民泊の届出先 ── 熊本市内でも、窓口は熊本県

この記事の要点
  • 住宅宿泊事業(民泊)の届出先は、熊本市内の物件でも熊本県。市役所ではない
  • 住宅宿泊事業法第68条は、保健所設置市が事務を「処理することができる」という任意の規定。政令指定都市だから当然に市へ移る、というものではない
  • 旅館業の許可は熊本市保健所、宿泊税は熊本市の税務部門。同じ建物で、窓口が三つに分かれる
  • 条例を定めるのも、いまは県の側。現時点で、熊本県にも熊本市にも民泊の制限条例はない

熊本市は政令指定都市で、自前の保健所を持っています。だから民泊の届出も市役所だろう、と考える。旅館業や食品衛生ではその理解で正しいので、無理のない読みです。

ところが住宅宿泊事業では、そうなっていません。熊本市内の物件でも、届出を出す先は熊本県です。

この記事では、なぜそうなるのか、旅館業や宿泊税とはどこで分かれるのか、条例を定めるのはどちらなのかを、条文にさかのぼって整理します。

熊本市内の物件は、どこに出すか

住宅宿泊事業の届出先は、熊本県健康福祉部健康局薬務衛生課です。管轄は県内全域で、市町村を問いません。熊本市内の物件も、ここに出します。

熊本県が公開している「住宅宿泊事業の手引き」も、届出書の様式も、事務処理要領も、すべて県が作っているものです。熊本市の側には、住宅宿泊事業の届出について案内するページがありません。

熊本での窓口の分かれ方
窓口 根拠
住宅宿泊事業の届出 熊本県 健康福祉部健康局 薬務衛生課 住宅宿泊事業法第3条
旅館業の許可 熊本市 保健所 生活衛生課(市内の場合) 旅館業法第3条
宿泊税の特別徴収 熊本市 市民税課(市内の場合) 熊本市宿泊税条例

一つの建物を宿泊に使うだけで、三つの役所と付き合うことになります。しかもそれぞれ、相談の順序が違います。

68条は「できる」と書いてある

住宅宿泊事業法第68条第1項は、こう定めています。

「保健所設置市等及びその長は、当該保健所設置市等の区域内において、都道府県及び都道府県知事に代わって住宅宿泊事業等関係行政事務……を処理することができる。」

「処理することができる」。義務ではありません。市が自分で処理すると決めたときに、はじめて市の仕事になります。

しかも、決めれば済むわけでもありません。同条第2項は、処理しようとするときはあらかじめ都道府県知事と協議しなければならないとし、第3項は、処理を開始する日の30日前までに公示しなければならないとしています。段取りを踏んで、外から見える形にしてから移る仕組みです。

熊本市について、この公示は確認できません。観光庁が公開している届出先の一覧でも、熊本県の窓口が県内全域を受け持つ形になっており、熊本市は独立した届出先として載っていません。

「保健所設置市だから市」は、住宅宿泊事業では通らない

旅館業法や食品衛生法とは、条文の作りが違います。

旅館業法第3条は、許可の権限を「都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長)」と定めています。括弧書きに条件が付いていないので、保健所を持つ市では自動的に市長の権限になります。

住宅宿泊事業法は、その形を採っていません。手を挙げた市だけが処理する、という作りです。だから同じ「保健所設置市」でも、旅館業は市、民泊は県、という分かれ方が起こります。

旅館業の許可は、熊本市保健所

年間180日を超えて営業するなら、住宅宿泊事業ではなく旅館業の許可を取ることになります。熊本市内であれば、窓口は熊本市保健所の生活衛生課です。

ここで、同じ空き家が二つの道に分かれます。180日以内に収めて届出で行くなら県、通年で営業したいので許可を取るなら市。物件は同じでも、相談に行く先が違います。

順序も違います。旅館業は建築確認申請の前に「ホテル等建築計画届出書」を出す必要があり、建物の計画そのものが市の手続きに縛られます。住宅宿泊事業は届出住宅が建築基準法上「住宅」のままなので、そこまでの手当てが要りません。

どちらを選ぶかは、窓口の問題ではない

制度の選択は、用途地域・営業日数・建物の実態で決まります。窓口の違いは、その結果として付いてくるものです。

ただし実務では、この順番が逆になりがちです。市役所に相談に行って「うちではない」と言われ、県庁に回り、また戻ってくる。先に制度を決めておけば、その往復は要りません。

宿泊税は、さらに別の窓口

熊本市には宿泊税があります。熊本市宿泊税条例に基づくもので、2026年7月1日のチェックインから課税が始まっています。県内では初めての宿泊税です。

課税の対象は、旅館・ホテル・簡易宿所だけではありません。住宅宿泊事業を営む施設も含まれます。税率は宿泊者1人1泊につき200円で、宿泊料金による区分はなく、免税点も設けられていません。

納めるのは宿泊者ですが、集めて納入するのは経営者です。住宅宿泊事業者も特別徴収義務者になり、特別徴収義務者としての登録、経営申告書の提出、申告納入が必要になります。窓口は熊本市の市民税課です。

180日の上限があっても、この義務は同じようにかかります。届出をして終わりではない、というのはこの点にも表れています。

条例を定めるのは、どちらか

窓口の話は、そのまま条例の話につながります。住宅宿泊事業法第18条は、条例による制限の主体を次のように定めています。

「都道府県(第六十八条第一項の規定により同項に規定する住宅宿泊事業等関係行政事務を処理する保健所設置市等の区域にあっては、当該保健所設置市等)は、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより、区域を定めて、住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができる。」

括弧書きが「第六十八条第一項の規定により……処理する保健所設置市等」と限定しているところが要点です。事務を処理していない市は、この括弧書きに入りません。熊本市内の区域についても、条例を定めうるのは熊本県ということになります。

熊本市の民泊条例を探しても、見つからない

無いものを探していることになります。熊本市に住宅宿泊事業の制限条例はなく、そもそも制定する立場にありません。

そして熊本県にも、いまのところ制限条例はありません。区域の上乗せも、営業日数の上乗せもない状態です。九州では、制限条例を持つ都道府県・保健所設置市が一つもありません。

ただし「無い」は「これからも無い」ではありません。2026年7月15日、国は「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」を発出し、条例で新規の実施を禁止することも可能だという立場を示しました。前提が動いたばかりの分野です。

全国の解説が、ここで合わない理由

民泊の解説記事は、ほぼ例外なく「保健所設置市であればその市に届け出る」と書いています。誤りではありません。東京都の特別区、大阪市、京都市など、届出件数の多い自治体はいずれも事務を処理しているので、それが標準の姿に見えます。

ただ、その標準は熊本には当てはまりません。制度の運用は自治体ごとに違い、条文が「できる」と書いている以上、違いが出るのは想定されたことです。

確かめ方は二つあります。一つは、観光庁の民泊制度ポータルサイトにある自治体の窓口案内で、届出先を実際に見ること。もう一つは、電話で聞くことです。公示を見落としている可能性もあるので、案件に入る前には一度確認しておいたほうが確実です。

相談を受けたときに、最初に確かめること

窓口を間違えると、時間だけが減ります。物件を見に行く前に、机の上で片付くことがあります。

窓口を確かめるときの確認
  • 住宅宿泊事業で行くのか、旅館業で行くのかを、先に決めた
  • 物件の所在地が、熊本市内か、他の市町村かを確認した
  • 住宅宿泊事業の届出先が熊本県であることを、直近の時点で確認した
  • 熊本市が事務の処理を開始する公示を出していないか、確認した
  • 旅館業で行く場合、許可の窓口が市か県かを確認した
  • 熊本市内であれば、宿泊税の特別徴収義務が生じることを織り込んだ
  • 条例による制限の有無を、県に直接確認した
  • 他都市の条例を、熊本の前提にしていない

まとめ

  • 住宅宿泊事業の届出先は、熊本市内の物件でも熊本県。市役所ではない
  • 住宅宿泊事業法第68条は「処理することができる」という任意の規定で、協議と30日前の公示を経て市に移る。熊本市はこれを行っていない
  • 旅館業の許可は熊本市保健所、宿泊税の特別徴収は熊本市の税務部門。同じ建物で窓口が三つに分かれる
  • 条例を定めるのも、第18条の括弧書きの読み方から、熊本県の側になる
  • 現時点で熊本に制限条例はないが、2026年7月の国の通知で前提が動いた。過去の資料で判断しない
民泊の届出、旅館業の許可申請、お引き受けしています。

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