表示登記 ── 現況と登記を一致させる義務

表示登記 ── 現況と登記を一致させる義務

この記事の要点
  • 登記記録の表題部は、その不動産が現に何であるかを記録する欄。権利の欄とは性格が違う
  • 表題部の登記は申請が義務。建てた、壊した、地目が変わった ── いずれも一月以内
  • 怠れば10万円以下の過料の対象。相続登記の義務違反と同額
  • 令和6年4月に相続登記、令和8年4月に住所等変更登記の義務化が加わった
  • 表題部は土地家屋調査士、権利部は司法書士。窓口と順序が決まっている

建物が建った。あるいは、取り壊した。土地の使い方が変わった。

そのとき、一月以内に登記を申請する義務があります。

権利の登記 ── 所有権の移転や抵当権の設定 ── は、申請するかどうかが原則として当事者に委ねられてきました。しかし表題部の登記は、はじめから義務です。この違いは、あまり知られていません。

この記事では、表示に関する登記の義務と期限、怠ったときの扱い、そして誰に頼むのかを整理します。

表題部と権利部は、性格が違う

登記記録は二つの部分でできています。

表題部(表示に関する登記) 権利部(権利に関する登記)
記録すること 土地の所在・地番・地目・地積/建物の所在・家屋番号・種類・構造・床面積 所有権、抵当権などの権利関係
問われること 現況と一致しているか 権利の変動が公示されているか
申請 義務(原則一月以内) 原則は任意(相続登記・住所等変更登記は義務化)
登記官の職権 職権ですることができる(不動産登記法28条) 職権の一般規定はない
代理する資格者 土地家屋調査士 司法書士
「登記は任意」は、表題部には当てはまらない

表題部は、その不動産が現に何であるかを社会に示す欄です。私人の権利の問題であると同時に、公の記録という性格を持ちます。

だから登記官は職権で表示に関する登記をすることができ(28条)、必要があれば現地を調査することもできます(29条)。調査は日出から日没までの間に限られ、登記官は身分を示す証明書を携帯します。

一月以内 ── 何が、いつから

申請義務のある表示に関する登記
場面 この日から一月以内
建物を新築した 47条1項 所有権を取得した日
建物を取り壊した 57条 滅失の日
建物の種類・構造が変わった 51条1項 変更があった日
土地の地目・地積が変わった 37条1項 変更があった日
土地が滅失した 42条 滅失の日
新たに生じた土地・表題登記のない土地を取得した 36条 所有権を取得した日
建物が合体した 49条1項 合体の日

期限はいずれも一月以内です。相続登記の3年、住所等変更登記の2年と比べると、かなり短い。

起算日が「変更があった日」なのか「所有権を取得した日」なのかは、条によって違います。建物の新築は、竣工の日ではなく所有権を取得した日からです。

怠るとどうなるか

10万円以下の過料(不動産登記法164条1項)

申請の義務がある者が正当な理由がないのに申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処するとされています。

この額は令和3年の改正の前後で変わっていません。改正で変わったのは対象の範囲で、相続登記(76条の2)と相続人申告登記後の遺産分割(76条の3第4項)が、同じ164条1項に加えられました。

義務 期限 過料
表示に関する登記 一月以内 10万円以下(164条1項)
相続登記 3年以内 10万円以下(164条1項)
住所等変更登記 2年以内 5万円以下(164条2項)

相続登記については、登記官がただちに裁判所へ通知するのではなく、まず相当の期間を定めて催告する運用が通達で定められています(令和5年9月12日付け法務省民二第927号)。

表示に関する登記について、同種の催告の運用を定めた通達は公表されていません。条文上の義務と過料は、相続登記と同じ重さで置かれています。

登記を実態に合わせる、という流れ

ここ数年の改正は、一つの方向を向いています。登記の記録を、現実に追いつかせること。

義務化された三つ
施行 期限
表示に関する登記 従来から 一月以内
相続登記 令和6年4月1日 取得を知った日から3年以内
住所等変更登記 令和8年4月1日 変更の日から2年以内

相続登記は施行前に発生していた相続も対象です。この場合は令和9年3月31日まで(不動産を相続で取得したことを知った日が令和6年4月以降であれば、その日から3年以内)とされています。

住所等変更登記も同じ建てつけで、施行前の住所変更も対象です。令和10年3月31日までに申請が必要とされています。

遺産分割がまとまらないとき

相続人であることを登記官に申し出れば、相続登記の義務を履行したものとみなされる仕組みがあります(相続人申告登記/76条の3)。

ただし、これは権利関係を公示するものではありません。法務省も「相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、別途、相続登記の申請をする必要がある」としています。

申告で止まったままの不動産は、動かせません。遺産分割が成立したら、その日から3年以内に所有権移転登記が必要です。

未登記建物という積み残し

表題登記がされていない建物が、各地に残っています。増築した部分だけが未登記、というものも含めれば、さらに増えます。

未登記のままだと、次のことが起きます。

  • 所有権保存登記ができない 表題部がなければ、権利部を作れない
  • したがって抵当権も設定できない 融資の担保にならない
  • 売買のとき、買主が自分名義の登記を得られない
  • 相続のとき、何が遺産に含まれるのかを書類で示せない
  • 固定資産課税台帳には載っているのに登記記録がない、という食い違いが残る

未登記は、判断を次の世代へ先送りする形になります。相続人が増えるほど、確認と合意に時間がかかります。

誰に頼むか

土地家屋調査士 司法書士
扱う登記 表示に関する登記 権利に関する登記
業務の内容 調査・測量、申請手続の代理、筆界特定の代理 登記手続の代理、書類の作成
根拠 土地家屋調査士法3条1項 司法書士法3条1項

新築の建物であれば、表題登記(調査士)のあとに所有権保存登記(司法書士)という順で進みます。この順序は入れ替わりません。表題部がなければ権利部を作れないためです。

境界が現地で分からない土地には、筆界特定という手続きがあります。これも調査士の代理の範囲です。

場面ごとに、何をするか

建物を新築した

  • 所有権を取得した日から一月以内に建物表題登記
  • 続けて所有権保存登記(融資を受けるなら抵当権設定と同時に)
  • 建築確認済証、検査済証、工事完了引渡証明書などが資料になる

建物を取り壊した

  • 滅失の日から一月以内に建物滅失登記
  • 解体業者から取壊し証明書を受け取っておく
  • 登記が残ったままだと、課税や次の建築計画で食い違いが出る

土地の使い方を変えた

  • 農地を転用して宅地にした、山林を資材置場にした ── 変更の日から一月以内に地目変更登記
  • 農地であれば、地目変更の前に農地法の手続きが要ります
  • 都市計画法の区域によっては、用途の変更そのものに許可が必要な場合がある

相続で不動産を引き継いだ

  • まず登記記録を取り、表題部と現況が合っているかを確認する
  • 未登記の建物、地目の食い違い、増築部分の未登記がないか
  • そのうえで相続登記(取得を知った日から3年以内)
確認のチェックリスト
  • 登記記録の表題部と現況が一致しているか確認した
  • 未登記の建物がないか確認した増築部分も含めて
  • 解体した建物の滅失登記が済んでいるか確認した滅失から一月以内
  • 地目が現況と合っているか確認した
  • (地目変更)農地法・都市計画法の手続きが先に要らないか確認した
  • 相続登記が済んでいるか確認した令和6年4月から義務
  • 過去の相続で未登記のものがないか確認した令和9年3月31日まで
  • 登記名義人の住所・氏名が現在のものか確認した令和8年4月から義務
  • (協議が難航)相続人申告登記の活用を検討した
  • (売買・融資の予定)権利の登記まで到達できる状態か確認した
  • 境界が現地で確認できるか、資料があるか確認した

まとめ

  • 表題部は現況を記録する欄で、登記の申請ははじめから義務。期限は一月以内。
  • 怠れば10万円以下の過料の対象。相続登記の義務違反と同額。
  • 令和6年4月に相続登記、令和8年4月に住所等変更登記が義務化された。登記を実態に合わせる方向で制度が動いている。
  • 表題部がなければ権利部は作れない。未登記の建物は、売買にも融資にも届かない。
  • 表示は土地家屋調査士、権利は司法書士。窓口と順序を先に押さえる。
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