特定空家等への措置 ── 命令、代執行、財産管理人
- 措置は四段階。助言・指導 → 勧告 → 命令 → 代執行
- 代執行しても費用を回収できないことが多い。ここが最大の課題
- 令和5年の改正で報告徴収権と緊急代執行が加わった
- 所有者が不明・管理不全の場合、財産管理人の選任を請求できる
建物が傷み、周囲に危険を及ぼす状態になったとき、行政はどこまで踏み込めるのか。
私有財産である以上、簡単には手を出せません。しかし、放置すれば人身に被害が及びかねない。
この記事では、その段階での措置と、実務上の限界を整理します。
特定空家等とは
次のいずれかの状態にあると認められる空家等をいいます。
| 状態 | 例 |
|---|---|
| 保安上危険 | 倒壊のおそれ、外壁や屋根の落下のおそれ |
| 衛生上有害 | ごみの堆積、害虫・害獣の発生、汚水の流出 |
| 景観を損なう | 景観計画等に照らして著しく不適合 |
| 生活環境の保全上不適切 | 立木の越境、不審者の侵入、動物の棲みつき |
「著しく」という要件が付いています。単に古い、使われていないというだけでは該当しません。
判断の目安は国の指針で示されており、市町村がそれを踏まえて運用します。
措置の段階
| 内容 | 効果 | |
|---|---|---|
| 助言・指導 | 改善に必要な措置を示す | ― |
| 勧告 | 期限を定めて措置を求める | 住宅用地特例が外れる |
| 命令 | 勧告に従わない場合 | 従わなければ過料 |
| 代執行 | 命令に従わない場合、行政が代わって実施 | 費用は所有者に請求 |
いきなり代執行はできません。順に手続きを踏む必要があります。
これは、私有財産に対する処分であるためです。所有者に是正の機会を与えたうえで、それでも改善されない場合に限られます。
命令にあたっては、あらかじめ意見を述べる機会を与えることになっています。
立入調査
市町村長は、必要な限度で職員等に立入調査をさせることができます。
あらかじめ所有者等に通知するのが原則です。拒み、妨げ、忌避した場合の過料が定められています。
代執行の実際
代執行にかかった費用は、所有者に請求します。国税滞納処分の例により強制徴収することもできます。
しかし、実際には回収できないことが多くあります。
- 所有者に資力がない
- 所有者が所在不明
- 相続人が全員相続放棄している
- 土地を売却しても、費用に満たない
- 回収の手続き自体に、さらに費用と人手がかかる
結果として、市町村の負担で解体することになります。
この財政負担が、代執行に踏み切れない理由の一つになっています。
「危険な空き家があるのに、行政が動かない」という指摘の背景には、この事情があります。
略式代執行
所有者等が確知できない場合には、命令等の手続きを経ずに措置を講じることができます。
この場合も、あらかじめ公告を行うなどの手続きが必要です。
費用は、後に所有者が判明すれば請求できます。ただし回収の見込みは低くなります。
令和5年の改正で加わったもの
報告徴収権
市町村長は、空家等の所有者等に対し、その状況について報告を求めることができるようになりました。
従来は、次のような場面で行き詰まっていました。
- 所有者は分かっているが、連絡しても応答がない
- 建物の中の状態が分からない
- 今後どうする意向なのかが確認できない
報告を求める権限があることで、接触の根拠ができました。
報告をしない、虚偽の報告をした場合の過料が定められています。
緊急代執行
従来は、命令などの手続きを経なければ代執行できませんでした。
しかし、次のような場面では間に合いません。
- 台風で屋根が飛びかけている
- 地震で建物が傾き、いつ倒れてもおかしくない
- 道路側の外壁が剥落し始めている
令和5年の改正で、緊急の必要があるときは、命令等の手続きを経ずに代執行できるようになりました。
災害の直後など、時間的な余裕がない場面を想定したものです。
ただし、要件は限定されています。単に危険というだけで使える仕組みではありません。
財産管理人の選任請求
所有者が不明である、または管理が適切に行われていない場合、市町村長が家庭裁判所に対し、財産管理人の選任を請求できます。
| 制度 | 対象 |
|---|---|
| 所有者不明土地・建物管理制度 | 所有者やその所在が分からない土地・建物 |
| 管理不全土地・建物管理制度 | 所有者は分かるが、管理が不適当な土地・建物 |
| 相続財産清算人 | 相続人がいない、または明らかでない場合 |
| 不在者財産管理人 | 従来からある制度 |
これらの管理制度は、令和3年の民法改正で新設・整備されたものを含みます。
選任された管理人は、裁判所の許可を得て、建物の解体や土地の売却を行うことができます。
行政が代執行するのではなく、管理人が財産の中から費用を捻出して処理する。この道が開かれた点が重要です。
管理人制度の限界
管理人には報酬が必要です。その原資は、原則としてその財産です。
したがって、次の場合は使いにくくなります。
- 土地の価値が低く、解体費と報酬を賄えない
- 再建築できない土地で、売却が難しい
- 担保が設定されており、売却代金が優先される
申立てをする側が予納金を納める必要があり、回収できない場合があります。
「制度ができたから解決する」わけではありません。財産の価値がある案件から、順に処理されていくことになります。
実務での流れ
| すること | |
|---|---|
| 一 | 状態を確認し、記録を残す |
| 二 | 所有者を調査する登記、住民票、戸籍、固定資産税の課税情報 |
| 三 | 連絡を取り、意向を確認する報告徴収権も使える |
| 四 | 助言・指導 |
| 五 | 改善されなければ勧告特例が外れる |
| 六 | 命令、代執行 |
| 七 | (所有者不明・管理不全)財産管理人の選任請求を検討 |
命令や代執行に至る場合、手続きの適正さが問われます。
争いになったとき、根拠になるのは記録です。
- いつ、誰が、どういう状態を確認したか
- 写真 同じ角度から、時期を追って
- 所有者への連絡の履歴 送付した文書、返答の有無
- 近隣からの申出の内容
- 庁内の検討の経緯
初期の段階から、記録を残してください。後からは作れません。
所有者の調査
最初の関門が、所有者にたどり着くことです。
| 調べるもの | 備考 |
|---|---|
| 登記事項証明書 | 名義人が死亡していることが多い |
| 戸籍 | 相続人を追う。数世代に及ぶことがある |
| 住民票、戸籍の附票 | 現在の所在 |
| 固定資産税の課税情報 | 空家法により、内部での利用が認められている |
| 近隣からの聞き取り | 親族の所在など |
相続登記の申請が義務化されたことで、将来的には状況の改善が見込まれます。ただし、既に発生している事案には時間がかかります。
取引で関わる場合
特定空家等として指導・勧告・命令を受けている物件を取得すると、その状態を引き継ぎます。
- 求められている措置の内容
- 期限
- 住宅用地特例が外れているかどうか
- 命令が出ている場合、その履行義務
市町村で確認してください。売主が説明していない場合があります。
また、代執行が実施された後の土地には、費用の請求が残っていることがあります。
- (自治体)状態の記録を、写真とともに残した
- (自治体)所有者の調査を行った登記・戸籍・課税情報
- (自治体)報告徴収権の活用を検討した
- (自治体)段階を踏んだ手続きを行った
- (自治体)緊急代執行の要件に該当するか確認した
- (自治体)財産管理人の選任請求を検討した
- (自治体)財産の価値と、予納金の回収可能性を確認した
- (所有者)措置の内容と期限を確認した
- (所有者)補助制度が使えるか確認した
- (取引)指導・勧告・命令の有無を市町村に確認した
- (取引)住宅用地特例の状況を確認した
- (取引)代執行費用の請求が残っていないか確認した
まとめ
- 措置は助言・指導 → 勧告 → 命令 → 代執行の四段階。順に踏む必要がある。
- 代執行しても費用を回収できないことが多い。これが踏み切れない理由になっている。
- 令和5年の改正で、報告徴収権と緊急代執行が加わった。
- 所有者不明・管理不全の場合、財産管理人の選任を請求できる。
- ただし財産に価値がなければ管理人制度も使いにくい。制度ができれば解決する話ではない。
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