土地家屋調査士行政書士 村上事務所
不動産売買

不動産売買における瑕疵担保責任

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不動産の売買契約の流れは、次のようになります。

  1. 不動産の持ち主(売主)が買主に譲り渡すこと(所有権を移転すること)を約束
  2. 主が売主にその不動産の対価としてお金を払うことを約束

これで売買契約は成立します。

これだけ見ると売主は、不動産という目的物を引き渡し、買主に移転する義務を果たせば良いということになりますが、果たしてあるがままの姿で不動産を買主に移転しさえすれば、それでいいのでしょうか?

売買契約は有償契約です。
「不動産の持ち主(売主)が買主に譲り渡すこと(所有権を移転すること)」と
「買主が売主にその不動産の対価としてお金を払うこと」の間には『利益の均衡』が求められています。

そこで、民法は問題(欠点やキズ)のあるモノの売買については契約解除と損害賠償を認めて、利益の均衡を図っています。
売主の方に不利益を負担させることで、取引の信用を確保しているのです。

この売主の責任は無過失責任とされています。
過失があってもなくても、売主が不利益を負担するという意味です。

これが瑕疵担保責任の制度です。

 

売主の義務

売主の義務には次の3つがあります。

売主の義務

  1. 担保責任
  2. 説明義務
  3. 売主の合意等による義務

1 担保責任

民法に定められている担保責任は
・他人物売買の担保責任
・数量の担保責任
・権利の担保責任
・瑕疵担保責任
があります。

【他人物売買の担保責任】

不動産であれば不動産という目的物の所有権が売主に帰属していない場合、売買契約は成立するのでしょうか?

他人物売買の考え方によれば、「他人のモノ」を売却することは可能であるとされるので、売買契約も成立することになります。

その場合、売主は、その「他人のモノ」を買主に移転する義務を負います。
買主に移転できない時には、担保責任を負うことになります。
買主に移転できない理由が「売主の責に帰すべき事由でない時」は、担保責任はありません。

「他人のモノ」を買主に移転できなかった場合、買主には以下のような権利が与えられています。
1代金の減額請求
2契約解除
3損害賠償請求

この他人物売買の担保責任は、借地権売買でも同じように取り扱われます。
「借地権または地上権」があること前提に売買契約が成立したにもかかわらず、「借地権または地上権」が存在しなかった場合も上記の「代金の減額請求」「契約解除」「損害賠償請求」が認められています。

【数量の担保責任】

数量を指示した売買のことを「数量指示売買」と言います。
数量を指示したにもかかわらず、その数量に満たなければ、買主としては目的を達成したことにはなりません。
この場合、買主が数量を満たさないことを知らなければ、
・代金減額請求権
・損害賠償請求権
・(解除権)
 解除権は指示した数量に満たないのであれば、買うことはなかった時に限られます。

権利の一部が他人に属する場合も同様に取り扱われます。
また物の一部が契約締結前に滅失していたような時も同様です。

よって、
『数量指示売買』(民法565条)
『権利の一部が他人に属する場合』(民法563条)
『契約前に物の一部が滅失した場合』

は、買主に代金減額請求権、損害賠償請求権、解除権(残存部分だけなら買わないであろう場合)が与えられます。

不動産売買の実務の現場では、売買契約書上の面積と実測面積が一致しないことは少なくありません。
この場合、『数量指示売買』として、買主に特に代金減額請求権が認められるのかが争われます。

こういったことにならないように「公簿売買」であるのか、「実測売買」なのかをはっきりさせることが重要です。
公簿売買とは、実測面積と公簿面積が違っても、売買代金は清算しないという取引形態です。
実測売買とは、実測面積が確定後、売買契約時の面積との売買代金の差額を清算するとする取引形態です。

売買契約書では、『単価(坪数) × 数量(面積)』によって売買代金を算出するのが数量指示売買の典型的です。

『単価(坪数) × 数量(面積)』に該当しないまでも、ある一定の数量があることを前提、条件として売買代金を定めた場合などは数量指示売買にあたるとされています。

また、売買の目的物である土地の面積を表示したからといって、当然のように当たり前には数量指示売買とはならないとされています。
不動産売買における土地面積の表示は土地の同一性を示すための標識のようなものに過ぎないとされているからです。

数量指示売買に該当するかどうかの判断は、「契約書に面積が記載されている」「土地の範囲が明確かどうか」など総合的に勘案されます。

数量指示売買と認定され、目的物の数量が不足した場合の買主の権利は、以下の3つです。
・代金減額請求権
・損害賠償請求権
・解除権(残存部分だけであったら買わないであろう時)

売主が数量指示売買における担保責任を負うのは、買主が善意(目的物の数量が不足していることを知らないこと)のときだけです。
悪意(目的物の数量が不足していることを知っていること)のときは担保責任を負いません。

【権利の担保責任】

民法に規定されている権利の担保責任は、以下の3つです。
1 権利の一部が他人に属する場合(563条1項)
2 用益的権利による制約を受ける場合(566条1項)
3 抵当権等がある場合における売主の担保責任(567条)

1 権利の一部が他人に属する場合(563条1項)

買主は、代金減額請求(買主の善意・悪意問わず)、解除権、損害賠償請求権(買主の善意のとき)が認められています。
解除権に関しては、売主に属する部分だけであれば買わなかったときに限ります。

2 用益的権利による制約を受ける場合(566条1項)

善意の買主に解除権、損害賠償請求権が与えられています。
解除権は、売買の目的が達成できないときに限ります。

用益的権利による制約は「権利の瑕疵」といわれています。

3 抵当権等がある場合における売主の担保責任(567条)

抵当権が実行された場合、買主に認められている救済手段は、
・所有権を失ったときの解除権
・買主が自ら金を支出して所有権を保存したときの費用の償還
・損害があれば損害賠償請求
が、あります。
買主の善意・悪意は問いません。

【瑕疵担保責任】

瑕疵担保責任とは、契約締結前に存在していた瑕疵(キズ・欠点)に関する責任のことです。
契約締結後に生じた物の瑕疵については、債務者の責めに帰すべき自由がない場合は、危険負担の問題となります。

契約締結前に存在していた瑕疵が瑕疵担保責任の問題となるのは、瑕疵が「隠れていた」場合です。
「明らか」である瑕疵は、瑕疵担保責任(民法570条・566条)の問題ではなく、『数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任』(民法565条)の問題となります。

目的物に瑕疵があった場合に買主に認められている救済手段は、以下のとおりです。
・瑕疵のない物の履行請求(代物請求、追完請求)
・代金減額請求
・契約解除
・損害賠償請求

2 説明義務

不動産取引では、売主に説明義務がある場合があります。
この説明義務も当然に認められる、といったものでもありません。

この売主の説明義務は一般に契約成立前の交渉段階での義務ということになります。
契約成立前ということは、何ら権利義務関係は成立していません。
よって、当然に認められる義務ということではないのです。

不動産取引は、取引ごとに多種多様であり説明義務の内容も一律に判断することはできません。
個別に判断していくことになります。

売主が専門家である場合と専門家でない場合に分けて考えていく必要があります。
説明義務の根拠となるものとして、宅建業法、消費者契約法、民法が挙げられます。
宅建業法では、売主が宅建業者である場合は、「信義を旨とし、誠実に」その業務を行わなければならないとされています。
具体的には、重要事項説明の義務が設けられています。
宅建業者は、不動産取引を行うための免許を与えられ、不動産の専門家として認められているのだから、当然に責任も伴うものと捉えられるのでしょう。

消費者契約法では、売主が宅建業者でなくても事業者であれば、説明義務を設けています。

最後に。
売主が宅建業者でも事業者でもない場合は、民法1条の信義誠実の原則が適用されます。

3 売主の合意等による義務

売買契約では、「不動産の持ち主(売主)が買主に譲り渡すこと(所有権を移転すること)」と「買主が売主にその不動産の対価としてお金を払うこと」の他に様々な特約がつけられています。

判例では、特約で定められている債務についても債務不履行に基づく契約解除が肯定されることもあります。

各論

各論1(新築住宅)

○構造・躯体

【瑕疵があるとされた裁判例】

✔浸水被害のあったマンション

・近隣の類似しているマンションでは、盛土等の対策をしており、浸水被害は発生していないことが確認されている。
・設計段階で立地条件を把握していれば、そのままの地表面で建築することはなかったであろうことが推認される。

→浸水しやすい土地であったにもかかわらず、盛土等の浸水対策を十分にとっていなかった点で欠陥があると言わざるをえない。

✔室内に設置された自動防火戸の電源スイッチが切られたままで物件が引き渡された場合

・本物件マンションで火災が発生
・この火災時に防火扉は、電源が入っていなかったため自動的に閉まらなかった。
・通常、一般の人が防火扉のスイッチがそこにあるとはわかりにくいような造りになっていること
・販売会社の担当者は、防火扉の電源スイッチの位置を説明していないこと
・入居してから1週間弱しか経っていないこと
・入居者が防火扉のスイッチを切ったとは考えにくい
・引き渡し1ヶ月前の消防検査の時には防火扉のスイッチは入っていたことを考えると物件引き渡し時に防火扉のスイッチが切られていたと推定される

→防火扉を備えていたにもかかわらず、その電源スイッチを切ったまま引き渡したことは売買の目的物に隠れたる瑕疵があったものとされる。

✔新築マンションで赤水が出た場合

・本物件マンションは配管工事の際に施工技術の問題あり
・その結果、配管が腐食

→赤水が出たのは、配管が腐食したことが原因であるから、売買の目的物に隠れた瑕疵があったということができる

各論2(建物)

建物とは、建築確認を経て構造計算をし、法令の制限もクリアしていて、要件を満たしていることが前提とされていると考えられています。
そこで生活していく上で安全性が確保されていることは、必要最小限の条件です。

よって、建築基準法の要求している強度を満たしていないことは瑕疵があるということができます。

また、敷地の不同沈下は建物の構造に非常に多くの影響を与えるので、土地と建物の瑕疵があるということができます。

注意しなければいけないのが、中古物件です。
法令上の要件を満たした強度が前提とされない場合もあるからです。

どんな場合かというと、建て替えを前提に土地建物を売買した時です。
建物は解体されることは決まっているので建物の安全性が求められることはないからです。

建物が傾斜していることも瑕疵になります。
一般的に傾斜角によって次のような現象が生じるとされています。

傾斜角
1000分の5  → 壁と柱に隙間が生じる。
1000分の10 → 柱が傾く。建具の開閉が不良となる。
1000分の15 → 倒壊の危険がある。

設備については、それぞれに当然に機能しなければならない品質がなければ瑕疵があると考えられます。
汚水管、雑排水菅の勾配不足などは、瑕疵というべきものでしょう。

雨露を引き起こすような建物の欠陥は瑕疵になります。
新築住宅の売主には、雨水侵入防止部分について10年間の瑕疵担保責任を負わせています。(住宅品質確保法)

各論3(土地)

○地盤

地盤ついては、震度5程度の地震に対する安全性が確保できているかどうかがポイントです。
建物に人が生活する以上、地盤は安定した支持機能がなければなりません。

○道路

「建物の敷地は、道路に2m以上(原則)接していなければならない」と建築基準法に定められています。
土地の価値を図る上で接道条件は根幹を成す部分なのです。

建物の敷地は、道路に2m以上(原則)接していなければ、建物を建築できないということですから、接道条件を満たさないことは瑕疵となります。

公道までの通路が確保できなかった場合は、土地の瑕疵の問題となります。
その土地の利用を事実上制限、売買取引価格も下落させることになるからです。

○地中埋設物

地中に土地以外のものが存在していても、買主に特に不利益を与えるものでない限り土地の瑕疵にはならないとされています。

○土壌汚染

土壌には、有害なものも含め、さまざまな物質が微量含まれています。
有害な物質が含まれているからといって、それだけで土地の瑕疵になるというものではありません。

有害物質が一定量を超えるかどうかがポイント。
一定量とは、土壌に含まれる物質が、人の生命・健康を損なう危険を伴うかどうかで判断されます。
土壌汚染対策法等で物質ごとに有害物質の種類・基準値が定められています。
これが基準となります。

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ファックス番号
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創業
2004年6月

保有資格
行政書士
宅地建物取引主任士
土地家屋調査士
ビル経営管理士
不動産コンサルティングマスター
マンション管理業務主任者
賃貸不動産経営管理士
2級土木施工管理技士
測量士
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