不動産投資の収益性
不動産投資をするとき、収益性を判断する材料とします。
数字は嘘をつきません。より客観的に現実を判断するのに役に立ちます。
これほど頼りになるものはありません。
グロス利回り
年間総収入 ÷ 総投資額
年間の総収入を総投資期間で割って求めるものです。「粗利回り」「単純利回り」とも呼ばれます。
計算は非常に簡単なものです。そのため、簡略化された指標として広く用いられていますが、諸経費を考慮にしていないため再格差にはかけますので注意が必要です。
NOI : Net Operating Income
賃貸オフィスビル全体の収入のことを『総収益(GI : Gross Income)』と呼んでいます。
総収益
- 貸床を賃貸することによる賃貸収入
- 上記に付随する駐車場収入
- 共益費(共用スペースの維持管理に必要な費用として設備管理費、清掃費、水道光熱費など)
- その他収入(看板利用料、自動販売機設置料など)
総費用
- 維持管理費(設備管理費、清掃費など)
- 修繕費
- 水道光熱費
- 公租公課(税金)
- 損害保険料
※一般的には総収益の2割~3割程度が目安です。
営業純収益(NOI : Net Operating Income)
営業純収益(NOI : Net Operating Income)
=総収益(GI : Gross Income)-総費用
営業純収益はオフィスビルが経常的に生み出すキャッシュフロー(資金収支)の絶対額を示しています。
NOIはそのオフィスビルの基礎的な収益力を示す指標であると言えますね。
なお、平成19年7月以降施工となる改正不動産鑑定評価基準の収益費用項目においては、純営業収入(NOI)には、運営純収益という用語があてられています。
純キャッシュフロー NCF : Net Cash Flow
純キャッシュフロー(NCF : Net Cash Flow)
=営業純収益(NOI : Net Operating Income) -資本的支出(CAPEX : Capital Expenditure)-仲介手数料-原状回復費用(貸主負担)
実際に手元に残るキャッシュを算出したものが、純キャッシュフロー(NCF : Net Cash Flow)です。
CAPEXとは、Capital Expenditureを略した造語で、不動産の修繕を行う際に、効果が1年以上持続する改良で経費として計上できない修理費用、すなわち耐用年数によって減価償却される資本的支出のことです。
広義には大規模修繕費や長期修繕計画に係る費用そのものをさします。
会計上、CAPEXはその支出によってそれだけ不動産の価値が維持・向上されたものとして、オフィスビルの簿価に加算されるのです。
つまり、CAPEXはキャッシュとして支出されますが、通常の修繕費などとは違い費用とはならず、オフィスビルの資産勘定に加えられるのです。
ということは、CAPEXの金額は、NOIに影響することはないということになりますね。
キャッシュフローの話をするとき、そのときのキャッシュフローは、NOIのことなのか、NCFのことなのか、どこまでの収入や費用がNOIやNCFの算出過程に含まれているのか、確認することが必要です。
賃貸事業損益
賃貸事業損益
=営業純収益(NOI : Net Operating Income)-減価償却費-仲介手数料
NOIとNCFはいずれも現金の収入から支出を差し引いて計算するキャッシュフローでした。
賃貸事業損益は、「損益」を示す指標であり、「収益」から「費用」を差し引いて算出します。キャッシュフローには影響がなくても事業損益に影響(または収益)がある費用があります。
その費用の代表例が『減価償却費』です。
事業用の建物、備品などの資産は、使用することによって経済的価値は減少していきます。
一方でその資産は毎年の収入に貢献しているため、その試算の取得費は将来の収入を生み出すための費用の前払ということになります。
そこでそのような資産の取得費はその資産が有効に使える期間に配分して毎年の必要経費とします。
この費用配分のことを『減価償却』といいます。(※減価償却の方法には主に定額法と定率法があります)
帳簿上その資産の耐用年数に応じて配分した必要経費、資産の経済価値の減少分を見積もった金額を『減価償却費』といいます。
建物や設備の所有者は、減価償却費相当額を毎年、費用として計上しなければならないのですが、減価償却費はあくまでこれだけの資産価値が目減りしているという費用の見積もりにすぎず、実際に現金支出を伴うものではないのです。
そのため、賃貸事業損益を算出するときは、キャッシュフローをベースとしているNOIから減価償却費を差し引く必要があるのです。
『仲介手数料』も費用なので事業損益を算出するときは、NOIから差し引く必要があります。
NOIやNCFのようなキャッシュフローと賃貸事業損益のような損益とを区別するとことが重要です。
NOI利回り
NOI利回り=NOI÷投資額
NOI利回りは、ある不動産に投資したときのキャッシュベースでの投資利回りを表しています。
NOIのかわりにNCFを用いれば、NCF利回りとなります。
上記のように、NOI(営業純収益)とNCF(純キャッシュフロー)で収益物件の生み出すキャッシュフローの絶対額がわかっても、その収益物件が投資対象としてふさわしいかどうか。
それを判断するためにわかりやすい指標が欲しいところです。
そんなときに、その投資が効率的なものかどうかをみるために『投資利回り(NOI利回り)』を算出します。
シュミレーション
NOI | 時価 | |
---|---|---|
収益物件A | 5億円 | 100億円 |
収益物件B | 4億円 | 50億円 |
この場合の投資利回りは、
- 収益物件Aは、5億円÷100億円=5%
- 収益物件Bは、4億円÷50億円=8%
この数字から、不動産の収益額を単純に収益の絶対額だけでみるわけにはいかないということがわかりますね。
投資期間にわたる投資分析法
不動産事業の場合、投資の時期と収益の時期が異なるうえ、収入や支出が変動するため、投資期間全体における収支(キャッシュフロー)に基づく分析手法が必要になります。
時間的価値を考慮した収支のことをDCF(discounted cash flow)といいます。
このDCFに基づく分析手法としては一般的に正味現在価値法(NPV:Net Present Value)と内部収益率法(IRR:Internal Rate of Return)が用いられます。
現在価値の考え方
現在の100万円と1年後の100万円の価値は同じとはいえません。
もし100万円を利率 r で複利運用したら、1年後には【100万円×(1+r)】となります。
n年後には、
【100万円×(1+r)n】
シュミレーション
※金利=割引率10%
100万円の現在価値 | 100万円 |
---|---|
1年後の価値 | 100万円×(100%+10%)=110万円 |
2年後の価値 | 100万円×(100%+10%)2=121万円 |
3年後の価値 | 100万円×(100%+10%)3=133.1万円 |
逆から見ると
1年後の110万円の現在価値 | 110万円÷(100%+10%)=100万円 |
---|---|
2年後の121万円の現在価値 | 110万円÷(100%+10%)2=100万円 |
3年後の133.1万円の現在価値 | 133.1万円÷(100%+10%)3=100万円 |
よって、
N年後のP円の現在価値=P円÷(100%+10%)N
内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)
IRRは、「投資によって得られるキャッシュフローの現在価値」と「初期投資額(現在価値)」が等しくなる割引率を求めることによって算出します。
不動産投資のリスクとどう向き合うか
不動産投資につきものであるリスク。
投資の世界では、リスクとは「予定通りにならないこと」をさします。
リスクとリターンは、トレードオフです。
何かを得たいと思うならば、何かを諦めなくてはならない、ということです。
収益還元法(DCF法)
不動産の鑑定評価
「収益還元法」は基本的に「直接還元法」と「DCF(Discouted Cash Flow analysis)法」に大別されます。
収益還元法は、アパートやマンション等の収益物件を売買する際に多く利用されている評価方法です。
不動産の収益力がそのまま評価額に反映されるため、ムダな豪邸や有効利用されていない土地など採算の取れる合理的な価格を簡単に導きだせます。
収益還元法による評価額を収益価格といいます。
収益還元法
定義
「収益還元法」は基本的に「直接還元法」と「DCF法」に大別されることは、先に延べた通りです。
収益還元法は不動産鑑定評価基準により、次のように定義されています。
“収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現価の総和を求めるものであり、純収益を還元利回りで還元して対象不動産の資産価格を求める手法である”
対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現価の総和を求める
=現在価値=将来収益の現在価値の集大成=DCF法によって求められるNPV(Net Present Value)
純収益を還元利回りで還元して対象不動産の資産価格を求める
=純収益÷還元利回り=直接還元法
収益還元法(比率法)の計算式
収益価格 = 年間純収益 / 総合還元利回り
比率法では、不動産の賃貸収入により得られる純収益を適切な還元利回りによって還元して収益価格を求めます。
DCF法の考え方
DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー・アナリシス;Discounted Cash Flow Analysis)では、お金の時間的価値を考慮して、投資とキャッシュフローの関係を考えていきます。
将来の不動産の売却額を予想することは困難ですが、予測した売却金額から仲介手数料等の諸経費を差し引いた手取額で売却時の収入額を求めます。
投資保有期間における毎年の賃貸純収益および売却時における売却手取額を現在克ちに割り引いても止めた金額を合計すると、その合計額が収益物件の価値であると考えるのがDCF法の考え方です。
不動産投資を検討するには将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計することにより、投資額の妥当性を判断することになります。
投資家の投資をするかしないかの判断は、投資額に対していくらの投資収益率(IRR)を期待しているかによって決まります。
DCF法の考え方(ケーススタディ)
- 収益物件ビル。10億円で売りに出ている物件
- 収入は5,000万円。10年間を想定
- 10年後には、11億円での売却予想
- 5%の利回りを期待
以上の物件を10億円の価値があるかどうかを検討してみましょう。
1年目から10年目の売却までの入金額を5%の複利現価率で現在価値に割り戻して合計します。
10年目は、家賃収入(5,000万円)+売却収入(11億円)です。
5%の複利原価率の計算式は以下の通り。
複利現価率とは、複利計算による将来価値の現在価値への乗数率です。
算式:複利原価率=1÷(1+r)のn乗
r=割引率 / n=経過年数
現在価値は、1,061,390,950円となります。
よって、売りに出されている10億円は、現在価値よりも安い買い物だと認められます。
このように、不動産を購入し、毎年賃料による純収益を得ることができ、売却するときに売却益が見込まれる不動産価値は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて求めた金額を合計した総額で求めます。
「割り引く」という考え方
ここでは、わかりやすく、1年定期の定期預金で考えてみましょう。
- 年5% 定期預金
- 毎年 100万円
- 5年間受け取る権利
毎年100万円を5年間受け取ると合計で500万円です。
しかし、この権利をすぐに譲渡し現金化するとなると実際の手元に残る金額は、4,329,476円ということになります。
キャッシュフローの重要性
本来、不動産の価値は将来のキャッシュフローによって決まるものです。
バブルの頃の日本の不動産市場は、異常なほど投資利回りが低く、東京のオフィズビルで1.2%ほどといわれていました。
土地が値上がりしていくという大前提があるからこそ成り立った数字です。
借入金利はその頃は5%だったようです。5%で借入をしていたら、収入よりも返済額のほうが膨らみ、毎年赤字を垂れ流す結果となるのですが、売るときに大きく儲かるからいいや!といった考え方ですね。
その後、バブルは崩壊し、土地神話も崩れ、土地の価格も値下がりすることが一般的となりました。
そのため、不動産投資はキャピタルゲインを重視した思考から、毎年のキャッシュフローを重視する考え方に切り替えて投資分析する必要となり、そこで活躍するのがDCF法というわけです。
キャッシュフロー重視するDCF法は、言い換えると、キャッシュフローを計上できない不動産には適用できません。一戸建てのような居住用の不動産では適用できないのです。
DCF法が適用できるのは、その不動産を利用して適正な収益を計上することが可能な収益用不動産に限られます。
DCF法 フローチャート
- 分析期間を設定
- 分析期間内の現金収入・収支(キャッシュフロー)を予測
- 分析期間終了後には市場で売却することを想定するため、適切な売却価格(復帰価格)を設定
- 当該分析期間内のキャッシュフローおよび分析期間終了後の復帰価格の実現性・確実性などを考慮して適切な割引率を設定
- キャッシュフローおよび復帰価格を割引率にて割り戻した現在価値の合計額をDCF法による価格とする
不動産の価値(V)
=投資期間中の各年度の収入金額の現在価値の合計+将来の売却予想額の現在価値
割引率とは
DCF法には、「正味現在価値法」と「内部収益率法」の2つがあります。
「正味現在価値法」は、各期のキャッシュフローの現在価値(NPV ; Net Present Value)の合計と、投資額との差額が0以上になるか否かで投資の可否を判断します。
将来収益の割引現在価値 – 初期投資額 > 0
「内部収益率」とは、各期のキャッシュフローの現在価値の合計と投資額との差額が0となるような割引率をもってして投資の可否を判断します。
将来収益が確定、あるいは予測可能で、かつ初期投資額が決定していることが前提となります。
この場合の割引率は、内部収益率(IRR ; Internal Return of Rate)とされます。
割引率の導きかた
基本的には、リスクフリーレートに不動産固有のリスクが加算されて割引率としています。
不動産固有のリスクとは地域や個別の不動産ごとに当然異なることとなります。
※リスクフリーレートとは「無リスク金利」ともいます。理論的にリスクがゼロか極小のリスクフリー商品(無リスク資産)から得ることができる利回りのことをいいます。
割引率を査定する方法としては、以下の4つの方法があります。
- 類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
- 借入金と自己資金に係る割引率から求める方法
- 金融資産の利回りに不動産の個別性を加味しても止める方法
- 投資家等の意見による方法
割引率を分解して考えてみる
割引率の中身を簡単に分解してみましょう。
投資した自己資金と借入金に対して何%の利回りがあれば採算が合うかを考えてみます。
不動産に対する期待利回りは、自己資金については、預金や債券などから得られる利回りを設定してみます。
借入金は、金利から求められますね。
借入金比率 | 80% |
---|---|
自己資本比率 | 20% |
利率 | 4% |
期待利回り | 5% |
【借入金】0.8 ×0.04 = 0.032
【自己資金】0.2 × 0.05 = 0.010
よって、割引率は、0.032+0.010=0.42となります。
還元利回りと割引率の関係
毎年の純収益と売却したときの売却収入額を現在価値に割り戻す割引率を適正に導きだすことはとても重要です。
割引率は将来のキャッシュフローを現在価値に割り戻すときに利用される比率であり、還元利回りは純収益と不動産価値との比率です。
還元利回り = 純収益 / 不動産の取引価格SP(Sales Price)
収益用不動産の価格とその不動産の総収益を知ることができると還元利回りは求めることができます。
この利回りが、いわゆる「キャップレート」といわれているものです。
GRM分析法
GRM(Gross Rent Multiplier Analysis)は、居住用不動産に適用される収益分析法です。
GRM=売買価格 / 月額純賃料
一戸建て住宅を賃貸しているときに上記の計算式を用います。