旧住宅地図の使い方 ── 屋号と業種から過去の事業を辿る

この記事の要点
  • 住宅地図は民間の刊行物。役所にはない
  • 読むのは屋号。業種が名前に入っている
  • 複写には著作権の制約がある。報告書に丸ごとは載せられない
  • 調査員の聞き取りで作られている。誤りも空欄もある

登記記録は所有者しか教えてくれません。航空写真は建物の形までしか写しません。「そこで誰が、何をしていたか」に届く資料は、ひとつだけです。

旧住宅地図です。建物ごとに居住者や事業所の名前が書き込まれた地図で、年ごとに刊行されてきました。

この記事では、どこで手に入れ、何を読み、どこに限界があるかを整理します。

住宅地図とは何か

建物名や、建物ごとの居住者を記載した地図の総称です。「明細地図」と呼ばれることもあります。

いちばん大きな性格は、これが民間の刊行物だということです。法務局にも市役所にもありません。行政の記録ではないので、網羅性も正確性も、公文書と同じ基準では期待できません。そのかわり、公文書には決して載らないものが載っています。

どこにあるか

図書館です。県立図書館と、市町村立図書館の郷土資料。旧版は書庫に入っていることが多いので、開架を探しても見つかりません。

所蔵は館ごとに違う。行く前に確かめる

同じ市の地図でも、どの年の版を持っているかは館によってばらばらです。ある館は昭和50年代から、別の館は平成に入ってから、ということが普通に起こります。

蔵書検索で「住宅地図」と地域名を掛けて調べ、必要な年代が揃うか電話で確かめてから行きます。一館で足りなければ、複数の館を回ることになります。

国立国会図書館も所蔵しています。東京23区は1950年代末以降、その他の地域は1970年代以降で、全国をカバーしています。ただし遠隔での複写には対応していないため、必要なら東京へ行くことになります。

刊行されている現行の版と、書庫にある旧版とでは、入手の経路が違います。地歴調査で要るのは旧版のほうです。

何を読むか

目的は一つ。対象地とその周辺で、どの年に、誰が、何をしていたか。

屋号と業種

この資料の値打ちは、ここに尽きます。古い事業所の名前には、業種がそのまま入っています。

◯◯鉄工所、◯◯メッキ、◯◯染工、◯◯クリーニング、◯◯自動車、◯◯燃料、◯◯運輸、◯◯印刷。名前を読んだ時点で、次に何を照会するかが決まります。

登記記録から出てくるのは所有者の名前だけです。借りて営んでいた事業者は登記に現れません。住宅地図は、その空白をまっすぐ埋めます。登記の側から使用者の影を追う方法は閉鎖登記簿で分かることにまとめてあります。

使用者を辿る手順そのものは、登記記録に現れない使用者にまとめてあります。

建物の形と敷地の使い方

住宅地図には建物の輪郭も描かれています。母屋のほかに細長い棟がある、敷地の奥にもう一棟ある、敷地全体が一つの大きな建物で埋まっている。

工場と住居が同じ敷地にある形は、古い町工場の典型です。航空写真と重ねると、屋根の形まで確かめられます。

空白

名前が入っていない区画も情報です。畑、空地、資材置場。前の年には名前があり、次の年には空白になっているなら、その間に廃業か移転があったということです。

そして空白になった年は、建物が取り壊された年に近い。滅失した建物の登記記録と、宅地から雑種地への地目変換を、同じ年代で当たります。

年代を並べる

住宅地図はほぼ毎年刊行されていますが、全部を見る必要はありません。変化を捉えられる間隔で並べます。

並べ方 理由
五年おきを基本に 事業所の入れ替わりはこの程度の間隔で見える
最も古い版は必ず その館で遡れる限界を押さえる
変化のあった前後は詰める 名前が変わった年を特定するため、一年刻みで見る

まず粗く並べて変化のある時期を見つけ、そこだけ細かく詰める。この順序が早いです。

複写の壁

ここが、ほかの資料と決定的に違うところです。住宅地図は著作物です。

報告書に丸ごとは載せられない

図書館での複写は著作権法31条1項により「著作物の一部分」までとされ、一部分とは半分を超えない範囲と解されています。

住宅地図は、複数のページ全体でひとつの著作物を構成すると考えられています。そのため「見開き1枚まで」という運用をとる館が多く、これは権利制限の範囲を超えないとされています。国立国会図書館も、見開きの片ページまでという扱いです。

つまり、必要な年代の地図を何枚も複写して報告書に綴じる、という使い方はできません。館ごとに運用が違うので、必ず窓口で確かめてください。

では報告書にどう書くか。複写を貼るのではなく、読み取った事実を文章と年表にします。「昭和◯年版では対象地に『◯◯鉄工所』の記載」。出典として版の年と刊行者を添えれば、資料としての要件は満たします。

調べる段階と、書面に載せる段階を分けて考える。この構図は航空写真のときと同じです。

地図が間違っていること

住宅地図は、調査員が実際に歩いて、表札や看板を見て作られています。だから、表に出ていないものは載りません。

看板を出していない事業所、下請の作業場、社名と実際の業務が一致しない会社。名前が入っていないことは、そこで何も行われていなかったことを意味しません。

誤記もあります。前年の版を引き継いだまま更新されていない区画もあります。一冊だけで判断せず、前後の年と突き合わせます。

屋号から、汚染の有無を決めない

「メッキ工場があった」ことと「汚染がある」ことは別です。

読み取れるのは業種までで、何を使い、どう処理していたかは分かりません。書けるのは「この業種の事業所があったので、次にこの照会を行った」という道筋までです。

フェーズⅠは資料調査であり、汚染の有無を証明するものではありません。

登記と写真に重ねる

三つの資料は、それぞれ別のことを教えます。重ねてはじめて年表になります。

資料 教えること
登記・旧土地台帳 誰が持っていたか。いつまでに変わったか
航空写真 何が建っていたか。いつから、いつまで
旧住宅地図 誰が、何をしていたか
行政庁への照会 届出があったか。裏を取る

住宅地図で業種の当たりが付いたら、行政庁への照会に進みます。有害物質を使う施設の届出については水質汚濁防止法を、調査全体の位置づけは土壌汚染対策法を参照してください。所有者の遍歴は旧土地台帳の読み方にあります。

旧住宅地図を当たるときの確認
  • 必要な年代の所蔵を、行く前に確かめた
  • その館で遡れる最も古い版を見た
  • 対象地だけでなく、周辺の区画も読んだ
  • 業種が名前に入っている事業所を書き出した
  • 名前が消えた年、現れた年を特定した
  • 前後の年と突き合わせ、一冊だけで判断していない
  • 複写の範囲を窓口で確かめた
  • 読み取った事実を、版の年と刊行者つきで年表にした

屋号と業種から何を読み取り、そこから何を絞るか。工場や作業場の跡地については、工場や作業場だった土地で類型としてまとめています。

まとめ

  • 住宅地図は民間の刊行物。図書館の郷土資料にあり、所蔵の年代は館ごとに違う
  • 読むのは屋号。古い事業所名には業種がそのまま入っていて、次に何を照会するかが決まる
  • 登記に現れない借主の事業が、ここで見える
  • 著作物なので複写は見開き1枚程度まで。報告書には読み取った事実を文章と年表で書く
  • 調査員の聞き取りで作られているので、載っていないことは「無かった」ことを意味しない
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