子育てと高齢化 ── 求めるものは、重なっている
- 子育て世帯と高齢者は、求めるものが重なる
- 施設への転用は用途変更と消防法が壁になる
- 同じ「保育」でも認可の有無で建物の要件が違う
- 交流の場ができても、地価が上がるとは限らない
子どもが減り、高齢者が増える。この二つは、別々の問題として扱われがちです。
しかし、住まいの側から見ると求めるものはかなり重なります。
この記事では、その重なりと、施設をつくるときの手続きを整理します。
求めるものが重なる
| 条件 | 子育て世帯 | 高齢者 |
|---|---|---|
| 段差がない | ベビーカー | 車椅子、杖 |
| 歩道の幅 | 並んで歩く、手をつなぐ | すれ違い、休む場所 |
| 近さ | 買い物、園、小児科 | 買い物、通院 |
| 車がなくても | 免許を持たない親 | 返納後の生活 |
| 安全 | 通学路の交通量 | 転倒しにくい路面 |
| 目がある | 見守り | 異変への気づき |
どちらにとっても、鍵は「歩ける距離に何があるか」です。
車を前提にした郊外の住宅地は、この二つの層に最も厳しい環境になります。
免許を返した高齢者と、免許のない親。どちらも移動できなくなります。
施設の配置で決まる
立地適正化計画で誘導施設を定める際、次のようなものが対象になります。
- 子育て支援施設、保育所
- 診療所、病院
- 高齢者福祉施設
- スーパー、金融機関
- 図書館、公民館
これらが誘導区域に集まれば、両方の層にとって暮らしやすくなります。
逆に、区域の外に住み続ける人には不便が増えます。その扱いが、計画の難しいところです。
建物を転用するとき
空き家や空き店舗を施設にする場合、建築基準法上の用途変更が必要になることがあります。
| 確認すること | |
|---|---|
| 現在の用途 | 検査済証と、実際の使われ方 |
| 変更後の用途 | 特殊建築物に該当するか |
| 規模 | 一定の面積を超えると確認申請が要る |
| 用途地域 | その用途が建てられる地域か |
| 既存不適格 | 現行基準に適合させる必要が生じうる |
とくに最後が費用に効きます。
古い建物は、耐震・防火・避難の基準が現行と違います。用途を変えることで、その差を埋める工事が必要になる場合があります。
設計に入る前に、特定行政庁と消防署へ相談してください。
消防設備
就寝を伴う施設、自力で避難が困難な人が使う施設では、求められる水準が上がります。
- 自動火災報知設備
- スプリンクラー 用途と規模による
- 誘導灯、避難経路の確保
- 防火管理者の選任
- 消防用設備等の点検と報告
高齢者施設は、この要件が厳しい類型に入ります。
古い木造家屋への設置費用は小さくありません。事業が成り立つかを左右します。
同じ名前でも、要件が違う
| 類型 | 性格 |
|---|---|
| 認可保育所 | 設備・運営の基準がある。面積、採光、避難 |
| 認可外保育施設 | 指導監督基準。届出が要る |
| 小規模保育事業 | 定員が少ない類型。基準が別 |
| 家庭的保育 | 居宅等で行う |
| 企業主導型 | 制度が別 |
どの類型でやるかによって、建物に求められるものが変わります。
「保育所にしたい」という相談だけでは、必要な条件が決まりません。
高齢者向けも同様です。
- 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設
- サービス付き高齢者向け住宅 登録制度がある
- 有料老人ホーム 届出
- グループホーム
- デイサービス
それぞれ根拠となる法令と、所管する部局が違います。
物件を探す段階で、どの類型を想定しているか確かめてください。
多世代が使う施設
高齢者と子どもが同じ建物を使う形も試みられています。
- それぞれの用途の基準を、両方満たす必要がありうる
- 消防法上の用途判定が複雑になる
- 所管する部局が複数にまたがる
- 補助制度も別々
- 事故が起きたときの責任の所在
「良い取組み」として紹介されますが、手続きは簡単ではありません。
関係する部局を最初に洗い出し、同席の場で相談してください。順に回ると、後の部局の指摘で前提が崩れます。
住まいの側から
| 子育て世帯 | 高齢者 | |
|---|---|---|
| 住宅の広さ | 子の成長で必要になる | 広すぎると管理が負担 |
| 賃貸の入りにくさ | 子の年齢・人数で断られる | 年齢を理由に断られる |
| 階段 | ベビーカーの上げ下ろし | 上れなくなる |
| 保証人 | 用意しやすい | 見つけにくい |
広すぎる家に一人で住む高齢者と、狭くて困っている子育て世帯。
住まいの需要は、ちょうど入れ替わりうる関係にあります。
ただし、実際には動きません。
- 住み慣れた家を離れたくない
- 引っ越し先で借りられるか不安
- 費用がかかる
- 手続きが分からない
- 家財の整理ができない
制度としては、高齢者の住み替えを支える仕組みがあります。
住宅セーフティネット法に基づく登録住宅、居住支援法人による支援。その市町村で使えるものを確認してください。
価値との関係を、断定しない
「子育て支援施設ができるので、この地域は値上がりします」
こうした説明は避けてください。
| 上がる方向 | 下がる方向 |
|---|---|
| 利便性が増す | 送迎の車が増え、道が混む |
| 子育て世帯が集まる | 騒音を嫌う層は避ける |
| 地域の評判 | 施設の性格によっては忌避される |
どちらに転ぶかは、その施設の規模、位置、周辺の状況によります。
示すのは、こういう計画があるという事実と、その出典です。
将来の価格を示唆する説明は、宅地建物取引業者として避けるべきものです。
不動産業者にできること
| できること | 内容 |
|---|---|
| 物件の見立て | その用途に転用できるか、いくらかかるか |
| 法令の確認 | 用途地域、用途変更、消防 |
| 所有者との調整 | 相続未了、共有の整理 |
| 賃貸借の設計 | 期間、原状回復、造作 |
| 関係機関への同行 | 事前相談に立ち会う |
| 住まいの相談 | 高齢者・子育て世帯が借りられる物件 |
最後の項目が、日常の業務で最も効きます。
年齢や子どもの有無を理由に入居を断られる例は、いまも多くあります。
貸主の不安の中身を聞き、制度や保証で埋められる部分を示す。それが仲介の役割です。
- どの類型で行うか確認した認可の有無で要件が違う
- 用途地域で、その用途が可能か確認した
- 用途変更の確認申請の要否を確認した
- 検査済証の有無を確認した
- 既存不適格の是正が必要か確認した
- 消防署に事前相談した
- スプリンクラー等の要否と費用を確認した
- (多用途)関係部局を洗い出し、同席で相談した
- 所管する部局と根拠法令を確認した
- 補助制度を、着手前に確認した
- 将来の地価について断定していない
- (住まいの相談)貸主の不安の中身を聞いた
- (住まいの相談)使える制度を確認した
まとめ
- 子育て世帯と高齢者は、求めるものが重なる。鍵は歩ける距離。
- 転用には用途変更と消防設備。古い建物ほど差が大きい。
- 同じ「保育」でも認可の有無で建物への要求が変わる。
- 多世代で使う施設は、複数の基準と部局にまたがる。
- 施設ができても地価が上がるとは限らない。断定しない。
自治体職員、専門職団体、事業者の皆様向けにお引き受けしています。転用の手続きと、確認の順序をお話しします。
構成のご提案とお見積りまで、費用はかかりません。