

物理的に劣化しないのは事実ですが、価値は変動します。

  • 人口の減少 需要そのものが減る
  • 周辺の開発、あるいは衰退
  • 交通の便の変化
  • 災害リスクの認識の変化
  • 用途規制の変更

地価が長期にわたって下がり続けている地域は、多くあります。

「土地は減らない」という前提で収支を組むと、出口で狂います。

法定耐用年数の位置づけ

税務の区分であって、寿命ではない

法定耐用年数は、減価償却の計算に用いる期間です。構造と用途によって定められています。

その年数が過ぎたら使えなくなる、という意味ではありません。

使われ方
税務 償却費の計算
融資 返済期間の目安とされることがある
市場 直接には結び付かない

実務で効くのは、融資の場面です。

法定耐用年数から経過年数を引いた残りを、融資期間の上限の目安とする金融機関があります。

古い建物ほど融資期間が短くなり、月々の返済が重くなる。結果として買い手が限られ、価格に反映されます。

これは建物の物理的な状態とは関係のない、制度上の理由による減価です。

中古建物の耐用年数

中古の建物を取得した場合、残りの耐用年数を計算し直します。

法定耐用年数を過ぎているか、まだ残っているかで計算の仕方が変わります。

具体的な計算と適用は、税理士にご確認ください。

土地と建物の組み合わせ

建物があることで、価値が下がる場合がある

土地の価値は、その土地で最も有効に使ったときを基準に考えます。

ところが、そこに建っている建物が、その使い方に合っていないことがあります。

状況 結果
商業地に古い戸建て 解体費を差し引いた額になりうる
容積率を使い切っていない 本来建てられる規模との差が減価要因
用途が合わない 改修か建て替えの費用がかかる
既存不適格 同じ規模で建て替えられない

「建物がある分、高い」とは限りません。

更地であれば買い手が付くのに、建物があるために解体費を見込まなければならず、その分安くなる。

この差を建付減価と呼びます。

逆に、土地の使い方に合った建物が建っていれば、取り壊す必要がなく、そのまま収益を生みます。

積算と収益は、一致しない

考え方
積算価格 土地の価格+建物の再調達原価×残存率
収益価格 その物件が生む収益から逆算した額
乖離が意味すること

この二つは、しばしば大きく食い違います。

読み取れること
積算>収益 収益が上がっていない。空室、賃料が低い
収益>積算 立地が良く、稼ぐ力がある。ただし建物は古い

金融機関は、積算価格を重く見る傾向があります。

収益が高くても積算が低ければ、融資が付きにくくなります。

逆に、積算が高くても収益が上がらなければ、持ち続けるほど負担になります。

どちらか一方ではなく、両方を見てください。

売主と買主の差

高く見る側と、低く見る側

同じ建物について、両者は違う根拠を持ち出します。

売主 買主
建築時にいくらかけたか これから何にいくらかかるか
思い入れ、手をかけた記憶 見えない部分への不安
近隣の高い成約事例 近隣の安い成約事例
簿価がまだ残っている 融資が付く範囲

この差を埋めるのが、記録です。

  • いつ、どこを、いくらで直したか
  • 設計図書、確認済証、検査済証
  • 点検の結果と、指摘への対応
  • 設備の設置時期と保証
  • 工事中の写真

買主の不安は、分からないことから生まれます。

記録があれば、「あと何年もつか」を推し量る材料になります。不確実性が減れば、その分だけ価格に反映できます。

逆に記録がなければ、買主は最悪を想定して値を付けます。

調査で見るところ

確認すること
建築確認の時期 耐震の区分
検査済証の有無 ないと融資に影響することがある
登記面積と現況の一致
既存不適格・違反の有無
容積率の消化状況
修繕の履歴
設備の更新時期
土地の条件 接道、境界、私道
検査済証がないと、何が起きるか

古い建物では、検査済証が交付されていない例が少なくありません。

これがないと、次の場面で支障が生じます。

  • 金融機関の融資 適法性を確認できない
  • 用途変更の確認申請
  • 増築、大規模の修繕・模様替え
  • 売却時の説明

「建っているから適法」とは限りません。

確認は受けたが完了検査を受けていない、検査後に増築しているといった状態があります。

特定行政庁で建築計画概要書や台帳記載事項証明書を確認してください。

価格を伝えるとき

避けるべき言い方 適切な言い方
「この建物は◯◯万円の価値があります」 「◯◯の目的での評価では、この額になります」
「土地は値下がりしません」 「この地域の地価の推移は、こうなっています」
「耐用年数を過ぎているので価値ゼロです」 「税務上の区分と、実際の状態は別に見ましょう」
「建物がある分お得です」 「解体費を見込むか、活用できるかで変わります」
建物の評価に関する確認
  • どの目的の評価かを明確にした税務・担保・市場・保険
  • 法定耐用年数を市場価値の指標にしていない
  • 融資期間への影響を確認した
  • 建築確認の時期を確認した
  • 検査済証の有無を確認した
  • 既存不適格・違反の有無を確認した
  • 容積率の消化状況を確認した
  • 建付減価の要因がないか確認した
  • 積算価格と収益価格の両方を見た
  • 修繕の履歴と記録を確認した
  • 設計図書・確認済証の所在を確認した
  • 土地の条件を別に確認した接道・境界・私道
  • 地価の推移を、その地域について確認した

まとめ

  • 税務・担保・市場・保険で、同じ建物に違う額が付く。目的を揃えて話す。
  • 法定耐用年数は税務の区分。ただし融資期間を通じて価格に影響する。
  • 土地は物理的に劣化しないが、価値は変動する。
  • 土地の使い方に合わない建物は、解体費の分だけ価値を減らすことがある。
  • 積算と収益の乖離は、その物件の状態を示す。両方を見る。
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