土壌汚染対策法 ── 調査義務は、いつ生じるか
- 調査義務は三つの契機でしか生じない。定期調査の義務はない
- 区域指定は二種類。制限の重さが違う
- 指定されていれば重要事項説明の対象
- 費用は契約で誰が負うか決めておく。青天井になりうる
「工場跡地だから、土壌調査が義務づけられている」──そうとは限りません。
土壌汚染対策法が調査を求めるのは、限られた場面だけです。それ以外は、当事者が任意に行うものです。
この記事では、いつ義務が生じ、取引で何を確かめるかを整理します。
いつ調査が義務になるか
土地を持っているだけでは、調査の義務は生じません。
義務が発生するのは、次の三つの契機です。
| 契機 | 内容 |
|---|---|
| 有害物質使用特定施設の廃止 | 水質汚濁防止法上の施設を使うのをやめたとき |
| 一定規模以上の土地の形質変更 | 掘削などの面積が基準を超えるとき |
| 健康被害のおそれ | 都道府県知事等が調査を命じる場合 |
「所有者に定期的な調査と公表の義務がある」という説明は誤りです。
解説記事にこの記述を見かけることがありますが、条文にそのような定めはありません。
一つ目 ── 施設の廃止
有害物質を使う特定施設を廃止したとき、その土地の所有者等に調査の義務が生じます。
- 水質汚濁防止法の有害物質使用特定施設が対象
- めっき、金属加工、クリーニング、印刷など
- 引き続き工場等として使う場合、調査が猶予されることがある
- 猶予されていても、その土地の形質を変更するときには調査が必要になる
猶予中の土地を取得する場合は、この点を確認してください。
買った後に建物を壊して造成すると、そこで調査義務が発生します。
二つ目 ── 形質の変更
| 内容 | |
|---|---|
| 対象 | 一定規模以上の掘削・盛土等 |
| 届出 | 着手前に都道府県知事等へ |
| 調査命令 | 汚染のおそれがあると認められれば命じられる |
造成や解体を伴う計画では、面積を先に確認してください。
基準を超えると届出が要り、調査を命じられれば工程が延びます。
二つの区域
| 要措置区域 | 形質変更時要届出区域 | |
|---|---|---|
| 状態 | 健康被害のおそれがある | おそれはないが、基準を超えている |
| 措置 | 知事等が指示する | 措置は求められない |
| 形質変更 | 原則として禁止 | 届出が必要 |
| 解除 | 措置により指定が解除されうる | 同上 |
「指定されている=土地が使えない」ではありません。
形質変更時要届出区域なら、届出をすれば工事はできます。汚染された土壌を動かす方法に制限がかかります。
一方、要措置区域では原則として形質の変更ができません。
台帳で確認する
区域の指定は、都道府県等が台帳で管理し、公表しています。
- 都道府県・政令市の環境担当課
- ウェブで地図として公開している自治体もある
- 指定が解除された履歴も残る
- 登記記録には現れない
解除された土地も、過去に汚染があった事実は残ります。買主に伝えるべき事項です。
取引での扱い
区域に指定されていれば、法令に基づく制限として説明しなければなりません。
| 説明すること | |
|---|---|
| どちらの区域か | 制限の重さが違う |
| できなくなること | 形質変更の可否、届出の要否 |
| 措置の状況 | 対策が済んでいるか、これからか |
| 解除の見込み | 指定が外れる予定があるか |
「指定されています」と述べるだけでは足りません。
買主が何をできなくなるかまで伝えてください。
指定がない場合
指定されていないことは、汚染がないことを意味しません。
- 調査の契機が生じていないだけかもしれない
- 制度ができる前の操業は記録に残らない
- 基準を超えていても、契機がなければ指定されない
過去の用途に懸念があれば、任意の調査を検討するよう伝えてください。
費用と負担
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 資料等調査 | 登記、古地図、航空写真、聞き取り |
| 概況調査 | 表層の土壌を採取して分析 |
| 詳細調査 | 深さ方向、地下水 |
| 措置 | 掘削除去、封じ込め、覆土など |
費用は、範囲と方法で大きく変わります。
とくに掘削除去は、汚染土壌を場外へ搬出して処理するため高額になります。
金額の目安は示せません。専門の調査会社に見積りを取ってください。
「汚染があれば売主負担」とだけ書くと、額に上限がなくなります。
- 調査は誰が、いつ行うか
- 汚染が判明した場合の負担の上限
- 対策の水準 除去まで求めるのか、封じ込めでよいのか
- 基準を超えた場合に解除できる特約
- 引渡し後に判明した場合の扱い
- 契約不適合責任の期間
売主が個人か事業者かで、免責の可否が変わります。
売主が宅建業者で買主が業者でない場合、責任を負う期間に制限があります。
「瑕疵担保責任」は旧法の用語
令和2年施行の民法改正で、契約不適合責任に変わりました。
土壌汚染について書かれた解説の多くが、旧法の用語のままです。古い記述かどうかの目安になります。
汚染が疑われる履歴
| 過去の用途 | 懸念される物質 |
|---|---|
| めっき、金属加工 | 重金属、シアン、油 |
| クリーニング店 | 有機塩素系溶剤 |
| ガソリンスタンド | 油、ベンゼン |
| 印刷、塗装 | 有機溶剤 |
| 農地 | 農薬に由来する成分 |
| 埋立地 | 埋立材の由来が不明なことがある |
古地図と航空写真で、いつ何があったかを追ってください。
クリーニング店は小規模でも見落とせません。住宅地の中にあった例があります。
他の法令との関係
| 役割 | |
|---|---|
| 土壌汚染対策法 | 汚染された土地を規制する |
| 水質汚濁防止法 | 排出する側を規制する |
| 廃棄物処理法 | 掘削した土壌の処理 |
| 自治体の条例 | 法より広い範囲を対象とすることがある |
条例に注意してください。
法の基準を超える規制を設けている自治体があります。面積の要件が法より小さい場合もあります。
その市町村・都道府県に、独自の条例があるか確認してください。
説明の仕方
| 避けるべき言い方 | 適切な言い方 |
|---|---|
| 「土壌調査が義務です」 | 「この場合に調査義務が生じます、という条件をご説明します」 |
| 「指定がないので安全です」 | 「指定は確認できませんでした。調査の契機がなかっただけかもしれません」 |
| 「汚染はありません」 | 「調べた範囲では確認されませんでした」 |
| 「除去すれば問題ありません」 | 「対策の方法と費用は、調査の結果によります」 |
「ない」ことの証明はできません。
調べた範囲と方法を示し、その外側については分からないと伝えてください。
- 区域指定の有無を台帳で確認した
- どちらの区域か確認した
- 指定の解除履歴を確認した
- 有害物質使用特定施設の届出・廃止を確認した
- 調査が猶予されていないか確認した
- 古地図・航空写真で過去の用途を追った
- クリーニング店・整備工場を見落としていない
- 計画する形質変更が、届出の規模を超えないか確認した
- 自治体の条例を確認した
- (重要事項説明)できなくなることまで伝えた
- (契約)調査・対策の費用負担と上限を定めた
- (契約)対策の水準を明確にした
- (契約)引渡し後に判明した場合の扱いを定めた
- 「指定なし=汚染なし」ではないことを踏まえた
まとめ
- 調査義務は三つの契機でしか生じない。定期的な調査義務はない。
- 区域は二種類。要措置区域は原則として形質変更ができない。
- 指定は登記に現れない。台帳で確認する。
- 指定がないことは、汚染がないことを意味しない。
- 費用は上限を決めておく。「汚染があれば売主負担」だけでは足りない。
不動産事業者、専門職団体の皆様向けにお引き受けしています。義務が生じる場面と、契約での定め方をお話しします。
構成のご提案とお見積りまで、費用はかかりません。