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なぜ?どうして?再開発プロジェクトが止まる本当の理由。建設コスト高騰の深層と日本の未来

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はじめに

みなさん、こんにちは。私たちの街や暮らしは、いつも少しずつ新しく変わり続けていますね。例えば、古い建物が取り壊されて新しいビルが建ったり、駅前がもっと便利で素敵な場所に生まれ変わったり。そんな「街のアップデート」とも言える変化の中心にあるのが、「再開発」という言葉です。

しかし最近、この「再開発」や、新しいお家を建てる「建設」の世界で、ちょっと心配な「大問題」が静かに広がっているのをご存知でしょうか。まるで、楽しみにしていたお祭りの準備が、突然のトラブルでなかなか進まなくなってしまうような、そんな状況が日本のあちこちで起き始めているのです。

具体的には、ニュースなどではまだ大きく取り上げられていないかもしれませんが、都市部、つまりたくさんの人が住んでいる大きな街のあちこちで、「よし、このエリアをもっと良くしよう。」と始まったはずの市街地開発、つまり街づくりの計画や、古くなったビルを建て替える再開発のプロジェクトに、ストップがかかったり、「ごめんなさい、完成がもっと先になりそうです。」「もっとお金がかかりそうです。」といった見直しや遅れがたくさん出てきているのです。

「え、どうしてそんなことになっているの。」「私たちの街は大丈夫なの。」「これからお家の値段とか、どうなっちゃうの。」そんな風に思った方もいらっしゃるかもしれませんね。

この記事では、不動産業界や建設業界に初めて触れる方にも分かりやすいように、この「大問題」の正体、つまり何が問題で、どうしてそんな問題が起きているのか、その背景にある理由、そして、これから私たちの生活や不動産市場にどんな影響が出てくる可能性があるのか、という点を、例え話も交えながら、一緒にじっくりと見ていきたいと思います。

この記事でお話しすることのイメージ

このブログ記事では、皆さんが「街の未来図」がどう描かれ、今どんな課題に直面しているのかを、順を追ってご理解いただけるように、こんなお話をしていきます。

第1章では… 今、全国の街づくり計画に何が起きているの?

まるでドミノ倒しのように、あちこちで計画変更やストップの声が聞こえてくる現状をまずはお伝えします。

第2章では… 具体的にどんな計画が止まっちゃったの?

実際に計画が大きく変わったり、ほぼ白紙に戻ってしまった残念な例をいくつかご紹介します。大きなプロジェクトでも例外ではないのです。

第3章では… どうしてこんな「大問題」が起きちゃったの?その原因は?

積み木のお城を作る時、積み木の値段が急に高くなったり、お手伝いしてくれる人が足りなくなったりするような、直接的な原因を分かりやすく解説します。

第4章では… 街づくりの「お金の仕組み」がピンチって本当?

再開発という大きなお買い物のお金の集め方と、それがどうして今、うまくいかなくなりそうなのか、その仕組みをお話しします。

第5章では… もっと大きな視点で見ると、何が影響しているの?

世界全体の経済の動きや、日本が抱えるもっと大きな問題(例えば、これからの日本の人口はどうなるの?といったこと)が、間接的にどう影響しているのかを見ていきます。

第6章では… この問題、これから私たちにどう関係してくるの?

新しいマンションが建ちにくくなったり、お家の値段が変わったりするかもしれない、そんな未来の可能性について一緒に考えます。

少し難しそうに聞こえるかもしれませんが、私たちの暮らしと密接に関わる大切なお話です。一緒にこの「大問題」の輪郭を掴んでいきましょう。

第1章:再開発プロジェクトに異変あり!全国で相次ぐ「計画の見直し」

「はじめに」では、なんだか街づくりや建物を建てる世界で、ちょっと気になる「大問題」が起きているかもしれない、というお話をしましたね。それはまるで、楽しみにしていた新しいお店のオープンが、なぜか遅れてしまうような、そんな予感に似ています。

この章では、その「予感」が具体的にどんな形で現れているのか、もう少し詳しく見ていきましょう。実は今、日本全国のあちらこちらで進められている「市街地開発」や「再開発計画」という、街を新しく、もっと便利で魅力的にするための大きなプロジェクトに、異変が起きているのです。

街づくりの計画に「待った。」がかかっている?

「市街地開発」や「再開発計画」と聞くと、少し難しく感じるかもしれませんね。簡単に言うと、「街のバージョンアップ大作戦」みたいなものです。例えば、古くなった駅前をきれいにしたり、たくさんの人が働く新しいオフィスビルを建てたり、みんなが住みやすいマンションを作ったりする計画のことです。

これらの計画は、たくさんの人が関わって、長い時間をかけて準備される、とても大切なものです。ところが最近、こうした一大プロジェクトの多くで、「計画の見直し」、つまり「やっぱり、ちょっと待って。計画を変えよう。」という動きが次々と出てきているのです。

これは、お料理で例えると、献立も決めて、材料もだいたい揃え始めたのに、「やっぱり今日のメインディッシュは変更で。」とか、「思ったより材料費が高くて、品数を減らさないと…。」といった状況が、いろいろなレストランで同時に起きているようなイメージです。

どんな「見直し」が起きているの?

では、具体的にどんな「見直し」が多いのでしょうか。大きく分けると、次の二つのパターンが目立っています。

1.完成する日が遅れちゃう。「完成時期の延期」

これは、「来年の春には新しいショッピングモールがオープンしますよ。」と発表されていたのに、「ごめんなさい、工事が遅れていて、オープンは秋になりそうです…。」といったように、もともと予定していた完成の時期が後ろにずれ込んでしまうケースです。
新しい施設や街並みを楽しみに待っていた人たちにとっては、ちょっとがっかりするお知らせですよね。

2.かかるお金がどんどん増えちゃう。「事業費の増加」

こちらは、「このプロジェクトには、これくらいのお金がかかる見込みです。」と計画していた金額よりも、実際にはもっと多くのお金が必要になってしまうケースです。
例えば、家を建てる時に「予算はこれくらい。」と決めていたのに、材料の値段が上がったり、もっと丈夫な作りにするために追加の工事が必要になったりして、予算オーバーしてしまうようなイメージです。事業費が増えると、その分のお金をどこから持ってくるのか、という新たな問題も出てきます。

これは、日本中で起きていることなの?

「もしかしたら、たまたまいくつかの場所でそういうことが起きているだけじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。しかし、残念ながら、こうした計画の見直しは、特定の地域や一部のプロジェクトだけの話ではないようなのです。

報道されている情報や、専門家の間での話を総合すると、北から南まで、日本の様々な都市で、同じような問題が報告されています。つまり、これは個別の事情というよりも、日本の不動産業界や建設業界全体が直面している、もっと大きな「全国的な傾向」と言える状況なのです。

まるで、今まで順調に進んでいたたくさんの歯車が、どこかで何かの影響を受けて、少しずつ噛み合わなくなってきているような、そんな状態なのかもしれません。

このように、私たちの身近な街づくりに静かな、しかし確実な変化の波が押し寄せているのです。次の章では、こうした計画の見直しが、具体的にどんなプロジェクトで、どのように現れているのか、実際の例をいくつか見ていくことにしましょう。

第2章:具体事例に見る「計画ストップ」の現実

前の章では、日本全国で街づくりの計画が遅れたり、余計にお金がかかったりする「見直し」が相次いでいる、というお話をしました。まるで、楽しみにしていた遠足の準備が、あちこちでスムーズに進まなくなっているような状況でしたね。

では、こうした「見直し」がさらに進んでしまうと、一体どうなってしまうのでしょうか。この章では、実際に計画が大幅に変更されたり、もっと深刻なケースとして、計画そのものが「ストップ」、つまり事実上、一旦白紙に戻ってしまうような現実の事例をいくつか見ていきましょう。

あの有名な場所も。計画変更や「白紙撤回」の衝撃

「白紙撤回(はくしてっかい)」という言葉は、少し難しいかもしれませんが、「一度決めた計画を、全部なかったことにして、もう一度最初から考え直す」というような意味です。学校の大きな行事で、みんなで一生懸命準備していたのに、「ごめん、やっぱりこの企画はやめます。」と先生に言われてしまうような、そんなショックな出来事を想像してみてください。

実際に、日本国内では、多くの人が知っているような有名な場所の再開発プロジェクトや、地域にとって非常に重要な意味を持つ大規模な建設計画でさえ、このような事態に見舞われるケースが出てきています。

ケーススタディ。ある大規模再開発プロジェクトの場合

例えば、首都圏にある、たくさんの人々に長年親しまれてきたある有名な施設の再開発プロジェクトのお話をしましょう。この施設は、コンサートホールや商業施設などが一体となった複合施設として、新しく生まれ変わる計画が進められていました。多くの人が期待を寄せていた、まさに街のシンボルとも言える場所のビッグプロジェクトです。

ところが、この計画は、建物を建てるために必要な費用、つまり「建設コスト」が、最初に想定していた金額よりも大幅に膨れ上がってしまったことが大きな原因となり、計画をそのまま進めることが難しくなってしまいました。その結果、事業者の方は、このままでは採算が合わないと判断し、一度計画を「白紙」に戻して、事業内容そのものを見直すという、非常に大きな決断をせざるを得なくなったのです。

このニュースは、「え、あの場所の計画が止まっちゃうの?」と、多くの人々に驚きをもって受け止められました。

なぜ、こんなことが起きるの?その背景にあるもの

このような大規模なプロジェクトがストップしてしまう背景には、いくつかの複雑な理由が絡み合っています。主なものとしては、

1.建設に必要な材料の値段がすごく上がっている(建設資材価格の高騰)

木材や鉄骨、コンクリートなど、建物を作るために必要な材料の値段が、世界中でとても高くなっています。これは、料理で言えば、お野菜やお肉の値段が急に上がってしまって、いつもの献立が作れなくなるのに似ています。

2.建設現場で働く人が足りない、そしてお給料も上がっている(人手不足と人件費の上昇)

建物を作るお仕事をしてくれる職人さんの数が減っていたり、高齢化が進んでいたりして、人手が足りない状況が続いています。そのため、職人さんたちのお給料(人件費)も上がっており、これも建設コストを押し上げる原因になっています。

こうした要因が複合的に影響しあい、当初の計画通りに事業を進めることが困難になっているのです。この詳しい原因については、次の第3章でさらに深く掘り下げていきます。

大規模プロジェクトが止まることの「重み」

大切なのは、こうした「計画ストップ」は、単に一つの建物が建つのが遅れる、というだけの話ではないということです。

特に、多くの人が利用したり、地域の活性化に大きな役割を果たすはずだった大規模なプロジェクトが見直しを迫られるということは、その地域社会や経済全体にとっても大きな影響を与えかねません。それは、まるで大きな船の航海計画が狂ってしまうと、乗客だけでなく、物資の輸送や寄港地の経済にまで影響が及ぶのに似ています。

このように、誰にとっても他人事ではない「計画ストップ」の現実があることを、まずは知っておくことが大切です。

これほど大きなプロジェクトでさえ、計画の見直しや中止を余儀なくされているという事実は、今の不動産業界や建設業界が直面している問題がいかに深刻であるかを示しています。

第3章:なぜ、この「大問題」は起きているのか?主な原因を深掘り

前の章では、大きな再開発プロジェクトでさえ計画がストップしてしまうという、少しショッキングな現実を見ましたね。楽しみにしていた文化祭の大きな出し物が、突然中止になってしまうような、そんな残念な状況でした。

「でも、どうしてそんなことになっちゃうの?」と、皆さんもきっと疑問に思っていることでしょう。この章では、その「なぜ?」という疑問に答えるため、この「大問題」を引き起こしている主な原因を、一緒に探偵のように深掘りしていきましょう。

計画を狂わせる「犯人」は誰だ。主な原因を探る

街づくりや建物を建てるという大きなプロジェクトが、予定通りに進まなくなってしまう背景には、いくつかの大きな「困ったこと」が潜んでいます。ここでは、特に影響が大きいと考えられる二つの主な原因について、詳しく見ていきます。

原因その1。建物をつくる材料が、ものすごく高い。

(建設資材価格の歴史的な高騰)

まず一つ目の大きな原因は、建物をつくるために必要な材料、これを「建設資材(けんせつしざい)」と言いますが、この値段が、今までにないくらい、ものすごく高くなっていることです。「歴史的な高騰(こうとう)」なんて言われるくらい、大変な状況なのです。

どんなものが高くなっているの。

木材、鉄骨(てっこつ、建物の骨組みになる鉄の棒です)、セメント、窓ガラス、電気のコード、壁紙など、建物を構成するほとんど全ての材料の値段が上がっています。

例えるなら…

お家でカレーライスを作ろうとしたら、お肉も、ジャガイモも、ニンジンも、タマネギも、カレールーも、全部一気に値段が上がってしまって、いつもの予算ではとても作れない。そんなイメージです。

この背景には、世界中で新しい建物がたくさん建てられていて材料の取り合いになっていることや、材料を運ぶ船の運賃が上がっていること、そして外国から材料を買うときに日本の円の価値が相対的に下がっている(円安)ことなど、様々な理由があります。

原因その2。建物をつくる人が足りない、そしてお給料も高い。

(建設現場での人手不足と人件費の上昇)

二つ目の大きな原因は、実際に建物を建ててくれる職人さん、つまり大工さんや左官屋さん、電気工事の人などが、日本全体で足りなくなっていることです。これを「人手不足(ひとでぶそく)」と言います。

どうして人が足りないの。

建設業界で働く人の数が減っていたり、高齢の職人さんが引退されたりする一方で、新しくこの仕事に就く若い人がなかなか増えない、といった状況があります。

例えるなら…

学校のクラスで文化祭の準備をするとき、絵が得意な人も、工作が得意な人も、力仕事ができる人も、みんな数が少なくて、一人ひとりがたくさんの仕事を抱え込んでいるような状態です。そうなると、少ない働き手さんにお願いが集中するので、その分、お支払いするお給料、つまり「人件費(じんけんひ)」も上がっていく傾向にあります。

どんなに素晴らしい計画や高価な材料があっても、実際にそれを使って形にしてくれる職人さんがいなければ、建物は完成しません。この人手不足と、それに伴う人件費の上昇も、建設プロジェクト全体の費用を大きく押し上げる要因となっています。

さらに追い打ちをかける「コストプッシュ型インフレ」って何?

こうした「材料費が高い。」「人件費も高い。」という状況は、「コストプッシュ型インフレ」という経済現象の影響も色濃く受けています。

コストプッシュ型インフレを分かりやすく言うと…

「インフレ」というのは、世の中のモノやサービスの値段が全体的に上がっていくことです。その中でも「コストプッシュ型」というのは、「プッシュ(押す)」という言葉の通り、原材料費や人件費といった「コスト(費用)」が上がることによって、企業が「もうこの値段で売らないと赤字になっちゃうよ。」と、商品の値段を上げざるを得なくなるタイプのインフレのことです。

例えるなら…

パン屋さんがパンを作るとします。小麦粉の値段(原材料費)も、パン職人さんのお給料(人件費)も上がってしまいました。パン屋さんは、今まで通りの値段でパンを売っていると、儲けがなくなってお店を続けられなくなってしまいます。だから、仕方なくパンの値段を上げる、これがコストプッシュ型インフレのイメージです。

この状況は、お給料はあまり上がらないのに、身の回りのものの値段だけがどんどん上がっていくような、私たち消費者にとっても厳しい状況につながりやすいと言われています。

建設業界では、まさにこのコストプッシュ型インフレが直撃し、建築資材の高騰に加えて、材料費が上がるとそれを使う職人さんの手間賃も結果的に上昇しやすくなるという、費用のダブルパンチに見舞われているのです。これは、新しいお家を建てる場合だけでなく、例えば中古のお家を買い取ってきれいにリフォームして再び販売するような「買取再販(かいとりさいはん)」というビジネスでも、リフォーム費用が高騰する原因となっており、業界全体の大きな悩みとなっています。

このように、建設資材の高騰と人手不足・人件費の上昇、そしてそれらを加速させるコストプッシュ型インフレという、いくつかの大きな要因が複雑に絡み合って、再開発プロジェクトの費用を押し上げ、計画の遅延や見直しを引き起こしているのです。

では、このように費用がどんどん膨らんでしまった結果、再開発事業のお金のやりくり、つまり「収益構造」は一体どうなってしまうのでしょうか。次の章では、その点について詳しく見ていくことにしましょう。

第4章:再開発の「収益構造」が崩壊する?費用高騰がもたらす危機

前の章では、街づくりや建物の建設にかかる費用が、材料費の高騰や人手不足でどんどん上がっているという、厳しい現実を見てきましたね。まるで、お料理を作ろうとしたら、材料も人手も足りなくて、予算がどんどん膨らんでいくような状況でした。

では、そんな風に「かかるお金」が予想以上に増えてしまったら、再開発という大きなプロジェクトは、一体どうやってその費用をまかない、事業として成り立たせているのでしょうか。この章では、再開発事業の「お金の仕組み」、つまり「収益構造(しゅうえきこうぞう)」と、それが今どんな危機に瀕しているのかを、一緒に見ていきましょう。

再開発プロジェクトのお金の流れ。どうやって費用を集めているの?

大きな街づくりである再開発事業には、莫大なお金がかかります。そのお金は、主に次の二つの方法で集められることが多いです。

再開発のお財布。主な収入源はこれだ。

1.「保留床(ほりゅうゆか)」を売って得られるお金

これが再開発事業の収入の大きな柱です。「保留床(ほりゅうゆか、または「ほりゅうしょう」とも読みます)」って、初めて聞く言葉かもしれませんね。

簡単に言うと、再開発で新しいビルやマンションを建てたときに、もともと土地や建物を持っていた人たち(地権者さんと言います)に渡す新しいお部屋やお店(これを「権利床(けんりゆか)」と言います)の「ほかに」、事業者(デベロッパーなど、再開発を進める会社のことです)が売ることができる床、つまり新しく生み出された余ったスペースのことです。

例えるなら…「大きなケーキ」作戦。

みんなで古い小さな家がたくさんある土地(A地区)をきれいにして、そこに大きなデコレーションケーキ(新しいビルやマンション)を建てるとします。
まず、A地区にもともと住んでいた人たちに、ケーキの一部分を切り分けてあげます(これが権利床)。
そして、残ったケーキの大きな部分(これが保留床)を、新しく住みたい人やお菓子屋さんを開きたい人に売ります。その売ったお金で、ケーキの材料費(建設費)や、ケーキを作ってくれたパティシエさんへのお礼(事業費)を支払うのです。

この保留床を売却して得たお金(売却益)が、再開発事業の主な運営資金となります。

2.国や自治体からの「補助金(ほじょきん)」

再開発事業は、街をより良くし、多くの人の役に立つという公共的な側面も持っています。そのため、国や都道府県、市町村といった「公(おおやけ)」の機関から、「この事業は大切だから応援しますよ」という形でお金が出ることがあります。これを「補助金」と言います。

補助金は、私たちの税金から出ていることも多く、事業の公益性が高いと判断された場合に活用されます。これも再開発事業にとっては重要な財源の一つです。

つまり、再開発事業は、大きく分けて「保留床を売ったお金」と「補助金」という二つの収入源を頼りにして、建設費などの支出をまかなっているのです。

忍び寄る危機。建設費の高騰が「お財布」を直撃

さて、ここで第3章でお話しした「建設費の高騰」が問題になってきます。
建設にかかる費用が、当初の見込みよりもはるかに大きくなってしまったら、このお金の仕組みはどうなってしまうのでしょうか。

収益構造のバランスが崩れる。

もともと再開発事業は、「これくらいの建設費で建物ができて、保留床がこれくらいの値段で売れれば、これくらいの利益が出る(あるいは、赤字にはならない)」という計算(事業計画)のもとに進められます。

ところが、建設費が予想をはるかに超えて高騰してしまうと、この計算が大きく狂ってきます。

保留床を全部売っても、かかった費用をまかなえないかもしれない。

これが、今まさに多くの再開発プロジェクトが直面している、あるいは直面しつつある危機なのです。先ほどのケーキの例で言えば、ケーキの材料費があまりにも高くなりすぎて、残りのケーキを全部売っても、材料費すら回収できないかもしれない、という状況です。これでは、事業を続けることが非常に難しくなりますね。

増えるかもしれない「公的な負担」と「どうしようもない」現実

では、事業費が足りなくなってしまった場合、どうなるのでしょうか。いくつかの可能性が考えられます。

費用が足りない。そのとき何が起こる?

1.国や自治体からの補助金が増える?

一つの可能性として、事業を続けるために、国や自治体からの補助金をさらに増やす、という方法が考えられます。しかし、補助金は元をたどれば私たちの税金です。特定の事業への公的負担が増えることについては、慎重な議論が必要ですし、際限なく増やせるわけでもありません。

2.事業規模の縮小や計画変更?

建物の規模を小さくしたり、設備を簡素なものに変更したりして、なんとか費用を抑えようとする動きも出てくるでしょう。しかし、それでは当初期待されていたような魅力的な街づくりができなくなる可能性もあります。

3.最悪の場合、事業中止(白紙撤回)?

第2章で見たように、どうしても採算が取れないと判断されれば、事業そのものが中止に追い込まれることもあり得ます。これは、関係者にとっても、地域にとっても、非常に残念な結果です。

ある関係者の言葉を借りれば、事業費の不足は「もはや企業努力だけではどうしようもない」レベルに達しているケースもあると言われています。つまり、一生懸命コストを削減しようとしても、それをはるかに上回る勢いで資材価格や人件費が上昇しているため、打つ手がなくなってきているというのです。

このように、建設コストの高騰は、再開発事業の根幹である収益構造そのものを揺るがし、プロジェクトの行く末に大きな暗雲を投げかけています。

それでは、このような業界内部の事情だけでなく、もっと広い視点から、今の経済全体の動きや社会の変化が、この問題にどう影響しているのでしょうか。次の章では、そのあたりを掘り下げてみたいと思います。

第5章:問題の背景にあるマクロ経済と市場の動向

これまでの章で、再開発プロジェクトが直面している費用の問題や、そのお金の仕組みが揺らいでいる現状を見てきました。まるで、大切に育てていたお花が、栄養不足や日照りで作物自体が弱ってきているような、そんな心配な状況でしたね。

では、なぜ建設業界や不動産業界全体が、このような厳しい状況に置かれているのでしょうか。実は、この問題の根っこはもっと深く、日本だけでなく世界全体の経済の動きや、私たちの社会が抱える大きな変化と繋がっているのです。この章では、少し視野を広げて、いわば「マクロ経済(国や世界全体の経済の動き)」や「市場の動向(ものの売れ行きや値段の動き)」といった、大きな視点から背景を探っていきましょう。

見えない糸で繋がる。世界と日本の経済状況

私たちの生活やビジネスは、国内の出来事だけでなく、世界の国々との貿易や経済のルール(これを「通商政策(つうしょうせいさく)」と言います)の変化からも大きな影響を受けます。

世界の貿易ルールの変化と、その影響

例えば、ある大きな国が「これからは、外国から入ってくるこの商品にはもっと高い税金(これを「関税(かんぜい)」と言います)をかけますよ。」とルールを変えたとします。すると、その商品を輸出していた国や、その商品を使って何か別の製品を作っていた国々では、物の値段が上がったり、商売がしにくくなったりすることがあります。

こうした動きは、巡り巡って日本の企業が海外から原材料を調達する際の価格を押し上げたり、逆に日本製品の輸出に影響を与えたりすることがあります。第3章でお話しした建設資材価格の高騰も、こうした世界的な要因と無関係ではありません。また、世界経済全体の元気がなくなると、人々の「物を買おう。」という気持ち(これを「購買力(こうばいりょく)」と言います)が弱まり、それが間接的に国内の経済活動にも影響を与える可能性があるのです。

例えるなら…「世界は大きなバケツリレー」
世界中の国々が、バケツリレーで水を運んでいると想像してみてください。どこか一つの国がバケツの水をこぼしたり、リレーのルールを変えたりすると、その影響は他の国々のバケツの水量にも及んできます。日本の建設業界で使われる資材も、世界のどこかで作られ、運ばれてくるものがたくさんあるので、こうしたバケツリレーの影響を直接的・間接的に受けてしまうのです。

日本の国内に目を向けると。人口の変化という大きな波

一方、日本国内に目を向けると、私たちの社会が直面している非常に大きな変化があります。それは「人口の減少」です。

人口が減ると、不動産の「欲しい人」も減る?

ご存知の通り、日本では将来的に人口が減っていくと予測されています。特に地方では、すでに人口減少や高齢化が進んでおり、空き家が増えたり、地域の活力が低下したりといった問題が起きています。

不動産市場において、物を買いたい・借りたいという人の数(これを「需要(じゅよう)」と言います)は、価格を決める非常に重要な要素です。人口が減るということは、長期的にはこの「需要」が減っていく可能性が高いことを意味します。そうなると、特に買い手や借り手が見つかりにくい地域の不動産価格は、下落する圧力(価格下落圧力)が強まる傾向にあります。

「東京のような大都市は大丈夫でしょう?」と思うかもしれませんが、東京都心部を除いた東京圏全体で見ると、将来的には人口減少が見込まれているというデータもあります。家を建てる、街を再開発するということは、何十年という長いスパンで考える必要があるため、この人口動態の変化は非常に重要な検討課題となります。

例えるなら…「椅子の数とお客さんの数」
ある町に、たくさんの椅子(住宅や店舗などの不動産)があるとします。その町に住みたい、お店を開きたいというお客さん(需要)がたくさんいれば、椅子の取り合いになって値段は上がるかもしれません。しかし、お客さんがどんどん減っていくと、空いた椅子がたくさん出てきてしまい、値段は下がりやすくなります。これが人口減少と不動産価格の関係の基本的な考え方です。

複雑に絡み合う要因と、市場の「不確かさ」

予測が難しい。不動産市場の「不確実性」の高まり

ここまで見てきたように、世界の経済の動き、貿易のルール、そして国内の人口の変化といった、様々な大きな要因が複雑に絡み合っています。それはまるで、たくさんの種類の糸で織られた一枚の大きなタペストリーのようです。一本の糸の色の変化が、全体の模様に影響を与えるように、これらの要因が互いに影響しあいながら、現在の不動産市場や建設業界の状況を作り出しているのです。

その結果、将来の不動産価格がどうなるのか、新しいマンションはどれくらい供給されるのか、といったことの予測が非常に難しくなっています。このように「先行きがどうなるか、はっきりとは分からない状態」のことを、「不確実性(ふかくじつせい)が高い」と言います。

この不確実性の高まりが、再開発事業のような大規模で長期にわたるプロジェクトの計画や実行を、より一層難しくしている側面があるのです。

このように、不動産業界や建設業界が直面している問題は、単に個々の企業の経営努力だけで解決できるものではなく、もっと大きな経済や社会の構造的な変化と深く結びついていることがお分かりいただけたでしょうか。

では、こうした複雑な背景を持つ「大問題」は、これから具体的に私たちの不動産市場、例えばマンションの価格や供給量などに、どのような影響を与えていくのでしょうか。次の章では、その点を考えていきたいと思います。

第6章:この「大問題」は不動産市場にどう影響するか?

さて、ここまで私たちは、日本の不動産業界や建設業界で起きている「大問題」の現状、その原因、そして背景にある大きな経済や社会の動きについて、一歩ずつ見てきました。それはまるで、複雑に絡み合った糸を丁寧に解きほぐしていくような作業でしたね。

いよいよこの最終章では、これまでの話を総合して、この「大問題」、つまり再開発の遅延や建設コストの高騰が、私たちの身近な「不動産市場」、特にマンションの価格や供給(市場に出回る数)に、これからどんな影響を与えていく可能性があるのかを考えていきましょう。

新しく建つマンションは減っちゃうの?供給への影響

まず考えられるのは、将来的に新しく市場に出てくるマンションの数、つまり「供給量」への影響です。

第1章や第2章で見たように、多くの再開発プロジェクトで計画の見直しや遅れ、さらには中止といった事態が起きています。再開発事業は、新しいマンションを市場に供給する大きな源の一つです。そのため、これらのプロジェクトがスムーズに進まないと、当然、予定されていた数のマンションが完成せず、市場に出てくるのが遅れたり、最悪の場合は供給されなかったりする可能性があります。

例えるなら…「パン屋さんの新作パン」

街のパン屋さんが、新しい種類のパンをたくさん作ってお店に並べる計画を立てていたとします。でも、小麦粉の値段がすごく上がったり、パン職人さんが足りなかったりして、新しいパンを作るのが難しくなってしまいました。その結果、お店には予定していたほど新作パンが並ばず、お客さんは新しいパンをなかなか買えない、という状況に似ています。

つまり、再開発の遅延や停滞は、将来的に私たちが選べる新しいマンションの選択肢が減ってしまう可能性に繋がるのです。

マンションの値段はどうなる?二つの相反する力の綱引き

次に、もっとも気になるのがマンションの価格への影響ですね。これについては、実は単純ではなく、価格を押し上げようとする力と、押し下げようとする力の両方が働く可能性があります。

マンション価格の行方。上がる力 vs 下がる力

価格を「押し上げる」可能性のある力

1.建設コストの高騰が価格に上乗せされる(コストプッシュ)

第3章で詳しく見たように、建設資材の値段や建設現場で働く人たちのお給料(人件費)が歴史的に高くなっています。マンションを建てるのにかかる費用(コスト)が上がれば、その分はマンションの販売価格に上乗せ(これを「転嫁(てんか)」と言います)されやすくなります。

特に、都心部など人気が高く「買いたい」という人(需要)が多いエリアでは、このコスト上昇分が価格に反映されやすく、新築マンションがさらに手の届きにくい価格帯になってしまう可能性があります。

価格を「押し下げる」可能性のある力

2.地方などでの「逆の効果」と需要の限界

一方で、特に地方の市場に目を向けると、少し違う動きも考えられます。第5章で触れたように、日本では人口減少が進んでおり、地域によっては家を買いたいという需要が減退しています。

そのような状況下で、もしコスト高騰をそのまま反映した非常に高価なマンションが供給されたとしても、地域の購買力(物を買う力)ではなかなか手が届かず、売れ残ってしまう可能性があります。その結果、価格を引き下げざるを得なくなったり、あるいは新築マンションの供給自体が非常に限定的になったりすることも考えられます。

また、一部では、コスト高騰にもかかわらず無理に再開発が進められた結果、需要の少ない地域にマンションの供給が増え、かえって周辺の中古マンションを含めた全体の価格が下落してしまう「逆の効果」を懸念する声もあります。

需要と供給の綱引き。価格の行方はどう決まる?

結局のところ、不動産の価格は「需要(欲しいと思う人の数や熱意)」と「供給(市場に出回る物の量)」のバランスで決まるのが基本です。

今の不動産市場は、

  • 価格を押し上げる要因。建設コストの高騰。
  • 価格を押し下げる要因。人口減少やそれに伴う将来的な需要の不安、そして人々の購買力の伸び悩み。

これらの要因が、まるで綱引きのように互いに影響し合っている状態と言えるでしょう。

この綱引きの結果、都心部では依然として高値が続く一方で、郊外や地方では価格が伸び悩んだり、二極化が進んだりするなど、地域や物件の特性によって価格の動向がまだら模様になる可能性も指摘されています。

このように、再開発事業を巡る「大問題」は、私たちの住まい選びや資産形成にも直結する、非常に重要なテーマなのです。

これまでの章で、問題の現状、原因、背景、そして市場への影響の可能性を見てきました。最後に、「まとめ」として、これらの情報を整理し、私たちがこの問題とどう向き合っていくべきか、そのヒントを探ってみたいと思います。

まとめ。私たちの街の未来と、この「大問題」

ここまで長い道のりでしたが、日本の不動産業界、そして建設業界で今、静かに、しかし確実に進行している「大問題」について、一緒に見てきました。まるで、最初は小さな点だったものが、いろいろな線で結ばれて、大きな絵模様として姿を現したように感じられたかもしれませんね。

この「大問題」の正体。改めて整理すると…

私たちが探ってきた「大問題」、つまり都市の再開発計画が遅れたり、費用がものすごく上がってしまったりしている背景には、主に次の三つの大きな要因が、まるで複雑な知恵の輪のように絡み合っていることが分かりました。

再開発を巡る「大問題」の構造。主なポイント
1.「つくる」ためのお金が、すごく高い。

(建設コストの歴史的な高騰)

建物をつくるための材料(木材、鉄骨、コンクリートなど)の値段が、世界的に見ても、そして過去と比べても、びっくりするくらい上がっています。さらに、実際に工事をしてくれる職人さんの数も足りず、そのお給料(人件費)も上昇しています。

2.街づくりの「お財布」が、ピンチ。

(資金調達モデルの歪み)

再開発事業は、新しくできたマンションやオフィスの一部(保留床)を売ったお金や、国・自治体からの補助金で費用をまかなうことが多いです。しかし、建設コストがあまりにも上がりすぎたため、この「お財布」のやりくりが非常に苦しくなり、計画通りに進めるのが難しくなっています。

3.もっと大きな「社会の波」も、押し寄せている。

(広範な経済・社会構造の変化)

世界全体の経済の動きや貿易のルール変更、そして日本国内の人口減少といった、不動産業界だけではどうにもできない大きな社会構造の変化も、この問題に深く影響しています。これらが、将来への見通しを難しくし、市場の不確実性を高めているのです。

つまり、この問題は、単に「材料費が上がったから大変だ」という単純な話ではなく、長年続いてきた街づくりの仕組みそのものが、今の時代の大きな変化の波にうまく対応できなくなってきている、という構造的な課題でもあるのです。

これは、私たちみんなに関わる大切なテーマです

「不動産や建設業界の話は、なんだか難しくて自分には関係ないかな…」もし、そう感じていた方がいらっしゃったら、この記事を読んで少しでも考えが変わっていただけたなら嬉しいです。

この問題は、単に業界の中だけの話ではありません。

  • 私たちの「住む街」がどう変わっていくのか。(今後の都市開発のあり方)
  • 私たちの「家」の値段や買いやすさがどうなるのか。(不動産価格や住宅供給)
  • 私たちの「暮らし」や「経済全体」にどんな影響があるのか。(税金の使われ方や国の景気)

これら全てに、じわじわと、しかし確実に影響を及ぼす可能性を秘めた、非常に重要なテーマなのです。それはまるで、お天気と私たちの生活が切り離せないように、この問題と私たちの未来も深く関わっているのです。

これから、私たちはどう向き合っていけば良いのでしょうか

正直なところ、この「大問題」に対する簡単な解決策は、すぐには見つからないかもしれません。様々な立場の人たちが知恵を出し合い、時間をかけて取り組んでいく必要がある、根の深い問題です。

現状では、まだこの問題の深刻さが、一般のニュースなどで大きく取り上げられる機会は少ないかもしれません。しかし、水面下では確実に進行しており、今後、様々な形で私たちの目に触れる機会が増えてくる可能性が高いと言われています。

だからこそ、私たち一人ひとりが、この問題に関心を持ち続けることが大切なのではないでしょうか。

今日お話しした内容が、皆さんがこれからのニュースを見たり、ご自身の街の変化を感じたり、あるいは不動産に関する情報に触れたりする際に、ほんの少しでも新しい「視点」や「考えるヒント」となれば、これほど嬉しいことはありません。

私たちの未来の街並み、そして暮らしが、より良いものになることを願って。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

ABOUT ME
株式会社三成開発
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土地家屋調査士行政書士 村上事務所
社名
株式会社三成開発

関連企業
土地家屋調査士行政書士 村上事務所


熊本県土地家屋調査士会登録番号
第1248号

熊本県行政書士会登録番号
第04431128号

一般建設業熊本県知事許可
(般-5)第20080号

住所
〒862-0920
熊本県熊本市東区月出4丁目6−146

創業
2004年6月

保有資格
技術士 地方及び都市計画
一級建築士
建築主事
行政書士
宅地建物取引主任士
土地家屋調査士
既存住宅状況調査技術者
土壌汚染対策法 技術管理者
ビル経営管理士
不動産コンサルティングマスター
マンション管理業務主任者
賃貸不動産経営管理士
2級土木施工管理技士
測量士

DOMAIN
KUMAMOTO | 不動産 × まちづくり × 建設業許認可
不動産開発 (tiou.jp)
不動産 (chiou.jp)
まちづくり (machitoshi.jp)
建設業許認可・経営事項審査(mkensetu.jp)

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