CHIOU / 株式会社地央

ホテル投資 ── 住宅系との三つの違い

この記事の要点
  • 賃貸と違い、毎日の運営が収益を決める。不動産の保有というより事業に近い
  • 旅館業法は2018年に改正。ホテル営業と旅館営業は統合され、客室数の下限も撤廃された
  • 用途変更の壁は建築基準法と消防法。改装費の大半がここに関わる
  • 民泊は年間180日以内。条例でさらに制限される場合がある

賃貸住宅なら、入居者が決まれば毎月の賃料が入ります。宿泊施設は、毎日客室を売り続けなければなりません。

季節、曜日、天候、イベント、社会情勢。収益は日々変動します。不動産を保有するというより、事業を営むことに近い性質です。

この記事では、その性質と、必要な許可、用途変更の壁を整理します。

収益の変動が大きい

賃貸住宅 宿泊施設
契約の単位 年単位 一泊単位
収入の安定 入居中は一定 日々変動する
価格の設定 契約時に決める 日ごとに調整する
人手 管理会社に委託できる 常時、運営が必要
費用 比較的固定的 人件費、リネン、清掃、光熱費が稼働に連動
外部の事情に大きく左右される

宿泊需要は、自分の努力とは関係のない要因で動きます。

  • 感染症の流行、災害、交通の途絶
  • 為替の変動(訪日客の増減)
  • 近隣の大型施設やイベントの有無
  • 競合施設の新規開業

数か月で稼働率が半分以下になることが、実際に起こります。その間も、借入の返済と人件費は続きます。

必要な許可

旅館業法の営業種別

2018年の改正で、営業の種別が整理されました。現在は次の三つです。

種別 内容
旅館・ホテル営業 従来の「ホテル営業」と「旅館営業」が統合された
簡易宿所営業 宿泊する場所を多人数で共用する構造。ゲストハウスなど
下宿営業 1か月以上の期間を単位として宿泊させる
「客室数10室以上」は現行の要件ではない

改正前は、ホテル営業に最低客室数(10室以上)や洋室・和室の区分がありました。

この改正で、最低客室数の規制は撤廃されました。客室の延床面積についての基準は残っていますが、室数の下限はありません。

「10室ないとホテルにできない」という古い情報で計画を諦める必要はありません。ただし、現行の基準と自治体の条例は必ず保健所で確認してください。

そのほかに必要となりうる許可

内容 窓口
飲食店営業 保健所。朝食の提供でも必要になる場合がある
公衆浴場 保健所。大浴場を設ける場合
消防法令適合通知書 消防署。旅館業の許可申請に必要
建築基準法の確認 特定行政庁。用途変更の場合

用途変更の壁

既存の建物を宿泊施設にする場合、ここが最大の関門です。

建築基準法

確認申請が必要になる規模

用途を変更して特殊建築物にする場合、一定の規模を超えると確認申請が必要になります。

2019年の改正で、この規模の基準が引き上げられました。小規模なものは確認申請が不要になっています。

ただし、確認申請が不要でも、建築基準法に適合させる義務は残ります。審査がないだけで、基準は適用されます。

該当するかどうかは、特定行政庁または指定確認検査機関で確認してください。

適合させる必要がある主な項目

  • 用途地域 その地域でホテル・旅館を建てられるか
  • 耐火性能 規模と階数によって求められる構造が変わる
  • 避難施設 廊下の幅、階段の数と位置、非常用照明
  • 採光・換気 客室ごとの基準
  • 接道 既存不適格であれば、増改築に制限
用途地域で建てられない場合がある

ホテル・旅館は、用途地域によって建てられない地域があります。

住居系の用途地域の一部では、規模にかかわらず建てられません。物件を見る前に、用途地域を確認してください。

市街化調整区域では、さらに開発許可の問題が加わります。

消防法

宿泊施設は、不特定多数が利用し、就寝を伴うため、消防法上の規制が厳しくなります。

設備 備考
自動火災報知設備 規模にかかわらず必要になることが多い
誘導灯 避難経路の表示
消火器・屋内消火栓 規模による
スプリンクラー設備 規模によっては必要。工事費が大きい
防火管理者の選任 収容人員による

オフィスビルとは求められる設備が違います。改装費の見積りでは、この部分が大きな割合を占めることがあります。

物件を検討する段階で、消防署に相談してください。「この建物を宿泊施設にする場合、何が必要になりますか」と聞けば、方向性が分かります。

民泊(住宅宿泊事業)との違い

旅館業 住宅宿泊事業(民泊)
手続き 許可 届出
営業日数 制限なし 年間180日以内
建物の扱い 特殊建築物 住宅
管理 営業者が行う 不在の場合は住宅宿泊管理業者に委託
条例でさらに制限されることがある

住宅宿泊事業法は年間180日を上限としていますが、都道府県や市町村が条例で、区域や期間をさらに制限できます。

住居専用地域では平日の営業を禁止する、学校の周辺では制限する、といった条例が定められている地域があります。

必ず、その市町村の条例を確認してください。「180日できる」と思って計画すると、実際には大きく下回ることがあります。

また、分譲マンションでは管理規約で禁止されていることが多くあります。

どちらを選ぶか

180日の制限があると、年間の収支が大きく変わります。本格的に事業として行うなら旅館業、住宅の空きを活用するなら住宅宿泊事業、という整理になります。

ただし、旅館業の許可を取るには建物の要件を満たす必要があります。建物の条件が先に決まり、それによって選べる形が決まる、という順序になることが多くあります。

運営をどうするか

内容
自ら運営 収益は大きくなりうるが、人員の確保と教育が必要
運営会社に委託 売上に応じた報酬。運営会社の力量が収益を左右する
建物を貸す 運営会社に賃貸し、賃料を受け取る。賃料は減額されうる

三番目の形は、サブリースと同じ構造です。「賃料保証」とされていても、借地借家法の規定が働きます。

人手を確保できるか

宿泊施設は、清掃、フロント、リネンの手配に人手が要ります。

地方では、この人手の確保が最大の制約になることがあります。建物と許可が整っても、運営できる体制がなければ開業できません。

委託する場合も、その地域で実際に稼働している運営会社があるかを確認してください。

収支をどう見るか

使う指標

指標 意味
稼働率 販売した客室数 ÷ 総客室数
平均客室単価 客室売上 ÷ 販売した客室数
RevPAR 客室売上 ÷ 総客室数。稼働率と単価を合わせた指標

稼働率だけを上げても、単価を下げていれば収益は増えません。両方を合わせて見る必要があります。

変動を織り込む

年間を通じた平均で計算せず、月ごとに置いてください。

  • 繁忙期と閑散期の差
  • 平日と休日の差
  • 需要が落ちた場合(稼働率が2〜3割落ちた想定)
  • 人件費は稼働が落ちても完全には減らない

閑散期に赤字になる月があっても、年間で成り立つか。そして、その間の資金が続くか。これを確認してください。

熊本の場合

半導体関連の進出により、県内の一部でビジネス利用の需要が動いています。

ただし、その需要が及ぶ範囲と、及ばない範囲を分けて見る必要があります。建設の期間中と、稼働後では需要の性質も変わります。

また、同じことを考える事業者が複数いれば、供給が増えます。近隣の開業計画を確認してください。

相談先

内容 相談先
旅館業の許可、営業の基準 保健所
用途変更、建築基準法 特定行政庁、建築士
消防設備 消防署
用途地域、開発許可 市町村の都市計画課
住宅宿泊事業の条例 都道府県・市町村
資金計画 金融機関
税務 税理士

保健所・建築・消防の三つは、物件を決める前に相談してください。買った後で「この建物では許可が取れない」と分かると、取り返しがつきません。

検討するときのチェックリスト
  • 用途地域を確認したホテル・旅館を建てられる地域か
  • 市街化調整区域でないか確認した
  • 保健所に相談した現行の営業種別と基準
  • 「客室10室以上」という古い情報で判断していない
  • 消防署に相談した必要な設備と概算
  • (用途変更)確認申請の要否を確認した
  • (用途変更)耐火性能・避難施設の適合を建築士に確認した
  • スプリンクラー設備の要否を確認した
  • (民泊)その市町村の条例を確認した180日より短い場合がある
  • (民泊・区分所有)管理規約を確認した
  • 運営の形を決めた自ら/委託/賃貸
  • その地域で人手を確保できるか確認した
  • 月ごとの収支を作った年平均で計算しない
  • 需要が落ちた場合で再計算した
  • 近隣の開業計画を確認した
  • 物件を決める前に、保健所・建築・消防に相談した

まとめ

  • 賃貸と違い、毎日の運営が収益を決める。不動産の保有というより事業に近い。
  • 旅館業法は2018年に改正。ホテル営業と旅館営業は統合され、客室数の下限は撤廃された。
  • 用途変更では建築基準法と消防法が壁になる。改装費の大半がここに関わる。
  • 民泊は年間180日以内。条例でさらに制限される場合がある。
  • 物件を決める前に、保健所・建築・消防に相談する。買った後では取り返しがつかない。
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