適格機関投資家等特例業務 ── 届出で足りる範囲
- 登録不要ではない。届出が必要で、行為規制も適用される
- 2015年の改正で、出資できる者の範囲そのものが限定された。「一般投資家なら誰でも」ではない
- 適格機関投資家には届出を要する類型がある。名乗るだけでは足りない
- 要件は組成時だけでなく、期間中も維持する必要がある
ファンドの募集と運用には、通常は金融商品取引業の登録が必要です。その要件を満たすには、資本金、人的構成、体制の整備が求められます。
これに対し、一定の要件を満たす場合に届出で足りるとする仕組みが、適格機関投資家等特例業務です。GK-TKスキームなどで広く用いられています。
ただし、「登録が不要だから規制が緩い」という理解は、現在では成り立ちません。この記事では、要件と限界を整理します。
制度の位置づけ
| 通常の登録 | 特例業務 | |
|---|---|---|
| 手続き | 登録(審査あり) | 届出 |
| 財産的基礎 | 資本金等の要件がある | 要件なし |
| 人的構成 | 審査の対象 | 審査はないが、体制は必要 |
| 出資者の範囲 | 制限なし(適合性の原則は適用) | 限定される |
| 行為規制 | 全面的に適用 | 一部が適用 |
四つの要件
一 自己募集・自己運用であること
特例業務の対象は、集団投資スキーム持分の私募(自己募集)と、その運用(自己運用)です。
他人が組成したファンドの持分を販売する行為は、この特例では行えません。第二種金融商品取引業の登録が必要になります。
二 適格機関投資家が1名以上出資すること
ファンドに、適格機関投資家が1名以上参加している必要があります。
三 適格機関投資家以外の出資者が49名以下であること
人数の上限です。ただし、これだけでは足りません。次に述べる範囲の制限があります。
四 あらかじめ届出を行うこと
業務を開始する前に、金融庁(財務局)へ届出を行います。届出書の内容は公表されます。
出資者の範囲が限定されている
この特例を悪用した被害が相次いだことを受け、2015年に金融商品取引法が改正されました。
改正前は、適格機関投資家以外の出資者について、人数の制限(49名以下)はあっても、属性の制限はありませんでした。
改正後は、出資できる者が政令で定める範囲に限定されました。「一般の個人が49名まで参加できる」という制度ではなくなっています。
出資できる者の主な類型
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 公的機関等 | 国、日本銀行、地方公共団体 |
| 金融関係 | 金融商品取引業者、銀行、保険会社等 |
| 法人 | 上場会社、一定額以上の資本金を有する法人 |
| 個人 | 投資性の金融資産を一定額以上保有し、証券口座の開設から一定期間を経過した者 |
| 関係者 | 運用者の役員、使用人、その親族等 |
個人が出資者となるには、資産の要件と、取引経験の要件を満たす必要があります。
要件を満たさない者が一人でも出資すれば、その時点で特例業務の要件を欠きます。無登録営業となり、刑事罰の対象になります。
要件を満たすかどうかは、運用者が確認する責任を負います。
- 法人であれば、資本金の額を登記事項証明書等で確認する
- 個人であれば、資産の状況と取引経験を確認する
- 確認した資料と、確認日を記録に残す
「本人が該当すると言っていた」では足りません。後から要件を欠いていたことが判明した場合、責任は運用者に及びます。
適格機関投資家とは
金融商品取引法およびその関係法令で定められた、専門的な知識と経験を有すると認められる投資家です。
| 類型 | 備考 |
|---|---|
| 金融商品取引業者 | 第一種金融商品取引業者、投資運用業者 |
| 銀行、保険会社、信用金庫等 | 当然に該当する |
| 投資事業有限責任組合 | 届出を要する |
| 一定の残高を有する法人 | 届出を要する |
| 一定の残高を有する個人 | 届出を要する |
有価証券の残高が基準を超えていても、金融庁への届出を行っていない個人・法人は、適格機関投資家に該当しません。
適格機関投資家として届出をした者の名簿は、金融庁のウェブサイトで公表されています。
ファンドを組成する際は、参加を予定している適格機関投資家が実際に名簿に掲載されているかを確認してください。「該当するはず」では足りません。
適格機関投資家が形骸化していないか
ごく少額の出資で名目上参加させ、実質的な関与がないケースが問題とされてきました。
金融庁は、適格機関投資家の実在性や関与の程度を確認しています。形式だけを整えた組成は、監督上の指摘を受ける可能性があります。
対象となるファンドの形態
特例業務の対象は集団投資スキーム持分です。次のような形態が含まれます。
| 形態 | 特徴 |
|---|---|
| 匿名組合 | 不動産の証券化で広く用いられる |
| 投資事業有限責任組合 | 出資者の責任が出資額に限定される |
| 任意組合 | 民法上の組合 |
「組合型でなければならない」という要件があるわけではありません。集団投資スキーム持分という概念に、これらの形態が含まれているという関係です。
届出の内容
- 商号または名称、所在地
- 資本金の額(法人の場合)
- 役員の氏名
- 業務の種別(自己募集か、自己運用か、両方か)
- ファンドの名称、種別
- 出資者となる適格機関投資家の名称
- 他に行っている事業の内容
- 法令遵守を担当する者
2015年の改正により、届出書の内容が金融庁のウェブサイトで公表されるようになりました。
誰がどういうファンドを組成しているかが、外部から確認できます。投資家が確認する手段としても機能します。
また、届出をしていない者が特例業務を行っていないかの監視にも用いられます。
適用される規制
登録業者ほどではありませんが、相当の行為規制が適用されます。
| 規制 | 内容 |
|---|---|
| 虚偽告知の禁止 | 重要な事項について虚偽を告げてはならない |
| 断定的判断の提供の禁止 | 「必ず儲かる」といった説明は禁止 |
| 損失補塡の禁止 | 損失を補う約束や実行は禁止 |
| 適合性の原則 | 顧客の属性に照らして不適当な勧誘を行わない |
| 分別管理 | 出資された財産を分別して管理する |
| 忠実義務・善管注意義務 | 運用にあたり、出資者のために忠実に職務を行う |
| 事業報告書の提出 | 毎事業年度、当局へ提出する |
ほかの法律も関わる
- 犯罪による収益の移転防止に関する法律 出資者の本人確認、取引時確認、記録の保存
- 金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律 重要事項の説明義務、勧誘方針の策定・公表
届出をした者は、報告徴求、立入検査、業務改善命令、業務停止命令の対象になります。
証券取引等監視委員会による調査が行われ、違法な状態が認められれば、裁判所への差止命令の申立てがなされることもあります。
「届出だけだから当局は見ていない」ということはありません。
要件は、期間中も維持する
組成時に要件を満たしていても、期間中に崩れることがあります。
| 起こりうること | 結果 |
|---|---|
| 適格機関投資家が持分を譲渡し、不在になる | 要件を欠く |
| 適格機関投資家が届出を取り下げる | 同上 |
| 出資者が49名を超える | 同上 |
| 持分が要件を満たさない者に譲渡される | 同上 |
実務では、組合契約や匿名組合契約に、持分の譲渡制限を定めます。
- 営業者(運用者)の承諾なく譲渡できない旨
- 譲受人が要件を満たすことを確認する手続き
- 適格機関投資家が離脱する場合の取扱い
これを定めておかないと、運用者の知らないところで要件が崩れます。
通常の登録への移行
ファンドの規模が大きくなる、出資者の範囲を広げたい、といった場合には、登録を取得する選択肢があります。
登録には財産的基礎と人的構成の要件があり、準備には相応の時間がかかります。移行を検討するなら、早い段階で財務局への事前相談を行ってください。
原資産の確認は、別に必要
金融商品取引法が規律するのは、勧誘と運用の適正さです。原資産である不動産の品質は、別に確かめる必要があります。
| 確認するもの | 影響 |
|---|---|
| 境界の確定状況 | 売却時に確定測量が必要。ファンド期間内に終わるか |
| 越境の有無 | 是正または覚書。相手方の対応次第で時間がかかる |
| 接道と再建築の可否 | 出口の価格、買い手の融資 |
| 法令への適合 | 検査済証、既存不適格 |
| 賃貸借契約 | 期間、解約条項、敷金の承継 |
これらは出資者への説明事項にもなります。不利な事実こそ、先に伝えて記録に残してください。
- 自己募集・自己運用に当たるか確認した
- 適格機関投資家が1名以上参加することを確認した
- その者が金融庁の名簿に掲載されているか確認した
- 出資者が政令で定める範囲に該当するか確認した「一般投資家49名」ではない
- (個人)資産の要件と取引経験の要件を確認した
- (法人)資本金等の要件を確認した
- 確認した資料と確認日を記録に残した
- 適格機関投資家以外の出資者が49名以下であることを確認した
- 業務開始前に届出を行った
- 届出書が公表されることを踏まえて内容を確認した
- 契約に持分の譲渡制限を定めた
- 適格機関投資家の離脱時の取扱いを定めた
- 行為規制に対応する体制を整えた虚偽告知・断定的判断・損失補塡の禁止
- 取引時確認の体制を整えた犯罪収益移転防止法
- 勧誘方針を策定・公表した
- 事業報告書の提出体制を整えた
- 原資産の調査結果を整理し、開示できる状態にした
まとめ
- 登録不要ではない。届出が必要で、行為規制も監督も適用される。
- 2015年の改正で出資者の範囲が限定された。「一般投資家なら誰でも49名まで」ではない。
- 適格機関投資家には届出を要する類型がある。金融庁の名簿で確認する。
- 要件は組成時だけでなく期間中も維持する。契約で持分の譲渡を制限する。
- 金商法が規律するのは勧誘と運用。原資産の品質は別に確かめる。
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