調査で分からなかったことを、どう書くか ── 判断を留保する意味
- 報告書は三つに分けて書く。調べた範囲、確認できた事実、確認できなかったこと
- 「汚染はない」とは書けない。資料調査は不存在を証明できない
- 留保は逃げではなく、次の判断を可能にする書き方
- 出所を一行ごとに添える。後から誰かが同じ資料に当たれること
「結局、この土地は大丈夫なんですか」。報告書を渡したとき、必ず聞かれます。
依頼者が求めているのは白か黒かです。しかし資料調査で出せるのは、そのどちらでもありません。ここをどう書くかで、報告書の値打ちが決まります。
この記事では、分からなかったことをどう書くかを整理します。シリーズの締めにあたります。
資料調査は、不存在を証明できない
先に、できないことをはっきりさせます。
登記も台帳も住宅地図も航空写真も、過去の一部を写した記録にすぎません。記録に残らなかった事実は、どれだけ資料を集めても出てきません。
フェーズⅠは資料調査であり、汚染の有無を証明するものではありません。
土に何が含まれているかは、掘って分析しなければ分かりません。資料から言えるのは「疑うべき履歴が見つかったかどうか」までです。
それを超えて「問題ありません」と書けば、書いた側が根拠のない保証をしたことになります。
三つに分けて書く
報告書の骨格はこれだけです。調べた範囲、確認できた事実、確認できなかったこと。
| 部分 | 書くこと |
|---|---|
| 調べた範囲 | 当たった資料、遡れた年代、照会した先 |
| 確認できた事実 | 年表。一行ごとに出所を添える |
| 確認できなかったこと | 資料が無かった年代、記載が読めなかった箇所 |
三つ目を省くと、報告書は嘘になります。読む側は「書かれていないこと=無かったこと」と受け取るからです。
逆に三つ目を丁寧に書けば、どこまでが確認済みで、どこから先が未知かの境目が引けます。その境目こそが、次の判断の材料になります。
「確認できた事実」の部分は、資料の性格ごとに層を分けると読みやすくなります。
一層目は航空写真と旧住宅地図。新しい年代を、目に見える形で押さえます。二層目は旧土地台帳と閉鎖登記簿。写真では届かない古い年代を、書面でさかのぼります。三層目は行政庁への照会。一層目と二層目で挙がった疑いに、裏を取ります。
層ごとに何が言えたかを書き、最後にそれらを一本の年表へまとめます。この順序で組むと、根拠と結論の対応が崩れません。
使ってよい言葉と、使えない言葉
言い回しは、そのまま責任の範囲になります。
| 使えない | 使ってよい |
|---|---|
| 汚染はない | 汚染のおそれを示す履歴は確認されなかった |
| 工場は無かった | 確認した資料には、工場に係る記載はなかった |
| 問題ない | 本調査の範囲では、追加調査を要する事情は見当たらなかった |
| 記録なし | ◯年以降の記録には該当がない(それ以前は保存年限経過) |
右の列は、どれも主語が「資料」であり、範囲が明示されています。左の列は主語が土地そのもので、範囲がありません。
行政照会の答えをどう書き分けるかは「記録なし」と「保存年限経過」は違うに、使用者が特定できなかった場合は登記記録に現れない使用者にまとめてあります。
「おそれ」をどう表すか
土壌汚染の調査では、地歴調査の結果をおそれの程度で区分します。土壌汚染対策法施行規則3条6項の定めで、「おそれがないと認められる土地」「おそれが少ないと認められる土地」、そして「前二号に掲げる土地以外の土地」の三つです。三つ目は実務で「おそれが多いと認められる土地」と呼びます。
この区分は、試料採取の密度を決めるために使われます。区分ごとに何が変わるかはフェーズⅠとフェーズⅡにまとめてあります。自主的な資料調査でこの用語をそのまま使うときは、どの意味で使っているかを明記します。
自主的な調査の結果を用いて区域の指定を申請できる制度もあります。ただしそれには、法に定められた方法で調査が行われている必要があります。
資料調査だけの報告書は、その手前にあります。報告書の冒頭で、これが自主的な資料調査であり法定の調査ではないことを、はっきり書いておきます。
制度の全体像は土壌汚染対策法を参照してください。
出所を、一行ごとに添える
年表の各行には、どこから取ったかを書きます。
「昭和◯年、地目が畑から宅地に変更(◯◯地方法務局◯◯支局・閉鎖登記簿)」。この括弧が無い年表は、資料ではありません。
理由は二つあります。一つは、後から誰かが同じ資料に当たり直せること。もう一つは、読む側が資料の重さを判断できることです。登記の記載と住宅地図の屋号では、確からしさが違います。
各資料の性格は旧土地台帳、航空写真、旧住宅地図のそれぞれに書いてあります。
次に何をすべきかを書く
留保しただけで終わると、依頼者は動けません。留保と一緒に、次の一手を書きます。
疑うべき履歴が出たなら、敷地のどのあたりを、なぜ調べるべきかまで書きます。「昭和◯年から◯年まで敷地北側にクリーニング所の記載があるため、当該部分について土壌の調査を検討することが考えられる」。
逆に何も出なかった場合も、確認できなかった年代を示したうえで、そこを埋める方法があるかを書きます。周辺の聞き取り、別の館の住宅地図、県外の図書館。無ければ「現時点で追加できる資料は見当たらない」と書きます。
取引の場面で求められる調査の範囲はエンジニアリングレポートに整理があります。
留保が、信用になる
断定を避けた報告書は、依頼者にとって一見もどかしいものです。しかし断定した報告書は、外れたときに何も残しません。
範囲を明示して留保した報告書は、外れません。書いてあるのは「この資料をこの範囲で見て、これが確認できた」という事実だけだからです。何年か経って争いになったとき、身を守るのはこの書き方です。
依頼者にも、渡すときにこう説明します。この報告書は「安全である」と述べるものではなく、「どこまで調べ、何が分かり、何が分からなかったか」を記録したものです。
押されても、断定に踏み込まないことです。かわりに書けることと書けないことを分けて示します。
「確認した資料の範囲では、汚染のおそれを示す履歴は見当たりませんでした。ただし昭和◯年より前は資料が残っておらず、その期間については何も申し上げられません」。これが、いま言えることのすべてです。
そのうえで、依頼者が判断のために何を必要としているのかを聞きます。金融機関に出すのか、買うかどうかを決めたいのか。用途によって、次に取るべき手が変わります。
- 調べた範囲・確認できた事実・確認できなかったことの三つに分けた
- 年表の各行に出所を書いた
- 「無い」「問題ない」と書いていない
- 遡れた年代の下限を明示した
- 読めなかった箇所を「読めなかった」と残した
- 自主的な資料調査であり法定の調査ではないと冒頭に書いた
- 次に何をすべきかを、根拠つきで書いた
- 依頼者に、この報告書が何を述べていないかを説明した
該当が見当たらなかった場合の書き方は、市街地の調査でとくに問われます。近世からの町場と商業地で、範囲の示し方とあわせて整理しています。
まとめ
- 資料調査は不存在を証明できない。「汚染はない」と書いた時点で越えている
- 調べた範囲・確認できた事実・確認できなかったことの三つに分ける。三つ目を省くと報告書は嘘になる
- 言い回しの主語は「資料」にし、範囲を明示する
- 年表の各行に出所を添える。後から同じ資料に当たり直せることが要件
- 留保と一緒に次の一手を書く。範囲を明示した報告書は、外れない
熊本県内の土地の地歴調査(土壌汚染フェーズⅠ)。法務局と市町村の窓口でしか確認できない資料を、現地で集めます。株式会社地央(熊本市)が承っています。
