斜面地の区域指定 ── どの法律の、どの区域か
- 斜面の区域指定は複数の法律に分かれている。混同しやすい
- 地すべり防止区域では、地下水に関わる行為も許可制
- 指定は登記記録に現れない。窓口で確認する
- 指定されていない斜面が安全という意味ではない
斜面に関わる区域指定は、いくつもの法律にまたがっています。
名前が似ているうえ、所管する部局も、制限の内容も違います。
この記事では、その切り分けと、取引で確認することを整理します。
まず、区域の整理
| 区域 | 根拠法 |
|---|---|
| 地すべり防止区域 | 地すべり等防止法 |
| ぼた山崩壊防止区域 | 同上 |
| 急傾斜地崩壊危険区域 | 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律 |
| 砂防指定地 | 砂防法 |
| 土砂災害警戒区域 | 土砂災害防止法 |
| 土砂災害特別警戒区域 | 同上 |
| 宅地造成等工事規制区域 | 盛土規制法 |
急傾斜地崩壊危険区域は、地すべり等防止法ではありません。別の法律です。
この二つは、実務でよく取り違えられます。
性格の違い
| 工事をする区域 | 制限をかける区域 | |
|---|---|---|
| 代表 | 地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域、砂防指定地 | 土砂災害警戒区域・特別警戒区域 |
| 目的 | 公共の工事で危険を減らす | 危険を知らせ、開発を規制する |
| 前提 | 対策工事を行う | 工事はしない |
前者は「対策する区域」、後者は「知らせる区域」です。
土砂災害警戒区域に指定されても、行政が工事をしてくれるわけではありません。
地すべり防止区域
| 内容 | |
|---|---|
| 地すべり区域 | 現に地すべりしている、またはそのおそれが極めて大きい |
| 隣接する区域 | 地すべりを助長・誘発している、またはそのおそれが極めて大きい |
二つ目に注意してください。
その土地自体は動いていなくても、上や周囲にある土地の行為が地すべりを誘発する場合、そこも指定されます。
「うちの土地は平らだから関係ない」ということにはなりません。
制限される行為
区域内では、次のような行為に知事の許可が要ります。
| 行為 | なぜ制限されるか |
|---|---|
| 地下水を誘致・停滞させる行為 | 水が地すべりの引き金になる |
| 地下水の排水施設の機能を妨げる行為 | 抜けていた水が溜まる |
| 地表水を放流・停滞させる行為 | 浸透して地下水になる |
| のり切り、切土 | 斜面の支えを失う |
| ため池、用水路等の新築・改良 | 漏水 |
| 一定の重量物の集積 | 荷重が加わる |
| 立木竹の伐採 | 根が土を留めていた |
| ボーリング | 水みちを作りうる |
ここが他の区域との大きな違いです。
地すべりは水が引き金になるため、水を動かす行為が広く制限されます。
実務で見落としやすいものです。
- 雨水を敷地内で浸透させる計画
- 浄化槽の放流先
- 井戸の掘削
- 既存の排水路を付け替える
- 庭に池を造る
- 土地の造成で、水の流れが変わる
建築そのものより、排水計画で引っかかることがあります。
設計に入る前に、所管の窓口で確認してください。
手続きの流れ
| すること | |
|---|---|
| 一 | その土地が区域内か確認する |
| 二 | 計画する行為が制限に当たるか、窓口で相談する |
| 三 | 当たる場合、許可の申請 |
| 四 | 審査。必要に応じて条件が付く |
| 五 | 許可を受けてから着手 |
他の許可と並行して進める必要があります。
開発許可、農地転用、建築確認。それぞれ所管が違い、順序と期間の調整が要ります。
急傾斜地崩壊危険区域
こちらは別の法律によるもので、傾斜度と高さの条件を満たす急傾斜地について指定されます。
| 制限される行為 | |
|---|---|
| 水を放流・浸透させる行為 | 地すべりと共通 |
| ため池、用水路の設置・改造 | 同上 |
| のり切り、切土、掘削、盛土 | 斜面をいじる |
| 立木竹の伐採 | 同上 |
| 土石の採取・集積 | 荷重 |
制限の中身は似ていますが、根拠法と手続きが違います。
どちらの区域かを、正確に把握してください。
調べ方
区域の指定は、登記簿を見ても分かりません。
| 調べる先 | 分かること |
|---|---|
| 都道府県の砂防・治山の担当課 | 地すべり防止区域、急傾斜地、砂防指定地 |
| 都道府県の土砂災害の担当課 | 警戒区域・特別警戒区域 |
| 市町村 | ハザードマップ、宅地造成の区域 |
| 公開されている地図情報 | おおよその位置 |
地図で見て境界付近にあるときは、必ず窓口で確かめてください。
一筆の中で、区域の内外にまたがることがあります。
また、所管が複数にまたがります。一か所で聞いて終わりにしないでください。
重要事項説明との関係
これらの区域指定は、法令に基づく制限として説明の対象になります。
- どの区域に指定されているか
- 制限される行為の内容
- 許可が必要になる場面
- 既存の対策工事の有無
「指定されている」と述べるだけでなく、何ができなくなるかを伝えてください。
指定されていない斜面
区域指定には、それぞれ要件があります。
要件に当たらなければ指定されませんが、それは危険がないことを意味しません。
- 規模が要件に満たない
- 調査が及んでいない
- 保全すべき人家等の数が要件に満たない
- 指定の手続きが進んでいない
- 近年の造成で、状況が変わった
指定の有無とは別に、現地を見てください。
湧水、木の傾き、擁壁のはらみ、過去の崩壊の跡。これらは指定と関係なく現れます。
取引での扱い
| 影響 | |
|---|---|
| 建てられるか | 区域と行為の内容による |
| 手続きの期間 | 許可が要れば、その分延びる |
| 費用 | 対策工事が条件になることがある |
| 融資 | 金融機関の判断に影響しうる |
| 保険 | 水災の補償の要否 |
| 将来の売却 | 買主も同じ制限を受ける |
許可が下りるか分からない段階で契約すると、下りなかったときに困ります。
- 許可の取得を停止条件とする
- 期限を、手続きの見込みに合わせる
- 不成立の場合の手付の扱いを定める
- 対策工事が条件となった場合の費用負担
「たぶん大丈夫」で進めないでください。
窓口で見通しを確認し、その内容を記録に残してください。
- どの法律による区域か特定した地すべりと急傾斜地は別の法律
- 都道府県の砂防・治山の担当課で確認した
- 土砂災害警戒区域等も別に確認した
- 砂防指定地の有無を確認した
- 一筆の中で区域の内外にまたがっていないか確認した
- 制限される行為の内容を確認した
- 排水・浄化槽の計画が制限に触れないか確認した
- 井戸の掘削・雨水浸透の計画を確認した
- 許可の要否と、期間の見通しを確認した
- 既存の対策工事の有無を確認した
- (重要事項説明)何ができなくなるかまで伝えた
- (契約)許可の取得を停止条件とした
- 指定がなくても、現地の兆候を見た
まとめ
- 斜面の区域指定は複数の法律に分かれる。急傾斜地は地すべり法ではない。
- 地すべり防止区域では、水を動かす行為が広く許可制になる。
- 排水計画や浄化槽の放流で引っかかることがある。設計前に確認する。
- 指定は登記記録に現れない。所管の窓口で確かめる。
- 指定がないことは、危険がないことを意味しない。
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