権利関係調査
現地調査の次は、法務局に行きます。法務局は物件の所在地によって管轄区域が定められています。同じ市町村でも管轄が2カ所,3カ所に分かれている場合もあるため、注意しましょう。
法務局のホームページで管轄は確認できます。
いまでは、「登記情報提供制度」といってインターネットで登記簿情報を確認することができます。あらかじめ利用者登録して利用する方法と一時的に利用する方法とがあります。
便利な世の中になったものですね。一昔前は、登記簿謄本をとるためだけのために、片道3時間かけて管轄の法務局に行ったものですが・・・
確認事項
取得するものは、次のものです。
- 公図
- 登記事項証明(登記簿謄本)※土地・建物
- 地積測量図
- 売買契約締結
- 決済
- 所建物図面
「公図」からは、土地の形、周辺の状況、接道状況や水路などの情報がわかります。
「登記事項証明(登記簿謄本)」で所有者、所有者の移転の経緯、担保権の設定状況、土地の利用状況などを確認します。
「地積測量図」では、敷地の形状、面積(坪数)を、「建物図面」では、建物の形状を調査しましょう。
このように、法務局では不動産の権利関係に関する基本的なことがわかります。手数料を払いさえすれば誰にでも手に入る情報です。だからこそこの法務局での調査を怠り、後々トラブルになった場合、「知らなかった」では済まされないのです。
公図、登記事項証明(登記簿謄本)、地積測量図、建物図面のそれぞれの確認の仕方、読み方を理解しておきましょう。
公図調査
登記所(法務局)に備えられている地図のことを公図といいます。地方によっては、公図のことを字図(あざず)と呼んだりします。
公図とは、登記所に備え付けられている土地の図面のことです。
精度が高い地図のことを、『法14条地図』(※)といい、その他の精度の低い地図を「地図に準ずる図面」といいます。この「地図に準ずる図面」を公図と呼ぶのですが、2つのことをあわせて「公図」とよんでいるのが通常です。
※昔は、法17条地図といわれていましたが、それは旧不動産登記法17条に規定されていたからでした。改正不動産登記法では14条に規定されているため、「法14条地図」というようになったのです。
住居表示しかわかっていない場合
検討地の住居表示しかわからない場合、公図の申請ができません。
そんなときは、ブルーマップという地図をみてみましょう。法務局に備え付けてあります。これは通常の住宅地図よりも高いです。なぜかというと住宅地図の上に水色の文字で地番が書き込まれているからです。
写しの申請
地番がわかったら、公図を申請してみましょう。
公図と住宅地図との照合を行い、検討地の地番を特定します。
赤道、青道
たまに公図には、赤く塗ってあったり青く塗ってあったりする場合があります。
どうも地番のない道状のところに塗られていますが、一体なんなのでしょうか?
それは、赤く塗ってあるのが「赤道」、いわゆる県の管轄で土木事務所 東町が管理していることが多いです。地域によって管轄が違う場合がありますので、その都度、登記官に確認しましょう。
青く塗ってあるのは「青道」、いわゆる水路です。水路は用水路や悪水路のことをいいます。
用水路とはきれいな水の水路であり、悪水路とは、家庭排水などのきれいではない水の水路のことです。これらも管轄がどこになるのか登記官に確認しておきましょう。
公図と現況(住宅地図)のずれ
公図と現況(住宅地図)のずれがあるときは、「旧紙公図」を申請しましょう。申請窓口では、口頭で直接お願いするといいと思います。公図の閲覧申請をしている場合なら無料で閲覧させてくれます。
お金を払って写しを申請すれば、コピーした紙が出てきますが、実際の旧紙公図は、和紙でできていて、年月が経っているためぼろぼろのことが多いです。明治時代の初めに課税目的で作成されたものであり、それを基にして今の公図を作り上げていることを考えると、記載ミスや記載漏れなども発生するのは必然ともいえるのではないでしょうか。ましてや手作業でやってきたことを考えると書き換えのときに、間違えがあってもおかしくないですね。
登記に公信力がない
どうしてそこまで、公図と現況(住宅地図)のずれがあったときに調べなければならないのでしょうか?
それは、『登記には公信力がない』からです。
登記官が間違えて記載した公図に基づいて損害被った場合でも、「登記官の記載ミスであった公図のせいで損をしたのだから、国が弁償してくれ」とはいえないのです。
参考として一般に閲覧させているだけで、訴訟能力はないという判例もあります。
だからこそ、法務局での調査のときに、疑問点をきちんと解決しておく必要があるのです。
なにかあったとき、国や行政は、助けてくれません。
地籍調査
地籍調査は、国土調査の一つです。国土調査は、地籍調査、土地分類調査、水調査の3つ分けられます。
境界の確認・測量を行い、面積を確定します。
今の測量技術で、より正確に現況にあわせた図面(地籍図)を作成します。
公図と現況のずれは、紛争の原因ともなるため地籍調査を行い、精度の高い図面が整備される
ことで土地のトラブルの防止に役立つことができるのです。
地籍調査は、地方公共団体(市町村等)が実施します。
登記事項証明書【土地】の調査
土地の登記事項証明書(登記簿謄本)の確認する事項は、
- 所在地
- 地目
- 地積
- 甲区
- 乙区
「所在地」「地目」「地積」でその土地が所在する場所、現状及び利用目的がわかります。
「甲区」には、所有者に関する事項が記載され、「乙区」には所有権以外の権利に関する事項が記載されます。
さらに、所有権移転の「原因」「年月日」「受付番号」も確認しておきましょう。
「原因」は、売買による所有権移転であれば「売買」と記載され、相続による所有権移転登記であれば「相続」と記載されています。
地目欄が「田」や「畑」となっているような場合には、売買をするためには農業委員会の転用許可が必要です。農地転用と言われているものです。
乙区に電力会社の地役権設定が設定されている場合は、電力会社にその地役権の内容を調査したほうがよいでしょう。
地役権の内容(目的・範囲・地代・特約等)は登記されていますが、それ以外の制限が存在する場合があります。
「受付番号」が権利証書番号といわれるものです。権利証書と同じ番号になります。一致していないと問題です。売主の提示された権利証書の信憑性を確認しなければなりません。
「筆界特定」の欄に記載があれば、筆界特定書の写しを申請しましょう。
境界についてなんらかのトラブルがあったため法務局による筆界特定が行われたことが推定できます。筆界特定の記録を確認し内容を把握しておきましょう。
地積測量図の調査
地積測量図は、登記事項証明のように1筆ごとに必ず存在するというものではありません。
まずは、地積測量図があるか、ないかを調べます。
仮に地積測量図があったとしても、作成年月日が昭和20〜30年代の場合は非常に精度が低いため単なる参考資料にしかならない場合があります。
現在ほど測量技術も作図技術もなく、境界に関する意識がそれほど重要ではない時期であったとも言えます。
法務局も測量図がなくても土地に関する登記を受け付けていたりしていたので、測量図が存在していなかったりする場合があるのではないでしょうか。
昭和20〜30年代は、そのような時代背景もあったため「単なる参考資料」とされることが多いのです。
しかし、他に境界に関する資料がない場合、裁判等争いごとになったときはこの地積測量図が唯一の手掛かりとなる資料であり重要な資料となります。
地積測量図がない場合
隣接地の測量図がすべて揃えることができれば、物件の外周がおおよそ想定できるということになります。
隣接地の境界は非常に重要です。
検討物件の地積測量図がない場合は、必ず隣接地の測量図まで申請し調査しましょう。
地積測量図がある場合でも隣接地の測量図まで調査をすればなお良いと思います。
地積測量図を申請するときは、現在の所在地を記載して申請しますが、従前の所在地で地積測量図が作成されているときには地積測量図が出てこない場合があります。
所在地の名称が変更になっている場合のときです。
そんなときは、閉鎖登記簿謄本を取得し、従前の所在地を調査してからその所在地で申請してみましょう。
気の利いた法務局の窓口であれば、そこまでやってくれるところもあります。
どこでも同じでしょうが、対応してくれる「人」次第といったところですので、窓口で「地積測量図はない」といわれそのまま信じていたが、後日従前の所在地での地積測量図が存在したということにもなり兼ねません。
地積測量図があった場合に重要となるのが、「境界は確定しているかどうか」です。境界を確定させるために「立会」(お互いが現地で境界の位置を確認し合うこと)を行い、なんらかの書面(立会証明書等)を取り交わしているかどうかです。
では、地積測量図はあったが、立会証明書等はなかった。地積測量図も古い昭和の時代に作成されたもので境界は確定していない。という場合は、どんなところに注意したら良いのでしょうか?
まずは、その地積測量図と現地を照合してみましょう。
違いはあるのか。ほぼ一致しているのか。
出来る限りの比較をしてみましょう。
境界の確定していない地積測量図とはいえ、境界の確定作業を行う際には、やはりその地積測量図が参考にされます。最重要資料といってもいいかもしれません。
後日、境界立会をするときに、地積測量図をもとに話し合いを行えばスムーズにことが運ぶ可能性が大きいものです。
境界を確定したい場合は、国家資格者である土地家屋調査士に依頼する必要があります。
道路との境界について
敷地と道路との境界が確定しているかどうかということも重要となります。
公図に地番がある場合は、地積測量図を申請しましょう。
ここでも地積測量図と現地との照合が重要です。
特に、幅員、境界標に注意してみてみます。
道路の立会証明書等は、市区町村役場で管理している場合が多いので、地積測量図と合わせて市役所等で境界が確定しているかどうのか調査を行うことが必要です。
窓口は道路管理課などの土木の方の管轄に大体なっています。
登記事項証明書【建物】の調査
建物の登記事項証明書を申請するときは、「家屋番号」を記載しなければなりません。
しかし法務局調査のときに家屋番号がわからないときはどうしたらよいでしょうか。
そのときは、閲覧を申請する用紙の地番欄にわかっている地番を記載し、家屋番号欄の下に「上記敷地上に建物登記があれば、すべてお願いします」と記載して申請すれば、その地番の土地の上にある建物の登記事項証明書を出してくれます。
「すべてお願いします」と申請するのは、現況にはない建物の建物登記が存在することがあるからです。
現況は更地であるのに、建物登記が存在していたり、1棟しか建っていないのに2つの建物登記が存在したりしていることがあります。
建物を取り壊したら建物の滅失登記をしなければなりません。
これは、自分でしなければなりません。
黙っていれば法務局が滅失の手続きをしてくれるわけではないのです。
以前の建物はすでに取り壊したのに滅失登記をしない場合、その次に新たな建物を建築して建物登記をすれば、その敷地上には1棟の建物しか存在していないにもかかわらず、建物登記は2つ存在することになります。
祖父名義となっており、もうすでに祖父は他界しているような場合は、相続の絡みも出てきます。
建物図面の調査
敷地の上に存在する建物の登記事項証明書をすべて申請したら、その建物についての建物図面を申請します。
ひとつの家屋番号で二つの建物図面がある場合
ひとつの家屋番号で二つの建物図面がある場合があります。
以前の建物を取り壊し解体して滅失登記をしたとしても、法務局で登記官が滅失登記のあった建物の建物図面を処分し忘れている場合があります。
新しい作成年月日の図面が、今現在の生きている建物図面となることがほとんどですが、建物図面と現状をチェックする必要があります。
建物図面には、建物の形状、どういう配置で建っているか、が記載されています。境界線から◯◯mの間隔で建っていることなどがわかります。
建物図面と現状が違う場合
建物図面と現状をチェックしたときに、増築したことが確認できる場合があります。
現況の建物に増加している部分(増築部分)が、建物図面に反映されていないようなときは増築の登記(建物表示変更登記)がされていないと判断できます。
建物図面と現状のチェックは、必ずしておくと間違いはありません。
登記事項要約書
公図をみれば、物件敷地の隣接地の地番がわかります。
敷地に隣接しているすべての土地の登記事項要約書を申請しましょう。
隣接地の登記事項要約書を調査することで周辺の状況を探ることができます。
更地であっても、土地の所有者名義がマンション業者となっていれば、将来的にマンションが建設されるのではないかと容易に想像できますね。
「眺望景観がいいから購入したのに、隣にマンションが建つなら買わなかった」と宅建業者を訴えた事例があります。
また、不動産売買契約締結後、引渡しの後に隣接地にガソリンスタンドの建設が始まったとき、「隣にガソリンスタンドが建つことがわかっていたらこの物件を購入しなかった」と宅建業者を訴えた事例もあります。
この場合、「宅建業者が物件調査をした時点で隣接地の建築計画を知り得たかどうか」が訴訟の争点になります。
登記事項要約書には日付と法務局の押印がありません。(なぜないのかがわかりません。。。ないと困るのですが)
登記事項要約書を交付されたら、申請した日付と法務局名を必ず書いておきましょう。
上記のように訴えられたときには、「日付」がポイントとなります。
区画整理区域内の場合
公図を申請したときに、区画整理中のため公図が出してもらえないことがあります。
この場合は、その区画整理事業を担当している課に行ってみましょう。
「仮換地図」が公図や地積測量図のかわりになりますので、取得しておきましょう。
マンション登記事項証明書
敷地権登記されたマンションの場合でも、土地と建物の登記事項証明書を取得しましょう。
敷地権の登記がされているので、建物だけでいいのでは?
と思いますが、敷地権の登記がされたマンションで土地に地役権設定の登記があるにもかかわらず、建物の専有部分の登記事項証明書には何の記載もないということがあります。
マンションという存在自体が誕生したのが昭和の終わり頃です。
区分所有法という法律に基づいています。
敷地権登記の原則は、建物部分だけの登記事項証明書だけで権利関係か把握できることになっています。
しかし、すでに土地に設定されている地役権や抵当権は建物の登記事項証明書には表示されないとされています。
これはまた、おかしな話です。
敷地権制度は、このような場合までカバーしていないのです。
すべての権利内容を把握するためにも、区分所有のマンションであっても、建物と土地の両方の登記事項証明書を取得し調査することが必要となってくるのです。
規約共用部分の登記も忘れずにチェックしましょう。
「敷地上にある建物について付属設備と規約共用部分もすべてお願いします」と申請書の下の余白部分にも記載すると良いでしょう。
まとめ
今まで見てきたように法務局の登記官もミスをすることがあります。
登記されたものだからといってなんでも信じてはいけないのです。
登記も人の手でされている以上、完璧ではありません。
間違いはあるものとして、調査を行い、そしてそれに気づくことができるかどうかがポイントになります。
法務局で調査するものの一覧
- 住宅地図の閲覧
- 公図の写し
- 旧字図 (必要な場合)
- 登記事項証明書
- 測量図の写し
- 建物図面の写し
- 規約共用部分(マンションの場合)
- 閉鎖登記簿謄本(必要な場合)
チェックすべき項目
- 公図と旧公図
- 公図と現況のずれ
- 権利証書と受付番号
- 取登記事項証明書と地積測量図との地積の比較
- 地積測量図と現況
- 建物図面と現況の建物の位置関係
- 建物の所在と住居表示の比較
等が挙げられます。
法務局の登記官も間違いをするということはすでに説明した通りです。
すぐにわかる間違いに気づかないとそれがトラブルの元となる場合があります。
たとえそれが法務局のミスであったとしても、法務局はなんら責任を取ってくれないものと考えておきましょう。