不動産テックのデータ分析 ── 何が読めるか
- 「不動産テック」は道具の総称。何が読めるかは、手法ではなくデータで決まる。
- 手法は問いから選ぶ。説明が要るなら回帰、当てに行くなら機械学習。
- データに現れない取引がある。そこを織り込まないと相場を読み違える。
- 予測値は参考値であって根拠ではない。断定的な説明は宅建業法上の問題になりうる。
不動産テックという言葉は、道具の総称でしかありません。同じ手法を使っても、入れるデータが違えば別の結論が出ます。
そして、出てきた数字をお客様にどう伝えるかには、法律上の制約があります。ここを外すと、便利な道具がそのまま危険になります。
この記事では、どの手法がどの問いに向くか、データの質が何を決めるか、そして伝え方の線引きを整理します。
言葉が広すぎる
不動産テックと呼ばれるものには、性格の違うものが混ざっています。
- 業務を置き換えるもの 電子契約、物件管理、内見予約
- 情報を集めるもの 物件情報の収集、portal との連携
- 判断を助けるもの 価格推定、需要予測
導入の相談で話が噛み合わないのは、たいていこの三つを分けずに話しているためです。置き換えたいのか、集めたいのか、判断したいのか。先に決めます。
この記事が扱うのは、三つめの「判断を助けるもの」です。
手法は、問いから選ぶ
分析手法の名前を並べても、実務では使えません。「何を知りたいか」から逆に選びます。
| 知りたいこと | 向く手法 | 出てくるもの |
|---|---|---|
| 何が価格に効いているか | 回帰分析 | 要因ごとの効き方 |
| この物件はいくらか | 機械学習 | 推定値。理由は説明しにくい |
| 似た物件はどれか | クラスタリング | グループ分け |
| これからどう動くか | 時系列分析 | 傾向。当たるとは限らない |
| どこが有利か | 地理空間分析 | 地図の上の偏り |
回帰と機械学習の使い分け
回帰分析は説明に向きます。駅からの距離が価格にどう効いているかを、根拠として示せます。
機械学習は当てに行くのに向きます。ただし、なぜその値になったかを説明しにくい。
お客様や金融機関に理由を示す必要がある場面では、当たる確率より、筋道を説明できるかどうかが勝ちます。
「モデルがそう出しました」では、根拠になりません。
データの質が、結論を決める
手法をどれだけ高度にしても、入れるデータが偏っていれば、偏った答えが出ます。
- 成約価格か、売出価格か 売出価格の集まりからは、成約の相場は出ない
- 件数が足りているか 地方の特定用途では、そもそも母数がない
- いつのデータか 制度が変われば、過去の傾向は続かない
- 欠けている物件はどれか 表に出ない取引は、データにも出ない
相対で決まった取引、事業者間の売買、相続に伴う移転。これらは公開データに現れにくいものです。
地方ほどこの比率が上がります。データが「ない」ことと、取引が「ない」ことは違います。母数の少ない地域で推定値を鵜呑みにすると、実勢から離れます。
お客様に伝えるときの線引き
宅地建物取引業法は、将来の利益や価格について断定的判断を提供することを禁じています。分析結果であっても同じです。
「このモデルでは3年後に上がると出ています」と伝えることと、「3年後には上がります」と伝えることは、まったく別の行為です。
使ったデータの範囲、期間、母数、そのモデルで説明できない部分。これらを添えられないなら、その数字は出さないほうが安全です。
資料に数字だけが残ると、あとから「そう説明された」という理解になります。
先に効くのは、予測ではない
導入して最初に効果が出るのは、予測ではなく記録と可視化です。
- 問い合わせから成約までの経路を記録する
- 物件ごとの反響数と滞留日数を並べる
- 担当者ごとではなく、物件の条件ごとに見る
- 取り扱った物件を地図に落とす
ここまでで、たいていの会社は判断材料が増えます。そして、この四つは自社のデータだけでできます。
高度な予測に進むのは、そのあとで足ります。手元の記録が揃っていない状態で外部のモデルを入れても、比べる相手がありません。
- 置き換えたいのか、集めたいのか、判断したいのかを分けた
- 知りたい問いを、先に一つに絞った
- その問いに向く手法を選んだ手法から入っていない
- 使うデータが成約価格か売出価格かを確認した
- 母数が足りているか確認した
- データの取得時点を確認した
- データに現れない取引があることを織り込んだ
- 説明が必要な場面かどうかを考えた必要なら説明しやすい手法を選ぶ
- 予測値を断定して伝えない運用にした
- 前提と限界を添える書式を決めた
- 手元の記録を先に揃えた
まとめ
- 不動産テックは道具の総称。業務の置き換え、情報収集、判断の補助を分けて考える。
- 手法は問いから選ぶ。説明が要るなら回帰、当てに行くなら機械学習。
- 何が読めるかは手法ではなくデータで決まる。とくに母数と、表に出ない取引。
- 予測値は参考値。断定的な説明は宅建業法上の問題になりうる。数字を出すなら前提も出す。
- 先に効くのは記録と可視化。予測はそのあとでよい。
道具が増えても、何を根拠に判断したかを説明できる状態は、変わらず必要です。説明できない数字は、実務では使えません。
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