不動産契約の解除 ── 手付・違約金・契約不適合
- 解除には二つのルートがある。相手の違反による解除と、自分の都合による手付解除
- 相手の違反を理由に解除するには、自分が履行の提供をしていることが前提。ここを飛ばすと解除が無効になる
- 原則は催告してから。ただし履行不能・明確な拒絶のときは催告なしで解除できる
- 違約金は宅建業者が自ら売主なら代金の20%が上限(宅建業法38条)
「代金を払ってくれないので、契約を解除します」。この一文を送る前に、確認すべきことがあります。
自分の側は、引渡しと登記の準備が整っているか。整っていなければ、相手から「そちらこそ準備ができていない」と返され、解除が無効になります。相手の違反を責める前に、自分が果たすべきことを果たしているか。ここが実務の分かれ目です。
この記事では、解除の二つのルート、解除するための要件、そして解除後に何が起きるかを扱います。手付解除の基本は売買契約の記事でも触れました。
解除には二つのルートがある
| 違約解除(債務不履行解除) | 手付解除 | |
|---|---|---|
| 理由 | 相手が約束を守らない | 自分の都合 |
| 相手の責任 | ある | ない |
| 根拠 | 民法541条・542条 | 民法557条 |
| 手続き | 原則として催告が必要 | 手付の放棄または倍額の現実の提供 |
| 期限 | 特になし | 相手が履行に着手するまで |
| 損害賠償 | 請求できる | できない |
この二つは、原因も手続きも効果も違います。相談を受けたら、まずどちらの話なのかを確認してください。
違約解除の要件
大前提 自分が履行の提供をしていること
売買契約では、代金の支払いと、引渡し・所有権移転が同時に行われるべき関係にあります(民法533条)。
したがって、売主が登記書類も用意していないのに「代金を払わないから解除する」と通知しても、買主から「そちらの準備ができていない」と反論され、解除は認められません。
先に自分が履行の提供をして、相手の反論を封じる。この順序を踏んでください。
売主側の履行の提供とは、具体的には次の状態を作ることです。
- 登記識別情報(または権利証)、実印、印鑑証明書、固定資産評価証明書などを揃える
- 司法書士に預けるなどして、代金さえ支払われれば登記申請ができる状態にする
- その状態にあることを、相手に通知する
最後の通知が抜けがちです。準備しただけでは相手に伝わりません。
原則 催告してから解除する
相手が期限を過ぎても履行しない場合(履行遅滞)、相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がなければ解除できます(民法541条)。
| 手順 | 実務上の注意 |
|---|---|
| 催告する | 配達証明付き内容証明郵便で行う。いつ・どんな内容が届いたかを証明できる形にする |
| 相当の期間を定める | 不動産の残代金では、数日から1週間程度とされることが多い。事案による |
| 期間経過後、解除の意思表示 | これも書面で。到達した時点で効力が生じる |
軽微な不履行では解除できない
不履行が、契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除できません(541条ただし書)。
たとえば数千万円の売買で、精算金がわずかに不足している程度では、契約全体を白紙に戻す理由になりません。不足分を請求すれば足りる、と判断されます。
例外 催告なしで解除できる場合
催告しても意味がない場合には、直ちに解除できます(民法542条)。実務で問題になるのは主に二つです。
履行不能
約束の実現が客観的に不可能になった場合です。不動産では二重譲渡が典型です。売主が別の買主に先に所有権移転登記をしてしまえば、こちらへの移転は不可能になります(民法177条)。
明確な履行拒絶
相手が「履行するつもりは一切ない」と明確に示した場合です。
「今月は資金繰りが厳しく、支払いが遅れそうです」という連絡は、履行遅滞であって履行拒絶ではありません。この場合は原則どおり催告が必要です。
拒絶と評価できるかどうかの判断は慎重に行ってください。自己判断で無催告解除に踏み切ると、解除自体が無効になり、こちらが債務不履行に問われることがあります。書面の文言を精査し、判断に迷えば専門家に相談してください。
手付解除
相手に責任がなくても、手付を用いて解除できます。
| 誰が | 何をする |
|---|---|
| 買主 | 手付を放棄する |
| 売主 | 手付の倍額を現実に提供する |
売主側は「倍額を返します」と言うだけでは足りません。実際に用意して提供する必要があります。
期限は「相手が履行に着手するまで」
相手方が契約の履行に着手した後は、手付解除はできません。「履行の着手」とは、客観的に外部から認識できる形で履行行為の一部をし、または履行の提供に欠かせない前提行為をした場合を指すとされています。
実務では、次のような行為が問題になります。
- 買主が中間金・内金を支払った
- 売主が抵当権抹消のために借入金を返済した
- 売主が測量に着手した、建物の解体を始めた
- 買主が住宅ローンの本申込みをした(相手が知らなければ着手とされないことがある)
判断が分かれる領域です。争いを避けるため、契約書に「令和○年○月○日まで」と手付解除の期限を明記するのが実務の標準です。
解除の効果
原状回復
契約は初めからなかったものとして扱われ、双方が原状回復の義務を負います(民法545条)。
| 誰が | 返すもの |
|---|---|
| 売主 | 受領した金銭。受領した時からの利息を付けて |
| 買主 | 物件。登記が移っていれば抹消登記に協力する。使用していた期間の使用利益も |
利息と使用利益を付けるのは、時間の経過によって生じた不公平を調整するためです。買主が引渡しを受けて住んでいた場合、その期間の家賃相当額を返還する義務を負うことがあります。
これらの返還義務も、同時履行の関係に立ちます。「先に金銭だけ返せ」「先に物件だけ返す」とはなりません。
損害賠償
解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げません(545条4項)。原状回復と損害賠償は別の権利で、両方を同時に請求できます。
違約金と損害賠償額の予定
実際の損害額を立証するのは大変です。そこで、あらかじめ違約金を定めておくのが実務の標準です。これは損害賠償額の予定と推定されます(民法420条)。
予定しておくことの意味
- 損害額を立証しなくても、定めた金額を請求できる
- 争点が減り、解決が早くなる
- ただし、実際の損害が予定額を上回っても、原則として追加請求はできない
- 実際の損害が予定額を下回っても、相手は全額を支払う義務を負う
宅建業者が自ら売主となり、宅建業者でない買主と契約する場合、違約金と損害賠償額の予定を合計した額は、売買代金の20%を超えられません(宅建業法38条)。
これを超える定めをしても、超えた部分は無効です。買取再販で自社が売主になる取引では、必ず確認してください。
契約不適合を理由とする解除
引き渡された物件が契約の内容に適合しない場合も、解除の理由になります。ただし、いきなり解除できるわけではありません。
原則 追完の催告をしてから
まず「修補してください」「不足分を引き渡してください」と相当の期間を定めて催告し、応じない場合に解除できます。
催告なしで解除できる場合
- 追完がそもそも不可能なとき
- 売主が追完を明確に拒絶したとき
- 不適合が重大で、契約の目的を達成できないとき
最後の判断が難しいところです。壁紙の汚れでは目的を達成できないとは言えませんが、構造上の重大な欠陥で安全に居住できない場合は、解除が認められる可能性が高くなります。程度の判断は個別の事案によるため、断定して助言しないでください。
実務での立ち回り
予防が最も効く
解除は起きてから対処するより、起きないように設計するほうが確実です。
- 融資特約 承認が得られない場合の無条件解除。金融機関名・金額・期限を明記する
- 買換え特約 現在の住まいが売却できない場合の解除
- 手付解除の期限 日付で明記する
- 危険負担の特約 滅失・損傷した場合の扱いと、解除の条件
断定しない
解除できるかどうか、違約金を請求できるかどうか。これらは法的な判断であり、宅建業者が断定するものではありません。
状況を整理し、選択肢の概要を中立に説明したうえで、弁護士や司法書士への相談を案内する。これが実務での正しい立ち位置です。
- 手付解除か違約解除かを整理した原因も手続きも効果も違う
- (違約解除)自分の側が履行の提供をしているか確認した準備し、かつ相手に通知する
- (違約解除)催告を配達証明付き内容証明郵便で行った
- 相当の期間を定めた不動産の残代金では数日から1週間程度
- 不履行が軽微でないか確認した軽微なら解除できない
- 無催告解除の要件に当たるか慎重に判断した「資金繰りが厳しい」は拒絶ではない
- (手付解除)契約書に期限が日付で明記されているか確認した
- (手付解除・売主)倍額を現実に提供する準備をした
- 相手が履行に着手していないか確認した
- 原状回復の内容を整理した利息と使用利益
- 違約金の額が上限を超えていないか確認した自ら売主なら代金の20%
- (契約不適合)追完の催告を行った、または催告不要の要件を満たしている
- 可否を断定せず、専門家への相談を案内した
- やり取りをすべて記録した
まとめ
- 解除には違約解除と手付解除の二つがある。原因も手続きも効果も違う。
- 違約解除には、自分が履行の提供をしていることが前提。準備し、かつ相手に通知する。
- 原則は催告してから。履行不能と明確な拒絶のときは催告なしで解除できる。
- 解除の効果は原状回復と損害賠償。金銭には利息、物件には使用利益が付く。
- 宅建業者が自ら売主なら、違約金は代金の20%が上限。超えた部分は無効。
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