都市緑地法 ── 保全・創出・活用の三つの手段

この記事の要点
  • 緑地の制度は保全・創出・活用の三つに分かれる。手段が違う
  • 最も強いのは特別緑地保全地区。行為が原則許可制になる
  • 令和6年の改正で、民間による緑地確保を後押しする仕組みが加わった
  • 緑地は防災・暑熱・生物多様性・脱炭素を同時に担うものとして位置づけられている

都市の緑地は、長く「余った土地」として扱われてきました。開発が優先され、緑地は残ったところに配置される。

いま、その位置づけが変わりつつあります。防災、暑さ対策、生物多様性、脱炭素。緑地が複数の機能を同時に担うものとして捉え直されています。

この記事では、都市緑地法の仕組みと、近年の改正の方向を整理します。

緑地の制度は、守る側と増やす側に分かれる
昭和48年の旧法から続く「保全」に、都市に緑を足していく「創出」が組み合わさっている
法の目的良好な都市環境の形成と、健康で文化的な都市生活の確保
保全 ── いまある緑を守る貴重な都市の緑地が無秩序に
開発されるのを防ぎ、現状を
凍結的に維持し、継承する緑地保全地域/特別緑地保全地区
創出 ── 都市に緑を増やす開発や建築に伴う緑化を義務づけ、または住民の合意によって
新たな緑の空間をつくる緑化地域/緑地協定
守るだけでは、すでに失われた市街地の緑は戻らない。増やす側の道具が要るのはそのためである
図1 二つのエンジン ── 守る側と、増やす側

三つの手段

保全・創出・活用
目的 主な手段
保全 いまある緑を守る 緑地保全地域、特別緑地保全地区
創出 新たに緑を増やす 緑化地域、緑地協定
活用 緑地を使えるようにする 市民緑地、緑の基本計画

同じ「緑」でも、守るのか、増やすのか、使えるようにするのかで、用いる制度が違います。

実務では、まずどの目的の話をしているかを整理してください。

計画は、三つの段で降りてくる
令和6年の改正で、国と市町村のあいだに都道府県の段が加わった
緑地の保全及び緑化の推進に関する基本方針
全国的な保全と緑化の意義、目標の方向を示す
都道府県
緑の広域計画
基本方針にもとづき、市区町村の境界を越えた広域的・ネットワーク的な緑地の配置と骨格を示す
市町村
緑の基本計画
地域の実情を踏まえた基礎自治体の計画。広域計画を勘案しつつ、具体の保全と緑化の施策を実施する
市町村の緑の基本計画は、実務でいちばん参照する層になる
図2 計画の体系 ── 国・都道府県・市町村

緑の基本計画

市町村が定める、緑地の保全と緑化の推進に関する基本計画です。

定める内容 備考
緑地の保全・緑化の目標 面積、配置の方針
施策の方針 公園整備、保全地区の指定、緑化の推進
緑地保全地域等の方針 どこを、どういう手段で守るか

個別の規制の前提となる計画です。その市町村が緑地をどう扱おうとしているかは、まずここで確認できます。

守る制度は、緩やかなものと厳格なものがある
同じ「保全」でも、行為を届け出させるだけか、許可制にするかで重さが違う
緑地保全地域 ── 緩やかな保全
特別緑地保全地区 ── 厳格な保全
主な対象
郊外の丘陵地など、
比較的広い区域
主な対象
伝統的な社寺林や
風致景観の優れた区域
手続き
建築等の行為をする際に、
あらかじめ届け出る
手続き
建築等の行為に
知事等の許可が要る
効果
届出のあと一定期間は
着手が制限される。
行政が審査し、無秩序な開発を抑制する
効果
厳しい制限の代償として、
税制上の優遇や、
土地の買入れの申出ができる
厳しく制限するなら、その代わりを用意する土地を使えなくする以上、税で軽くするか、買い取る道を開いておく。制度の筋はここにある
図3 守るための二つの制度

保全のための制度

緑地保全地域

比較的広い範囲を対象に、緩やかに規制する制度です。

一定の行為(建築、土地の形質変更、木竹の伐採など)について、あらかじめ届け出ることが必要になります。

特別緑地保全地区

緑地に関する規制で、最も強い

特別緑地保全地区では、一定の行為が原則として許可制になります。

許可が必要な行為
建築物その他の工作物の新築等 建物、擁壁、駐車場の設置
宅地の造成、土地の開墾 土地の形質の変更
木竹の伐採 庭木の手入れの範囲を超えるもの
水面の埋立て等

事実上、開発が困難になります。

その代わり、所有者が土地の利用に著しい支障をきたす場合、地方公共団体に買入れを申し出ることができる仕組みがあります。また、相続税評価における措置などが設けられています。

取引の際は、指定の有無を必ず確認してください。指定されている土地は、宅地としての利用がほぼできません。

その他の保全の仕組み

  • 風致地区 都市計画法に基づく。建蔽率、高さ、樹木の伐採に制限
  • 保安林 森林法に基づく
  • 近郊緑地保全区域 首都圏・近畿圏の特別措置法に基づく

根拠法が異なるため、それぞれ別に確認する必要があります。

増やす制度は、義務と合意の二本立て
行政が義務づける方法と、土地の所有者どうしが約束する方法がある
緑化地域 ── 義務づける
緑地協定 ── 合意でつくる
一定規模以上の敷地で建築するとき、緑化率の最低限度を守ることが求められる。都市計画で区域を定め、条例で対象となる規模を引き下げることもできる。市街地の中心部など、公的な公園整備が難しいエリアで、民有地の緑を確実に増やす手段になる
土地の所有者等の全員の合意により、樹木の種類、垣や柵の構造などを取り決める。市町村長の認可を受ける。認可を受けた協定は、その後に土地を買った新しい所有者にも引き継がれる。街ぐるみの景観維持につながる
協定は、代替わりしても効く承継の効力があるため、時間が経っても約束が薄れにくい。合意を取るまでが重いぶん、続く仕組みになっている
図4 増やすための二つの制度

創出のための制度

緑化地域

都市計画で定める地域地区の一つで、一定規模以上の敷地における建築行為に、緑化率の最低限度を義務づけるものです。

内容
対象 用途地域が定められた区域のうち、緑が不足している区域
義務 敷地面積に対する緑化施設の面積の割合
確認 建築確認の対象になる

建蔽率や容積率と同じように、設計の前提として扱う必要があります。

緑地協定

土地所有者等の全員の合意により、緑化に関する協定を締結できます。

認可の公告後に土地を取得した者にも効力が及びます。景観協定と同じく、承継効があります。

取引の際は、協定の有無と内容を確認してください。

活用のための制度

市民緑地

土地の所有者と地方公共団体等が契約を結び、その土地を住民が利用できる緑地として公開する仕組みです。

所有権を手放さずに、緑地として活用できます。固定資産税等に関する措置が設けられる場合があります。

都市公園との違い

都市公園 市民緑地
根拠法 都市公園法 都市緑地法
土地 原則として公有地 民有地のまま
設置 行政が整備する 契約または認定による

民有地の緑を、公有化せずに活かす。これが市民緑地の考え方です。

近年の改正の方向

令和6年(2024年)に都市緑地法等が改正されました。緑地を、複数の課題に同時に効く社会資本として位置づける方向です。

民間の緑地確保を、後押しする

改正の柱の一つが、民間事業者が確保する緑地を評価する仕組みです。

優良な緑地の確保に関する計画を国が認定する制度が設けられました。

ねらい 内容
投資の呼び込み 緑地への取り組みが、企業の評価につながるようにする
質の担保 認定という形で、一定の水準を示す
継続性 整備だけでなく、維持管理も含めて評価する

行政が緑地を整備するだけでは、量が確保できない。そこで民間の取り組みを促す方向に舵が切られています。

制度の詳細と運用は、国土交通省が公表する資料で確認してください。施行から間もないため、運用が固まっていない部分があります。

緑地が担うとされる機能

機能 内容
防災 雨水の貯留・浸透、避難場所、延焼の防止
暑熱対策 気温の上昇を和らげる
生物多様性 生きものの生息・生育の場
脱炭素 二酸化炭素の吸収、建物の負荷の軽減
健康・福祉 運動、休息、交流の場
景観 街並みの構成要素
「グリーンインフラ」という捉え方

緑地を、コンクリートの構造物と並ぶ社会資本として扱う考え方です。

たとえば雨水対策では、下水道管を太くする方法と、緑地に浸透させる方法があります。後者は、同時に暑熱対策や生物多様性にも効きます。

一つの投資で複数の効果を得ようとする発想です。

ただし、効果の定量化が難しいという課題があります。「何ミリの雨に対応できるか」を管路と同じ精度で示すことは容易ではありません。

行政に提案する際は、どの機能を、どの水準で担保するのかを具体的に示す必要があります。

守る制度と、増やす制度の対比
保全(守る)
創出(増やす)
主な制度
緑地保全地域
特別緑地保全地区
緑化地域
緑地協定
対象エリアの性質
郊外の森林、市街地に残る
貴重な屋敷林や社寺林
中心市街地、新たに開発される
住宅地や商業地
規制・ルールの形
開発行為の制限
(届出、または許可)
一定割合以上の緑化の義務
住民どうしの自主的なルール
目的
貴重な自然環境や
景観が失われるのを防ぐ
建築の機会をとらえて
緑の総量を底上げする
対象地がどちらの制度にかかっているかで、できることも、負担の性質もまったく変わる
図5 守る制度と増やす制度の対比

他の制度との関係

制度 関係
立地適正化計画 誘導区域内での緑地の確保。跡地の管理
都市公園法 公園としての整備・管理
生産緑地法 市街化区域内の農地を緑地として位置づける
景観法 緑は景観の構成要素
地域生物多様性増進法 民間の取り組みを認定する仕組み

緑地に関わる制度は複数にまたがります。一つの土地に、複数の制度が重なることがあります。

実務での確認

調査の段階で

確認するもの 影響
特別緑地保全地区 行為が原則許可制。開発は困難
緑地保全地域 届出が必要
緑化地域 緑化率の最低限度。設計の前提になる
緑地協定 承継効がある
風致地区 建蔽率、高さ、樹木伐採の制限
保安林 森林法に基づく制限

窓口は市町村の公園緑地担当課、都市計画課などです。保安林は都道府県の林務担当課になります。

計画に織り込む

緑化率の義務がある場合、敷地の使い方が制約されます。

  • 駐車台数を確保できるか
  • 建築面積との両立
  • 維持管理の費用と体制

植えるだけでなく、維持し続けられるかまで検討してください。管理されない緑地は、かえって問題になります。

緑地に関する確認
  • 緑の基本計画を確認したその市町村の方針
  • 特別緑地保全地区の指定を確認した指定されていれば開発は困難
  • 緑地保全地域の指定を確認した
  • 緑化地域の指定を確認した緑化率の最低限度
  • 緑地協定の有無を確認した承継効がある
  • 風致地区・保安林の指定を確認した
  • 生産緑地の指定を確認した
  • 複数の制度が重なっていないか確認した
  • 緑化の義務を設計の前提に織り込んだ
  • 維持管理の費用と体制を検討した
  • (民間の緑地確保)認定制度の要件と運用を確認した

まとめ

  • 緑地の制度は保全・創出・活用の三つ。目的によって手段が違う。
  • 特別緑地保全地区は最も強い規制。行為が原則許可制になり、開発は困難。
  • 緑地協定には承継効がある。取引前に確認する。
  • 令和6年の改正で、民間による緑地確保を評価する仕組みが加わった。
  • 緑地は防災・暑熱・生物多様性・脱炭素を同時に担うものとして位置づけられている。
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