不動産投資の計算式 ── 利回りとキャッシュフロー

この記事の要点
  • 「利回り」は定義が統一されていない。何を含んだ数字かを確認してから比べる
  • 同じ物件でも、計算の仕方で7.2%にも4.7%にもなる
  • 利回りと手元に残る金額は別。借入の返済は利回りの計算に入っていない
  • 利回りには土地の条件が現れない。数字が良くても建て替えられないことがある

「利回り8%」と言われたとき、その8%が何を計算した数字かを確認できるでしょうか。

利回りには複数の計算方法があり、用語の使い方も統一されていません。同じ物件でも、何を分子に置き、何を分母に置くかで数字は大きく変わります。

この記事では、計算の中身を一つずつ確かめます。実際の数字を使って、同じ物件で三通り計算してみます。

三つの利回り

分子 分母
表面利回り
(グロス)
年間の家賃収入 物件価格
実質利回り
(ネット)
年間の家賃収入 − 年間の運営費 物件価格 + 購入時の諸費用
NOI利回り NOI(家賃収入 − 運営費) 物件価格(諸費用を含める流儀もある)
定義は流儀によって違う

「実質利回り」と「NOI利回り」は、ほぼ同じ意味で使われることもあれば、分母に諸費用を含めるかどうかで区別されることもあります。

また、運営費に何を含めるかも統一されていません。固定資産税を入れる場合と入れない場合、修繕の積立を入れる場合と入れない場合があります。

だから、数字だけを比べても意味がありません。「その利回りは、何を引いて、何で割った数字ですか」と確認してください。答えられない相手から出てきた数字は、比較に使えません。

同じ物件で、計算してみる

次の条件で考えます。

項目 金額
物件価格 2,000万円
購入時の諸費用 150万円(登記・税・仲介手数料・保険料など)
年間の家賃収入(満室想定) 144万円(月12万円)
年間の運営費 30万円(管理委託料・共用部の費用・小修繕)
固定資産税・都市計画税 12万円

表面利回り

144万円 ÷ 2,000万円 = 7.2%

広告に載るのはこの数字です。運営費も税金も諸費用も入っていません。

実質利回り

(144 − 30 − 12)÷(2,000 + 150)= 102 ÷ 2,150 = 約4.7%

分子から支出を引き、分母に諸費用を足します。7.2%が4.7%になりました。

空室を織り込むと

年間を通じて満室である前提は現実的ではありません。稼働率を90%と置くと、家賃収入は約130万円になります。

(130 − 30 − 12)÷ 2,150 = 88 ÷ 2,150 = 約4.1%

同じ物件が、7.2%にも4.1%にもなります。どれも計算としては正しく、前提が違うだけです。

利回りと、手元に残る金額は別

借入の返済は、利回りの計算に入っていない

利回りは物件そのものの収益力を見る指標です。どう資金を調達したかは関係しません。

実際に手元に残るお金を見るには、返済を引いた後の金額を計算します。

先ほどの物件を、1,600万円借りて購入したとします。年間の返済が96万円だとすると──

項目 金額
家賃収入(稼働率90%) 130万円
運営費 △30万円
固定資産税等 △12万円
借入の返済 △96万円
残る金額 △8万円

実質利回りは4.1%でも、手元は年間8万円のマイナスです。ここに所得税・住民税が加わります。

さらに、修繕を織り込む

上の計算に、将来の修繕に備える積立が入っていません。給湯器、エアコン、外壁、給排水管。いずれ必ず来ます。

年あたりいくら積むかを決めて、支出に加えてください。これを入れると、多くの物件で数字はさらに厳しくなります。

利回りに現れないもの

計算式には、次の項目が一切入りません。しかし、どれも実際に効いてきます。

現れないもの 効いてくる場面
再建築できるか 建物が朽ちた時点で、土地の価値だけになる
境界が確定しているか 売却時に確定測量が必要。数か月と費用
越境の有無 是正または覚書。相手が応じなければ進まない
私道の掘削承諾 上下水道の更新工事ができない場合がある
擁壁の状態 建て替え時の造り替え。数百万円規模
地盤 建て替え時の改良費
買い手に融資が付くか 売れるかどうかが決まる

高い利回りには理由があります。その理由がこれらのどれかであれば、買うときに安くなった分は、売るときに同じだけ効きます。

「適正利回り」という言い方について

簡便な式を、判断の根拠にしない

「残存年数から適正な利回りを求める」「その利回りから適正な投資額を逆算する」といった簡便な式が紹介されることがあります。

こうした式には、金利も、リスクの度合いも、その地域の需要も入っていません。単に「何年で元本を回収するか」を言い換えているだけの場合があります。

目安として使うことはできても、「この価格が適正」と断定する根拠にはなりません。売買の価格は、その時点の市場と個別の条件で決まります。

価格の妥当性を判断するなら、周辺の成約事例と比べるほうが確実です。レインズ・マーケット・インフォメーションで、実際の成約価格の目安を見られます。

比べるときの注意

同じ条件に揃える

複数の物件を比べるときは、自分で計算し直してください。広告の利回りは、業者ごとに前提が違います。

  • 分子から引く費用を統一する
  • 分母に諸費用を含めるかを統一する
  • 稼働率の前提を統一する
  • 満室想定になっていないか確認する

現在の入居状況を確認する

賃貸中の物件では、レントロール(各室の賃料、契約期間、敷金の一覧)を取り寄せてください。

レントロールで見るところ
  • 実際に埋まっているか 空室が想定賃料で計上されていないか
  • 賃料にばらつきがないか 古い契約と新しい契約で差があれば、現在の相場は低い賃料のほう
  • 契約期間 まもなく更新・退去の予定はないか
  • 親族や関係者が入居していないか 売却後に退去することがある
  • フリーレントや広告料の条件 実質の収入が表示より低い場合がある

賃料が下がる前提も置く

建物は古くなり、周辺には新しい物件ができます。今の賃料が何年続くかは分かりません。

賃料が下がった場合でも成り立つかを、必ず一度計算してください。金利が上がった場合と同じ扱いです。

単年度の数字だけでは足りない

ここまではある一年の数字です。実際には、保有している期間全体で見る必要があります。

  • 年によって修繕費が大きく変わる
  • 返済が進むと、利息の割合が減る
  • 賃料が変動する
  • 最後に売却の代金が入る(または残債が残る)

期間全体を通した評価の方法は、次の記事で扱います。

数字を出したら、確かめること

確かめること
前提を書き出したか稼働率、賃料、運営費、金利
前提を一つずつ変えて、結果がどう動くか見たか
どの前提が崩れると成り立たなくなるかを把握したか
その前提が崩れる可能性はどれくらいか

一つの前提で出した数字を「答え」として扱わないでください。複数の前提で出して、幅で見るほうが判断の役に立ちます。

利回りを扱うチェックリスト
  • その利回りが何を引いて何で割った数字か確認した
  • 表面利回りと実質利回りを両方計算した
  • 分母に購入時の諸費用を含めた
  • 運営費に何を含めたか書き出した管理費・固定資産税・小修繕
  • 稼働率の前提を置いた満室想定にしない
  • 借入の返済を引いた後の金額を計算した
  • 修繕の積立を年あたりの支出として加えた
  • 所得税・住民税を考慮した税理士に確認
  • 金利が上がった場合で再計算した
  • 賃料が下がった場合で再計算した
  • レントロールを取り寄せ、実際の入居状況を確認した
  • 賃料のばらつきを確認した新しい契約が低ければ、それが今の相場
  • 周辺の成約事例と比べた
  • 利回りに現れない条件を確認した再建築・境界・越境・私道・擁壁
  • 複数の前提で計算し、幅で見た

まとめ

  • 「利回り」は定義が統一されていない。何を含んだ数字かを確認してから比べる。
  • 同じ物件でも、前提の置き方で7.2%にも4.1%にもなる。どれも計算としては正しい。
  • 利回りには借入の返済が入っていない。手元に残る金額は別に計算する。
  • 再建築の可否や境界の状況は、利回りには現れない。しかし売却時に効く。
  • 簡便な「適正利回り」の式を、価格の妥当性の根拠にしない。成約事例と比べる。
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