CHIOU / 株式会社地央

投資を始める前に ── 最初に決めるのは、物件ではない

この記事の要点
  • 最初に決めるのは物件ではなく目的。目的が違えば、見るべき数字が変わる
  • 収支表の数字は地面の条件の上に乗っている。接道、地盤、境界で前提が崩れる
  • 情報は誰が、何のために言っているかで読み分ける
  • 判断できないことは判断しない。確かめるまで進めないのが、いちばん確実

不動産投資の情報は、書店にもインターネットにもあふれています。しかし、読むほどに何を信じてよいか分からなくなる、という声をよく聞きます。

理由の一つは、多くの情報が「何かを売る側」から発信されていることにあります。物件を売りたい、融資を実行したい、セミナーに集めたい。それぞれの立場があり、伝える内容もそれに沿います。

この記事では、特定の商品や手法を勧めることはしません。検討する前に、何をどの順で確かめるのか。その順序だけを整理します。

この記事の立場

筆者は土地家屋調査士・行政書士として、境界の確定、分筆、農地転用、物件調査を日常的に扱っています。物件の仲介や販売、投資商品の取扱いは行っていません。

したがって、特定の物件や商品を勧めることはありませんし、勧める立場でもありません。ここに書くのは、調査の現場から見て「確かめておくべきこと」だけです。

実際の投資判断は、税理士・金融機関・宅地建物取引業者など、それぞれの専門家に相談したうえでご自身で行ってください。

最初に決めるのは、物件ではなく目的

「良い物件はありませんか」と聞かれることがありますが、何を「良い」とするかは、目的によって変わります。

目的 重く見ることになる項目
毎月の収入を得たい 入居の安定性、管理の手間、修繕の見通し
将来売って利益を得たい 売却時の流動性、再建築の可否、周辺の動向
資産として残したい 土地の価値、相続時の扱い、分けやすさ
事業の一部として持ちたい 本業との関係、法人化の是非、資金の配分

目的が定まらないまま物件を見ると、判断の基準が持てません。勧められた数字が良く見えるか悪く見えるかだけで決めることになります。

「いくらまでなら失っても続けられるか」を先に決める

目的とあわせて、想定が外れた場合にどこまで耐えられるかを、金額で決めておいてください。

空室が続く、修繕が必要になる、金利が上がる、売ろうとしても買い手がつかない。どれも起こりえます。その状態が何か月続いたら生活に影響が出るのか。これを先に把握しておくと、後の判断がぶれません。

この線を決めずに始めると、想定が外れたときに「もう少し待てば」と判断を先送りすることになります。

判断の順序

順番を守ることで、無駄な検討を減らせます。

確かめること ここで止まったら
目的と、許容できる損失の範囲 物件を見る段階ではない
資金の構成。自己資金と借入の割合 金融機関に相談する
土地と建物の条件(接道、地盤、境界、法令上の制限) 数字を見る意味がない
収支の見通し。空室・修繕・金利変動を織り込む 条件を変えて再計算
出口。売るとき、誰が買えるか 保有期間の想定を見直す

三番目を飛ばして四番目に進む方が多くいます。利回りの数字から入るためです。しかし、次に述べるとおり、その数字は土地の条件の上に成り立っています。

収支表の数字は、地面の条件の上に乗っている

前提が崩れると、計算そのものが無効になる

調査の現場で実際に出てくるものです。

土地の条件 数字への影響
接道が足りない 建て替えられない。建物が朽ちた時点で、土地の価値だけになる
境界が未確定 売却時に確定測量が必要。数か月と費用がかかり、決済が遅れる
越境がある 是正または覚書が必要。相手が応じなければ動かない
地盤が軟弱 建て替え時に地盤改良費。数十万円から百万円単位
私道に面している 掘削承諾がなければ、上下水道の更新工事ができない
市街化調整区域 建築に許可が要る。融資が付きにくく、売却先が限られる

いずれも、利回りの計算式には出てきません。しかし、どれか一つでも該当すれば、想定した収支は成り立ちません。

とくに出口で効いてきます。自分は現金で買えても、次に買う人に融資が付かなければ、売れません。再建築不可の物件、調整区域の物件で起こります。

情報の読み分け方

情報そのものを疑う必要はありません。誰が、何のために発信しているかを添えて読むだけで、受け取り方が変わります。

発信者 立場
売買を仲介する業者 取引が成立して報酬が発生する
物件を販売する業者 自社の在庫を売る
金融機関 融資を実行する
管理会社 管理を受託する
セミナー主催者 参加者を集める。その先に何かがある場合がある

いずれも正当な事業です。問題は、立場を知らずに受け取ることです。

確かめ方

  • 都合の悪い情報も出しているか 良い面しか語らない説明は、片側だけを見ている
  • 根拠を示せるか 「相場では」ではなく、どの資料に基づくか
  • 断定しているか 将来の収益を断定する説明には注意が要る
  • 急がせていないか 「今日中に」「この物件は他にも希望者が」
「利回り」の数字は、条件を確かめる

広告に載る利回りの多くは表面利回りです。年間の家賃収入を価格で割っただけで、固定資産税、管理費、修繕費、空室期間、仲介手数料、火災保険料が引かれていません。

これらを引いた実質利回りは、表面利回りより低くなります。数字を比べるときは、同じ条件で計算し直してから比べてください。

また、満室を前提にした計算になっていないかも確認してください。現に空室がある物件で、満室想定の数字が示されることがあります。

失敗が起きやすい二つの型

一 人の判断に委ねきる

自分で調べず、勧められるまま決める。相手が誤っていた場合も、売りたいだけだった場合も、結果は自分に返ります。

専門家に相談すること自体は必要です。ただし、「なぜそうなるのか」を説明してもらい、自分が理解してから決めてください。理解できない説明のまま進めるのが危険です。

二 自分の判断だけで進める

逆に、誰の意見も聞かずに決めるのも危うくなります。思い入れが入ると、都合の良い情報だけを集めてしまいます。

とくに土地の条件は、公図や登記記録を見慣れていないと判断できません。接道の可否、境界の確定状況、法令上の制限。これらは調べ方を知らなければ、そもそも見落とします。

調べる人と、決める人を分ける。調べるのは専門家、決めるのは自分。この形が現実的です。

始める前に確認しておくこと

お金の整理

  • 自己資金として出せる額。生活の予備費とは別に確保する
  • 借入の返済が、収入が途絶えても続けられるか
  • 金利が上がった場合の返済額
  • 購入時にかかる諸費用(登記費用、不動産取得税、仲介手数料、火災保険料)

時間の整理

管理を委託しても、判断は自分に来ます。入居者の入れ替え、修繕の可否、家賃の見直し。これらに対応する時間があるかを見ておいてください。

相談先の確保

分野 相談先
税務・確定申告 税理士
融資 金融機関
物件の取引 宅地建物取引業者
境界・測量・登記 土地家屋調査士
相続を見据えた設計 税理士、司法書士

一人ですべてを担う人はいません。それぞれの領域で相談できる先を、始める前に持っておいてください。

判断できないことは、判断しない

調査をしていて分からないことは出てきます。地下に何か埋まっているか、隣地の所有者が将来どうするか、この地域の需要が十年後どうなっているか。

分からないことを「たぶん大丈夫」で埋めないでください。分からないなら、確かめるまで進めない。確かめられないなら、その不確実性を織り込んで判断する。

急いで決めなければならない取引は、ほとんどありません。急がされている場合、その理由を考えてください。

検討を始める前のチェックリスト
  • 目的を一つに絞った収入/売却益/資産保全/事業の一部
  • 許容できる損失の範囲を金額で決めた
  • 自己資金と生活の予備費を分けた
  • 収入が途絶えた場合の返済を試算した
  • 金利が上がった場合の返済額を試算した
  • 購入時の諸費用を織り込んだ
  • 接道の状況を確認した建て替えられるか
  • 境界の確定状況を確認した地積測量図・筆界確認書の有無
  • 越境の有無を確認した
  • 法令上の制限を確認した用途地域・区域区分
  • 私道の場合、通行・掘削の承諾を確認した
  • 出口を想定した次に買う人に融資が付くか
  • 表面利回りか実質利回りかを確認した
  • 情報の発信者の立場を確認した
  • 分からないことを「たぶん大丈夫」で埋めていない
  • 相談先を分野ごとに確保した

まとめ

  • 最初に決めるのは物件ではなく目的。目的が違えば、見るべき数字が変わる。
  • 収支表の数字は地面の条件の上に乗っている。接道・境界・地盤で前提が崩れる。
  • 情報は、誰が何のために発信しているかを添えて読む。
  • 調べる人と決める人を分ける。調べるのは専門家、決めるのは自分。
  • 分からないことは「たぶん大丈夫」で埋めない。急がされている取引は理由を考える。
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