歴史まちづくり法 ── 建物と、そこで続く営み
- 守る対象は建物だけではない。そこで続く人々の営みを含めて「歴史的風致」と捉える
- 三つの省が共管する。文化財・農林・まちづくりの三方向から支える
- 市町村が計画を作り、国が認定する。認定を受けると特例と支援が使える
- 文化財保護法や景観法と重ねて使う制度。単独では完結しない
城下町の町家が残っていても、そこで営まれていた商いや祭りがなくなれば、その場所の姿は変わります。
逆に、祭りが続いていても、その舞台となる街並みが失われれば同じことです。
建物と、そこで続く営みは、切り離せない。この考え方に立つのが歴史まちづくり法です。
「歴史的風致」という考え方
正式名称は地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律。平成20年(2008年)に制定されました。
この法律が定義する歴史的風致は、次の二つが一体となったものです。
| 内容 | |
|---|---|
| 人々の活動 | その地域固有の歴史と伝統を反映した営み |
| 建造物と市街地 | その活動が行われる、歴史上価値の高い建造物とその周辺 |
この二つが合わさって形成されてきた、良好な市街地の環境。これが歴史的風致です。
従来の制度は、建物や町並みという「もの」を対象にしてきました。
この法律は、そこで行われている祭礼、工芸の製造や販売、日々の暮らしまでを視野に入れます。
なぜ活動まで含めるのか
建物を保存しても、使う人がいなければ維持できません。
- 町家は残ったが、商いをやめて空き家になった
- 祭りの担い手が減り、続けられなくなった
- 工芸の職人がいなくなり、技術が途絶えた
- 建物だけが残り、観光の背景になった
「維持」だけでなく「向上」という語が法律名に入っているのは、この点に関わります。
現状を凍結するのではなく、営みが続いていくようにする。そのための整備や支援を行う制度です。
三つの省が共管する
この法律は、文部科学省・農林水産省・国土交通省が共同で所管しています。
| 省 | 関わる部分 |
|---|---|
| 文部科学省(文化庁) | 文化財の保存と活用 |
| 農林水産省 | 農村の風景、生業としての農林業 |
| 国土交通省 | まちづくり、都市計画、公園・道路の整備 |
歴史的風致は、この三つの領域にまたがります。
城下町であれば都市計画と文化財。農村集落であれば、農地や水路も風致の一部です。
市町村の側でも、教育委員会・都市計画部局・農政部局が連携する必要があります。
計画を作る段階で、庁内のどこが取りまとめるかを決めておかないと進みません。
計画と認定
| 内容 | |
|---|---|
| 基本方針 | 国が定める。全国的な観点からの指針 |
| 歴史的風致維持向上計画 | 市町村が作成する |
| 認定 | 国(三大臣)が認定する |
計画に定めること
- 歴史的風致の維持および向上に関する方針
- 重点区域の位置と区域
- 文化財の保存または活用に関する事項
- 歴史的風致維持向上施設の整備または管理に関する事項
- 歴史的風致形成建造物の指定の方針
- 計画期間
「何を守り、何を整備し、どう活かすか」を、区域を定めて具体的に書きます。
重点区域
重点区域は、どこにでも設定できるわけではありません。
重要文化財、重要有形民俗文化財、史跡名勝天然記念物、重要伝統的建造物群保存地区など、一定の文化財が所在する土地の区域と、その周辺が対象になります。
| 要件の考え方 | 内容 |
|---|---|
| 核となる文化財 | 国が指定・選定したものが区域内にある |
| その周辺 | 一体となって歴史的風致を形成している範囲 |
| 重点的な支援 | この区域に、施策と予算を集中させる |
つまり、文化財保護法による指定・選定が前提になります。
この法律だけで完結するのではなく、既存の制度の上に乗る形です。
使える特例と支援
| 内容 | 効果 |
|---|---|
| 交付金等による支援 | 施設の整備、建造物の修理などへの支援 |
| 歴史的風致形成建造物 | 市町村長が指定。増改築等に届出が必要になる |
| 文化財保護法の特例 | 登録有形文化財に関する手続きの円滑化 |
| 歴史的風致維持向上地区計画 | 都市計画に定め、建築物等を規制できる |
| 農地法等の特例 | 認定計画に基づく事業に関する手続き |
歴史的風致形成建造物
認定計画に基づき、市町村長が指定する建造物です。
| 内容 | |
|---|---|
| 対象 | 重点区域内の、歴史的風致を形成している建造物 |
| 効果 | 増築、改築、移転、除却に届出が必要 |
| 支援 | 修理などへの支援が受けられる場合がある |
歴史的風致形成建造物は、文化財保護法による指定・登録とは別の枠組みです。
文化財として指定されていない建物でも、歴史的風致を形成していれば指定できます。
これにより、個々には文化財と評価されない建物も、まちづくりの中で位置づけられます。
取引の際は、文化財の指定だけでなく、この指定の有無も確認してください。除却に届出が必要になります。
歴史的風致維持向上地区計画
都市計画法に基づく地区計画の一種です。
認定計画の区域について定め、建築物の用途、形態意匠、敷地の規模などを制限できます。
届出制の規制より強い効果を持たせたい場合に用いられます。
他の制度との使い分け
| 制度 | 守るもの | 性格 |
|---|---|---|
| 文化財保護法 | 個々の文化財 | 点で守る |
| 重要伝統的建造物群保存地区 | 町並み | 面で守る |
| 景観法 | 景観 | 面で守る(枠組みを地域が決める) |
| 歴史まちづくり法 | 建造物+人々の活動 | まちづくりとして整備・支援する |
いずれか一つを選ぶのではありません。
同じ地区に、重伝建の選定があり、景観計画の区域であり、歴史まちづくり法の重点区域でもあるという状態がありえます。
それぞれ根拠法も手続きも違うため、調査では一つずつ確認する必要があります。
使い分けの目安
- 建物を規制で守りたい → 文化財の指定、重伝建、景観地区
- 整備や修理に支援を得たい → 歴史まちづくり法の認定
- 活動や祭礼を続けられるようにしたい → 歴史まちづくり法
- 面的に、まちづくりとして進めたい → 歴史まちづくり法+他の制度
実務での確認
土地・建物を調査するとき
| 確認するもの | 影響 |
|---|---|
| 認定計画の有無 | その市町村が認定を受けているか |
| 重点区域の内か | 各種の施策・規制が集中する区域 |
| 歴史的風致形成建造物 | 増改築・除却に届出が必要 |
| 歴史的風致維持向上地区計画 | 都市計画による建築の制限 |
| 重なる他の規制 | 文化財、重伝建、景観、風致地区 |
窓口は、市町村の担当課です。教育委員会か、都市計画部局か、まちづくり担当か。市町村によって置かれている部署が異なります。
事業を検討するとき
歴史的な街並みの保全が、必ず不動産の価値を高めるとは限りません。
- 規制により、建てられる規模が制限される
- 修理に伝統的な工法が求められ、費用が増える
- 買い手の範囲が限られる
- 観光客が増えても、住民の負担が増える面がある
一方で、その街並みだからこそ成り立つ事業もあります。宿泊、飲食、工房、店舗。
「価値が上がる」と一般化せず、その物件で何ができるかを個別に検討してください。
市町村の立場から
- 核となる文化財があるか 重点区域の要件
- 庁内のどこが取りまとめるか 教育委員会と都市計画部局の連携
- 住民・事業者の理解
- 計画期間中に何を実施するか
- 認定後の実施体制と、継続の見通し
計画を作ること自体が目的にならないよう、実施する事業から逆算して組み立ててください。
- その市町村が認定計画を持っているか確認した
- 重点区域の内か確認した
- 歴史的風致形成建造物の指定を確認した除却にも届出が必要
- 歴史的風致維持向上地区計画の有無を確認した
- 重なる他の規制を確認した文化財・重伝建・景観・風致地区
- 窓口となる部署を確認した市町村により異なる
- (活用を検討)使える支援の内容と要件を確認した
- (活用を検討)修理の工法と費用を見込んだ
- 「価値が上がる」と一般化せず、個別に検討した
- (市町村)核となる文化財があるか確認した
- (市町村)庁内の取りまとめ部署を決めた
まとめ
- 守るのは建物だけでなく、そこで続く人々の営みを含む。これが「歴史的風致」。
- 文部科学省・農林水産省・国土交通省の三省が共管する。庁内の連携が要る。
- 重点区域には核となる文化財が必要。文化財保護法による指定・選定が前提になる。
- 歴史的風致形成建造物は、文化財の指定とは別。除却にも届出が必要。
- 他の制度と重ねて使う。一つ確認したら終わりではない。
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