海外都市の緑化戦略 ── 日本のまちづくりに、何が使えるか
- 海外の先進都市に共通するのは、緑を飾りではなく都市のインフラとして扱うという発想の転換
- 新しい土地を確保するのではなく、すでにある場所を使い直している。校庭、街路、屋根
- 目標の立て方が違う。面積ではなく「家から何分か」という距離で置いている都市がある
- 制度化は実践のあとに来ている。ドイツでは気候適応が計画の考慮事項として法律に書き込まれた
都市の緑化というと、公園を増やす話だと受け取られがちです。
しかし海外の先進都市が進めているのは、公園の新設ではありません。すでに舗装されている場所を剥がし、街路や屋根を使い直すという方向です。新しい土地が手に入らないのは、どこの都市でも同じだからです。
この記事では、いくつかの都市が実際に何を制度にしたのかを並べ、日本のまちづくりで参照できるところを整理します。
自然は排除し、コンクリートで固める
蒸発と浸透に回す
排水から、保水へ
二十世紀の都市は、雨をできるだけ早く排除する方向で設計されてきました。舗装し、側溝を切り、下水に流す。この考え方が、いま各都市で見直されています。
集中豪雨と内水氾濫、ヒートアイランド現象、生き物の生息場所の減少。これらは別々の問題ではなく、同じ設計思想の裏返しとして起きています。
そこで出てきたのが、雨を敷地でいったん受け止め、蒸発と浸透に回すという考え方です。緑地や樹木は、景観の要素ではなく、雨水を処理し気温を下げる装置として位置づけられます。
都市そのものを公園と見立てる
ロンドンは2019年7月、世界で最初の「National Park City」を宣言しました。市域のうち緑地と水面が占める割合は、約49.7パーセントとされています。
ここで宣言されたのは、新しい公園をつくるという計画ではありません。すでに市域の半分近くを占めている緑と水を、ひとつのまとまりとして見立て直すという宣言です。
法的な指定ではなく、住民や団体が参加する運動として組み立てられている点に特徴があります。2021年にはアデレードが続きました。
学校だけが使う
自然の状態にする
避難先になる
すでにある場所を、使い直す
パリは2018年から、学校の校庭を改修する「Cours OASIS」という事業を進めています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| やること | 校庭のアスファルトを剥がし、面積の30〜50パーセントを自然の状態にする |
| 目的 | 暑熱の緩和、雨水の浸透、そして地域の居場所づくり |
| 開放 | 土曜日に一般開放する。とくに高齢者など、暑さに弱い人の避難先になる |
| 進み方 | 2021年12月までに72校。2050年までに全770校を目標 |
年間の予算は約1,000万ユーロで、うち約500万ユーロはEUの基金から出ています。
校庭は、もともと自治体が持っている土地です。用地買収も、都市計画の変更も要りません。
使う時間帯を分けることで、一つの空間を二つの用途に使う。日本の学校施設でも、考え方としては同じことができます。
街路の断面を組み替える
バルセロナは、格子状の市街地(エシャンプラ地区)で、街路そのものを緑地に変える計画を進めています。
- 21本のグリーン街路(合計約33キロメートル)
- 交差点につくる21の新しい広場
- 新たに生まれる歩行者空間 約33.4ヘクタール、都市緑地 約6.6ヘクタール
- 地区の住民が、自宅から200メートル以内に広場かグリーン街路にたどり着けること
車道の一部を歩行者空間と植栽に振り替えるという、断面の組み替えです。ここでも、新しい用地は生まれていません。
大きな公園を一つつくるほうが効く
小さな緑地を配置し直すほうが効く
距離で目標を立てる
シンガポールの「Singapore Green Plan 2030」は、緑地の目標を面積ではなく距離で置いています。
| 目標 | 内容 |
|---|---|
| 2030年 | すべての世帯が、公園から徒歩10分の圏内にある状態にする |
| 2030年 | 樹木を100万本増やす |
| 2030年 | 自然公園の面積を、2020年比で50パーセント以上増やす |
| 2026年 | 130ヘクタール超の公園を新設し、約170ヘクタールの既存公園を改良する |
「何ヘクタール整備したか」ではなく「住民が何分で着けるか」で測る。この立て方だと、大きな公園を一つつくるより、小さな緑地を配置し直すほうが効くという判断になります。
雨を、敷地で受け止める
ベルリンは2018年、州と水道事業者が共同で雨水エージェンシー(Berliner Regenwasseragentur)を設けました。
取り組んでいるのは、下水道の負荷、浸水、渇水、そしてヒートアイランド。これらを一つの窓口で扱っています。
手法は、屋根の緑化、貯留池、浸透施設といった分散型の雨水管理です。建設事業に対して雨水の排出量を制限する仕組みも運用されています。
制度は、実践のあとから来る
ドイツでは、こうした取り組みが法律の側にも書き込まれました。
2011年7月30日に施行された建設法典(BauGB)の改正により、都市計画は気候保護と気候変動への適応に貢献すべきものと位置づけられ、あわせて1a条5項が新設されました。
ここでは、気候変動を防ぐ側の措置(再生可能エネルギーの利用など)と、気候変動に適応する側の措置(冷気の通り道の確保など)の両方が挙げられています。
ただし、これは衡量にあたっての考慮事項であって、他の利益に優先するものとはされていません。「必ず緑にしろ」ではなく「必ず検討しろ」という書き方です。
順序が参考になります。制度が先にあって実践が始まったのではなく、地域での実践が積み重なったあとで、考慮の義務が法律に置かれた。最初から完璧な条例をつくろうとしなくてよい、ということでもあります。
日本で使えるところ
そのまま持ち込める制度は多くありません。ただ、発想として参照できるところがあります。
- 新しい用地を前提にしていないか。既存の公有地で足りないかを先に検討した
- 一つの空間を、時間帯で分けて二つの用途に使えないか検討した
- 街路の断面を組み替える余地があるか、幅員と交通量から検討した
- 目標を面積ではなく、住民からの距離や到達時間で置けないか検討した
- 雨水の処理を、下水への排除だけでなく浸透と貯留で分担できないか検討した
- 緑化を景観の話にとどめず、暑熱と雨水の観点から説明した
- 先に小さく試し、あとから条例化するという順序を検討した
- 利害が対立する相手(沿道の商業者、車を使う住民)と話す場を設けた
とくに最後の一点です。車線を減らす、緑を増やすという話は、必ず誰かの不利益になります。行政と事業者と住民が対等に話せる場を、誰が用意するのか。海外の事例で共通していたのは、そこに人と時間をかけていたことでした。
まとめ
- 先進都市が変えたのは、雨を排除する設計から、敷地で受け止める設計へという発想。
- 新しい用地は探していない。校庭、街路、屋根といった既存のストックを使い直している。
- 目標の立て方が違う。面積ではなく「家から徒歩10分」という距離で置く例がある。
- ドイツでは、実践が積み重なったあとで、気候適応が計画の考慮事項として法律に書き込まれた。
- いちばん時間がかかるのは、利害が対立する相手と合意をつくる場の設計。
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