契約はどう成立するか ── 書面がなくても、決まっている
- 契約は口頭でも成立する。書面は原則として成立の要件ではない
- だからこそ、いつ成立したかが争いになる
- 意思表示に問題があれば、取り消せる場合がある
- 代理人と取引するときは、権限の範囲を書面で確かめる
「まだ契約書を交わしていないから、いつでもやめられる」──この理解は誤りです。
契約は、原則として申込みと承諾が合致した時点で成立します。書面はその後の話です。
この記事では、契約がどう成立し、守られないとどうなるかを整理します。
契約は、合意で成立する
民法は、契約の成立には書面の作成その他の方式を要しないとしています。
申込みに対して承諾があれば、それだけで成立します。
| 内容 | |
|---|---|
| 申込み | 契約を結びたいという意思表示 |
| 承諾 | それを受け入れるという意思表示 |
| 成立 | 両者が合致した時 |
では、なぜ契約書を作るのか。
- 証拠として残すため 何を約束したかを後から確かめられる
- 内容を明確にするため 口頭では曖昧なまま進みがち
- 法令が求めているため 宅建業法は書面の交付を義務づけている
成立の要件ではありませんが、実務では書面なしに進めるべきではありません。
書面が要件となる例外
| 契約 | 要件 |
|---|---|
| 保証契約 | 書面でしなければ効力を生じない |
| 定期借地権(一般) | 公正証書等の書面による |
| 事業用定期借地権 | 公正証書によることを要する |
| 定期建物賃貸借 | 書面による契約と、事前の説明 |
これらは、方式を欠くと効力が生じません。
定期建物賃貸借で説明を怠れば、更新のない契約とする定めが無効になり、普通の賃貸借として扱われます。
いつ成立したかが争いになる
不動産の取引では、契約書の締結までに段階があります。
- 購入の申込み(申込書、買付証明書)
- 売主の承諾(売渡承諾書)
- 条件の交渉
- 重要事項説明
- 契約書の締結、手付の授受
どの時点で契約が成立したと見るかは、当事者の認識と、やりとりの内容によります。
買付証明書や売渡承諾書は、一般に契約を成立させる意思までは含まないものとして扱われることが多いとされます。
ただし、書面の名称ではなく、実質で判断されます。
| 避けるべきこと | 理由 |
|---|---|
| 口頭で「決まりですね」と伝える | 承諾と受け取られうる |
| 条件が固まる前に金銭を受け取る | 手付と見られる可能性 |
| 曖昧なまま工事や手配を進めさせる | 費用の負担が問題になる |
まだ成立していないなら、書面にその旨を明記してください。
意思表示に問題があるとき
合意があっても、その意思表示が正常でなければ、効力が否定されることがあります。
| 類型 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 錯誤 | 思い違いをしていた | 取消し |
| 詐欺 | だまされた | 取消し |
| 強迫 | おどされた | 取消し |
| 心裡留保 | 本心でないことを自分で分かって言った | 原則有効 |
| 通謀虚偽表示 | 相手と示し合わせて偽った | 無効 |
「そういうつもりではなかった」という主張です。
ただし、思い違いなら何でも取り消せるわけではありません。
- その錯誤が、契約の目的や取引の通念に照らして重要であること
- 動機の錯誤の場合、その事情が表示されていたこと
- 表意者に重大な過失がないこと(例外あり)
「駐車場が作れると思っていた」という動機は、それを相手に伝えていなければ主張しにくくなります。
実務では、買主の目的を契約書に書き込んでおくことで、後の争いを減らせます。
第三者との関係
取り消したり無効を主張したりできても、第三者との関係では制限があります。
詐欺による取消しは、善意でかつ過失のない第三者には対抗できません。
一方、強迫による取消しには、この制限がありません。
どこまで主張できるかは事案によります。具体的な判断は弁護士にご確認ください。
代理
本人ではなく代理人と交渉する場面は、実務で頻繁にあります。
| 確認すること | 方法 |
|---|---|
| 代理権があるか | 委任状 |
| 権限の範囲 | 売却まで含むか、交渉だけか |
| 本人の意思 | 本人に直接確認できるか |
| 本人確認 | 印鑑証明書、身分証 |
| 共有の場合 | 共有者全員の委任があるか |
代理人が権限を超えて行った契約は、原則として本人に効力が及びません。
本人が追認すれば有効になりますが、追認が得られなければ、契約は成立しなかったことになります。
相手方が代理権があると信じたことに正当な理由があるなど、一定の場合には本人が責任を負うことがあります。ただし、これに頼るべきではありません。
とくに高齢の所有者の代理では、本人の判断能力の状況にも注意が要ります。
成立した後 ── 履行されないとき
| 状況 | 内容 |
|---|---|
| 履行遅滞 | 期限が来たのに履行しない |
| 履行不能 | もはや履行できない |
| 不完全履行 | 履行したが、内容が不十分 |
これらの場合、相手方は次を求めることができます。
- 履行の請求 可能であれば
- 損害賠償 債務者の責めに帰すべき事由が要件となる場合がある
- 契約の解除 催告のうえで、または催告なしに
解除の要件と手続きは、別の記事で扱います。
売買契約を結んだ後、引渡し前に、当事者のどちらの責任でもない理由で建物が失われることがあります。火災、地震、水害。
この場合、買主は代金の支払いを拒むことができるとされています。
実務では、契約書に危険負担の定めを置くのが通常です。
- いつ危険が移転するか 引渡しの時とするのが一般的
- 滅失・毀損の場合の扱い
- 修補が可能な場合の負担
- 保険の付保
契約から引渡しまでの期間が長いほど、この定めが効いてきます。
不動産で使われる契約の型
| 型 | 内容 |
|---|---|
| 売買 | 財産権を移し、代金を支払う |
| 賃貸借 | 使用収益させ、賃料を支払う |
| 使用貸借 | 無償で使わせる。賃貸借より弱い |
| 請負 | 仕事の完成に対して報酬を払う |
| 委任 | 事務の処理を委ねる |
| 交換 | 財産権どうしを交換する |
親族間で「無償で貸している」という状態は、多くの場合使用貸借です。
借地借家法の保護は及びません。
- 期間や目的を定めていなければ、貸主はいつでも返還を求められる
- 借主が死亡すると終了する
- 第三者に対抗できない
相続や売却の場面で、突然問題になります。
調査では、「賃料を払っているか」を必ず確認してください。払っていなければ使用貸借の可能性があります。
- 契約が成立したのはいつか、当事者間で認識が一致している
- まだ成立していないなら、書面にその旨を明記した
- 買付証明書等の性質を、相手方に伝えた
- (定期借地・定期借家)方式の要件を満たした
- (定期建物賃貸借)事前の説明を書面で行った
- 買主の目的を契約書に記載した後の錯誤の争いを減らす
- (代理)委任状で権限の範囲を確認した
- (代理)本人に直接確認できるか検討した
- (共有)全員の委任があるか確認した
- 危険負担の定めを契約書に置いた
- 引渡しまでの期間と、保険の状況を確認した
- (無償の使用)賃料の有無を確認した使用貸借の可能性
まとめ
- 契約は口頭でも成立する。書面は原則として成立の要件ではない。
- 保証、定期借地権、定期建物賃貸借は例外。方式を欠くと効力が生じない。
- 成立の時期が争いになる。まだなら、書面にその旨を明記する。
- 動機の錯誤は、伝えていなければ主張しにくい。目的を契約書に書く。
- 無償で貸している状態は使用貸借。借地借家法の保護は及ばない。
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