用途地域と民泊 ── 住居専用地域で、道が分かれる

この記事の要点
  • 住宅宿泊事業法第21条により、届出住宅は建築基準法でも「住宅」「長屋」「共同住宅」「寄宿舎」として扱われる
  • だから住居専用地域でも民泊はできる。旅館業はできない。ここが制度選択の最初の分岐になる
  • ホテル・旅館が建てられないのは住居系の五つと田園住居、それに工業・工業専用の合計八つ
  • 市街化調整区域では、許可の前提と合うかを確かめる必要がある。用途地域だけでは決まらない

「この物件で民泊はできますか」と聞かれたとき、最初に見るのは用途地域です。建物ではありません。

住宅宿泊事業と旅館業では、営める場所が違います。しかも違うのは端のほうではなく、住宅地という、いちばん物件のある場所です。

この記事では、用途地域で何が分かれるのか、市街化調整区域ではどう考えるのかを整理します。

届出住宅は、建築基準法でも「住宅」

住宅宿泊事業法第21条は「建築基準法との関係」という見出しで、次のように定めています。

「建築基準法……及びこれに基づく命令の規定において『住宅』、『長屋』、『共同住宅』又は『寄宿舎』とあるのは、届出住宅であるものを含むものとする。」

つまり届出住宅は、建築基準法の上でも住宅のままです。宿泊施設になるわけではありません。用途地域の制限は住宅として受け、ホテル・旅館に対する制限は受けません。

どれに当たるかは建物の形で決まります。一戸建ての住宅、共用の廊下や階段を持たない長屋、共用部分を持つ共同住宅、台所や浴室を共用する寄宿舎、という分け方です。

住居専用地域で、道が分かれる

旅館業を選ぶと、話が変わります。ホテル・旅館は用途地域によって建てられない場所があり、その多くが住宅地です。

用途地域ごとの扱い
用途地域 ホテル・旅館 届出住宅(民泊)
第一種・第二種低層住居専用、田園住居 建てられない 実施できる
第一種・第二種中高層住居専用 建てられない 実施できる
第一種住居 3,000㎡以下なら建てられる 実施できる
第二種住居、準住居、近隣商業、商業、準工業 建てられる 実施できる
工業 建てられない 実施できる
工業専用 建てられない 住宅そのものが建てられない

ホテル・旅館が建てられない用途地域は八つあります。そのうち六つが住居系です。

戸建ての空き家や分譲マンションの一室は、たいてい住居系の用途地域にあります。そこで旅館業を選ぶという選択肢は、最初から無い。だから「180日で足りなければ旅館業に切り替える」という出口は、物件によっては存在しません。

切り替えられる前提で、収支を組まない

用途地域を見ずに「まず民泊で始めて、あとで旅館業に」と考えると、その先が無いことがあります。

住居専用地域の物件であれば、通年営業への道はありません。180日を前提にした収支で成り立つかどうかを、取得の前に見ておくことになります。

端のほうで起きること

第一種住居地域では、ホテル・旅館はその用途に供する部分の床面積の合計が3,000㎡を超えると建てられません。小規模な簡易宿所であれば収まる規模です。ここは調べずに諦めているケースがあります。

逆の端も見ておきます。工業専用地域では、そもそも住宅が建てられません。既存の建物があるとすれば既存不適格で、届出住宅として扱う前提が崩れることがあります。工業地域には住宅が建てられるので、こちらは民泊ができてホテル・旅館ができない、という並びになります。

用途地域の指定がない区域では、用途による制限はかかりません。ただし特定用途制限地域が定められていることがあるので、そこは確認します。

市街化調整区域の住宅を、民泊にできるか

調整区域にも住宅は建っています。線引きの前から建っているもの、開発許可を受けて建てられたもの、都市計画法第43条の建築許可を受けたもの。熊本市であれば集落内開発制度で建てられたものもあります。

建築基準法の側では、住宅のまま使う以上、用途の変更にはなりません。問題は都市計画法の側です。

許可の前提と合うか

調整区域の住宅は、多くが「誰が住むか」を前提に許可されています。分家住宅がその典型です。既存の集落の中で、農家の子が家を持つ。そういう事情があるから許可されています。

その家を、事業として不特定の人に泊める。これが許可の前提と合うのかどうかは、条文だけでは決まりません。許可権者に、許可の内容と前提を確かめるところから始めます。

開発許可を受けた土地では、予定建築物以外の建築物を建てたり用途を変更したりすることが制限されています。届出住宅は住宅のままなので素直には当たりませんが、確かめずに進める場面ではありません。

許可を出したのがどこかは、区域で分かれます。熊本市内であれば熊本市です。ここは民泊の届出先とは違うので、混ざらないようにします。

調整区域で旅館業を選ぶと

調整区域でホテル・旅館を営むのは、さらに遠い話になります。用途地域の指定がないので用途地域による制限はありませんが、代わりに開発許可の壁があります。

都市計画法第34条の各号を見ても、ホテル・旅館をそのまま読める号はありません。沿道サービスとして認められるのは休憩所や給油所で、宿泊施設は含まれません。実務では開発審査会の議を経る号での個別判断になり、提案基準があるかどうかで見通しが変わります。

調整区域の空き家を通年営業の宿にする、という組み立ては、ほとんどの場合そこで止まります。180日の枠内で行うか、別の物件を探すかになります。

用途地域だけでは決まらない

用途地域は建築基準法の集団規定の一部で、都市計画区域の中でしか働きません。そして用途地域のほかにも、場所を縛るものがあります。

地区計画で建築物の用途が制限されていることがあります。特別用途地区が定められていることもあります。2026年7月の国の技術的助言は、まちづくりの観点から都市計画によって届出住宅の立地を規制することも可能である、と述べています。民泊の条例を探しても出てこない制限が、都市計画の側にありうるということです。

建築協定が結ばれている住宅地もあります。分譲地では、宅地の分割や用途について取り決めがあることがあります。

物件を見に行く前に、地図で終わること

ここまでの確認は、ほとんど現地に行かなくてもできます。順序を守れば、無駄足が減ります。

場所について確かめること
  • 用途地域を確認した
  • 旅館業が建てられる用途地域かどうかを確認した
  • 市街化区域か、市街化調整区域か、非線引きかを確認した
  • 調整区域であれば、その住宅がどの許可で建てられたものかを確認した
  • 調整区域であれば、許可の前提と合うかを許可権者に確かめた
  • 地区計画・特別用途地区・特定用途制限地域の有無を確認した
  • 建築協定や、分譲地の取り決めの有無を確認した
  • 180日を超えられない前提でも収支が成り立つかを確認した

まとめ

  • 住宅宿泊事業法第21条により、届出住宅は建築基準法でも住宅・長屋・共同住宅・寄宿舎として扱われる
  • 住居専用地域では民泊はできるが、旅館業はできない。ここが制度選択の最初の分岐になる
  • ホテル・旅館が建てられない用途地域は八つ。第一種住居地域は3,000㎡以下なら建てられる
  • 市街化調整区域の住宅は、許可の前提と合うかを許可権者に確かめる。調整区域で旅館業はさらに遠い
  • 地区計画・特別用途地区・建築協定など、用途地域の外にも場所を縛るものがある
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