農地所有適格法人 ── 法人が農地を持つための要件
- 法人が農地を所有するには、農地所有適格法人でなければならない
- 要件は四つ。法人形態・事業・議決権・役員
- 借りるだけなら、一般の法人でもできる。ここが実務上の分かれ目
- いずれの場合も、農地法3条の許可が必要になる
法人が農業に参入しようとするとき、最初に問題になるのが農地をどう確保するかです。
農地は、誰でも自由に買えるものではありません。個人でも法人でも、農地法による制限を受けます。
この記事では、法人が農地を持つ、または借りるための要件を整理します。
なぜ要件があるのか
農地法の出発点は、戦後の農地改革にあります。
不在地主の農地を国が買収し、実際に耕作している人に売り渡した。その成果が再び失われないよう、農地の権利移動を許可制としました。
基本にあるのは、実際に農業を行う者が農地を持つという考え方です。
したがって、法人が農地を所有する場合も、その法人が実質的に農業を営んでいることを確かめる仕組みが置かれています。
これが農地所有適格法人の要件です。
「農業生産法人」から名称が変わった
この制度は、かつて農業生産法人と呼ばれていました。
平成28年(2016年)の改正で、農地所有適格法人に名称が変更されています。
古い資料には旧名称が残っています。同じ制度を指していますが、要件は改正で緩和されている部分があります。
四つの要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 法人形態 | 株式会社(公開会社でないもの)、持分会社、農事組合法人 |
| 事業 | 主たる事業が農業(関連事業を含む)であること |
| 議決権 | 農業関係者が総議決権の過半数を占めること |
| 役員 | 役員の過半数が農業に常時従事する構成員であることほか |
株式会社であればよい、というものではありません。
株式に譲渡制限がない会社(公開会社)は、農地所有適格法人になれません。
株式が自由に流通すると、農業と関係のない者が支配権を持つおそれがあるためです。
| 形態 | 可否 |
|---|---|
| 株式会社(譲渡制限あり) | 可 |
| 株式会社(公開会社) | 不可 |
| 合同会社・合名会社・合資会社 | 可 |
| 農事組合法人 | 可 |
| 一般社団法人・NPO法人 | 不可 |
定款で株式の譲渡制限を定めているかを、必ず確認してください。
議決権要件
農業関係者が、総議決権の過半数を占める必要があります。
ここでいう農業関係者には、次のような者が含まれます。
- その法人の農業に常時従事する構成員
- その法人に農地を提供した者
- 農作業の委託を行っている者
- 農地中間管理機構、農業協同組合など
「社内で農業に関わっている人」という意味ではありません。出資者としての立場で判断します。
役員要件
| 内容 | |
|---|---|
| 一 | 役員の過半数が、農業に常時従事する構成員であること |
| 二 | 役員または重要な使用人のうち1人以上が、農作業に常時従事すること |
「2分の1以上」ではなく「過半数」です。役員が4人なら3人以上が該当する必要があります。
二つ目の要件は、経営だけでなく、実際に農作業を行う者が中枢にいることを求めるものです。
これらの要件は、農業への企業参入を促す方向で、段階的に緩和されてきました。
議決権の割合、役員の人数、常時従事の日数といった具体的な基準は、改正により変わることがあります。
実際に判断する場面では、農地法の条文と、農林水産省・農業委員会の資料で最新のものを確認してください。
この記事では、確認すべき項目の枠組みを示しています。
所有と賃借は違う
ここが実務上、最も重要な分かれ目です。
| 所有 | 賃借 | |
|---|---|---|
| 適格法人であること | 必要 | 不要 |
| 農地法3条の許可 | 必要 | 必要 |
| 参入の難易度 | 高い | 比較的低い |
平成21年(2009年)の農地法改正により、農地所有適格法人以外の法人でも、一定の条件のもとで農地を借りられるようになりました。
これにより、企業の農業参入が大きく進みました。
賃借の場合に求められること
- 適正に利用しない場合に、契約を解除する旨の定めがあること
- 地域における農業者と適切な役割分担のもとで、継続的・安定的に農業を行うこと
- 業務執行役員等のうち1人以上が、農業に常時従事すること
解除条件が付されるため、耕作を放棄すれば契約が終了します。
農地を「持つ」のではなく「使う」だけであれば、この方式で参入できます。
| 目的 | 向いている方式 |
|---|---|
| 長期的に農業を本業とする | 適格法人となって所有 |
| まず試験的に始めたい | 賃借 |
| 既存事業の一部として | 賃借 |
| 担保として資産にしたい | 所有(ただし要件を満たす必要) |
適格法人の要件を満たすには、株主構成や役員構成を組み替える必要があります。
既存の事業会社が、そのまま適格法人になれることは多くありません。
農地法3条の許可
所有・賃借のいずれの場合も、農地の権利を取得するには農業委員会の許可が必要です。
| 内容 | |
|---|---|
| 対象 | 所有権の移転、賃借権・使用貸借権の設定など |
| 許可権者 | 農業委員会 |
| 効果 | 許可を受けない契約は効力を生じない |
農地法3条の許可を受けずに締結した権利移動の契約は、効力を生じません。
「後で許可を取ればよい」という順序では進められません。
また、許可を受けていない状態では、所有権移転の登記もできません。
取引の設計では、許可を停止条件とする契約とし、許可後に決済するのが通常です。
農業委員会の総会は月に一度程度の開催が一般的です。申請の締切から許可までの期間を、工程に織り込んでください。
3条と4条・5条の違い
| 条文 | 場面 |
|---|---|
| 3条 | 農地を農地のまま、権利を移動する |
| 4条 | 自分の農地を、農地以外に転用する |
| 5条 | 転用のために、権利を移動する |
農業法人が農地を取得するのは3条、施設を建てるために取得するのは5条です。
目的によって、申請する条文が変わります。
実務での確認
法人が農地を取得するとき
| 確認すること | |
|---|---|
| 一 | その法人が農地所有適格法人か |
| 二 | 定款の目的に農業が含まれているか |
| 三 | 株式に譲渡制限があるか |
| 四 | 議決権と役員の構成 |
| 五 | 取得する農地が、農業振興地域内か |
| 六 | 3条の許可の見通しを、農業委員会に確認 |
農地を調査するとき
- 登記地目と現況 登記が「畑」でも現況が宅地の場合がある
- 農地台帳 農業委員会が管理している
- 農業振興地域・農用地区域の指定 農振除外が必要になる場合がある
- 市街化区域か調整区域か 市街化区域内の農地転用は届出
- 賃借権等の設定の有無
登記の地目が農地であれば、現況が農地でなくても農地法の規制を受けるのが原則です。
逆に、登記が「原野」でも現況が耕作されていれば、農地として扱われることがあります。
農地かどうかは、現況で判断されます。
ただし、登記の地目が農地のままだと、その解消に手続きが必要です。
「長年耕作していないから農地ではない」と自己判断せず、農業委員会に確認してください。
相談先
| 内容 | 相談先 |
|---|---|
| 農地の権利取得 | 農業委員会 |
| 適格法人の要件 | 農業委員会、都道府県の農政担当課 |
| 農振除外 | 市町村の農政担当課 |
| 法人の設立・変更 | 司法書士、行政書士 |
| 税務 | 税理士 |
| 農地の集積・集約 | 農地中間管理機構 |
- 所有するのか、借りるのかを整理した
- (所有)農地所有適格法人の四要件を確認した
- (所有)株式の譲渡制限を定款で確認した
- (所有)議決権における農業関係者の割合を確認した
- (所有)役員の過半数要件を確認した
- (賃借)解除条件付きの契約とする要件を確認した
- 農地法3条の許可を、契約の停止条件とした
- 農業委員会の総会の日程と、申請の締切を確認した
- 登記地目と現況を照合した
- 農地台帳を確認した
- 農用地区域内か確認した除外の要否
- 要件の詳細を、最新の資料で確認した
まとめ
- 法人が農地を所有するには、農地所有適格法人であることが必要。
- 要件は法人形態・事業・議決権・役員の四つ。公開会社は対象外。
- 役員要件は「過半数」。2分の1以上ではない。
- 借りるだけなら、一般の法人でも一定の条件のもとで可能。
- いずれも農地法3条の許可が必要。許可がなければ契約は効力を生じない。
行政書士 村上事務所では、農地法の許可申請と農振除外の申出をお引き受けしています。土地家屋調査士として測量・登記まで一貫して対応できます。
調査のご依頼前に、見通しをお伝えします。