CHIOU / 株式会社地央

住生活基本計画 ── 住宅政策は、何を目指してきたか

この記事の要点
  • 住宅政策は量 → 質 → 住まい方と重点を移してきた
  • 根拠は住生活基本法と住生活基本計画。おおむね5年ごとに見直される
  • 「人生100年時代」が意味するのは、一つの家に一生住む前提が崩れたこと
  • 住み替えを阻んでいるのは、中古が評価されないことと、借りにくさ

戦後の住宅政策は、足りない家をどう供給するかから始まりました。

いま、住宅の数は世帯数を上回っています。課題は、量ではなくなりました。

この記事では、政策の重点がどう移ってきたかを整理し、そのうえで現在の論点を扱います。

三つの時代

時期 重点 主な手段
戦後〜高度成長期 量の確保 公営住宅、公団、住宅金融公庫
1990年代〜 質の向上 品確法、性能表示、耐震・省エネ
2006年〜 住生活の安定と向上 住生活基本法、住生活基本計画
法律の名前が変わった

平成18年(2006年)、住宅建設計画法が廃止され、住生活基本法が制定されました。

それまで それ以降
法律 住宅建設計画法 生活基本法
計画 住宅建設五箇年計画 住生活基本計画
目標 戸数の建設 住生活の質

「何戸建てるか」という目標を立てる時代が終わった、ということです。

国土形成計画法で「開発」が外れたのと、同じ方向の変化です。

住生活基本計画

内容
全国計画 国が定める。閣議決定される
都道府県計画 全国計画に即して定める
期間 おおむね10年を見通し、5年ごとに見直す
内容 目標、施策の方向、成果指標
計画の内容は、原典で確認する

計画は見直しのたびに、目標と指標が変わります。

解説記事に載っている内容が、現行のものとは限りません。

また、「検討されている」段階の施策を、決まったことのように書いている資料があります。

  • 審議会で議論されている
  • 骨子案・中間とりまとめの段階
  • 一部の自治体で先行して実施されている
  • 予算要求の段階

これらと、制度として確定したものを混同しないでください。

顧客への説明で使う場合は、国土交通省が公表する計画本文と、施策の実施状況で確認してください。

「人生100年時代」が意味すること

一つの家に一生住む前提が崩れた

かつての標準的な形は、こうでした。

  1. 就職して賃貸に住む
  2. 結婚・出産を機に家を買う
  3. そこに一生住む
  4. 子が同居して引き継ぐ

この形が成り立たなくなっています。

変化 住まいへの影響
寿命が延びた 取得から50年以上、その家に住む
子が同居しない 引き継ぐ人がいない
単身の期間が長い 広すぎる家に一人で住む
働き方が変わる 通勤前提の立地が合わなくなる
心身の状態が変わる 階段のある家に住み続けられない

ライフステージごとに、必要な住まいが変わります。

しかし、日本の住宅市場は、住み替えを前提に作られていません。

住み替えを阻むもの

売れない、借りられない

住み替えたくても、実際には難しい事情があります。

障害 内容
中古が評価されない 築年数で機械的に下がり、手入れが反映されない
売却しても資金が足りない 次の住まいを確保できない
高齢者が借りにくい 保証人、支払い能力、健康上の懸念
手続きの負担 売却、引越し、契約。高齢になるほど重い
地域とのつながり 離れることへの抵抗

結果として、住み続けるしかなくなります。

そして、その家がやがて空き家になります。

空き家対策、既存住宅の流通促進、住宅セーフティネット。いずれも、この循環のどこかを断とうとする施策です。

制度としての手当て

課題 関わる制度
中古が評価されない 建物状況調査、瑕疵保険、住宅履歴情報
高齢者が借りにくい 住宅セーフティネット制度
住宅の質 長期優良住宅、建築物省エネ法
空き家 空家法、活用促進区域
高齢期の住まい サービス付き高齢者向け住宅、バリアフリー改修

個別の制度は、それぞれこの記事で扱った課題のどこかに対応しています。

単身高齢者と住まい

貸す側の懸念に、制度で応える

高齢者が賃貸住宅を借りにくい背景には、貸す側の具体的な懸念があります。

懸念 制度上の手当て
家賃の支払い 家賃債務保証、生活保護の住宅扶助
室内での死亡 見守りサービス、残置物の処理に関する契約の枠組み
残置物の処理 解除・処理の受任者を定める契約の活用
相続人が不明 財産管理制度

「高齢だから断る」ではなく、懸念ごとに手立てがあります。

これらを知っている事業者が、結果として物件を預かることになります。

住宅セーフティネット制度

住宅の確保に配慮を要する方の入居を拒まない賃貸住宅を登録する仕組みです。

登録された住宅について、改修費の補助や家賃の低廉化に関する支援が用意されている場合があります。

制度は改正されており、支援の内容も変わります。最新のものを確認してください。

誤りやすい記述

よく見かける不正確な説明
見かける記述 実際
「新築住宅に太陽光発電が義務化」 国の制度としては義務化されていない。一部の自治体が条例で制度を設けている
「断熱材や二重ガラスの導入を義務化」 義務は省エネ基準への適合。特定の建材の指定ではない
「震度6以上に耐える構造が求められる」 耐震基準は震度で規定されていない
「◯%を補助(上限◯億円)」 どの事業の補助か、要件は何かを確認する

いずれも、顧客への説明で使うと問題になります。

制度の名称、義務か努力義務か、国か自治体か。この三点を確認してください。

実務でどう効くか

顧客の状況を長い時間軸で見る

いま買う家に、何年住むのか。

確認すること なぜ
その家に住む期間の見込み 売却・住み替えの可能性
階段・段差 加齢に伴って使いにくくなる
間取りの可変性 家族構成の変化に対応できるか
維持管理のしやすさ 配管の更新、外壁の補修
立地 車を運転しなくなった後の生活
記録の保存 将来の売却で価値になる

「いま買えるか」だけでなく、「後で手放せるか」を含めて考える。

これが、人生100年時代における住まいの選び方です。

売る側にとっても同じ

手放しやすい家を勧めることは、短期的には売りにくくなるように見えます。

しかし、住み替えが繰り返される市場では、同じ顧客と何度も関わることになります。

一度の取引で終わらせない仕事の仕方に、制度の方向は合っています。

住宅政策を扱うときの確認
  • 現行の住生活基本計画を確認した見直しのたびに変わる
  • 都道府県計画も確認した
  • 検討段階のものと、確定した制度を区別した
  • 義務か努力義務かを確認した
  • 国の制度か、自治体の条例かを確認した
  • 補助の数値は、事業名と要件まで確認した
  • (顧客対応)その家に住む期間の見込みを確認した
  • (顧客対応)加齢に伴う使いにくさを検討した
  • (顧客対応)手放すときのことを含めて説明した
  • (高齢者の入居)懸念ごとの手立てを整理した
  • 住宅セーフティネット制度の最新の内容を確認した

まとめ

  • 住宅政策は量 → 質 → 住まい方と重点を移してきた。法律の名称にも表れている。
  • 根拠は住生活基本法と住生活基本計画。おおむね5年ごとに見直される。
  • 「人生100年時代」とは、一つの家に一生住む前提が崩れたということ。
  • 住み替えを阻んでいるのは、中古が評価されないことと、高齢者の借りにくさ。
  • 検討段階の施策を、確定した制度のように説明しない。
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