災害と不動産 ── 復興で、いちばん時間がかかること
- 復興でいちばん時間を取るのは工事ではなく合意と権利の整理
- 被災後は建築を一時的に制限する仕組みがある
- 境界が失われると、再建も売買も進まない
- 決めておけることは、起きる前に決めておく
被災した後、何に時間がかかるか。瓦礫の撤去でも、工事でもありません。
誰の土地がどこまでで、どう使うかを決めること。ここで年単位の時間が過ぎます。
この記事では、その構造と、事前に備えられることを整理します。
復興の順序
被災後の土地利用には、大きく二つの道があります。
| 内容 | 時間 | |
|---|---|---|
| 元の場所で直す | 従前の敷地で再建する | 比較的早い |
| まちの形を変える | 区画整理、集団移転、道路の拡幅 | 年単位 |
後者を選ぶと、合意形成と権利の整理が必要になります。
安全な形にするには有効ですが、その間、住民は仮住まいで待つことになります。
この待ち時間の長さが、人口の流出につながります。戻らないと決めた人は、戻りません。
時間との闘い
- 仮設住宅には期限がある
- 事業者は再開の場所を早く決めたい
- 若い世帯は、子の学校の関係で待てない
- 高齢者は、待つうちに移れなくなる
- 時間が経つほど、戻る人が減る
「じっくり議論する」ことが、必ずしも良い結果を生みません。
だからこそ、起きる前に決めておけることを決めておくという考え方があります。
被災後の建築制限
大きな災害の後、一定期間、建築を制限する仕組みがあります。
被災市街地復興推進地域などの制度により、無秩序な再建を防ぎます。
| なぜ制限するか | |
|---|---|
| 計画を立てる時間を確保する | 先に建てられると、道路を広げられなくなる |
| 危険な場所への再建を防ぐ | 同じ被害を繰り返さない |
| 区画整理等の前提を保つ | 換地の計画が組めなくなる |
制限の期間と内容は、その災害と地域によって決まります。
取引の相談を受けた場合、その土地に制限がかかっていないか、市町村で確認してください。
また、災害後は用途地域や区域の指定が見直されることがあります。被災前の情報で判断しないでください。
境界が失われる
地震で地面が動き、津波や土砂で境界標が失われます。
そうなると、次のすべてが止まります。
- 建て直しの位置が決められない
- 売買ができない
- 用地買収が進まない
- 区画整理の前提が作れない
- 相続の手続きも滞る
復旧には、測量と、隣接する所有者全員の立会いが要ります。
被災地では、その所有者自身が避難していて連絡が取れないことがあります。
備えておけること
| 内容 | |
|---|---|
| 境界の確定 | 平時に確定測量をしておく |
| 境界標の設置 | 復元しやすい形で |
| 測量図の保管 | 法務局に地積測量図があるか確認 |
| 写真 | 境界標の位置を、周囲が分かる形で |
| 相続の整理 | 名義を現在の所有者にしておく |
最後が効きます。
被災後に「名義が祖父のままで、相続人が十数人」という状態になると、手続きが何年も止まります。
平時に片づけておくことが、災害への備えになります。
集団で移る場合
危険な区域から、まとまって安全な場所へ移る事業があります。
| 決めること | 難しさ |
|---|---|
| 移転先の用地 | まとまった土地が要る。造成も |
| 従前地の買取り | 価格の折り合い |
| 誰が移るか | 全員一致にはならない |
| 残る人の扱い | インフラをどこまで維持するか |
| 従前地の利用 | 買い取った後、何に使うか |
移転を選ばない人が必ず出ます。
- 先祖からの土地を離れたくない
- 移転先が生活に合わない
- 高齢で、環境を変えたくない
- 営んでいる事業が、その場所と結びついている
- 費用の負担
残る人がいると、道路・水道・除雪などをどこまで維持するかという問題が残ります。
「危険だから移ってください」だけでは、話が進みません。
残る選択をした人への対応も、あらかじめ決めておく必要があります。
事前復興という考え方
被災後に一から議論すると、間に合いません。
そこで、平時のうちに手順と方針を決めておく取組みが行われています。
| 決めておけること | |
|---|---|
| 誰が何を判断するか | 庁内の体制、指揮系統 |
| 仮設住宅の候補地 | 用地の目星をつけておく |
| 瓦礫の仮置場 | これがないと撤去が始まらない |
| 危険な区域の把握 | どこを再建しないか |
| 手続きの流れ | 誰に、いつ、何を相談するか |
| 住民との合意の作り方 | 説明の場をどう設けるか |
すべてを決めることはできません。
しかし、「まず何から始めるか」が決まっているだけで、初動が変わります。
不動産の側から備えること
- 境界の確定と、測量図の保管
- 相続登記を済ませておく
- 建物の図面・確認済証・検査済証を保管する
- 保険の内容を確認する 水災・地震保険の有無
- 写真で現況を記録しておく
- 擁壁・地盤の状態を把握する
これらは災害がなくても役に立ちます。
売却、相続、建て替え。いずれの場面でも必要になる情報です。
被災した不動産を扱うとき
| 確認すること | |
|---|---|
| 被災の履歴 | いつ、どの程度の被害を受けたか |
| 罹災証明の区分 | 全壊・半壊などの判定 |
| 修復の内容 | どこを、どう直したか |
| 公的支援の利用 | 受けた支援と、その条件 |
| 地盤の変状 | 沈下、傾き、擁壁の損傷 |
| 区域指定の変更 | 被災後に指定・見直しがあったか |
| 建築制限 | その土地に制限がかかっていないか |
修復の履歴は、資産の評価に関わります。
売主に確認し、記録があれば買主に引き継いでください。
記録がなければ、買主は最悪を想定します。その不確実性は価格に表れます。
説明の仕方
| 避けるべき言い方 | 適切な言い方 |
|---|---|
| 「もう安全です」 | 「こういう修復が行われています。記録はこちらです」 |
| 「あの地震でも大丈夫でした」 | 「次の地震で同じとは限りません」 |
| 「復興が進むので値上がりします」 | 「こういう事業が予定されています」 |
| 「もう指定は外れます」 | 「現時点の指定はこうです。見直しの予定は確認します」 |
- 境界が確定しているか確認した
- 地積測量図の有無を確認した
- 相続登記が済んでいるか確認した
- 建物の図面・確認済証・検査済証を確認した
- 保険の内容(水災・地震)を確認した
- (被災地)被災の履歴と罹災証明の区分を確認した
- (被災地)修復の内容と記録を確認した
- (被災地)公的支援の利用と条件を確認した
- (被災地)建築制限がかかっていないか確認した
- (被災地)区域指定が見直されていないか確認した
- 地盤の変状・擁壁の損傷を見た
- 安全性を断定していない
- 将来の価格を示唆していない
まとめ
- 復興で時間を取るのは工事ではなく、合意と権利の整理。
- 待つ時間が長いほど、戻らない人が増える。
- 境界が失われると、再建も売買も相続も止まる。
- 平時の境界確定と相続登記が、そのまま災害への備えになる。
- 被災後は建築制限や区域指定の見直しがある。被災前の情報で判断しない。
土地家屋調査士行政書士 村上事務所では、確定測量・境界標の設置から、相続に伴う手続きまで対応しています。
平時に整えておくことが、いちばんの備えになります。