公共交通のDX ── 地方で、何から手をつけるか
- 地方では、便利にする前に路線が維持できるかが課題
- 計画の根拠は地域公共交通活性化再生法。市町村が計画を作る
- 最大の壁は技術ではなく既存事業者との調整
- 移動データは個人情報になりうる。扱いを先に決める
アプリで検索して、予約して、決済まで済ませる。都市部ではすでに当たり前です。
ところが地方では、そもそも来るバスが一日数本しかない。便利にする以前の問題があります。
この記事では、地方都市で何から手をつけるかを整理します。
何を解こうとしているのか
| 都市部 | 地方都市 | |
|---|---|---|
| 課題 | 混雑、乗り換えの手間 | 路線の維持そのもの |
| 利用者 | 多い | 減り続けている |
| 事業者 | 複数が競合 | 撤退が続いている |
| 運転士 | 不足 | 不足が深刻 |
| 求められるもの | 統合、最適化 | 代替手段の確保 |
地方で先に必要なのは、乗り継ぎの快適さより「移動できること」です。
都市部の事例をそのまま持ち込むと、アプリは作ったが乗るものがないという結果になります。
地方で実際に検討されるもの
- デマンド型交通 予約に応じて運行する
- 路線の再編 利用の少ない区間を見直す
- スクールバス・福祉輸送との統合
- 自家用有償旅客運送 地域住民が担う
- タクシーの活用
- 拠点までの支線と、拠点間の幹線を分ける
デジタルは、これらを成り立たせるための道具です。
予約の受付、車両の配車、利用実績の把握。人手でやると回らない部分を機械に任せるという位置づけです。
制度の枠組み
| 内容 | |
|---|---|
| 地域公共交通活性化再生法 | 市町村等が地域公共交通計画を作成する |
| 法定協議会 | 交通事業者、住民、道路管理者、公安委員会などで構成 |
| 実施計画 | 国の認定を受けると支援の対象になる |
| 道路運送法 | 運送事業の許可・登録 |
地域公共交通計画は、努力義務として位置づけられています。
作成していない市町村では、補助制度の対象から外れる場合があります。
計画に盛り込む主な内容です。
- 区域と、目指す姿
- 路線・便数などの目標
- 実施する事業と、担い手
- 評価の方法
計画があることで、事業者との協議も進めやすくなります。
「市の計画に位置づけられている」という根拠が、庁内でも対外的にも効きます。
三つの壁
① 既存の事業者との調整
新しい仕組みを入れると、既存の事業者の利用者が移る可能性があります。
| 事業者が懸念すること | |
|---|---|
| 既存路線の利用者を奪われる | 収入が減る |
| 運賃の決定権 | 統合されると自社で決められない |
| データの提供 | 経営情報が外に出る |
| システムの費用 | 誰が負担するのか |
| 責任の所在 | 事故・遅延の対応 |
「地域のため」という説明だけでは動きません。
事業者は民間企業であり、収支が成り立たなければ撤退するしかありません。
示すべきは、その事業者にとって何が良くなるかです。
- 不採算路線の負担が減る
- 予約が事前に分かり、無駄な運行が減る
- 市が費用を負担する範囲を明示する
- 利用者が増える見込みの根拠
早い段階から協議に加わってもらってください。案が固まってから示すと、反発だけが残ります。
② データの制約
計画を作るには、実際の移動を把握する必要があります。
| データ | 問題 |
|---|---|
| 乗降者数 | 把握していない事業者がある |
| ICカードの記録 | 導入されていない路線がある |
| 人流データ | 費用がかかる。粒度に限界 |
| アンケート | 答える人に偏りがある |
| 既存の調査 | 数年前のもので、実態と合わない |
いつ、どこからどこへ移動したか。これは特定の個人を識別しうる情報です。
- 収集の目的を明示する
- 本人の同意をどう取るか
- 統計的な処理を施すか
- 事業者間で共有する場合の取扱い
- 保存期間と廃棄
- 委託先の管理
自治体には、個人情報の保護に関する法律が適用されます。
取得を始める前に、庁内の担当部局と整理してください。後から問題になると、事業全体が止まります。
③ 用地と手続き
乗り換えの拠点や車両の待機場所を確保する際、用途地域と許認可の確認が要ります。
- その用途が、その用途地域で可能か
- 市街化調整区域なら開発許可
- 道路上に設ける場合、道路占用の許可
- 交通管理者との協議
- 用地の取得または借用
計画では位置が決まっていても、実際に確保できないことがあります。
費用をどう見るか
| かかるもの | 性格 |
|---|---|
| システムの構築 | 初期。補助の対象になりやすい |
| 車両 | 初期。補助の対象になりうる |
| 運行の委託費 | 毎年かかる。補助が続くとは限らない |
| システムの保守 | 毎年かかる |
| 数年後の更新 | まとまった額が要る |
補助金は立ち上げには使えても、運行を続ける費用は市町村が負います。
計画の段階で、補助が終わった後の収支を試算してください。
そこが示せなければ、数年で止まる事業になります。
不動産・開発との関係
再開発や大規模な施設の計画では、交通の処理が許認可の要件になります。
- 交通量の増加をどう捌くか
- 公共交通への接続
- 駐車場の附置義務との関係
- 歩行者の動線
交通の利便が上がれば、周辺の土地の使い方も変わりえます。
ただし、地価への影響を断定的に語らないでください。計画が実現するか、実現しても効果が出るかは、その時点では分かりません。
評価をどう置くか
| 測るもの | 見方 |
|---|---|
| 利用者数 | 路線別、時間帯別 |
| 収支率 | 市の負担額の推移 |
| 移動できない人 | 最寄りの停留所まで遠い地域の数 |
| 目的地への到達 | 病院・買い物に行けるか |
| 運転免許の返納 | 返納しても暮らせるか |
利用者数だけを見ると、判断を誤ります。
人口が減っていれば、サービスが改善しても利用者は減ります。
見るべきは、移動できない人がどれだけ減ったかです。
- 地域公共交通計画の有無を確認した
- 法定協議会が設置されているか確認した
- 都市部の事例をそのまま当てはめていない
- 既存事業者に、早い段階から加わってもらった
- 事業者にとっての利点を示した
- 市の費用負担の範囲を明示した
- 把握できるデータの範囲を確認した
- 移動データの取扱いを、庁内で整理した
- 個人情報保護の観点を確認した
- 拠点用地の用途地域・許認可を確認した
- 道路占用・交通管理者との協議を確認した
- 補助が終わった後の収支を試算した
- 評価に「移動できない人」の指標を入れた
- 地価への影響を断定していない
まとめ
- 地方では、便利にする前に路線が維持できるかが課題。
- 地域公共交通計画がないと、支援を受けにくい。協議の根拠にもなる。
- 最大の壁は既存事業者との調整。「地域のため」だけでは動かない。
- 移動データは個人情報になりうる。取得前に庁内で整理する。
- 補助は立ち上げまで。続ける費用を試算しないと、数年で止まる。
自治体職員、専門職団体、事業者の皆様向けにお引き受けしています。計画の作り方と、事業者との協議の進め方をお話しします。
構成のご提案とお見積りまで、費用はかかりません。