不動産の証券化
不動産の証券化とは、不動産が生み出す収益(利益又はキャッシュフロー)を裏づけする証券を発行し、これを投資家に買ってもらうことで資金の調達をする仕組みのことです。
100億円のビルも、一口100万円に証券化されれば、より多くの投資家がこのビルに投資できるというわけです。
1人で100億円用意できる人を探さなくてもいいことになります。
証券化による主要プレーヤーの目的
登場人物
特別目的事業体(SPE(Special Purpose Entity))(SPC(Special Purpose Company))
01. SPEの利益に対して法人税は課せられない
このような性質を持つ器(ビークル)のことを導管体(コンジット)と呼びます。
これには、法人税のかからないビークル(パススルー型)と法人税はかかるがエクイティ配当分については損金として控除できるのでSPEには法人税がかからないビークル(ペイスルー型)があります。
02. 倒産隔離(バンクラプシーリモート Bankruptcy Remote)されている。
不動産の証券化では、投資家はSPEの資産が生み出す収益が全てです。万一オリジネーター等が倒産しても投資家を守るためにSPEを切り離すのです。
オリジネーター(証券化する不動産の所有者)
オリジネーター(原資産所有者)が不動産を証券化する目的の一つは、貸借対照表(バランスシート)から対象不動産をはずす(オフバランス)ことで、保有資産や借入金のスリム化をはかることができることが挙げられます。
また、売却益が顕在化されることもメリットのひとつですね。
証券化した後もその不動産に関連するビジネスに関与する可能性も大きいと思います。
SPEのエクイティの一部取得、SPEからの不動産管理の受託、SPEの不動産売買の仲介業務受託などなど。
投資家
01. 複数の不動産に分散投資することが可能になる
02. 資産の「流動化」が向上する。
一部のプライベートファンドなどは証券の譲渡制約が厳しかったりするので逆に流動性が低下することもありますが・・・
不動産投資が、ミドルリスク・ミドルリターンの特性を持つようになり、投資家にとってリスク分散、リターン向上につながる効果があります。
不動産会社
アセットマネジメント(資産運用)、プロパティマネジメント(物件管理)、ブローカレッジ(不動産仲介)などのビジネスを獲得できる。
他に、コンサルやアレンジメント(調整)等のビジネスチャンスもあります。
なにより、潤沢な資金が不動産市場に流れ込んでくれば、不動産の開発や取引が活発化することになります。
代表的な不動産証券化ストラクチャー
TMK方式
資産流動化に基づいて証券化する手法
- ケイマンSPCなどにTMKに対して特定出資させてTMKを設立
- こうして倒産隔離したうえでTMKは不動産など特定資産に投資
- この投資資金を証券(資産対応証券(6種類))の発行や借入で調達
- エクイティは優先出資証券、デッドは特定社債や特定目的借入などで調達
YK-TK方式
有限会社制度と匿名組合制度に信託受益件を組み合わせた方式
2006年に施工予定の新会社法で有限会社制度が廃止されるため、留意する必要があります。
倒産隔離のために中間法人やケイマンSPCを利用する点などは他のストラクチャーと同様です。
SPEとして有限会社を利用する理由
- 有限会社としての法人格でノンリコースローン調達ができる
- 有限会社は資本金が小額、役員も1名で済むこと
投資法人 J-REIT
投資信託法(投資信託及び投資法人に関する法律)に基づく制度
証券投資信託法で専門家が投資家から資金を集め、「有価証券」に投資していたものが、2000年に投資信託法になり、不動産に投資することも可能となりました。証券化のために「投資信託」と「投資法人」の器がありますが、実際は「投資法人」が使われています。
- 投資法人は資産運用の器であり、資産運用業務を行うのは投資信託委託業者
- 投資信託委託業者は、宅建免許、取引一任代理の認可(国土交通省)、投資信託委託業者の認可(内閣総理大臣)の3つの資格が必要
- 会計や管理などの一般事務やし胡散保管は外部に委託
- 保有不動産等の管理運営は不動産会社やプロパティマネジメント(PM)会社などに委託
投資法人の資金調達
- 投資証券の発行
- 適格機関投資家からの借入金
- 投資法人債の発行
住宅ローンの証券化RMBS[Residential Morgage Backed Securities]
ここまで説明してきた証券化は、実物不動産が生み出すキャッシュフローを受け取ることを目的とするエクイティ型の不動産証券化です。一方、不動産担保貸付金を証券化する「デッド型の不動産証券化」があります。
それが、住宅ローンの証券化(RMBS[Residential Morgage Backed Securities])と商業不動産を担保とするノンリコースローンの証券化(CMBS[CommercialMorgage Backed Securities])
RMBSの2つの発行形態
- オリジネーター(住宅ローン貸手)がローンを信託に入れてから受益権をSPEに売却し、SPEがRMBSを発行する方法
- 住宅ローンを信託にいれ、受益権を分割し、投資家にRMBSとして販売する方法
商業不動産を担保とするノンリコースローンの証券化CMBS[CommercialMorgage Backed Securities]
証券化されるローンは、オフィスビルなどの商業用不動産を担保としたノンリコースローンが典型です。
金融機関などがノンリコースローンを全て保有しているとデフォルトリスクや金利リスクを自社で一手に引き受けることになるので、証券化によってオフバランスする場合があります。
オリジネーターはノンリコースローンをSPEに売却し、SPEは証券(CMBS)を発行して資金を調達します。
不動産証券化事業にかかわるための資格
不動産証券化手法の一つである不動産特定共同事業をするには事情所に業務管理者を置く必要があります。(不動産特定共同事業法第17条)
業務管理者となるには、宅地建物取引主任者の登録者で、3年以上の特定共同事業の実務経験があるか、不動産コンサルティング技能登録者やビル経営管理士の有資格者であることが求められています。
不動産ファンド売却(ディスポジション)のプロセス
不動産ファンドは、最終的に保有不動産を処分することで投資家に出資金を償還し、さらに残余があれば運用益として投資家に分配して、その運用を終えるものです。
一連の手続きのことを「ディスポジション」(処分)と呼びます。
売却プランの検討
大きく分類すると、
一括売却 (バルク売り) |
複数の物件をまとめて単独の買主に売却する |
---|---|
個別売却 | 個別に買主と交渉していく |
に分けられます。
さらに、
入札(ビッド)取引 | 複数の買主候補から一斉に条件を募って売却先を決定する |
---|---|
相対取引 | 個別に買主と交渉していく |
を選択します。
そして、
- 仲介業者を介して売却するのか
- 仲介業者に複数依頼するのではなく、セラーズエージェントとして選任するのか
- 直接交渉するのか
を決めなければなりません。
セラーズエージェントとは、契約形態に関わらず、実質的に売却活動を一手に取り仕切る仲介業者のことです。
ディスポジション(処分・売却)地の資金の流れ
01.売却収入
保有する不動産信託受益権を売却した場合、合同会社は買主から信託配当受取口座で「売却代金」を受領します。
02.売却関連支出
仲介が介在した場合は第二種金融商品取引業者への「媒介手数料(仲介手数料)」が必要です。信託受託者には「処分信託報酬」が必要です。
03.借入元本返済
売却代金(1)から売却関連支出(2)を控除した残額から合同会社はまずレンダーに「借入元本の返済」を行います。
04.AM報酬支払い
借入元本を返済したあとの残額が「信託配当受取口座」から「リリース口座」に移されます。その額からAM(アセットマネージャー)に「AMフィー(処分報酬)」が支払われます。
05.分配金支払い
AM報酬が支払われたあとの残額が投資家に支払われます。
不動産信託受益権の処分パターン
01.受益権売買
売主である「器」から買主に信託受益権がそのまま売却されます。事前に「信託受託者の譲渡承諾」が必要です。
02.現物売買
受託者が保有不動産を買主に売却する方法です。信託受託者が瑕疵担保を負うことを回避するため、買主は通常、宅建業者・不動産業者に限定されます。
03.受益権売買+即信託解除
信託受益権のまま買主にいったん売却し、即日、新受益者となる買主と受託者との間で信託契約を解除し、買主が現物不動産の交付を受けます。
買主がプロ(宅建業者、不動産会社)でない場合、受託者が瑕疵担保責任を追うことを回避する策として用いられています。
ディスポジション時の資金計画
売却時における会計上の損益は、
売却時における会計上の損益 =「売却額」-「簿価」-「売却コスト」
で算定できます。
これらの式からわかるように、期中の減価償却費が多い場合には、その分、売却時点の簿価が下がりますし、期中の減価償却費が少ない場合にはそれほど売却時点の簿価は下がりません。
CFと会計では不一致項目があるため、売却に伴い、決算末時点で合同会社のリリース口座に残るCF(配当可能CF)と会計上の利益は一致しません。
信託受益権販売
2004年12月信託業法が全面改正され、「信託受益権販売業制度」が創設されました。
これによって、資産不動産の流動化が広まっていったわけです。
資産不動産の流動化とは、不動産そのものを売るのではなく、いったん信託し、その利益を受ける権利だけを投資家(受益者)に譲渡することです。
信託とは、他人に財産管理をしてもらう法制度であり、不動産の信託の事例をあげると、留守委託、不動産管理委託、不動産処分委託、土地信託、不動産設備信託、資産流動化(証券化)信託、があります。
信託財産であることを第3者に対抗するためには、登記・登録制度のある財産については、登記・登録をしていることが必要です。
信託受益権とは?
信託受益権とは、受益者たる地位に基づいて行使できる権利をいいます。
受益権は、受託者に対する受益者の債券ですから受益者は譲渡することが可能です。
信託受益権を使った資産の流動化のしくみや目的は多種多様です。
パターンは様々で、各物件ごとに違います。
呼び方も、信託銀行や不動産会社によって違ったりすることもあります。
- 不動産流動化型不動産の所有者が、所有不動産そのものを売却するのではなく、不動産を信託し、その受益権を売却するもの
- 不動産運用型オリジネーターが投資家からお金を集めて、そのお金で不動産に投資し、収益を投資家に分配するもの
投資家のメリット
- 投資家は自らの手間や時間をかけずに収益を得られる
- 対外的関係は受託者が一切処理する
- 信託財産が一体となって移転する
- スキームが安定している
- 受託者の義務等が法定されている
- 倒産隔離機能が働いている
- 権利の分割、統合が簡単
- 担保提供にも便利
- 収益について二重課税されない
資産所有者(オリジネーター)のメリット
- 実物資産より売りやすくなる
- 会社をつくるより信託を利用するほうが簡単
- 買戻しの可能性が残る
- 不動産管理会社として収益機会を確保できる
メリットばかりではなく、受益権には、当然にリスクもあります。
元本割れする恐れもありますし、金利や相場などの指標の変動によるリスク、賃貸人等の関係者の信用状況が変化(悪化)によるリスク、が考えられます。
他には、物件の減損、瑕疵等による価値の変動、災害、事故、土壌汚染等によるリスクなどなど、あります。
信託受益権販売とは?
信託受益権販売業とは、「信託の受益権(証券取引法第2条第1項に規定する有価証券に表示される権利及び同条第2項の規定により有価証券とみなされる権利を除く)の販売又はその代理若しくは媒介を行う営業をいう」(信託業法第2条10号と定義されています。
信託受益権販売業で注意する点は、宅地建物取引業法は、「取引業」が対象で売買とも規制されるのに対し、信託受益権販売業は、「販売業」だけを規制するものです。
信託受益権販売業者は内閣総理大臣の登録を受けなければ、業務を行うことができません。
不動産信託の受益権がよく流通しているので、今のところ不動産会社の登録が多いです。
将来的には、特許権の信託受益権などの販売業者も登場するかもしれません。
信託受益権取引と宅建取引との違いとは?
宅建業者には免許制。
信託受益権販売業者には登録制がとられています。
受益権取引は、取引額が高額になることがほとんどでしょう。
この辺は宅建業取引と同じですね。
大きな違いは、信託受益権は元本が確定しない金融商品であるということ。
リスクも宅建業取引よりも大きくなります。
宅建業取引の場合には、「物件」という目に見えるものが存在しますが、受益権は目に見えないものです。宅建取引よりもより慎重さが求められます。