CHIOU / 株式会社地央

境界の基礎知識 ── 確定測量と、立会いの実際

この記事の要点
  • 境界には二種類ある。筆界は当事者の合意では動かせない。所有権界は合意で決められる
  • 測量にも二種類ある。現況測量では境界は確定しない。確定測量には隣接地の立会いが要る
  • 確定測量は数週間から数か月。決済日から逆算して、必要かどうかを早く判断する
  • 越境は撤去だけが解決ではない。覚書で将来の扱いを決めるのが実務的

「境界は確定していますか」と聞かれて、「境界標はありました」と答える。これは答えになっていません。

境界標があることと、境界が確定していることは別です。さらに、「確定」という言葉自体が二つの意味で使われています。登記上の線なのか、当事者が合意した線なのか。

この記事では、二種類の境界の違い、確定するために何が必要か、そして越境が見つかったときの実務的な対処までを扱います。

境界は二種類ある

実務で「境界」と呼ばれるものには、性質のまったく違う二つがあります。この区別がつかないと、話が噛み合いません。

筆界(ひっかい) 所有権界
性質 公法上の境界。登記された土地の範囲を区切る線 私法上の境界。実際にどこまでを所有しているか
誰が決めるか 国。登記されたときに定まる 当事者
合意で動くか 動かない 動く
争いの解決 筆界特定制度、境界確定訴訟 当事者間の合意、所有権確認訴訟
「隣と話し合って決めました」では筆界は動かない

隣接地の所有者同士が「ここを境界にしよう」と合意しても、筆界そのものは変わりません。変えるには分筆・合筆の登記が要ります。

合意で動くのは所有権界のほうです。長年その位置で使われてきた、時効取得が成立している、といった事情があれば、所有権界が筆界とずれることはあります。ただしそれは「筆界が動いた」のではなく、「筆界と所有権界がずれている」状態です。

境界標を見る

現地にある目印が、何を示しているかを見分けます。

種類 見方
コンクリート杭 頭に十字や矢印。矢印の指す方向が境界点
金属標・金属鋲 アスファルトや擁壁の上に打たれる。刻印を確認する
プラスチック杭 仮設のことがある。本設かどうかを確認する
石杭 古いもの。年数が経って傾いていることがある

刻印に「○○市道路境界」とあれば官民境界です。民有地同士の境界とは扱いが違います。

境界標があっても、確定しているとは限らない

境界標は誰でも設置できます。過去に誰かが打っただけで、隣接地の同意を得ていないものもあります。

確定しているかどうかは、地積測量図と、筆界確認書(境界確認書)の有無で判断します。現地に杭があるかどうかではありません。

測量にも二種類ある

現況測量 確定測量
内容 今ある構造物や杭を測る 隣接地所有者の立会いを得て境界を確認する
立会い 不要 必要
成果 現況測量図 確定測量図+筆界確認書
期間 数日〜1週間程度 数週間〜数か月
用途 おおよその面積把握 分筆、面積の確定、取引の条件

「測量図があります」と言われても、どちらかを確認してください。現況測量図では境界は確定していません。

確定測量が長引く理由

  • 隣接地の所有者が多い 角地や不整形地では、立会いを要する相手が増えます
  • 所有者が遠方・不明 相続で名義がそのままになっていると、相続人全員を探すことになります
  • 官民境界が未確定 道路に接していれば、行政との査定が必要です。これだけで数か月かかることがあります
  • 過去に争いがある 立会いに応じてもらえないことがあります

取引に確定測量が必要かどうかは、最初に判断してください。決済日が決まってから着手すると、間に合いません。

越境が見つかったとき

調査で最も頻繁に出てくるのが越境です。塀、擁壁、庇、樹木の枝、給排水管。

撤去だけが解決ではない

越境が見つかると「撤去してもらう」と考えがちですが、実務ではそう単純ではありません。

  • 撤去に費用がかかる。誰が負担するかで揉める
  • 擁壁のように、撤去すると構造上の問題が出るものがある
  • 相手が高齢で、応じる余力がないことがある
覚書で「将来の扱い」を決める

実務でよく使われるのが、越境の事実を確認したうえで、将来の建て替え時に是正するという取り決めです。書面にして、双方が署名します。

盛り込む内容は次のとおりです。

  • 越境している物件と、その位置・範囲
  • 現状のままとすることの確認
  • 建て替え・改築の際に、越境部分を是正すること
  • 土地の所有者が変わった場合、この覚書の内容を承継させること

最後の一項が抜けると、次の所有者に引き継がれません。必ず入れてください。

枝と根は扱いが違う

隣地から伸びてきた根は自分で切り取れます。枝は原則として所有者に切除させる必要があります。

ただし2021年の民法改正(2023年4月1日施行)により、催告しても相当期間内に切除しないとき、所有者やその所在を知ることができないとき、急迫の事情があるときは、自ら切り取れるようになりました。従来の説明のままだと誤りになります。

境界が確定していない土地を扱うとき

確定していないまま取引することもあります。その場合、条件の立て方が問題になります。

方法 内容 注意
公簿売買 登記簿の面積で取引し、実測との差があっても精算しない 差が大きいと後で争いになる。差の可能性を説明しておく
実測売買 実測面積で精算する いつまでに測るか、費用を誰が負担するかを決める
確定を条件とする 確定測量の完了を決済の条件にする 期限内に終わらない場合の扱いを決めておく

いずれの場合も、境界が確定していないという事実を、説明した記録を残してください。「聞いていない」が後から出てきます。

筆界に争いがあるとき

当事者間で解決できない場合、二つの手段があります。

筆界特定制度

法務局に申請し、筆界特定登記官が筆界の位置を特定する制度です。訴訟より短期間で、費用も抑えられます。ただし特定された筆界に既判力はなく、後から訴訟で争うことは可能です。

境界確定訴訟

裁判所が筆界を確定します。判決には既判力があり、最終的な解決になります。ただし時間と費用がかかります。

どちらも、扱うのは筆界です。所有権の範囲を争う場合は、所有権確認訴訟という別の手続きになります。

実務チェックリスト
  • 地積測量図の有無を確認したなければ確定測量が必要になる可能性
  • 地積測量図の作成年を確認した古いものは座標がなく精度が低い
  • 筆界確認書(境界確認書)の有無を確認した境界標があることとは別
  • 現地で境界標の種類と刻印を確認した官民境界か、民民境界か
  • 境界標が地積測量図の位置にあるか照らした
  • 登記事項証明書に筆界特定の記載がないか確認したあれば過去に争いがある
  • 測量図がある場合、現況測量か確定測量か確認した
  • 越境の有無を双方向で確認した出ている/入っている、両方
  • 越境がある場合、覚書の有無を確認した承継の条項が入っているか
  • 官民境界の確定状況を確認した未確定なら数か月を要する
  • 確定測量が必要か、決済日から逆算して判断した
  • 公簿売買か実測売買かを決め、条件を明確にした
  • 境界が未確定である事実を説明し、記録に残した

まとめ

  • 筆界と所有権界は別物。筆界は当事者の合意では動かない。
  • 境界標があることと、境界が確定していることは別。確認するのは地積測量図と筆界確認書。
  • 現況測量では境界は確定しない。確定測量には隣接地の立会いが要り、数週間から数か月かかる。
  • 越境は撤去だけが解決ではない。覚書で将来の是正を決める。承継の条項を必ず入れる。
  • 枝と根は扱いが違う。2023年4月施行の改正で、枝も一定の場合は自ら切り取れるようになった。
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