民泊の法律と実務 ── 住宅宿泊事業法と旅館業法

この記事の要点
  • 「民泊」に一つの法律はない。住宅宿泊事業法・旅館業法・特区民泊の三つから選ぶ。
  • 住宅宿泊事業法は届出制。ただし年間180日が上限で、これは法律で決まっている。
  • 2026年7月、国が「ゼロ日規制」を容認した。条例で新規の実施を禁止できる。既存の届出住宅も対象になりうる。
  • 条例を定めるのは都道府県だが、保健所設置市の区域では、その市が定める。熊本市は熊本市の条例を見る。

「空き家を民泊にできませんか」と聞かれたとき、答えは「どの制度で行うかによる」になります。三つの制度があり、必要な手続きも、営業できる日数も、建てられる場所も違うためです。

そのうえで、2026年に前提が一つ変わりました。これまで国が認めていなかった「実質的な禁止」を、条例で行えるようになったことです。

この記事では、三つの制度の違い、180日の数え方、条例の見方、そして相談を受けたときに確かめる順序を整理します。

「民泊」という法律はない

民泊は通称です。住宅に人を泊めて宿泊料を受け取る行為を、どの法律の枠で行うかによって、三つに分かれます。

住宅宿泊事業法旅館業法(簡易宿所など)特区民泊
手続き届出許可認定
年間の営業日数180日以内制限なし制限なし
最低宿泊日数定めなし定めなし2泊3日以上
住居専用地域可(条例で制限されうる)不可実施自治体による
使える場所全国全国国家戦略特区のみ
熊本県内に特区民泊はない

特区民泊は、国家戦略特別区域として指定され、かつ自治体が条例を定めた区域でのみ行えます。熊本県内でこの制度を使うことはできません。実務上の選択肢は、住宅宿泊事業法か旅館業法の二つです。

住宅宿泊事業法 ── 何を「住宅」と呼ぶか

この制度は、あくまで住宅を使うことが前提です。法律は「住宅」を次のように定めています。

まず設備として、台所、浴室、便所、洗面設備その他その家屋を生活の本拠として使うために必要なものが備わっていること(第2条第1項第1号)。

そのうえで、現に人の生活の本拠として使われているか、入居者の募集が行われているか、随時所有者等が居住している家屋であること。この三つのどれにも当たらない建物は、そもそも届出ができません。

相談の入口で確認すること

「使っていない空き家がある」という相談は、この時点で止まることがあります。設備が抜けている、あるいは住宅としての実態がない場合です。この場合は旅館業法の側で検討することになり、話が大きく変わります。

180日の数え方

住宅宿泊事業とは、人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないものをいう、と定義されています(第2条第3項)。180日は運用上の目安ではなく、これを超えた時点で、その事業は住宅宿泊事業ではなくなります。

1年の区切りは4月1日正午

この「1年間」は暦年でも年度でもありません。毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までで数えます。届出住宅ごとの算定です。

収支を組むときに、ここを暦年で計算すると合わなくなります。

また、住宅宿泊事業者には2か月ごとの宿泊日数等の報告が義務づけられています。届出をして終わりではありません。

家主居住型と家主不在型

事業者が同じ建物に居住しているかどうかで、義務が変わります。

  • 家主居住型 衛生の確保、騒音防止の説明、苦情対応などを事業者自身が行う
  • 家主不在型 住宅宿泊管理業者への委託が義務。管理業者は国土交通大臣の登録が必要(第22条第1項)

投資として検討される場合、ほぼ家主不在型になります。管理委託費が固定費として乗ることを、最初の収支に入れておく必要があります。

2026年、条例の扱いが変わった

住宅宿泊事業法第18条は、条例による制限を次のように定めています。

都道府県(保健所設置市等の区域にあっては、当該保健所設置市等)は、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより、区域を定めて、住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができる

論点は「合理的に必要と認められる限度」の解釈でした。制限をゼロ日まで、つまり実質的な禁止まで行ってよいのか。国はこれまで、それは限度を超えるという立場をとっていました。

2026年7月15日、国が方針を転換した

観光庁・国土交通省・厚生労働省は連名で、「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」を発出しました。

自治体の判断で合理的に必要と認められる限度において、新たな民泊の実施の禁止や営業日数の制限といった立地規制が可能である、という内容です。

さらに、すでに弊害が生じている地域では、新規参入の防止だけでなく、既存の民泊に対する制限も可能とされています。

条例で課しうるものが広がった

同じ通知では、次のようなものも条例で義務づけうるとされています。

  • ICTを用いた管理 騒音計や出入口のカメラによるモニタリング、一定期間のデータ保存
  • チェックイン・チェックアウトの時間の制限
  • 施設の定員数の制限

設備投資と運営コストに直接跳ね返ります。条例を見ずに収支を組むことは、もうできません。

どこの条例を見るのか

第18条の括弧書きが実務では効きます。条例を定めるのは都道府県ですが、保健所設置市等の区域では、その市が定めます。

熊本市内の物件であれば、熊本県の条例ではなく熊本市を見ることになります。届出の窓口も同じ考え方で分かれます。県内の他の市町村であれば、県の窓口(薬務衛生課)です。

条例は動く。過去の資料で判断しない

2026年7月の通知を受けて、条例を新設・改正する自治体が出ることが見込まれます。数か月前の資料や、他県の事例をそのまま当てはめないでください。

制限の有無と内容は、その時点で自治体に直接確認する以外に確かめる方法がありません。

旅館業法を選ぶ場合

180日では収支が合わない、通年で営業したい。そういう場合は旅館業法の許可を取ることになります。日数の制限はありません。

ただし、越えるべき壁が三つあります。

用途地域

ホテル・旅館は、用途地域によって建てられない地域があります。住居系の用途地域の一部では、規模にかかわらず建てられません。

住宅宿泊事業なら住居専用地域でも実施できるのに対し、旅館業ではここで止まります。この差が、制度を選ぶ最初の分岐点になることが多いです。

市街化調整区域では、さらに開発許可の問題が加わります。

用途変更

住宅を宿泊施設にすることは、建築基準法上の用途の変更にあたります。一定規模を超えると確認申請が必要になり、耐火性能、避難施設、採光・換気などを適合させる義務が生じます。

確認申請が不要な規模であっても、適合させる義務そのものは残ります。該当するかどうかは、特定行政庁または指定確認検査機関に確認してください。

消防

宿泊施設は、不特定多数が利用し、就寝を伴います。住宅とは求められる設備が違います。自動火災報知設備、誘導灯、消火器、規模によってはスプリンクラー設備。

改装費の見積りが大きく動くのは、たいていここです。物件を決める前に、消防署に相談してください。

相談を受けたときの順序

「この物件で民泊はできますか」に答えるとき、確かめる順序があります。順序を間違えると、無駄な調査をすることになります。

  1. 用途地域と区域区分 旅館業が使えるかどうかがここで決まる
  2. その市町村の条例 住宅宿泊事業が禁止・制限されていないか
  3. 建物が「住宅」に当たるか 設備と、居住の実態
  4. 区分所有なら管理規約 禁止されていれば、そこで終わる
  5. 建築と消防 用途変更の要否と、必要な設備
  6. 収支 180日か通年か、管理委託費を入れて

1と2で結論が出ることが、かなりあります。先に建物を見に行かないことです。

検討するときのチェックリスト
  • 用途地域を確認した旅館業が使える地域か
  • 市街化調整区域でないか確認した
  • その市町村の条例を確認した熊本市内なら熊本市の条例
  • 条例の内容を、直近の時点で自治体に確認した
  • 建物が法律上の「住宅」に当たるか確認した台所・浴室・便所・洗面設備
  • 居住の実態、または入居募集の実態があるか確認した
  • 区分所有なら管理規約を確認した
  • 家主居住型か家主不在型かを決めた
  • (家主不在型)管理業者への委託費を収支に入れた
  • 180日を4月1日正午起算で数えた暦年で計算していない
  • 2か月ごとの報告義務を織り込んだ
  • 用途変更の要否を、特定行政庁または指定確認検査機関に確認した
  • 消防署に相談した必要な設備と概算
  • ICT管理や定員制限が条例で課されないか確認した
  • 物件を決める前に、自治体・建築・消防に相談した

まとめ

  • 「民泊」は通称。住宅宿泊事業法・旅館業法・特区民泊の三つがあり、熊本県内で使えるのは前の二つ。
  • 住宅宿泊事業法は届出制だが、年間180日が法律上の上限。1年の区切りは4月1日正午。
  • 2026年7月15日の通知で、条例による実質的な禁止(ゼロ日規制)を国が容認した。既存の届出住宅も対象になりうる。
  • 条例を定めるのは、保健所設置市の区域ではその市。熊本市内なら熊本市を見る。
  • 旅館業法を選ぶなら、用途地域・用途変更・消防の三つが壁になる。改装費の大半はここに関わる。
  • 確かめる順序は、用途地域と条例が先。建物を見に行くのは、そのあとでよい。

制度の骨格は法律で決まっていますが、実際に営業できるかどうかは、その市町村の条例で決まる度合いが強くなりました。物件ごと、時点ごとに確認してください。

本記事は、住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号)の条文、観光庁「民泊制度ポータルサイト」の解説、および観光庁・国土交通省・厚生労働省が令和8年7月15日に発出した「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」の報道発表に基づいて構成しています。個別の案件については、所管の自治体および各専門家にご確認ください。

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