契約不適合責任の免責 ── 効く場合と、効かない三つの場合
- 免責特約は原則として有効。ただし三つの限界がある
- 限界その一。売主が知りながら告げなかった事実には及ばない(民法572条)
- 限界その二。宅建業者が自ら売主のとき、買主に不利な特約は無効(宅建業法40条)
- 限界その三。事業者と消費者の契約では、消費者契約法による制限がかかる
中古住宅の売買では、「本物件は現状有姿で引き渡すものとし、売主は契約不適合責任を一切負わない」という特約が広く使われています。
この一文があれば安心か。答えは「場合による」です。特約そのものは有効ですが、効かない場面が三つあります。しかも、そのうち二つは特約の文言をどう工夫しても覆せません。
この記事では、免責特約がどこまで効くのか、どういう設計なら実務で機能するのかを扱います。
免責特約は、原則として有効
どのような内容の契約を結ぶかは、当事者が自由に決められます。契約不適合責任についても、「負わない」と定めること自体は認められています。
中古住宅では、売主が建物のすべての状態を把握しているとは限りません。築年数が経過していれば、見えない部分に不具合があっても不思議ではない。その不確実性を価格に織り込んで、責任は負わないという形で取引する。これは合理的な取り決めです。
問題は、その特約がどこまで効くかです。
限界その一 知りながら告げなかった事実
担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても、売主が知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができません。
これは特約の文言では覆せません。「一切の責任を負わない」「いかなる場合も」と書いても同じです。
「知っていた」とはどこまでか
争いになるのは、売主が「知らなかった」と主張する場面です。しかし、次のような事情があれば、知っていたと判断される可能性が高くなります。
- 過去に修理の見積もりを取っていた
- 業者とのやり取りの記録が残っている
- 修繕の履歴が確認できる
- 居住していた期間が長く、通常であれば気づく状態だった
つまり、売主が「知らなかった」と言い張っても、客観的な証拠から覆されることがあります。
だから、聞き取って記録する
免責特約を付けるのであれば、むしろ売主から聞き出す必要が高まります。知っていた事実は免責されないのですから、告げてもらったうえで免責するほうが安全です。
物件状況等報告書に記入してもらい、聞き取りの内容を記録し、重要事項説明書に反映する。免責特約と告知は、対立するものではなく、セットで機能するものです。
限界その二 売主が宅建業者のとき
宅地建物取引業者が自ら売主となる場合、民法の規定より買主に不利となる特約は無効です(宅建業法40条)。
ただし例外が一つあります。契約不適合の通知期間を「引渡しの日から2年以上」とする特約は有効です。
| 特約の内容 | 効力 |
|---|---|
| 責任を一切負わない | 無効 |
| 通知期間を引渡しから1年とする | 無効(2年に満たない) |
| 通知期間を引渡しから2年とする | 有効 |
| 通知期間を引渡しから3年とする | 有効 |
無効となった場合、その特約はなかったものとして扱われ、民法の原則に戻ります。つまり、買主が不適合を知った時から1年以内に通知すればよいことになります。
買取再販を行っている場合、自社が売主になります。媒介として関わるときとは、適用される規制がまったく違います。
仕入れた物件を再販する際、媒介の感覚で免責特約を入れると無効になります。自ら売主となる取引では、宅建業法の八つの制限(クーリング・オフ、手付額の制限、契約不適合責任の特約の制限など)が働くことを、社内で共有してください。
限界その三 事業者と消費者の契約
売主が事業者、買主が消費者である場合、消費者契約法による制限がかかります。
事業者の損害賠償責任を全部免除する条項や、事業者に責任の有無を決定する権限を与える条項は無効とされます。また、消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものも無効になりえます。
消費者契約法が適用されるのは、事業者と消費者との間の契約です。個人が売主で、個人が買主という取引には適用されません。
この区別は実務で混同されがちです。個人間売買であれば、消費者契約法の制限は働かず、民法572条と信義則が限界になります。
個人間の売買なら、自由に免責できるか
宅建業法40条も消費者契約法も適用されない、個人間の売買。この場合、免責の範囲は広く認められます。
しかし無制限ではありません。
- 民法572条 知りながら告げなかった事実には及ばない
- 信義則 一方的に不利益を押しつける形であれば、権利の行使が制限されることがある
- 説明義務 媒介した宅建業者には、別途、説明義務がある
最後の点が重要です。売主が免責されることと、媒介業者が免責されることは、まったく別の話です。売主が個人で免責特約を付けていても、業者が知っていた事実を告げなければ、業者の責任は残ります。
有効に機能する特約の設計
「一切負わない」と書くよりも、範囲と期間を限定したほうが、実務では機能します。相手にとっても納得しやすく、争いになりにくいためです。
一 対象を限定する
免責の対象と、責任を負う対象を分けます。
- 雨漏り、シロアリの害、建物構造上主要な部位の腐食、給排水管の故障については責任を負う
- それ以外については責任を負わない
二 期間を明記する
「引渡しの日から○か月以内に売主に通知されたものに限る」と定めます。中古住宅では3か月程度とすることが多くあります。
三 現況を具体的に書く
「現状有姿」とだけ書くのではなく、何が現状なのかを具体的に記載します。
「外壁に幅約1cmのひび割れがあることを買主は確認済み」「10年前に雨漏りが発生し、○年に修繕済みであることを買主は了承している」。具体的に書いた事実については、買主が了承したという記録になります。
実務での運び方
売主に説明すること
売主が「免責にしておけば安心」と考えている場合、次を説明してください。
- 知りながら告げなかった事実については、免責特約があっても責任を免れない
- だから、知っていることは残さず告げてもらう必要がある
- 告げたうえで免責するほうが、免責が確実に機能する
買主に説明すること
- 免責特約の内容と、その意味
- 売主から告知された事実の内容
- 建物状況調査(インスペクション)を利用できること
- 免責特約があっても、売主が知っていた事実については責任追及の余地があること
記録すること
- 物件状況等報告書・設備表(売主の記名押印を得る)
- 聞き取りの日時と内容
- 買主への説明の日時と、質疑の内容
- 特約の内容を説明し、買主が了承した記録
中古住宅では標準的に使われている
実務では、中古住宅の売買において免責特約が広く使われています。築年数が経過した建物では、売主がすべての状態を把握することが現実的でないためです。買取再販が活発な地域では、なおさら一般的です。
使われていること自体は問題ではありません。問題になるのは、免責特約を「調べなくてよい理由」「告げなくてよい理由」として扱ってしまうことです。
免責特約は、不確実性を価格に織り込むための道具であって、事実を隠すための道具ではありません。この区別を守れば、後の争いはかなり減ります。
- 売主の属性を確認した個人か、宅建業者か、事業者か
- 買主の属性を確認した消費者か、事業者か
- 自社が売主になる取引か確認した買取再販では宅建業法40条が適用される
- (自ら売主)通知期間を引渡しから2年以上としているか確認した
- (事業者対消費者)消費者契約法の制限を確認した
- 物件状況等報告書を売主に記入してもらった免責特約があるからこそ必要
- 売主に、知っている事実は告げる必要があることを説明した
- 免責の対象を限定して記載した「一切負わない」より機能する
- 通知期間を明記した
- 現況を具体的に記載した「現状有姿」だけにしない
- 買主に免責特約の内容と意味を説明した
- 建物状況調査を利用できることを案内した
- 説明の日時と質疑を記録した
まとめ
- 免責特約は原則として有効。ただし三つの限界がある。
- 売主が知りながら告げなかった事実には及ばない(民法572条)。文言では覆せない。
- 宅建業者が自ら売主のとき、買主に不利な特約は無効。通知期間を引渡しから2年以上とする特約のみ有効。
- 消費者契約法が適用されるのは事業者と消費者の契約。個人間売買には適用されない。
- 免責特約は不確実性を価格に織り込む道具であって、事実を隠す道具ではない。
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