空き家を民泊にする前に ── 接道・再建築・境界
- 住宅宿泊事業の届出住宅は建築基準法上「住宅」のままなので、建築確認は要らない。ただし調べなくてよい、ではない
- 接道を満たしていない敷地は、旅館業への切り替えも、建て替えも塞がる。180日で足りなくなったときの出口が無い
- 私道に接している場合、通行と掘削の承諾がないと水回りの改修が止まる
- 境界が決まっていないまま始めると、売るときに時間を取られる
空き家を民泊にする相談では、話が建物から始まります。何部屋あるか、水回りは使えるか、改装にいくらかかるか。
ところが行き詰まるのは、たいてい地面のほうです。接道が足りない、道路が私道だった、境界が決まっていない。建物をいくら直しても動かない条件が、先にあります。
この記事では、空き家を民泊にする前に、土地の側で確かめておくことを順に整理します。建物が法律上の「住宅」に当たるかどうかは別稿の論点なので、ここでは触れません。
建築確認が要らない、は「調べなくてよい」ではない
住宅宿泊事業の届出住宅は、建築基準法の上では住宅のままです。用途を変えるわけではないので、確認申請は原則として要りません。これは制度の設計としてそうなっています。
そのため、接道義務を満たしているかどうかを問われる場面が、届出の手続きの中には出てきません。問われないことと、問題が無いことは違います。
接道や境界は、始めるときではなく、変えるときと出るときに効きます。
180日では足りないので旅館業に切り替えたい。建物が古いので建て替えたい。事業をやめて売りたい。どれも、地面の条件がそのまま条件になります。
始めるときに問われないぶん、確かめずに始めてしまうことが起こります。順序としては、届出の前に見ておくものです。
接道が2メートルあるか
建築基準法第43条は、都市計画区域と準都市計画区域の中では、建築物の敷地が道路に2メートル以上接していなければならないと定めています。ここでいう道路は、同法第42条に当たるものです。
空き家は、この条件を満たしていないことがあります。建てたときには問題がなく、その後に道路の扱いが変わった。あるいは相続や分筆で敷地の形が変わった。古い家ほど、いま測ると足りていないということが起こります。
接道が足りない場合でも、第43条第2項には道があります。第1号は特定行政庁の認定、第2号は建築審査会の同意を得たうえでの許可です。「再建築不可」と言われている土地でも、許可の可能性を確かめる価値はあります。ただし、これは個別の判断なので、特定行政庁に当たるほかありません。
道路の種別を確かめる
接しているものが道路かどうかは、見ただけでは分かりません。第42条は道路をいくつかの号に分けています。
| 内容 | |
|---|---|
| 1項1号 | 道路法による道路。国道・県道・市町村道 |
| 1項2号 | 都市計画法や土地区画整理法などによってできた道路 |
| 1項3号 | 基準時に現に存在していた道 |
| 1項5号 | 位置指定道路。私人が築造し、特定行政庁が位置を指定したもの |
| 2項 | 基準時に建築物が立ち並んでいた幅員4メートル未満の道。後退が必要 |
2項道路であれば、建て替えのときに中心線から2メートルまで下がることになります。敷地が実際に使える面積は、いま見えているものより小さくなります。
位置指定道路かどうかは、登記簿では分かりません。特定行政庁が備えている指定道路図で確認します。ここを登記で調べようとすると、いつまでも出てきません。
私道のときは、通行と掘削の承諾
接している道が私道であれば、そこは誰かの土地です。所有者が一人のこともあれば、沿道の住人が持ち分で共有していることもあります。
民泊で問題になるのは、掘削のほうです。改装で給排水を引き直す、給湯の容量を上げる、排水の経路を作る。いずれも私道を掘ることになり、所有者の承諾が要ります。
承諾が取れないと、工事が止まります。持ち分が細かく分かれていて、相続で所有者が分からなくなっている、ということも珍しくありません。そこから探し始めると、時間の見通しが立たなくなります。
通行についても同じです。宿泊者が出入りする以上、頻度も時間帯も、住まいとして使っていたときとは変わります。承諾書の文言が通行の範囲をどう定めているかは、見ておくところです。
再建築ができない家で、民泊を始めると
接道を満たしていない敷地でも、建物がそのまま建っているなら、住宅宿泊事業の届出はできます。届出の手続きに接道の審査がないからです。
問題は、その先です。
旅館業への切り替え。180日で収支が合わないので通年で営業したい、となったとき、旅館業は特殊建築物になります。用途変更の手続きの中で、現行の基準が問われます。
建て替え。建物が古くなったとき、同じ場所に建て直せません。
売却。再建築不可の土地は、買い手が限られます。融資も付きにくくなります。
民泊を始めること自体はできる。けれども、始めたあとに選べる道が最初から少ない。この構図を知らずに始めると、あとから動けなくなります。
なお、接道を満たしていない建物が、すべて違反建築物というわけではありません。建てた当時は適法で、その後の法改正や道路の扱いの変更で条件を満たさなくなったものは、既存不適格として扱われます。違反建築物なのか既存不適格なのかで、その後の話は変わります。
境界が決まっていないまま始めると
空き家、とくに相続で取得したものは、境界が確定していないことがよくあります。塀や生垣はあるが、それが筆界と一致している保証はない、という状態です。
民泊を始めるだけなら、境界が決まっていなくても支障はありません。ここでも、効いてくるのは後です。
売るときには、多くの場合、確定測量が求められます。隣接する土地の所有者と立ち会って、筆界を確認して、書面にする。これに時間がかかります。隣が空き家であったり、相続が済んでいなかったりすると、さらに延びます。
出口を決めてから測るのでは、間に合いません。事業として持つつもりなら、始めるときに確かめておくほうが、結局は早く済みます。
越境も見ておくところです。屋根や樋、エアコンの室外機、擁壁が隣地に出ていることがあります。住まいとして使っていた間は問題にならなくても、事業として使い、いずれ売ると決めた時点で、片付けておくべきものになります。
がけ・擁壁と、水の出口
高低差のある土地では、擁壁の状態が問題になります。古い擁壁は、いまの基準に合っていないことがあります。建て替えのときには擁壁からやり直しになることもあり、費用の桁が変わります。
排水も確かめます。宿泊で使えば、住まいとして使っていたときより水量が増えます。下水道の区域内であれば公共下水道への接続、区域外であれば浄化槽の容量と放流先。放流先が水路であれば、その水路の管理者に確認が要ります。
接道と同じで、これらは建物を直しても動きません。改装の見積りを取る前に見ておくと、後戻りが減ります。
現地に行く前に、机の上で終わること
いま挙げたもののうち、かなりの部分は現地に行かなくても分かります。順序を間違えなければ、無駄足が減ります。
- 接している道が、建築基準法第42条のどの号に当たるかを確認した
- 位置指定道路かどうかを、指定道路図で確認した
- 接道が2メートル以上あるかを、公図と現況の両方で確認した
- 2項道路であれば、後退の位置と、残る敷地を確認した
- 私道であれば、所有者と、通行・掘削の承諾の有無を確認した
- 境界が確定しているか、確定測量図があるかを確認した
- 越境しているもの、されているものを確認した
- 擁壁の有無と、排水の放流先を確認した
- 再建築ができない場合、旅館業への切り替えと売却が難しくなることを、事業計画に織り込んだ
まとめ
- 住宅宿泊事業の届出に建築確認は要らないが、接道や境界は届出のあとで効いてくる
- 接道を満たしていない敷地は、旅館業への切り替え・建て替え・売却のいずれもが難しくなる
- 位置指定道路は登記簿では分からない。特定行政庁の指定道路図で確認する
- 私道の掘削の承諾が取れないと、水回りの改修が止まる
- 境界の確定は、売るときではなく始めるときに手を付けるほうが早く済む
熊本県・熊本市の住宅宿泊事業(民泊)の届出、旅館業の許可申請。接道・私道・境界の調査もあわせて承っています。行政書士 村上事務所(熊本市東区)。
