CHIOU / 株式会社地央

改正温対法 ── 促進区域という考え方

この記事の要点
  • 令和3年の改正で、2050年カーボンニュートラルが法律の基本理念に位置づけられた
  • まちづくりに直結するのが地域脱炭素化促進事業の制度
  • 市町村が促進区域を定めることで、再エネ立地の紛争を事前に減らす狙いがある
  • 認定を受けると関係法令の手続きが束ねられる。ただし基準は緩まない

脱炭素は、エネルギーの問題であると同時に土地利用の問題です。

太陽光発電も風力発電も、土地の上に設置されます。そして、その立地をめぐって各地で紛争が生じてきました。

この記事では、地球温暖化対策推進法の仕組みと、まちづくりとの接点を整理します。

法律の位置づけ

地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)は、平成10年(1998年)に制定されました。

時期 主な内容
平成10年 制定。温室効果ガスの排出抑制の枠組み
令和3年 2050年カーボンニュートラルを基本理念に。地域脱炭素化促進事業制度の創設
令和4年 脱炭素化を支援する出資等の枠組み
目標を法律に書き込むことの意味

令和3年の改正で、2050年までの脱炭素社会の実現が、法律の基本理念として明記されました。

これにより、次のことが起こります。

  • 国・地方公共団体・事業者・国民の責務の前提になる
  • 各種の計画や施策が、この目標に沿って組み立てられる
  • 予算や制度設計の根拠になる
  • 政権が変わっても、法律の改正なしには方針が変わらない

目標を法定化することは、継続性を担保する手段です。

地方公共団体実行計画

地方公共団体は、実行計画を定めます。二つの部分から成ります。

対象 策定
事務事業編 自らの事務事業に伴う排出 すべての地方公共団体
区域施策編 区域全体の排出 都道府県・指定都市等は義務、その他の市町村は努力義務

区域施策編に書かれること

  • 再生可能エネルギーの利用促進
  • 事業者・住民による省エネの促進
  • 公共交通機関の利用促進、都市機能の集約
  • 緑地の保全・緑化の推進
  • 地域脱炭素化促進事業の促進区域(定める場合)

三番目と四番目は、都市計画と直接つながります。

立地適正化計画による集約、都市緑地法による緑の確保。脱炭素は、まちづくりの制度と別の話ではありません。

地域脱炭素化促進事業

市町村が「ここでやってほしい」を示す

令和3年の改正で創設された制度です。仕組みは次のとおりです。

誰が 何を
市町村 実行計画の中で、促進区域と、事業に求める基準を定める
事業者 促進区域内での事業計画を作成し、市町村に認定を申請する
市町村 基準に適合していれば認定する
事業者 認定に基づき事業を実施する

市町村が、あらかじめ「どこで、どういう条件なら歓迎するか」を示す仕組みです。

都道府県は、促進区域の設定に関する基準を定めることができます。県全体としての整合を図るためです。

促進区域に定められること

  • 区域の範囲
  • 対象となる再生可能エネルギーの種類
  • 事業に求める環境保全への配慮の基準
  • 地域の課題解決に資する取組の基準

最後の項目が特徴的です。単に発電すればよいのではなく、地域に何をもたらすかが問われます。

地域への還元の例 内容
災害時の電力供給 避難所への非常用電源
収益の還元 地域づくりへの拠出
雇用 地元事業者の活用
土地の管理 耕作放棄地・荒廃した森林の活用

なぜ促進区域なのか

再エネ立地の紛争が、各地で起きてきた

太陽光発電の設備が急速に増えるなかで、立地をめぐる問題が各地で生じました。

  • 斜面の樹木を伐採して設置し、土砂災害の懸念が生じる
  • 景観が損なわれる
  • 反射光、騒音
  • 調整池の能力を超えた排水
  • 事業終了後、設備が放置される
  • 住民への説明がないまま工事が始まる

多くの自治体が、条例により設置を制限する方向で対応してきました。

しかし、規制だけでは再エネの導入が進みません。

そこで、規制ではなく「ここならよい」を示す方式が加わりました。これが促進区域です。

事業者にとっては、紛争のリスクが低い場所が分かるという利点があります。市町村にとっては、望ましくない場所への立地を減らせます。

条例による規制との併用

促進区域を定めることと、条例で規制することは両立します。

役割
促進区域 誘導。ここでやってほしい
条例による規制 抑制。ここではやめてほしい

両方を組み合わせることで、方針が明確になります。

手続きのワンストップ化

認定を受けると、関係する許可等が束ねられる

認定を受けた事業計画については、関係する法律に基づく許可等を受けたものとみなされる仕組みが設けられています。

関係しうる法律 内容
自然公園法 公園区域内での行為
温泉法 地熱に関するもの
廃棄物処理法 バイオマスに関するもの
農地法 農地転用

個別に申請していた手続きを、認定という一つの手続きで扱えるようにするものです。

基準そのものは緩まない

ワンストップ化は、手続きを束ねるものであって、基準を緩めるものではありません。

認定にあたっては、それぞれの法律の許可基準を満たしているかが判断されます。関係する行政機関との協議も行われます。

「認定さえ取れば、農地転用も自然公園法もクリアできる」ということではありません。

実務では、認定の申請前に、関係する部局への事前相談が必要です。

また、みなしの対象となる法律と行為は限定されています。都市計画法の開発許可や建築基準法など、対象外のものは別に手続きが必要です。

そのほかの仕組み

排出量の算定・報告・公表

一定規模以上の排出を行う事業者は、温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告する義務を負います。

報告された情報は公表されます。

脱炭素化への支援

令和4年の改正により、脱炭素に資する事業への出資等を行う枠組みが設けられました。

民間の資金だけでは成立しにくい事業に、資金を供給する役割が想定されています。

課題

小規模な市町村では、計画が作れない

区域施策編の策定は、その他の市町村については努力義務です。

専門の職員がいない、データがない、他の業務で手一杯。実際には策定できていない市町村が多くあります。

促進区域を定めるには、この計画が前提になります。制度があっても使えない、という状態が生じます。

地域の合意

促進区域を定める過程でも、住民の理解が必要です。

「なぜここが選ばれたのか」「本当に安全なのか」「誰が得をするのか」。これらに答えられなければ、区域を定めた時点で紛争になります。

区域の設定そのものが、合意形成の対象です。

事業終了後

設備には耐用年数があります。事業終了後の撤去と、土地の原状回復が課題です。

撤去費用の積立てを求める仕組みが設けられている分野もありますが、すべてを担保できているわけではありません。

促進区域の基準に、この点を含めるかどうかも検討事項になります。

実務での確認

場面 確認すること
再エネ事業を検討する 促進区域が定められているか
同上 その市町村の条例による規制
同上 みなしの対象外となる手続き
土地を調査する 周辺に再エネ設備の計画がないか
自治体の立場から 実行計画の策定状況
条例は市町村ごとに違う

再生可能エネルギー設備の設置に関する条例は、市町村によって内容が大きく異なります。

  • 届出制のもの、許可制のもの
  • 区域を定めて禁止するもの
  • 住民説明を義務づけるもの
  • 規模の基準もさまざま

「隣の市ではできたから」は通用しません。その市町村で確認してください。

脱炭素とまちづくりの確認
  • その市町村の実行計画(区域施策編)の有無を確認した
  • 促進区域が定められているか確認した
  • (促進区域内)求められる基準を確認した環境配慮・地域への還元
  • 都道府県が定める基準を確認した
  • 市町村の条例による規制を確認した
  • 認定によるみなしの対象と、対象外の手続きを整理した
  • 関係する部局に事前相談を行った
  • 住民説明の要否と方法を確認した
  • 事業終了後の撤去と原状回復を計画に含めた
  • 立地適正化計画や緑の基本計画との整合を確認した

まとめ

  • 令和3年の改正で、2050年カーボンニュートラルが法律の基本理念になった。
  • 地域脱炭素化促進事業は、市町村が「ここでやってほしい」を示す仕組み。
  • 背景には、再エネ立地をめぐる各地の紛争がある。規制と誘導の両輪で扱う。
  • 認定により手続きが束ねられるが、それぞれの基準は緩まない。
  • 促進区域の設定そのものが、合意形成の対象になる。
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