CHIOU / 株式会社地央

売主の告知義務 ── どこまで伝える必要があるか

この記事の要点
  • 義務は二つある。売主の告知義務と、業者の不告知の禁止。根拠も相手も違う
  • 免責特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実には及ばない(民法572条)
  • 業者が故意に告げなければ、宅建業法47条違反。監督処分と罰則の対象になる
  • 人の死については国土交通省のガイドラインがある。判断に迷う分野なので、必ず参照する

「この物件、以前に雨漏りしていたそうです」と売主から聞いた。買主には伝えるべきか。伝えるとして、どこまで書くのか。売主が「言わないでほしい」と言ったら、どうするのか。

ここで整理しておくべきなのは、義務が二つ、別々に存在するということです。売主が買主に対して負う義務と、業者が買主に対して負う義務。根拠となる法律も、違反したときの効果も違います。

この記事では、二つの義務の違い、告げるべき事実の範囲、そして売主からどう聞き取って記録するかを扱います。

義務は二つある

売主の告知義務 業者の不告知の禁止
根拠 民法(契約不適合責任、信義則上の説明義務) 宅地建物取引業法第47条第1号
相手 買主 買主・売主(取引の相手方等)
違反の効果 損害賠償、契約の解除など 監督処分、罰則
免責の可否 特約で免責できる場合がある 免責できない
売主が免責されても、業者は免責されない

中古住宅では「売主は契約不適合責任を負わない」という特約が付くことがあります。しかしこの特約は、業者の義務には何の関係もありません。

業者が重要な事実を知りながら故意に告げなかった場合、宅建業法第47条第1号違反となり、監督処分の対象になります。売主が免責されているから業者も安心、ということはありません。

売主の告知義務

契約不適合責任として

引き渡された物件が契約の内容に適合しない場合、売主は責任を負います。雨漏り、シロアリ、給排水管の不具合。これらは契約不適合に当たりえます。

免責特約の限界

個人が売主の場合、「契約不適合責任を負わない」という特約を付けることができます。ただし限界があります。

民法第572条

担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても、売主が知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができません。

「免責特約があるから言わなくていい」は成り立ちません。むしろ逆で、免責特約を付けるからこそ、知っている事実は残さず告げてもらう必要があります。告げたうえで免責するなら有効ですが、隠したまま免責しても効きません。

業者の不告知の禁止

宅地建物取引業法第47条第1号は、宅建業者が業務に関して、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについて、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を禁じています。

重要事項説明との関係

第35条の重要事項説明は、列挙された事項を説明する義務です。第47条は、知っていることを隠してはならないという禁止です。役割が違います。

したがって、35条の法定事項に含まれていなくても、47条違反になりえます。「書式に欄がなかった」は理由になりません。

「知らなかった」場合はどうか

第47条は「故意に」告げないことを禁じています。知らなかった事実については、この条文の違反にはなりません。

ただし、調査すべきだったのに調査を怠った場合は、別途、専門家としての注意義務違反を問われることがあります。「知らなかった」で済ませるには、相応の調査をしたうえで分からなかった、という前提が要ります。

告げるべき事実の範囲

実務でよく問題になるものを、四つに整理します。

一 物理的な事情

項目 聞き取ること
雨漏り 過去の発生箇所、時期、修繕の有無と内容
シロアリ 被害の有無、駆除の時期、保証の残存
給排水管 漏水・詰まりの履歴、更新の有無
構造 傾き、基礎のひび割れ、腐食
建物の損傷 火災、地震、浸水による被害と修繕
地盤 沈下の有無、地盤調査・改良の記録
有害物質 アスベスト、土壌汚染の調査記録
地下埋設物 古井戸、浄化槽、旧建物の基礎、産業廃棄物

二 権利関係の事情

  • 境界をめぐる紛争、越境の有無と覚書
  • 私道の通行・掘削承諾の有無
  • 差押えの可能性、税金の滞納
  • 第三者による敷地の利用と、その承諾

三 環境的な事情

  • 近隣の騒音、振動、臭気
  • 近隣の建築計画、日照への影響
  • 周辺の施設(嫌悪施設と受け取られうるもの)
  • 近隣とのトラブルの履歴

四 心理的な事情

過去に人の死があった物件について、どこまで告げるべきか。判断が難しい分野なので、国土交通省のガイドラインを参照します。

人の死の告知に関するガイドライン

国土交通省が公表している「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」の考え方です。

  • 自然死や、日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)は、原則として告げなくてよい
  • ただし、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は告げる
  • 他殺、自死、特殊清掃等を要した事案は告げる
  • 隣接住戸や、日常生活で通常使用しない共用部分での事案は、原則として告げなくてよい
  • 買主・借主から問われた場合や、その者にとって重要と考えられる場合は、告げる

賃貸については、特殊清掃等を要した事案でも概ね3年が経過すれば告げなくてよいとされていますが、売買については一律の期間が示されていません。判断に迷う場合は、告げる方向で検討してください。

売主からどう聞き取るか

書面で申告してもらう

口頭のやり取りだけにしないでください。物件状況等報告書(告知書)と設備表を売主に記入してもらいます。

この書面は二つの役割を持ちます。売主に思い出してもらうきっかけになること、そして「聞いた/聞いていない」の争いを防ぐことです。

「ない」に丸を付けさせない

項目を読み上げて確認する

告知書を渡して「書いておいてください」で終わらせると、ほとんどの項目に「無」が付いて返ってきます。売主に悪意がなくても、忘れていること、そもそも問題だと認識していないことがあります。

項目を一つずつ読み上げ、具体的に聞いてください。「雨漏りはありませんか」ではなく、「天井にシミが出たことはありませんか」「台風のあとに水が入ったことは」と、場面を挙げて聞くと出てきます。

売主が「言わないでほしい」と言ったら

そのまま黙ることはできません。業者が知った以上、故意に告げなければ第47条違反です。

売主には、次のように説明します。

  • 告げないまま契約すると、後から契約不適合責任や損害賠償を問われる可能性がある
  • 免責特約を付けても、知りながら告げなかった事実には及ばない(民法572条)
  • 告げたうえで、その分を価格や条件に反映させるほうが、結果的に売主の利益になる

それでも応じない場合は、媒介の継続そのものを検討することになります。

記録の残し方

  • 告知書・設備表は売主の記名押印を得て保管する
  • 聞き取りの日時と、誰が誰に聞いたかを記録する
  • 「売主によれば」と出所を明示して重要事項説明書に反映する
  • 買主へ説明した日時と、質疑の内容を記録する
実務チェックリスト
  • 物件状況等報告書(告知書)を売主に記入してもらった口頭だけにしない
  • 設備表を記入してもらった設備の有無と、故障・不具合の別
  • 項目を読み上げて、具体的な場面を挙げて聞き取った「無」の一括記入を避ける
  • 雨漏り・シロアリ・給排水管・傾きの履歴を確認した
  • 火災・地震・浸水による被害と修繕の履歴を確認した
  • 地盤調査・地盤改良の記録を確認した
  • 地下埋設物の有無を確認した古井戸・浄化槽・旧基礎
  • 境界紛争・越境・覚書の有無を確認した
  • 私道の通行・掘削承諾の有無を確認した
  • 税金の滞納・差押えの可能性を確認した
  • 近隣とのトラブル、騒音・臭気の有無を確認した
  • 人の死に関する事案の有無を確認した国交省ガイドラインを参照して判断
  • 売主から聞いた内容を「売主によれば」と明示して重説に反映した
  • 聞き取りの日時・当事者を記録した
  • 買主への説明の日時と質疑を記録した

まとめ

  • 義務は二つ。売主の告知義務(民法)と、業者の不告知の禁止(宅建業法47条)。根拠も効果も違う。
  • 免責特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実には及ばない(民法572条)。
  • 35条の法定事項に含まれていなくても、47条違反になりうる。「書式に欄がなかった」は理由にならない。
  • 告知書は渡して終わりにせず、項目を読み上げて具体的に聞き取る。
  • 人の死については国交省のガイドラインを参照する。売買では一律の期間が示されていない。
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