J-REITと私募ファンド ── 何が違うか
- J-REITは不動産証券化の一形態。並列に比較できるものではない
- 比べるなら上場REIT・私募REIT・私募ファンド・不特法・クラウドファンディング
- 軸は五つ。上場の有無、投資家の範囲、根拠法、開示の水準、原資産の確認
- どれを選んでも、価値を支えているのは個別の不動産
「J-REITと不動産証券化、どちらを選ぶか」という設問を見かけますが、この二つは並列の関係にありません。
| 内容 | |
|---|---|
| 不動産証券化 | 手法の総称。SPCを使い、倒産隔離を図り、証券として流通させる仕組み |
| J-REIT | その手法を用いた商品の一つ。上場している投資法人 |
J-REITは不動産証券化の一形態です。「どちらが向いているか」という比較は成り立ちません。
比べるべきなのは、証券化の手法を用いた個々の商品どうしです。
五つの商品を並べる
| 商品 | 器 | 取引 |
|---|---|---|
| 上場REIT(J-REIT) | 投資法人 | 証券取引所 |
| 私募REIT | 投資法人 | 相対。運用会社による買取(払戻し)に応じる仕組みがある場合も |
| 私募ファンド | TMK、GK-TKなど | 相対。期間満了で清算 |
| 不動産特定共同事業 | 事業者(現物を保有) | 相対 |
| 不動産クラウドファンディング | 同上 | インターネットを通じた募集 |
いずれも「複数の投資家から資金を集め、不動産の収益を分配する」点は同じです。違いは、以下の五つの軸に現れます。
軸一 上場しているか
| 上場REIT | それ以外 | |
|---|---|---|
| 売却 | 市場が開いていれば売れる | 相対。期間中は原則として換金できない |
| 価格 | 毎日値が付く | 値付けされない |
| 価格の変動 | 市場全体の動きに連動しうる | 不動産の価値に直接連動 |
上場していれば売りやすい一方、不動産の価値と関係のない要因でも価格が動きます。
金利の見通し、株式市場全体の変動、投資家の資金需要。保有する物件に何も起きていなくても、投資口価格は下がることがあります。
非上場の商品は値が付かないため、この変動は見えません。ただし、見えないことと動いていないことは違います。
軸二 誰が投資できるか
| 商品 | 投資家の範囲 |
|---|---|
| 上場REIT | 誰でも。証券口座があれば |
| 私募REIT | 主に機関投資家 |
| 私募ファンド | 適格機関投資家等。個人には資産・経験の要件がある |
| 不動産特定共同事業 | 個人も可。小規模事業では一人あたりの上限がある |
| クラウドファンディング | 個人も可。少額から |
投資家の範囲が広いほど、規制と開示の水準は高くなります。逆に、範囲が限られる商品ほど、投資家自身が判断する前提になっています。
軸三 適用される法律
| 商品 | 根拠法 | 参入 |
|---|---|---|
| 上場REIT・私募REIT | 投資信託及び投資法人に関する法律 | 投資法人の登録、運用会社の登録 |
| 私募ファンド | 金融商品取引法(TMKは資産の流動化に関する法律も) | 第二種金商業・投資運用業、または特例業務の届出 |
| 不動産特定共同事業 | 不動産特定共同事業法 | 許可(小規模は登録) |
| クラウドファンディング | 同上+電子取引業務 | 同上に加えて、その旨の許可・登録 |
金融商品取引法と投信法は金融庁、不動産特定共同事業法は国土交通省が所管しています。
許可・登録の一覧を確認する場合、それぞれの官庁のサイトを見ることになります。
また、同じ「不動産に投資する商品」でも、説明義務の内容、禁止行為、監督の方法が異なります。どの法律の下にある商品かを、まず確認してください。
軸四 情報開示の水準
| 商品 | 開示される内容 |
|---|---|
| 上場REIT | 有価証券報告書、決算短信、適時開示。保有物件の一覧、稼働率、鑑定評価額 |
| 私募REIT | 投資家向けの報告。一般には公開されない |
| 私募ファンド | 契約で定めた報告 |
| 不動産特定共同事業 | 契約締結前の書面、財産管理報告書 |
| クラウドファンディング | 募集ページ、契約締結前の書面 |
投資するかどうかにかかわらず、上場REITの開示資料は市場の情報源として使えます。
- 地域別・用途別の稼働率と賃料の動き
- 物件ごとの鑑定評価額と、その前提となる利回り
- 取得・売却の価格と、その判断の説明
- 借入の条件、金利、返済期限の分散
個人では集めにくい情報が、まとまった形で無料で得られます。不動産の実務に関わる方にとって、参照する価値があります。
軸五 原資産を確認できるか
ここが、この講座で最も重視する点です。
| 商品 | どこまで分かるか |
|---|---|
| 上場REIT | 物件の一覧、所在、取得価格、鑑定評価額。個別の境界の状況までは通常開示されない |
| 私募ファンド | デューデリジェンスの報告書を確認できる立場なら、詳細まで |
| クラウドファンディング | 募集ページに記載された範囲 |
証券化のスキームがどれだけ精緻でも、分配の原資は、その物件が生む賃料と、売却したときの代金です。
そして、その物件には次の条件が付いています。
- 境界が確定しているか 売却時に確定測量が必要なら、期間と費用がかかる
- 越境がないか 覚書の取得は相手方の対応次第
- 再建築できるか 買い手に融資が付くかを左右する
- 検査済証があるか
- 主要な賃借人が退去する予定はないか
これらは、スキームでは解決できません。運用期間が短い商品ほど、出口の時期に直接影響します。
募集資料で確認すること
- 物件の所在と、用途
- 取得価格と、鑑定評価を取っているか
- 想定利回りの前提(稼働率、賃料)
- 運用期間と、延長の可能性についての記載
- 優先劣後の構造と、劣後部分の割合
- 事業者・運用会社の許可・登録番号
選び方
「どれが優れているか」ではなく、資金の性質と、確認できる情報の量で決まります。
| 状況 | 考えられること |
|---|---|
| いつ使うか分からない資金 | 換金できる商品でないと合わない |
| 当面使う予定がない資金 | 期間の定めがある商品も選択肢になる |
| 価格の変動を見たくない | 上場REITは毎日値が動く |
| 自分で物件を確認したい | どの商品でも、開示される範囲には限りがある |
| 少額から始めたい | 上場REIT、クラウドファンディング |
資産全体のなかでどう位置づけるかは、金融機関や資産運用の専門家に相談してください。不動産の側からだけでは決められません。
共通して確認すること
元本は保証されない
いずれの商品も、元本が保証されるものではありません。
「元本保証」をうたう募集は、関係する法律の下では認められていません。そうした表示を見た場合、そもそも疑うべきです。
想定利回りは、確定ではない
募集資料に示される利回りは見込みです。稼働率が下がれば、賃料が下がれば、修繕が生じれば、実績は変わります。
誰が運用しているか
- 許可・登録の有無と番号
- これまでの運用実績と、償還の状況
- 財務の状況 運用者が行き詰まれば、分配は止まる
- 関係会社との取引についての方針
手数料
取得時、運用中、売却時にそれぞれ費用が生じます。想定利回りが手数料控除後の数字かどうかを確認してください。
第5章のまとめとして
ここまで、証券化の仕組み、信託受益権、メザニン、各種の登録、契約書類、出口までを見てきました。
| 層 | 扱ったこと |
|---|---|
| 仕組み | 倒産隔離、SPC、優先劣後 |
| 道具 | 信託受益権、ノンリコースローン、メザニン |
| 規制 | 金商法、不特法、各種の登録・届出 |
| 実務 | 契約書類、クロージング、出口 |
これらはすべて、個別の不動産が生むキャッシュフローを、どう切り出し、どう配分するかの技術です。
技術がどれだけ精緻でも、原資産の条件は変わりません。接道、境界、越境、擁壁。数字の前提になっているのは、地面の条件です。
- J-REITと不動産証券化を並列に比較していない
- 商品の種類を特定した上場REIT/私募REIT/私募ファンド/不特法/クラウドファンディング
- どの法律の下にある商品か確認した
- 許可・登録の有無と番号を、所管官庁の一覧で照合した
- 上場しているかどうかを確認した換金の可否
- 投資家の範囲に制限がないか確認した
- 開示される情報の範囲を確認した
- 物件の所在と用途を確認した
- 鑑定評価を取っているか確認した
- 想定利回りの前提を確認した稼働率・賃料・手数料控除の有無
- 運用期間と、延長の可能性を確認した
- 優先劣後の割合を確認した
- 運用者の実績と財務状況を確認した
- 「元本保証」の表示がないか確認した
- 原資産の条件を確認した境界・越境・再建築・検査済証
まとめ
- J-REITは不動産証券化の一形態。並列に比較できるものではない。
- 比べるなら、上場REIT・私募REIT・私募ファンド・不特法・クラウドファンディング。
- 投資家の範囲が広い商品ほど、規制と開示の水準が高い。
- 上場REITの開示資料は、市場の情報源として誰でも使える。
- スキームがどれだけ精緻でも、価値を支えているのは個別の不動産の条件。
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