集落内開発制度 ── 熊本市の市街化調整区域で建てる

この記事の要点
  • 市街化調整区域でも、指定区域内なら建てられる場合がある制度
  • 建てられるのは四つの用途。それぞれ要件が違う
  • 令和4年4月から、災害リスクの高い区域は原則として指定区域に含まれない
  • 数値の要件は条例による。必ず現行の資料で確認する

市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域です。原則として、住宅を新たに建てることはできません。

しかし、その中にも昔からの集落があり、人が住み続けています。建てられないままでは、若い世代が出ていき、集落が維持できなくなります。

この記事では、熊本市が設けている集落内開発制度を扱います。制度の内容は改正されるため、必ず現行の資料で確認してください。

なぜこの制度があるか

抑制と、集落の維持を両立させる

市街化調整区域の目的は、市街地が無秩序に広がることを防ぐことです。

ただし、そこに人が住んでいないわけではありません。

  • 農林業を営む世帯
  • 代々その土地に住んできた世帯
  • 集落として、神社や公民館、行事が続いている地域

建てられない状態が続くと、次の世代が家を構えられません。

結果として、若い世代が集落を離れ、高齢化が進み、集落そのものが維持できなくなります。

この制度は、抑制という原則を保ちながら、既存の集落については建築を認めるという調整です。

根拠

都市計画法は、市街化調整区域での開発を原則として抑制しつつ、条例で区域を定めて例外を認める仕組みを用意しています。

内容
根拠 都市計画法34条11号に基づく条例
熊本市の運用開始 平成22年度から
対象 既存の集落を形成している区域のうち、市が指定した区域
市町村ごとに、まったく違う

この仕組みは、全国一律の制度ではありません。

条例を定めるかどうか、どういう区域を指定するか、どういう用途と要件を認めるか。すべて市町村(または都道府県)の判断です。

  • 制度自体を設けていない市町村がある
  • 名称が違う(「区域指定制度」など)
  • 認められる用途と要件が違う
  • 指定区域の図面の公表方法も違う

「熊本市ではこうだから」は、他の市町村では通用しません。

合志市、益城町、菊陽町など、周辺の市町村を扱う場合は、それぞれの窓口で確認してください。

四つの用途

熊本市の指定区域内では、次の用途について建築が可能とされています。

用途 特徴
戸建て住宅 人的要件がない。親族等の要件を問わず建てられる
共同住宅 一戸あたりの床面積に下限がある
店舗併用住宅 日常生活に必要な店舗(理容店など)と住宅を兼ねるもの
日用品販売店舗 コンビニエンスストア、小規模なスーパーなど
人的要件がないことの意味

市街化調整区域で建築が認められる従来の類型では、「誰が建てるか」が問われることが多くありました。

  • 農林漁業を営む者とその世帯員
  • その地域に一定期間居住していた者
  • 一定の親等内の親族

この制度では、指定区域内であれば人的要件を問わず建築できるとされています。

つまり、その土地に縁のない人が取得して建てることもできます。

これが、不動産の流通という点で大きな違いを生みます。

定められている要件の項目

用途ごとに、次のような項目について基準が定められています。

  • 建蔽率・容積率
  • 敷地面積の下限と上限
  • 建築物の高さ
  • 外壁の後退距離
  • 緑地の割合(用途による)
  • 住宅部分・店舗部分の床面積(併用の場合)
  • 接道の条件(道路の幅員、敷地外周に対する接する長さの割合)
数値はここに書きません

具体的な数値は、熊本市の条例と、市が公表する制度説明資料に定められています。

この記事に数値を書かないのは、条例が改正された場合に、この記事が誤った情報源になるためです。

実際、後述するとおり令和4年に条件が見直されています。

設計や取引の判断に使う数値は、必ず市が公表している最新の資料で確認してください。

熊本市のウェブサイトで、制度説明資料と指定区域図が公開されています。

令和4年4月からの厳格化

災害リスクの高い区域が、原則として外れた

都市計画法の改正が令和4年4月1日に施行され、熊本市の集落内開発制度についても、指定区域と開発許可の条件が見直されました。

区分 扱い
災害レッドゾーン 原則として、指定区域に含まれない
災害イエローゾーン 原則として含まれない。地域の実情によりやむを得ない場合に限り、条件付きで例外的に指定されることがある

市が示している例です。

  • レッドゾーン 急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害特別警戒区域など
  • イエローゾーン 土砂災害警戒区域、一定の浸水深以上の洪水浸水想定区域など

また、開発許可の条件として、想定される浸水深以上の居室を確保することが求められる場合があります。地盤の嵩上げや、建築物の高床化といった対応です。

従来の資料は、そのまま使えない

この見直しにより、以前は指定区域だった場所が、現在は外れている可能性があります。

実務上の注意点です。

  • 古い区域図で判断しない
  • 「隣は建てられたから、うちも建てられる」とは限らない
  • 指定区域内でも、浸水深に応じた条件が付く場合がある
  • 解説記事や過去の資料が、改正前の内容のまま残っていることがある

必ず、現在の指定区域図と制度説明資料で確認してください。

災害リスクについては、熊本市ハザードマップで、その土地の状況を確認できます。

確認の手順

すること
市街化調整区域かどうか確認する
指定区域図で、その土地が区域内か確認する
ハザードマップで災害リスクを確認する
建てたい用途が四つのいずれかに当たるか確認する
敷地面積・接道の条件を満たすか確認する
市の窓口で事前に相談する
農地であれば、農地転用の手続きも確認する
接道の条件が、最初の関門になりやすい

集落内の道は、昔からの細い道であることが多くあります。

この制度では、用途によって道路の幅員と、敷地の外周に対して接する長さの割合が定められています。

したがって、次の確認が必要です。

  • 前面道路が建築基準法上の道路か
  • 幅員が要件を満たすか
  • 接する長さが足りるか
  • 二項道路であれば、後退後の敷地で面積の要件を満たすか

区域内であっても、接道で条件を満たせない土地があります。

農地の場合

集落内の土地は、地目が農地であることが少なくありません。

その場合、開発許可とは別に、農地転用の手続きが必要です。

  • 農地法5条の許可(所有権の移転を伴う場合)
  • 農業振興地域内であれば、農振除外の手続きから

農振除外には相応の期間がかかります。スケジュールに織り込んでください。

費用と期間

土地代のほかに、費用がかかる

この制度を使って建築する場合、土地の代金以外に費用が生じます。

費用 内容
開発許可の申請 図面の作成、申請の代行
測量 敷地の面積を確定する必要がある
農地転用 (農地の場合)申請の費用
造成 (必要な場合)嵩上げ、擁壁
インフラ 上下水道の引込み。集落内では距離があることも

「土地が安いから」という判断だけで進めると、総額で想定を超えることがあります。

とくに、浸水深に応じた嵩上げが求められる場合、造成の費用が大きくなります。

取引に関わる場合、これらの費用の見込みを含めて説明してください。

取引で気をつけること

確認するもの 理由
現在の指定区域図 見直しにより外れている可能性
災害リスク 条件が付く、または指定から外れる要因
接道の状況 幅員と、接する長さの割合
敷地面積 上限・下限がある。分筆・合筆の要否
地目 農地なら転用の手続き
建てたい用途 四つの類型に当たるか
「建てられる」と断定しない

調査の段階では、要件を満たしそうかどうかまでしか分かりません。

最終的な判断は、市の窓口が行います。

したがって、次のような説明が適切です。

  • 「指定区域内にあります」
  • 「この要件については、満たしていると思われます」
  • 「市に事前相談したうえで判断してください」

「建てられます」と断定して取引を進め、後で許可が下りなければ、責任を問われます。

事前相談の結果を確認してから、契約に進むよう組み立ててください。

集落内開発制度の確認
  • 市街化調整区域か確認した
  • 現在の指定区域図で確認した古い資料で判断しない
  • ハザードマップで災害リスクを確認した
  • 令和4年からの見直しを踏まえた
  • 建てたい用途が四つの類型に当たるか確認した
  • 現行の条例・制度説明資料で数値の要件を確認した
  • 前面道路が建築基準法上の道路か確認した
  • 幅員と、接する長さの割合を確認した
  • 敷地面積の上限・下限を確認した
  • (農地)転用と農振除外の手続きを確認した
  • 造成・インフラを含めた費用を見込んだ
  • 市の窓口に事前相談した
  • 「建てられます」と断定していない
  • (他市町村)その市町村の制度を別に確認した

まとめ

  • 市街化調整区域の抑制という原則を保ちつつ、既存集落の維持を図る制度。
  • 戸建て住宅・共同住宅・店舗併用住宅・日用品販売店舗の四つの用途がある。
  • 人的要件がないため、その土地に縁のない人でも建てられる。
  • 令和4年4月から、災害リスクの高い区域は原則として指定区域に含まれない。
  • 数値の要件は条例による。古い資料ではなく、市の最新の資料で確認する。
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