賃貸借契約書作成のポイント
貸主と借主の関係は賃貸借契約から始まるといってよいでしょう。
契約書に書いてある文章は、なかなかとっつきにくいものですが、きちんと理解する必要があります。
あとで、「こんなことは知らなかった」とならないためにも。
民法601条では、「賃貸借は、当事者の一方である物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」としています。
「諾成契約」といって契約書を作成していなくても口頭の意思表示が合致していれば契約は成立します。ただ、現実問題として実務上においては、契約書が作成されています。
宅地建物取引業法第37条第2項では、「・・・その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、所定の事項(契約内容)を記載した書面を交付しなければならない」とされているため、宅地建物取引業者に対しては契約当事者に対する書面交付が義務付けられているのです。
賃貸借契約書の作成
契約の内容は、貸主と借主によって自由に定めることができます。
そうはいっても、公序良俗に関する条項、貸主に一方的に不利になる条項などは紛争のもととなります。
通常、仲介をしている不動産会社が貸主(オーナー)よりの立場に立って賃貸借契約書を作成し借主の希望や条件が入る余地はあまりありません。
その結果、入居後や解約時になって、「こんなことは知らなかった」となり、トラブルに発展、なんてケースもチラホラ見受けられます。
賃貸借契約の本質は、貸主と借主のお互いの権利と義務を明確にすることです。
不動産屋さんの言われるがままではなく契約内容は、十分に理解すること。そしてトラブルを未然に防ぐようにしましょう。
不動産屋さんや貸主(オーナー)の中には、契約内容や居住ルールなどを省略することがあります。
それが意図的であればちょっと(かなり??)問題ですが、「あまりたいしたことがないだろう」と貸す側で思っていたとしても借りる側にとったら重要な事柄かもしれません。
とくに特約(特記事項)に関しては、借主がきちんと理解していないとトラブルに発展してしまう可能性がとても多くなります。
敷金の清算の負担割合に関しては、とくにトラブルが多いです。
対策としては、契約時の賃貸物件の状態を記録・保存することが、トラブルを発生させないコツです。
賃貸借契約書の種類
普通建物賃貸借
この普通建物賃貸借契約が一般的に締結されるものです。
借地借家法上の存続期間を保証する規定が適用され、これに反して借主に不利な特約を定めても無効となります。
一時使用建物賃貸借契約
一時使用建物賃貸借契約とは、短期間の住宅使用を目的とする場合等に利用される契約です。たとえば、避暑や転勤等のため所有建物を一時的に賃貸する等に限定して賃貸借契約を締結するものです。
契約書作成においては、「使用目的」を具体的に記載しなければなりません。
一時使用のための賃貸借であることが明らかである必要があるからです。
この「一時使用のため」かどうかの判断基準としての期間はどのくらいなのか?という点について判例は、
『必ずしもその期間の長短だけを標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機、その他の諸般の事情から、当該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される場合であり、その期間が1年未満でなければならないものではない』
としています。
期間が1年以上でも、諸々を客観的に一時使用であるかどうかを判断するということですね。
建て替え工事中の仮住まいなど、工事の遅延の可能性がある場合、試用期間延長についての規定も注意して準備しておきましょう。
一時使用賃貸借であることが明らかでない場合には、普通建物賃貸借契約とされますので注意が必要です。
普通建物賃貸借契約とみなされた場合、借地借家法の適用を受けることになりますからね。
終身建物賃貸借契約
終身建物賃貸借契約とは、平成13年10月に施行された「高齢者の居住の安定確保に関する法律」によって定められています。高齢者が死亡するまで終身にわたって居住することができ、死亡時に契約が終了する旨の特約がある契約のことです。
死亡時に契約が終了しますので、相続は発生しません。
「一代限り」ということになります。
終身建物賃貸借契約における賃貸住宅は「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づき、バリアフリー化基準など高齢者に適した良好な居住環境の確保が求められています。
終身建物賃貸借契約は公正証書等の書面で行うことが必要です。
定期建物賃貸借契約
定期建物賃貸借契約は、更新のない賃貸借契約のことです。
定期借家契約とも言われていますね。
普通建物賃貸借契約では、貸主が更新を拒絶する場合には、「正当な事由」が必要です。さらに期間満了前の6ヶ月から1年前までに更新をしない旨の通知を行わなければなりません。
このことは借地借家法第26条、第28条に規定されており、これに反する内容で契約することはできません。
「更新しない特約」は、借地借家法第30条により無効となるのです。
賃貸借契約期間が満了しても更新することが原則、ということになります。
「更新をしたくない」ときは、定期建物賃貸借契約を締結することになります。
定期建物賃貸借契約とは、期間満了によって当該賃貸借契約が終了するものです。
「更新しないこと」を定めた賃貸借契約ということになります。
普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約は、更新をするのか、更新をしないのかが大きな違いですが、他にもいくつか相違点があります。
1契約方法
【定期】
書面によらなければならない。(公正証書等)
※貸主は更新がなく、期間満了によって当然に賃貸借契約は終了する」ことを記載した書面をあらかじめ説明しておかなければなりません。
【普通】
書面、口頭、どちらでもOK
2更新の有無
【定期】
なし
【普通】
有り
3契約期間
【定期】
無制限
【普通】
2000年3月1日より前の契約・・・20年
2000年3月1日以降の契約・・・無制限
4 1年未満の契約
【定期】
有効
【普通】
「期間の定めのない契約」とみなされる
5賃料の増減
【定期】
特約の定めに従う。特約があるときは、32条(賃料増減請求権)の規定は適用なし
【普通】
当事者は、特約の有無にかかわらず、賃料の増減の請求は可能。32条(賃料増減請求権)の規定による。
6借主の中途解約
【定期】
・床面積200㎡未満の居住用建物
・借家人のやむを得ない事情あり
・生活の本拠として使用することが困難
↓
借家人から中途解約の申入れができる。
特約がなくても法律によって可能
上記以外の場合、中途解約に関する特約があればその定めに従う。
【普通】
中途解約特約がある場合は、その定めに従う。
◼︎事業用定期借地権
借地借家法の一部が改正されました。
平成20年1月から事業用定期借地権の期間が引き上げられました。
改正前の契約期間 10年以上20年以下
↓
改正後 上限が50年未満まで引き上げ
【普通借地権】
30年以上
【一般的借地権】
50年以上
【建物譲渡特約付借地権】
30年以上
【事業用借地権】
・10年以上30年未満
・30年以上50年未満
50年以上については現行の一般定期借地権で対応すれば良いため、実質、事業用借地権の上限は亡くなったことになります。
この改正の最大のメリットは、なんでしょうか?
それは、地主が30年くらいの中期なスパンで土地活用しやすくなったことです。
以前の定期借地権では、20年以上30年未満の契約ができなかったので、もしその期間土地活用をするとなると、地主は普通借地権によらなければなりません。この普通借地権には、以下のような、いくつかのデメリットがあります。
・立ち退きのときにトラブルに発展する可能性が高い
・建設協力金方式でテナントが途中撤退したときの地主負担の大きさ
こうしたデメリットから、事業用定期借地のニーズが高まってきました。
そして、より「使える」制度として、事業用定期借地の期間が延長されていったというわけです。
期間が延長されるということは、借主にも建物の減価償却などのメリットがあります。
事業用建物の税務上の償却耐用年数の多くは30年以上です。以前の20年以下の事業用定期借地権では、償却しきれずに契約終了というケースが多かったのです。
事業用建物賃貸借契約の注意点
事業用の建物賃貸借は、借主が建物を事業のために使用する賃貸借です。
契約締結時には、敷金、保証金、権利金などの名称のもとに借主から貸主に一時金菓子は割られることが一般的です。その一時金の性質は、名称の如何を問わず「返還されるもの」なのか、「返還されないもの」なのか、返還されるにしてもどのような条件で返還されるのかなどの取り決めがなされていることに注意が必要です。
また、賃貸借の対象をどのように決めるのかは、原状回復の範囲と関係してくることです。賃貸借の対象と原状回復義務を明確にしておくことが重要となります。
賃貸借契約書の確認事項
契約書の作成には、一般的には、「賃貸住宅標準契約書」が使われます。(2012年2月改訂)
国土交通省の賃貸住宅標準契約書
賃貸住宅標準契約書は平成24年2月に改訂されました。
注意しなければいけない箇所は、禁止事項、制限事項、承諾事項、特約事項についてです。内容を十分に把握しなければなりません。
貸主・借主・連帯保証人・賃貸借の目的となる不動産・使用目的
関係する当事者、不動産の表示を行います。
契約期間、更新の定め
建物賃貸借の場合、最短期間の制限はありません。ただ1年未満の契約期間とした場合には、「期間の定めのない契約」とみなされますので注意が必要です。
賃料及び支払方法
賃料、管理費(共益費)を確認します。支払方法、支払期日について定めておきましょう。
賃料改訂に関する規定についても注意しましょう。賃料増額に関することなどは、後になってトラブルの元となりやすいです。
敷金
最近では、敷金と退去時の原状回復費用との清算をめぐるトラブルが多くなっています。
国土交通省では、ガイドラインを公表しています。
このガイドラインはトラブルを未然に防止するためのものです。
法的拘束力はないけれど、敷金返還、原状回復等のトラブルに活用できるものです。
判例にもありますが、特に「修繕費」などは通常の生活状態であれば、敷金から差し引かれて負担する義務は借主にありません。
また、敷金返還請求権は、借主が物件を明け渡した後に貸主に返還義務が発生するものです。同時履行の関係ではないということです。
禁止事項
・貸主に無断で賃貸借を譲渡、転貸すること。
・貸主に無断で増改築すること。
・無断で長期不在にすること
・ペットの飼育、楽器演奏
など、です。
いずれも共同生活の妨げとなるものです。
よく確認する必要があります。
契約解除
貸主からの解除
賃料の一定期間分の滞納
賃貸借の無断譲渡・転貸
無断増改築
使用目的の無断変更
などのように、契約違反とされる事実があった場合、契約できる旨を定めています。
借主からの解約
借主に一定の予告期間や一定額の保証を課すことができるとされています。
反社会的勢力の排除
反社会的勢力排除のための条項が導入されるようになりました。
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」では、「貸主及び借主が、暴力団等反社会的勢力ではないこと」などを確約する条項を盛り込んでいます。
こうした記載があるとどうか確認しておきましょう。
特約事項
一方的に借主に不利な条項である場合があります。
借地借家法 26条(建物賃貸借契約の更新等)、27条(解約による建物賃貸借の終了)、28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)、29条(建物賃貸借の期間)、31条(建物賃貸借の対抗力等)、34条(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)、35条(借地上の建物の賃借人の保護)の規定は強行規定です。
この強行規定に反する特約は無効となりますので、注意が必要です。
東京ルール
東京都では、条例によって一定事項については宅地建物取引業者の説明が義務付けられています。「原状回復について」「期間中の修繕について」「修繕および維持管理等に関する連絡先」など書面を交付するなどして説明しなければなりません。
東京ルールは、東京以外の地域でも参考にされています。
法定更新について
期間を定めた契約について、「更新をしない旨の通知」、「条件を変更しなければ更新をしない旨の通知」をしなかったときは、法律上当然に更新がなされます。
「通知」は、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に貸主が行うこととなっています。
「更新しない旨の通知」をする場合には、貸主に更新を拒否するのが正当と認められるだけの、以下のような事由が必要となります。
・貸主、借主が建物の使用を必要とする事情
・建物賃貸借に関する従前の経過
・建物の利用状況及び建物の現況
・財産上の給付の提供(上記の補充としての立退料の提供)
上記の事情を踏まえ総合的に判断して決められます。
借主の必要費等の請求権
必要費償還請求権
通常の生活してくために必要不可欠な状態にするために支出した「必要費」を借主は貸主に対し、直ちに償還請求できます。
有益費償還請求権
物件の改良のために支出した費用等の償還を求める権利のこと。契約終了時に物件の価格の増加が現存する場合には、支出した費用または増加額の償還を借主が貸主に請求できます。
造作買取請求権
借主が貸主の同意を得て物件に附加した造作があるとき、契約終了時に、借主が貸主に対し、その造作を時価で買い取ることを請求できる権利のこと。造作とは、賃貸人の所有に属し、建物の使用に客観的に便益を与えるものをいいます。たとえば、畳、建具、エアコン、など。