ウォーカブルなまちづくり ── 道路空間を、どう使い直すか
- 「歩きたくなる」は政策になっている。制度が用意されている
- 道路空間を使い直すには、道路管理者・警察・沿道の合意が要る
- 最大の課題は誰が担い、誰が費用を負担するか
- 賑わいと地価の関係は断定できない。事実として計画を伝える
広い車道の脇に、狭い歩道。日本の多くの市街地は、この形で整備されてきました。
いま、その配分を見直す動きがあります。車のための空間を減らし、人が滞在できる空間に変える。
この記事では、それを支える制度と、実務での論点を整理します。
なぜ政策になったのか
従来の道路整備は、いかに速く、多くの車を通すかを基準にしてきました。
しかし、中心市街地の課題は変わりました。
| かつて | いま |
|---|---|
| 交通量が増え、渋滞する | 人が集まらず、店が減る |
| 道路の容量が足りない | 車道は広いが、人が歩いていない |
| 郊外へ広がる | 中心部の機能をどう維持するか |
通過する場所ではなく、滞在する場所にする。
この方向を制度として後押しするのが、近年のウォーカブルに関する施策です。
制度の枠組み
滞在快適性等向上区域
令和2年(2020年)の都市再生特別措置法の改正で設けられた仕組みです。
| 内容 | |
|---|---|
| 定める場所 | 立地適正化計画 |
| 対象 | 都市機能誘導区域内で、滞在の快適性を高める区域 |
| 通称 | まちなかウォーカブル区域 |
| 効果 | 関連する事業や、占用の特例につながる |
立地適正化計画に位置づけることが前提です。
計画を策定していない市町村では、この仕組みを使えません。
歩行者利便増進道路
同じ令和2年に、道路法も改正されました。
道路管理者が、歩行者の利便増進を図る道路として指定する制度です。通称は「ほこみち」。
| 内容 | |
|---|---|
| 指定 | 道路管理者 |
| 歩行者利便増進施設等 | ベンチ、テーブル、広告塔、飲食の提供に用いる施設など |
| 占用の特例 | 公募により占用者を決め、長期の占用を認めうる |
従来、道路上に恒常的にテーブルや椅子を置くことは、占用の許可が下りにくい行為でした。
この制度により、道路空間で「滞在する」ことを前提とした運用が可能になりました。
ただし、道路管理者が指定した区間に限られます。
都市利便増進協定
地域の関係者が、広場やベンチ、街灯といった施設の整備・管理について協定を結ぶ仕組みです。
市町村長の認定を受けることで、継続的な管理の枠組みとして位置づけられます。
道路空間を使い直す手順
車道を減らして歩行空間にする。これを実現するには、複数の関係者の合意が必要です。
| 相手 | 関わる点 |
|---|---|
| 道路管理者 | 道路の構造、占用の許可 |
| 交通管理者(警察) | 交通規制、安全性 |
| 沿道の店舗・住民 | 荷捌き、来客の駐車、日常の出入り |
| 交通事業者 | バス路線、停留所の位置 |
| 周辺の住民 | 迂回による交通量の変化 |
とくに沿道の事業者は、直接の影響を受けます。
- 車で来る客が減るのではないか
- 商品の搬入はどうするのか
- 工事期間中の売上は
これらに答えられなければ、賛同は得られません。
社会実験という進め方
いきなり恒久的に変えるのではなく、期間を限って試す方法が用いられます。
| 内容 | |
|---|---|
| 目的 | 効果と影響を、実際に確かめる |
| 期間 | 数日から数か月 |
| 確認すること | 歩行者数、滞在時間、交通への影響、沿道の売上 |
| 意義 | 反対する側も、実際を見て判断できる |
「やってみて、駄目なら戻す」という形にすることで、着手のハードルが下がります。
実験の結果は、数値で記録してください。感想だけでは、次の判断につながりません。
熊本市の取組み
熊本市では、中心部の道路空間の再配分が進められています。
| 場所 | 内容 |
|---|---|
| 花畑広場 | 車道を廃し、広場として整備 |
| シンボルプロムナード | 桜町から熊本城へつながる歩行空間 |
| 辛島公園周辺 | 社会実験を経た歩行者空間化 |
熊本市の取組みには、熊本城という資源との接続という軸があります。
城を訪れた人が、そのまま市街地へ歩いて回遊する。その動線を、歩いて快適な空間として整えていく。
「歩きたくなる」を目的そのものにするのではなく、回遊と滞在の手段として位置づけていると見ることができます。
個々の事業の内容と進捗は、熊本市が公表する資料で確認してください。
最大の課題
整備した後、その空間を誰が使いこなし、誰が維持するのか。
ここが最も難しい部分です。
| 必要なこと | 誰が |
|---|---|
| 日常の清掃・管理 | 行政か、地域の団体か |
| イベントの企画・運営 | 継続できる主体が要る |
| 施設の更新 | 数年後、誰が費用を出すか |
| 利用調整 | 誰が、どういう基準で使用を認めるか |
広場ができた直後は、イベントが行われ、賑わいが生まれます。
問題はその後です。担い手が疲弊し、予算が縮小すると、単なる空き地に戻ります。
まちづくり会社、商店街組織、エリアマネジメント団体。継続できる主体をどう作るかが、整備と同じかそれ以上に重要です。
収益を生む仕組み
維持管理の費用を賄うため、空間から収益を生む仕組みが検討されます。
- 占用による使用料 ほこみちの制度が想定するもの
- イベントの出店料
- 広告
- 沿道からの拠出 受益に応じた負担
ただし、収益が上がるほどの人通りがある場所は限られます。
地方都市の中心部では、この前提が成り立たないことがあります。
地価との関係
「歩きたくなる街になれば地価が上がる」という説明は、因果を単純化しています。
実際には、次の要素が絡みます。
- もともとの人口と商圏の規模
- 公共交通の状況
- 沿道にどういう店舗があるか
- 周辺の開発の動き
- 景気と金利
整備しただけで人が来るわけではありません。
また、賑わいが生まれても、それが地価に反映されるまでには時間がかかります。反映されないこともあります。
顧客への説明では、「こういう整備が行われている」という事実にとどめてください。
将来の価格を示唆する説明は、宅地建物取引業者として避けるべきものです。
物件調査で見るもの
| 確認するもの | 影響 |
|---|---|
| 歩行者専用道路の指定 | 車両の通行が制限される |
| 時間帯による交通規制 | 荷捌き、来客の車 |
| 道路占用の状況 | 沿道でテラス等を出せるか |
| 社会実験の予定 | 一時的に通行が変わる |
| 再配分の計画 | 将来、車道が狭くなる可能性 |
| 地区計画・協定 | 建物の用途や外観の制限 |
歩行者空間化は、その場所へ車で行けなくなることを意味する場合があります。
店舗や事務所であれば、次を確認してください。
- 搬入・搬出の経路と、可能な時間帯
- 来客用の駐車場の確保
- タクシーの乗降が可能か
- 緊急車両の進入
- 引越しの際の車両の扱い
「歩きやすくなった」ことが、その用途にとって有利とは限りません。
説明するとき
| 避けるべき言い方 | 適切な言い方 |
|---|---|
| 「歩きやすい街なので価値が上がります」 | 「こういう整備が行われています。今後の見通しは要因次第です」 |
| 「賑わっているので安心です」 | 「現在の人通りはこうです。維持の体制も確認しましょう」 |
| 「歩行者空間化で便利になります」 | 「車の出入りに制限がかかります。用途に合うか確認しましょう」 |
- 立地適正化計画の有無を確認した
- 滞在快適性等向上区域の指定を確認した
- 歩行者利便増進道路の指定を確認した
- 都市利便増進協定の有無を確認した
- 歩行者専用道路・時間帯規制を確認した
- 搬入・搬出の経路と時間帯を確認した
- 来客用の駐車場を確認した
- 道路占用の可否を確認したテラス等
- 社会実験や再配分の計画を確認した
- (事業を検討)担い手と維持管理の体制を確認した
- (事業を検討)沿道の合意の状況を確認した
- 将来の地価について断定していない
まとめ
- 「歩きたくなる」は政策になっている。都市再生特別措置法と道路法に制度がある。
- 滞在快適性等向上区域は、立地適正化計画に定める。計画がなければ使えない。
- ほこみちの指定により、道路空間で滞在を前提とした運用が可能になる。
- 道路空間の再配分には、道路管理者・警察・沿道の合意が要る。
- 最大の課題は、整備の後を誰が担い、誰が負担するか。
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