メザニンローン ── シニアとエクイティの間
- 「中リスク・中リターン」という説明では実態を捉えられない。損失は閾値で発生する
- 担保は物件の劣後順位だけでなく、SPCの出資持分への質権が組み合わされる
- 債権者間協定がなければ組成できない。支払順位、担保実行、待機期間を定める
- 利息の繰延べは柔軟性ではなく先送り。元本に積み上がる
メザニンは、シニアとエクイティの中間に位置する資金です。ただ、「中間だから中程度のリスク」という理解は、実態と違います。
メザニンの損失は、資産価値の下落に比例して緩やかに増えるのではありません。ある水準までは無傷で、そこを超えると急激に毀損します。
この記事では、その構造を数字で確かめたうえで、実務上の手当てを整理します。
資本構成の階層
| 階層 | 回収の順位 | 損失の負担 |
|---|---|---|
| シニア | 最優先 | 最後 |
| メザニン | シニアの次 | エクイティの次 |
| エクイティ | 最後 | 最初 |
キャッシュフローは上から順に、損失は下から順に配分されます。
「中間」という理解の限界
物件価値100億円、シニア70億円、メザニン20億円、エクイティ10億円という構成で考えます。
| 物件価値 | 下落率 | シニア | メザニン | エクイティ |
|---|---|---|---|---|
| 100億 | ― | 70億 | 20億(100%) | 10億 |
| 90億 | 10% | 70億 | 20億(100%) | 0 |
| 85億 | 15% | 70億 | 15億(75%) | 0 |
| 80億 | 20% | 70億 | 10億(50%) | 0 |
| 70億 | 30% | 70億 | 0(全損) | 0 |
| 60億 | 40% | 60億 | 0 | 0 |
メザニンは、価値が10%下がるまでは一円も毀損しません。そして30%下がった時点で全額を失います。
20ポイントの幅で、回収率が100%から0%まで動きます。
これは「中程度のリスク」ではありません。ある範囲では債券のように振る舞い、その範囲を超えると株式のように振る舞う。非連続な性質です。
「安定した市場では有効」という説明が成り立つのは、この構造によるものです。逆に言えば、下落局面では急速に価値が失われます。
だから、緩衝材の厚みを見る
メザニンの安全性を決めるのは、その下にどれだけエクイティが積まれているかです。
| 見る指標 | 意味 |
|---|---|
| アタッチメント・ポイント | どこから損失を負い始めるか(この例では10%下落) |
| デタッチメント・ポイント | どこで全損するか(この例では30%下落) |
| シニア込みのLTV | シニアとメザニンの合計 ÷ 資産価値 |
エクイティが薄い案件では、アタッチメント・ポイントが手前に来ます。同じ「メザニン」でも、案件によって性質がまったく違います。
利回りの水準
メザニンの期待利回りは、シニアより大幅に高く設定されます。劣後する分のリスクを負うためです。
具体的な水準は、案件の構造、緩衝材の厚み、資産の性質、その時点の市場環境によって変わります。「シニアに数パーセント上乗せする程度」という理解では、劣後リスクに見合いません。
同じ利回りのメザニンでも、緩衝材の厚みが違えばリスクは別物です。
比べるべきは、アタッチメント・ポイントとデタッチメント・ポイントを揃えたうえでの利回りです。「メザニンだから何パーセント」という見方はできません。
何を担保に取るか
| 手段 | 内容 |
|---|---|
| 物件への劣後担保 | 二番抵当など。実行にはシニアとの調整が必要 |
| 出資持分への質権 | SPCの持分や受益権に質権を設定する |
| 口座の管理 | 資金の流れを管理する口座への担保 |
| キャッシュトラップ | 一定の条件に抵触した場合、余剰資金を留保する |
物件に二番抵当を設定しても、実行にはシニアの担保権との関係を整理する必要があり、時間がかかります。
そこで、SPCの出資持分そのものに質権を設定する方法が用いられます。持分を取得すれば、物件の処分ではなく、器ごと支配を移せます。
シニアの借入をそのまま維持したまま、運営の主体だけを交代させられる点が実務上の利点です。
債権者間協定
シニアとメザニンの貸し手の間で、債権者間協定(インタークレジター・アグリーメント)を締結します。
ここで定められる主な事項です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支払の優先順位 | 通常時と、事由発生後で分ける |
| スタンドスティル | メザニンが権利行使を控える期間 |
| 担保権の実行 | 誰が、どういう順序で実行できるか |
| 買取請求権 | メザニンがシニア債権を買い取れる権利 |
| 同意権 | 条件変更に、どちらの同意が必要か |
| 情報の共有 | 報告の内容と頻度 |
この協定の内容が、メザニンの実質的な権利の強さを決めます。
「メザニンだから二番目に返済される」というだけでは足りません。いつ権利を行使できるのか、行使できないのはどういう場合か。契約書で確認してください。
返済の繰延べは「先送り」
メザニンでは、利息の支払いを繰り延べる仕組みが設けられることがあります。現金で払えない分を元本に組み入れる形です。
繰り延べた利息は消えません。元本に加算され、その分にも利息がつきます。
キャッシュフローが回復しなければ、債務は雪だるま式に増えます。そして満期には一括で返済することになります。
「柔軟な返済ができる」という説明を、負担が軽いという意味で受け取らないでください。資金繰りの時間を稼ぐ仕組みであって、負担を減らす仕組みではありません。
キャッシュスイープ
逆に、余剰資金が生じたときに強制的に返済に充てる取り決めもあります。一定の条件に抵触した場合に発動します。
エクイティへの分配より、債務の返済が優先されます。
コベナンツ
| 指標 | 抵触したときに起こること |
|---|---|
| LTV | キャッシュトラップ、追加の担保、期限の利益の喪失 |
| DSCR | 同上。水準はシニアより厳しく設定されることがある |
| 稼働率 | 報告義務の強化、分配の停止 |
メザニンのコベナンツは、シニアより手前で発動するように設定されるのが通常です。シニアが動く前に、メザニンが対応できるようにするためです。
出口が効く
メザニンの回収は、最終的に物件の売却または借換えに依存します。
期間中のキャッシュフローで元本まで回収できる設計は稀です。満期に売却するか、借り換えるかで返済されます。
したがって、出口の確実性が、メザニンの信用力を左右します。
- その物件に買い手がつくか
- 境界が確定しているか 未確定なら確定測量に数か月
- 越境がないか 是正または覚書が必要
- 再建築が可能か 買い手の融資に影響する
- 賃貸借契約の残存期間と、主要テナントの動向
これらは取得時のデューデリジェンスで確認されます。指摘事項が未解決のまま組成されていないか、資料で確かめてください。
実務上の確認点
案件の構造
- 各層の金額と、資産価値に対する割合
- アタッチメント・ポイント(どこから毀損が始まるか)
- デタッチメント・ポイント(どこで全損するか)
- 資産価値の算定根拠と、鑑定評価の前提
契約の内容
- 債権者間協定の有無と内容
- スタンドスティルの期間
- 担保の種類と、実行の手順
- コベナンツの水準と、抵触時の効果
- 利息の繰延べに関する定め
- 期限前弁済の条件と違約金
原資産
- デューデリジェンスの結果と、未解決の指摘事項
- 境界、越境、接道、法令への適合
- 賃貸借契約の内容と、テナントの信用力
- 修繕の必要性と時期
リーマンショックからの示唆
2008年以降、不動産価格の下落によってメザニンの多くが毀損しました。
要因として指摘されるのは、次の点です。
- 緩衝材が薄い案件が増えていた エクイティの比率が低下していた
- 資産価値の前提が、上昇局面の水準で置かれていた
- 出口が借換えに依存し、その借換えができなくなった
- 債権者間協定の内容が、実際の局面で機能しなかった
構造が精緻でも、前提が崩れれば結果は変わりません。前提の妥当性を、常に確認してください。
- アタッチメント・ポイントを計算したどこから毀損が始まるか
- デタッチメント・ポイントを計算したどこで全損するか
- 「中リスク・中リターン」という理解で止まっていない
- エクイティの厚みを確認した
- 資産価値の算定根拠を確認した
- 利回りを、緩衝材の厚みと合わせて評価した
- 担保の種類を確認した劣後担保・出資持分への質権・口座
- 債権者間協定の内容を確認した
- スタンドスティルの期間を確認した
- コベナンツの水準と抵触時の効果を確認した
- 利息繰延べの定めを確認した元本に積み上がる
- 出口の確実性を確認した売却か、借換えか
- 境界・越境・接道の状況を確認した
- デューデリジェンスの未解決事項を確認した
- 下落局面での回収額を試算した
まとめ
- メザニンの損失は連続的でなく閾値的。この例では10%下落まで無傷、30%下落で全損。
- 安全性を決めるのは、下に積まれたエクイティの厚み。同じメザニンでも案件により性質が違う。
- 担保は物件の劣後順位だけでなく、SPCの出資持分への質権が組み合わされる。
- 債権者間協定の内容が、実質的な権利の強さを決める。
- 利息の繰延べは負担を減らす仕組みではない。元本に積み上がる。
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