CHIOU / 株式会社地央

建物賃貸借の実務 ── 契約は、思うほど終わらない

この記事の要点
  • 普通借家は更新されるのが原則。貸主から終わらせるのは難しい
  • 定期借家にするには書面と、事前の説明の両方が要る
  • 原状回復は経年変化まで負わせられない
  • 期間を1年未満とすると、期間の定めがないものとみなされる

建物を貸すとき、貸主が思っているより、契約は終わりません。

「2年契約だから2年で終わる」という理解は、普通借家では成り立ちません。

この記事では、建物賃貸借の実務を、終わり方を中心に整理します。

普通借家と定期借家

普通借家 定期借家
更新 あり なし
終了 正当の事由が要る 期間の満了で確実に終わる
方式 口頭でも成立 書面+事前の説明
期間 1年以上 制限なし
賃料の増減 請求できる 特約で排除できる
定期借家は、手順を誤ると普通借家になる

定期建物賃貸借とするには、次の両方が必要です。

  1. 書面によって契約すること
  2. 契約の前に、更新がない旨を記載した書面を交付して説明すること

この説明の書面は、契約書とは別に用意する必要があるとされています。

説明を怠った場合、更新がないという定めが無効になります。つまり、普通借家として扱われます。

契約書に「定期借家契約」と書いてあっても、手順を踏んでいなければ効力は生じません。

終了の通知

期間が1年以上の定期借家では、期間満了の1年前から6か月前までの間に、終了する旨を通知しなければなりません。

「6か月前までに」ではなく、一定の期間の「間に」です。

この通知を怠ると、終了を賃借人に対抗できません。遅れて通知した場合、その時から6か月を経過した後でなければ終了を主張できないとされています。

通知の時期は、契約時にカレンダーへ記入しておいてください。

普通借家は、なぜ終わらないか

更新が原則

期間が満了しても、当事者が何もしなければ、従前と同じ条件で更新されます。

貸主が更新を拒むには、次の両方が必要です。

  • 期間満了の1年前から6か月前までの間に通知すること
  • 正当の事由があること

通知しなければ、自動的に更新されます。しかも、期間の定めがないものとして更新されます。

正当の事由で考慮されること
建物の使用を必要とする事情 双方について比べる
賃貸借の従前の経過 これまでの経緯
建物の利用状況 現に使われているか
建物の現況 老朽化の程度
立退料の申出 補完する要素

「自分で使いたい」「建て替えたい」だけでは足りません。

期間の定めがないとき

期間を定めなかった場合、いつでも解約の申入れができます。

予告期間 正当の事由
貸主から 6か月 必要
借主から 3か月 不要
期間を1年未満にすると、期間の定めがなくなる

建物の賃貸借で期間を1年未満と定めた場合、期間の定めがないものとみなされます。

「半年だけ貸す」つもりで契約しても、その定めは効力を持ちません。

短期間だけ貸したいのであれば、定期借家によるほかありません。定期借家には期間の下限がないためです。

賃料をめぐって

賃料が不相当になったときは、増額または減額を請求できます。

  • 土地・建物の価格の変動
  • 公租公課の増減
  • 近隣の建物の賃料との比較

一定期間は増額しない旨の特約があれば、それに従います。

減額しない旨の特約は、普通借家では効力が認められないとされています。定期借家では、特約により排除できます。

協議が調わないとき

扱い
増額の請求 借主は相当と認める額を支払えばよい
減額の請求 貸主は相当と認める額を請求できる
後の精算 裁判で確定した額との差額を、利息を付けて精算する

請求した側の言い値がそのまま通るわけではありません。

敷金と原状回復

敷金は預り金

敷金は、賃料の未払いや損害賠償を担保するために預かる金銭です。

賃貸借が終了し、建物が返還されたとき、未払いの債務を差し引いた残額を返還します。

内容
返還の時期 明渡しの後
差し引けるもの 未払賃料、原状回復費用のうち借主負担分
建物が譲渡されたとき 敷金関係も新所有者に承継される

売買のとき、敷金の引継ぎを精算に含めることを忘れないでください。

経年変化と通常損耗は、借主に負わせられない

民法は、通常の使用によって生じた損耗と経年変化については、借主は原状回復の義務を負わないとしています。

借主の負担にならないもの 借主の負担となりうるもの
日焼けによる変色 タバコのヤニ、においの染み付き
家具の設置による床のへこみ 結露を放置して生じたカビ
画鋲の穴 釘やネジによる大きな穴
設備の自然な劣化 掃除を怠ったことによる汚れ

「退去時にクロスを全面張替え」といった一律の特約は、無効とされることがあります。

負担させるには、通常より重い義務を負うことを、借主が明確に認識して合意している必要があるとされています。

国土交通省が公表するガイドラインが、実務上の基準として広く用いられています。契約前に、負担区分を書面で示してください。

修繕は誰がするか

内容
貸主 使用収益に必要な修繕をする義務
借主 自らの責めに帰すべき事由による損傷
借主が修繕できる場合 通知しても貸主が修繕しないとき、急迫の事情があるとき

使用収益ができなくなった部分があるときは、その割合に応じて賃料が減額されます。

請求しなくても、当然に減額されるという構成です。

設備の故障を放置すると、賃料の減額につながります。早く直すことが、結果として損失を抑えます。

借主が費用を出したとき

三つの請求権がある

借主が自分の負担で修繕したり、設備を付けたりすることがあります。その精算をめぐって、退去時に争いになります。

対象 いつ請求できるか
必要費の償還 使用に必要な修繕の費用 ただちに請求できる
有益費の償還 価値を増やす改良の費用 賃貸借の終了時
造作買取請求 借主が付けた造作 建物賃貸借の終了時

必要費と有益費は違います。

  • 必要費 雨漏りの修理、壊れた給湯器の交換。貸主が本来負担するもの
  • 有益費 畳をフローリングに変える、設備を良いものに替える

有益費については、価値の増加が現存する場合に、貸主の選択により支出額または増価額が償還されます。

造作買取請求権は、特約で排除できる

借地借家法は、貸主の同意を得て付けた造作について、時価での買取りを請求できるとしています。

畳、建具、エアコン、造り付けの棚など。取り外すと価値を失うものが対象です。

ただし、この権利は特約で排除できます。

実務では、「造作買取請求はしない」「原状回復して明け渡す」という定めを置くのが通常です。

契約時に決めておくこと
造作の設置 貸主の承諾を要するか
退去時の扱い 撤去するか、残置するか
買取り 請求できるか、排除するか
残置した場合 所有権の帰属と、故障時の責任

設備を残していく場合、その後の修理を誰が負うかも決めてください。

次の入居者が使っていて壊れたとき、「前の入居者が置いていったもの」では話が済みません。

高齢者向けの制度

終身建物賃貸借

高齢者の居住の安定に関する法律に基づき、借主が死亡するまで存続し、死亡により終了する賃貸借の制度があります。

内容
終了 借主の死亡により終了する
相続 賃借権が相続されない
要件 都道府県知事等の認可を受けた事業として行う
建物 バリアフリー等の基準を満たすこと
対象 一定年齢以上の者

貸主にとっては、相続人との交渉を経ずに部屋を戻せる仕組みです。

高齢者の入居を断る理由の一つが、死亡後の手続きの負担でした。この制度は、その懸念に応えるものです。

ただし、認可を受けた事業として行う必要があり、通常の賃貸借として使えるものではありません。

要件と手続きは、都道府県の住宅担当課にご確認ください。

解除できる場合

一度の滞納では、まず解除できない

賃料の滞納があっても、ただちに解除できるわけではありません。

賃貸借は継続的な関係であることから、当事者間の信頼関係が破壊されたと認められる程度に至って初めて解除できるとされています。

考慮される事情
滞納の期間と回数 数か月に及ぶか
これまでの支払状況 初めてか、繰り返しか
催告への対応 連絡が取れるか
事情 一時的な事情か

手順を踏まずに鍵を替える、荷物を運び出すといった行為は、違法となります。

自力救済は認められません。明渡しを求めるには、訴訟と強制執行によることになります。

契約時に確認すること

項目 確認する点
契約の種類 普通借家か、定期借家か
(定期借家)手順 事前の説明書面を交付したか
期間 1年未満になっていないか
更新の条件 更新料の有無と額
賃料の改定 据置きの特約の有無
敷金 額と、返還の条件
原状回復 負担区分を書面で示したか
修繕の分担 小修繕を借主負担とする特約の範囲
禁止事項 ペット、楽器、転貸
連帯保証 極度額の定めがあるか
反社会的勢力の排除 条項が入っているか
反社会的勢力の排除条項

いまの賃貸借契約書では、標準的に置かれる条項です。

定める内容は、おおむね次のものです。

  • 当事者が反社会的勢力でないことの表明と確約
  • 反社会的勢力に物件を使用させないこと
  • 暴力的な言動などをしないこと
  • 違反した場合、催告なく解除できること
  • 解除により生じた損害の賠償を請求しないこと

条項がないと、判明しても解除の根拠を欠きます。

また、「反社会的勢力に使用させない」という定めがあることで、転貸や又貸しの場面にも及びます。

自治体の条例や、業界団体の標準契約書で対応が求められている場合があります。使用している契約書の様式を確認してください。

個人の連帯保証には、極度額が必要

個人が連帯保証人となる場合、保証する限度額(極度額)を定めなければ、保証契約は効力を生じません。

「一切の債務を保証する」といった定めだけでは足りません。

また、保証契約は書面でしなければ効力を生じません。

実務では、家賃債務保証会社を利用する形が増えています。その場合も、保証の範囲と免責事由を確認してください。

入居中に建物が売られたら

建物の引渡しを受けていれば、新しい所有者にも賃貸借を主張できます。

賃借権の登記は不要です。

  • 賃貸人の地位は、原則として新所有者に移る
  • 敷金も承継される
  • 賃料の支払先が変わる 通知を確認する
  • 抵当権が先に設定されていた場合は、扱いが異なる

収益物件を取得する際は、既存の賃貸借の内容を必ず確認してください。

建物賃貸借に関する確認
  • 普通借家か定期借家か明確にした
  • (定期借家)事前の説明書面を、契約書とは別に交付した
  • (定期借家)終了通知の時期を控えた1年前から6か月前までの間
  • 期間を1年未満にしていない
  • (更新拒絶)通知の時期と正当の事由を確認した
  • 賃料改定の特約を確認した
  • 敷金の額と返還条件を確認した
  • 原状回復の負担区分を書面で示した
  • 通常損耗を一律に負担させる特約になっていない
  • 修繕の分担を明確にした
  • (個人保証)極度額を定め、書面で契約した
  • 反社会的勢力の排除条項が入っているか確認した
  • 造作の設置と、退去時の扱いを取り決めた
  • 造作買取請求を排除する特約の有無を確認した
  • (設備を残置)その後の修理の負担を決めた
  • (高齢者の入居)終身建物賃貸借の制度を検討した
  • (滞納)信頼関係の破壊に至っているか検討した
  • 自力救済に当たる行為をしていない
  • (売買)敷金の引継ぎを精算に含めた

まとめ

  • 普通借家は更新が原則。通知と正当の事由がなければ終わらない。
  • 定期借家は、書面と事前の説明の両方が要る。欠けば普通借家になる。
  • 期間を1年未満とすると、期間の定めがないものとみなされる。
  • 経年変化と通常損耗は借主に負わせられない。負担区分を書面で示す。
  • 個人の連帯保証には極度額が必要。定めがなければ効力を生じない。
  • 造作買取請求権は特約で排除できる。設置と退去時の扱いを契約で決める。
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