不動産業で必要な民法の実務
法解釈、取引の安全、その方法
法律においては、法はどのように解釈するのか、が論点として問題になります。法規範を明らかにする作業を法解釈といい、法解釈は3つの要素から成り立っています。
01.結論の妥当性(実質的な根拠)
どのような結論が妥当なのかが検討されます。
02.理論構成(理論的な根拠)
妥当な結論をどのように理論的に根拠づけるかという問題です。
03.条分操作(条文による根拠)
上記2つの観点から導きだされた結論を条文と結びつける作業を行います。
法解釈の方法
法律解釈の原則は、「条文をそのままの日本語通りに素直に読んで解釈する」という文理解釈です。
概念を広く捉えるか、狭く捉えるか、という点では、「拡張解釈」と「縮小解釈」が使い分けられます。
概念の操作では解決しない場合に登場するのが、「反対解釈」「類推解釈」「勿論解釈」です。
「反対解釈」と「類推解釈」によって、一つの条文から正反対の結論が得られることになります。法解釈には大きな自由が認められているのです。
契約の解釈において、反対解釈をするのが原則とされています。
類推解釈をする場合には、その必要性と許容性が十分に論証されなければなりません。
刑罰法規は類推解釈は禁止されています。
罪刑法定主義といいます。
「法律なければ刑罰なし」と格言があるように、類推解釈によって刑罰法規の適用範囲が拡大されるとなれば、個人の権利や自由が侵害されるおそれがあるからです。
取引の安全、その方法 「静的安全」と「動的安全(取引の安全)」
静的安全とは、「自らの意志に反して権利を失うことはない」「いったん権利を取得した者はみだりに権利を奪われることはない」ということです。
「人は自らの意思に基づいてのみ拘束される」という意思自治の原則(私的自治の原則)から派生する重要な原則となります。
動的安全(取引の安全)とは、取引によって権利を取得しようとする者が保護されることです。
資本主義を実現するために動的安全を確保しておく必要がありますね。
取引の発達とともにだんだんと動的安全が重要視されてきました。
企業などが行う商行為においてはいっそう動的安全が求められるのは当然の結果といえるでしょう。
取引の安全のための対処法
ここで問題が生じます。
静的安全と動的安全(取引の安全)が対立する利益として存在するのです。
取引の安全(動的安全)を確保するために静的安全を犠牲にするようなことは、できるだけ避けたいものです。
どうすればよいか?
そこで、取引の安全を確保するために、第三者の利害に影響を及ぼすべき事項(権利能力、代理人、代表者、物権変動など)を第三者が知ることが出来るように公示させよう、ということになりました。これを公示主義といいます。
事前に取引上の重要事項を相手方が知ることが出来るような仕組みを作ることによって、不測の損害を回避させようという狙いがあります。
物権には排他性があるので、外部から認識できる方法で公示させなければなりません。(公示の原則といいます)
取引の安全を確保するためです。
そのためのシステムが、不動産登記の制度です。
物権変動の対抗要件として、不動産については登記、動産については引渡(占有の移転)が要求されています。
不動産登記に関する重要な決まり事の、「先に対抗要件(公示方法)を備えた者が勝つ」という仕組み(対抗要件主義)を作ることで、公示を促進しているのです。
「契約」と「物に対する権利」
自由な経済活動の中心的な手段は、「契約」です。
自由な経済活動を保障する第一歩は、人が物を自由に利用できる環境を整えることです。
民法は物を全面的に支配することの出来る権利である所有権を不可侵のものとして保障しました。
これが「所有権絶対の原則」です。
土地の所有権については所有権の権能のうち「物を使用して収益を得る権能(用益権)」のみを内容とする物権が設けられています。
また、所有権の権能のうち、「物の価値を把握する権能(処分して対価を得る権能)」だけを与えられた物権も設けられています。
担保物権と言います。
質権や抵当権のことです。
物権法定主義
物権の種類と内容は、民法その他の法律で定められたものに限定されます。
ですので、新しい種類の物権を勝手に作ることも出来ませんし、今ある物権の内容を修正することも出来ません。
これを「物権法定主義」と言います。
物権法定主義がとられている理由の一つは所有権絶対の原則に関連しています。
全面的な支配権としての所有権を確立したのですから所有権以外の物権をなるべく制限しておきたいと考えたのです。
もう一つの理由は、取引の安全のためと言えるでしょう。
いくつもの特殊な物権があったらなにを信じてよいのかわからず取引は進みません。
物権法定主義だからこそ、不動産登記というシステムが成り立っていて、「登記簿を見れば権利関係が明確にわかる」という状況が出来て、安心して取引に望むことが出来るのです。
契約の種類
5つの代表的な契約
財産権取得型 | 財産を譲渡するための契約 売買、交換、贈与 |
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利用権設定型 | 財産を利用させるための契約 賃借権、使用貸借、消費貸借、地上権・永小作権・地役権の各設定契約 |
役務提供型 | 役務の提供を受けるための契約 雇用、請負、委任、寄託 |
債権担保型 | 債権担保を設定するための契約 保証契約、質権・抵当権の各設定契約 |
その他の契約 | 和解、組合、終身定期金 |
売買(555条以下)
財産権を移転することの対価が金銭であるもの
交換(586条)
対価も物であるもの
贈与(549条以下)
対価を要求しないもの
売買契約が成立すると、その法律効果として所有権が売り主から買主に移転し(176条)、債権債務関係(買主には代金を支払うべき債務、売主には目的物の引渡などの債務)が発生します。
有償契約と無償契約
契約は対価的な給付がなされるかどうかという観点から、
有償契約 | 対価的給付がある(売買、交換) |
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無償契約 | 対価的給付がない(贈与) |
に分類できます。
双務契約と片務契約
契約は、当事者が対価的な関係にある修を負担するかどうかという観点から、
双務契約 | 双方が対価的な関係にある債務を負担する契約 |
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片務契約 | 対価的な給付がなされない契約 |
に分類できます。
双務契約は必ず有償契約。無償契約は必ず片務契約。
片務契約は必ずしも無償契約とは限りません。
利息付き消費貸借の場合、有償でありながら片務契約に分類されるのです。
典型契約と非典型契約
典型契約(有名契約)
贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解の13種類の契約。
民法以外でも特別法上の典型契約があります。商法では企業活動で重要な役割を果たす運送、保険などの契約について規定を設けています。
非典型契約(無名契約)
- 法律に規定のない事項を内容とする契約
- 複数の典型契約の内容を併せ持つ混合契約
契約自由の原則があります。
契約の内容は当事者で自由に定めることが出来るというものです。
契約内容は当事者の合意によって定まるということです。
しかし、当事者の合意が不明瞭であったり、合意のない部分があった場合に、それを明確にしたり、補充したりする場合の解釈の基準(任意規定)として典型契約に関する民法の規定が役割を果たします。
民法(債権法)改正と不動産
民法の債権法の改正によって不動産取引はどのように関わってくるのでしょうか。
主に以下のような点があげられます。
- 不動産賃貸借契約における敷金の継承
- 目的物の一部が利用できない場合の賃料の減額等
- 賃貸借終了時の原状回復
- 賃貸借に係る保証契約の見直し
- 媒介契約の定義化
不動産賃貸借契約における敷金の継承(民法改正後)
改正の方向は、賃貸目的の不動産について、売買により所有者が移転した場合に本来新所有者が負うことになる賃借人に対する敷金返還債務について、旧所有者が担保義務を負担することが検討されています。
いわゆるオーナーチェンジの場合です。
このように改正されると旧所有者は不動産譲渡後も、賃借人への敷金返還債務を長期間負うことになり、不安定な地位に立たされることになます。
賃貸借終了時の原状回復(民法改正後)
「不動産賃貸借の原状回復については通常損耗(自然損耗)部分を対象としないことが明記され、事業者(貸主)と消費者(借主)についてはこれに反する特約が無効とされる」というのが改正の方向です。
最高裁判例や国交省の原状回復ガイドライン、東京都条例などでは一定の特約を否定していないところもあり、すべて否定されることとなると賃貸市場は混乱してくるかもしれません。
媒介契約の定義化
「民法上、明確に「準委任」と定義され、準委任に準用される委任には委託者に対する情報提供義務、委任者に対する「忠実義務」が明文化される」と改正の方向。
「準委任」と明確に定義されるとはどういうことか。
宅建業法で認められているいわゆる「両手仲介」(売主、買主の双方から委任を受けた媒介)の位置づけの解釈が微妙になります。
債権担保
債権担保は大きく2つに分けることができます。
「物的担保」と「人的担保」というものです。
物的担保は文字通り、物を担保とするものであり、人的担保とは人を担保とするものです。
債権平等の原則
金銭債権は、債務者の財産を差し押さえて換価し、売却代金から配当を受ける事ができるというもので、各債権者は、債券額に応じた按分比例によってしか弁済を受ける事ができません。
これを『債権者平等の原則』といいます。
債権者平等の原則の例外『物的担保』
上記のように金銭債権は、債権者平等の原則によるのですが、物を債権の担保として、その物に関して他の債権者に優先して弁済を受ける事ができる仕組みがあります。
それが、「物的担保」というものです。
不動産の登記事項証明書(不動産登記簿)の乙区に設定される抵当権などを指します。
担保物件(抵当権等)を持つことによって債権者は債権者平等の原則を打ち破って、担保物件の対象となる物について優先弁済を受ける事が可能となるので、融資をした金融機関(債権者)は、不動産(物)に抵当権を設定したいのです。
しかもそれは上位であればあるほうどいいという事になります。
それはそうですよね。
金融機関としては、全額回収事することがお仕事ですので、3番抵当権より2番抵当権、2番抵当権より1番抵当権が好ましい、ということになります。
担保権の実行
債務者が債務を履行しないときに、担保権者(銀行)が担保権(質権や抵当権)を行使することを担保権の実行と言います。
一般的には、「抵当権を実行する」なんて言われていますね。
「被担保債権とはなんですか?」と良く聞かれます。
担保権が設定されていて、それによって担保される債権のことを被担保債権といいます。
仕組みとしては、次の通りです。
担保権者が担保権を実行して目的物の売却代金から弁済を受けても、債権の全額を回収できなかった場合、担保権者の債権の残額は、無担保債権となります。よって債権の残額分は一般債権者として配当を受ける事となるのです。
逆に、担保権者が優先弁済を受けて余剰が出た場合は、その余剰分は、次の順位の担保権者、さらには一般債権者の配当にまわされてゆく事となるのです。
人的担保
債務者以外の人によって債権を担保する仕組みを、「人的担保」といいます。保証がその典型です。
債務者以外に同じ債務を履行する債務者(保証人)を用意して責任財産を増加させることによって債権回収の確率を高めようとする方法です。
人的担保は、物的担保のように優先弁済券はありませんが、保証人が増える事によって責任財産が増加し、結果、債権回収の確率が高まるのです。
契約の効果 債権債務無関係の発生
不動産売買取引において、「契約」の役割は非常に大きいものがあります。
契約が有効に成立するとその法律効果として、1債権債務関係が発生し、2契約の種類によっては財産権の設定・移転が生じることとなります。
債権債務関係が発生するとは、例えば、売買契約が有効に成立した場合に「金を払え」とか「商品を引き渡せ」と言える関係ができるということです。
債権債務の確定の問題
債権債務関係か発生したときに、まず問題となるのが、「だれが」「だれに」「何を」「いつ」「どこで」履行しなければならないのか、という債権債務を確定することです。
だれが | 契約の当事者である債務者が当然、自ら履行しなければなりません。 |
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だれに | 弁済を受領する正当な権限(受領権限)を有する者(債権者である契約の相手方またはその代理人)に対して弁済するのが原則です。 |
何を | 債権債務の内容は契約の種類によって異なり、当事者の合意によってどのような内容の債権でも自由に作り出せるのが契約の特徴です。 |
いつ | 当事者間に期限に関する特約があればそれによります。特約がなければ慣習や法律の規定などによります。 |
どこで | 当事者間の特約・慣習・給付の性質によります。 |
債権の効力
債権債務が確定すると債権の効力が発生します。最も基本的な効力は、「弁済を受領して保持できる」ということになります。
売買~お金と物の交換~
売買とは、物とその代金を交換する約束です。
不動産売買の場合は、当事者の一方(売主)が不動産を相手方(買主)に移転する事を約束し、相手方(買主)がその他以下として代金を支払う事を約束するというものです。
売買では物と代金が対価関係にあります。
しかし、その物(例えば家屋など)に欠陥(雨漏りなど)があったらどうでしょうか?
それは、対価関係にあるとは言えませんね。
そこで、損害賠償の責任などを負わせて、バランスをとるわけです。
そのバランスをとるときのルールみたいな事を契約に盛り込んでおきます。
対価関係が崩れたとき、契約内容がよりどころとなるわけです。
契約当事者の組み合わせで異なる瑕疵担保責任の内容
不動産売買における瑕疵担保責任の問題は、契約を締結する当事者の組み合わせによって、適用される法律が異なります。
よって規制の内容も異なるということになリます。
買主が宅建業者の場合
売主 | |
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宅建業者 | 商法526条 |
商人 | 商法526条 |
商人以外の事業者 | 民法566条 |
消費者 | 民法566条 |
買主が商人の場合
売主 | |
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宅建業者 | 業法40条(※) |
商人 | 商法526条 |
商人以外の事業者 | 民法566条 |
消費者 | 民法566条 |
(※)売り主の瑕疵担保責任期間を2年以上とする場合
買主が商人以外の業者の場合
売主 | |
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宅建業者 | 業法40条 |
商人 | 民法566条 |
商人以外の事業者 | 民法566条 |
消費者 | 民法566条 |
買主が消費者の場合
売主 | |
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宅建業者 | 業法40条 |
商人 | 消費者契約法8条1項5号 |
商人以外の事業者 | 消費者契約法8条1項5号 |
消費者 | 民法566条3項 |