ファンドのドキュメンテーション ── 何を書面に残すか
- 山場はクロージング。売買・融資・担保・出資を同日に、順序を決めて実行する
- 売買契約の表明保証が、後の責任配分を決める
- 前提条件(CP)が一つでも欠ければ、決済は動かない
- 境界・越境は表明保証、前提条件、担保の三か所に現れる
ファンドの組成では、多数の契約書を並行して作り込みます。そして、それらを同じ日に、決められた順序で成立させます。
一つでも整わなければ、決済は動きません。書類の作成は、この一日に向けた逆算作業です。
この記事では、契約書の全体像と、クロージングの実務を整理します。
契約書の全体像
当事者ごとに整理すると、把握しやすくなります。
| 相手方 | 主な書類 |
|---|---|
| 売主 | 売買契約書(不動産または信託受益権) |
| 信託銀行 | 信託契約書、または信託契約変更契約書 |
| レンダー | ローン契約書、担保関連契約、口座管理に関する契約 |
| メザニンの貸し手 | メザニンローン契約、債権者間協定 |
| 出資者 | 匿名組合契約書、または組合契約書 |
| アセットマネージャー | AM契約書 |
| プロパティマネージャー | PM契約書、(該当すれば)マスターリース契約 |
| 会計・税務 | 事務委託契約書 |
| SPCの設立関係 | 定款、一般社団法人の関係書類(GK-TKの場合) |
売買契約と表明保証
売買契約では、売主が一定の事実が真実かつ正確であることを表明し、保証します。
これに反する事実が後から判明した場合、補償請求の根拠になります。調査で確認しきれない事項を、契約でどう配分するかという仕組みです。
不動産の売買で置かれる主な項目です。
- 所有権を有し、担保権その他の負担がないこと
- 境界について争いがないこと
- 越境がないこと(ある場合は、その内容と処理の状況)
- 建築基準法その他の法令に適合していること
- 賃貸借契約が開示したとおりであること、滞納がないこと
- 土壌汚染、アスベスト、地中埋設物がないこと
- 訴訟、係争が存在しないこと
調査で判明した事項は、表明保証の対象から除外する形で処理します。
表明保証の限界
| 制限 | 内容 |
|---|---|
| 期間 | クロージング後、一定期間内に請求する必要がある |
| 上限額 | 売買代金の一定割合が上限とされることが多い |
| 下限額 | 一定額を超えなければ請求できない |
| 売主の資力 | 売主がSPCの場合、清算後は請求先がなくなる |
売主がファンドのSPCである場合、売却後に清算されれば、請求する相手が存在しなくなります。
そのため、代金の一部を留保する、親会社の保証を取る、表明保証保険を付すといった手当てが検討されます。
「表明保証条項があるから安心」ではありません。誰に、いつまで、いくらまで請求できるのかを確認してください。
ローン関連の書類
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| ローン契約書 | 融資額、金利、返済、コベナンツ、期限の利益喪失事由 |
| 抵当権設定契約 | 不動産または信託受益権に対する担保 |
| 質権設定契約 | 信託受益権、出資持分、預金債権に対する担保 |
| 債権譲渡担保契約 | 賃料債権、保険金請求権 |
| 口座管理に関する契約 | 資金の流れを管理する口座の運用 |
| 債権者間協定 | メザニンがある場合。支払順位、担保実行、待機期間 |
ローン契約で確認する条項
- 財務コベナンツ LTV、DSCRの水準と、抵触時の効果
- キャッシュトラップ/スイープ どの条件で発動するか
- 期限の利益喪失事由 何が起きると一括返済になるか
- 報告義務 頻度と内容
- 期限前弁済の可否と、違約金
- 売却時の手続き 担保の解除、同意の要否
出資・運営に関する書類
匿名組合契約
- 出資額、出資の時期
- 分配の順序と方法
- 持分の譲渡制限 特例業務の要件を維持するために重要
- 営業者の権限と、出資者の同意を要する事項
- 報告の内容と頻度
- 終了事由と、清算の方法
AM契約
- 委託する業務の範囲 投資判断まで含むかどうか
- 報酬の構成 固定報酬、取得報酬、売却報酬、成功報酬
- 利益相反が生じる場合の手続き
- 解除の条件
売却報酬の割合が高ければ、早期の売却に傾く動機が生じます。取得報酬が高ければ、取得を急ぐ動機が生じます。
報酬の設計が、運用者の判断とどう関係するかを確認してください。出資者の利益と一致しているか、という視点です。
PM契約とマスターリース契約
- 業務の範囲 テナント対応、賃料回収、修繕の手配
- 修繕の判断 いくらまでPMの裁量で行えるか
- 報酬の算定方法
- (マスターリース)賃料の設定と改定、減額請求の可否
クロージング ── 同時履行
クロージングでは、次のことが同じ日に、決められた順序で行われます。
| 順序 | 行われること |
|---|---|
| 一 | 前提条件の充足を確認する |
| 二 | ローンが実行される |
| 三 | 出資が払い込まれる |
| 四 | 売買代金が支払われる |
| 五 | 所有権または受益権が移転する |
| 六 | 担保が設定され、登記が申請される |
| 七 | 各契約が効力を生じる |
どれか一つが欠けても、全体が動きません。だから当日は、関係者が同じ場所または同時に連絡が取れる状態で進めます。
クロージング前に固めること
- 資金の流れ(フローチャート) いくらが、どの口座から、どの口座へ
- 署名者と、押印する書類の一覧
- 登記の申請書類 司法書士が確認する
- 各当事者の当日の連絡体制
- 時間の割り振り 金融機関の営業時間、法務局の受付時間に制約される
前提条件(CP)
クロージングを実行する前提として、充足すべき条件が契約で定められます。
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 書類の提出 | 登記事項証明書、印鑑証明書、決議書、法律意見書 |
| 調査の完了 | デューデリジェンスの報告書、鑑定評価書 |
| 物件の状態 | 境界の確定、越境の覚書の取得 |
| 承諾の取得 | 賃借人への通知、私道の掘削承諾 |
| 保険 | 火災保険等の付保と、質権設定 |
| 表明保証 | クロージング時点でも真実であること |
前提条件は、相手方の履行を求める根拠であると同時に、自分が履行できない場合には延期の原因になります。
とくに、相手方の対応に依存する条件は要注意です。
- 隣接地所有者の立会いを要する確定測量
- 相手方の押印を要する越境の覚書
- 私道の共有者からの掘削承諾
- 賃借人からの承諾書
これらは自分では完了させられません。着手の時期を早め、進捗を管理してください。
境界・越境は、三か所に現れる
この点が、書類の作成で最も手戻りを生みます。
| 現れる場所 | 内容 |
|---|---|
| 表明保証 | 境界に争いがないこと、越境がないことを売主が保証する |
| 前提条件 | 確定測量の完了、越境の覚書の取得が、決済の条件とされる |
| 担保 | 担保の目的物の特定。面積が確定していなければ、評価も定まらない |
確定測量には、隣接地所有者の立会いが必要です。相続で所有者が増えていれば、全員の対応を待つことになります。所在が分からない共有者がいれば、そこで止まります。
越境の覚書も、相手方が押印しなければ成立しません。
これらはデューデリジェンスの初期に確認し、必要なら着手してください。契約書のドラフトが整っても、この一点で決済日が動きます。
間に合わない場合は、代金の一部留保、売主の努力義務、決済後の処理といった形で契約に落とし込むことになります。
誰がドラフトするか
| 書類 | 通常のドラフト担当 |
|---|---|
| 売買契約 | 売主側、または買主側(案件による) |
| ローン契約・担保関連 | レンダー側 |
| 債権者間協定 | シニアのレンダー側 |
| 信託契約 | 信託銀行 |
| 匿名組合契約 | 営業者側 |
| AM契約・PM契約 | 委託者側 |
一人の弁護士がすべてを作るわけではありません。各当事者の代理人が、それぞれの立場からドラフトし、修正を重ねます。
進め方
- スキーム図と、資金の流れを共有する
- 各書類のドラフト担当と、締切を決める
- ドラフトの回付と、コメントの反映
- 前提条件の一覧を作り、進捗を管理する
- 署名版の確定
- クロージング
四番目を早く始めてください。契約書の文言より、前提条件の充足のほうが時間がかかります。
クロージング後
- 登記の完了確認 登記事項証明書を取得して確認する
- 各書類の原本の保管と、写しの配付
- 報告の体制の立ち上げ
- コベナンツの計測と報告のスケジュール化
- 次のマイルストーン(更新、期限、償還)の管理
- 当事者ごとに必要な書類を一覧化した
- 売買契約の表明保証の項目を確認した
- 調査で判明した事項を、表明保証から除外する処理をした
- 補償の期間・上限・下限を確認した
- 売主の資力を確認したSPCなら清算後は請求先がない
- ローン契約のコベナンツと期限の利益喪失事由を確認した
- (メザニンあり)債権者間協定の内容を確認した
- 匿名組合契約の譲渡制限を確認した
- AM契約の報酬構成と、判断への影響を確認した
- 前提条件の一覧を作り、進捗を管理した
- 相手方に依存する条件を早期に着手した確定測量・越境覚書・掘削承諾
- 境界の状況を、表明保証・前提条件・担保の三か所で確認した
- 資金の流れをフローチャートで確定した
- 署名者と押印書類の一覧を作成した
- クロージング当日の時間割と連絡体制を決めた
- クロージング後、登記の完了を確認した
まとめ
- 山場はクロージング。売買・融資・担保・出資を同日に、順序を決めて実行する。
- 表明保証が責任の配分を決める。ただし、誰にいつまでいくらまで請求できるかを確認する。
- 前提条件が一つでも欠ければ決済は動かない。相手方に依存する条件は早期に着手する。
- 境界・越境は表明保証、前提条件、担保の三か所に現れる。手戻りの主因になる。
- 契約書の文言より、前提条件の充足のほうが時間がかかる。
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