地価データの使い方 ── 答えられることと、答えられないこと
- 平均と中央値が食い違うとき、少数の地域が全体を押し上げている
- 集計の階層が上がるほど地域差は見えなくなる
- 地価データが示すのは過去の結果。将来を保証するものではない
- 個別の土地の条件は、どの統計にも現れない
地価に関する数字は、毎年たくさん公表されます。ただ、どの数字をどの場面で使うかを決めておかないと、都合の良い数字を拾うことになります。
この記事では、データの使い分けと、そのデータが答えられないことを整理します。第6章の締めくくりとして、実務での扱い方をまとめます。
平均と中央値が食い違うとき
都道府県別の変動率を集計すると、平均はプラスなのに、中央値はマイナスという状態が起こります。
| 意味 | |
|---|---|
| 平均 | 全体を合計して割ったもの。極端な値に引っ張られる |
| 中央値 | 順に並べて真ん中の値。過半数がどちら側にいるか |
平均がプラスで中央値がマイナスなら、過半数の地域は下落しているということです。
少数の地域が大きく上昇し、それが平均を押し上げている。「全体として上昇」という表現では、この構造が見えません。
両方を見る
公表資料に中央値が載っていない場合もあります。その場合は、上昇・横ばい・下落の地点数で代用できます。
| 見るもの | 分かること |
|---|---|
| 平均 | 全体の方向 |
| 中央値 | 過半数の状態 |
| 上昇・下落の地点数 | 広がりがあるか |
| 上位・下位の値 | ばらつきの幅 |
集計の階層
階層が上がるほど、地域ごとの差は平らになります。
| 階層 | 見えるもの | 見えなくなるもの |
|---|---|---|
| 全国 | 大きな方向 | 地域差のすべて |
| 圏域別 | 都市圏と地方の差 | 県ごとの違い |
| 都道府県別 | 県の傾向 | 市町村ごとの違い |
| 市町村別 | 実務で使える単位 | 地区ごとの違い |
| 地点別 | 最も具体的 | ― |
全国の数字から下りていくと、先に大きな傾向を覚えてしまいます。
実務では逆です。まず対象地の地点を見て、次に市町村、必要なら県の傾向という順で確認してください。
全国や県の数字は、説明の背景として使うものであって、判断の根拠ではありません。
データでできること・できないこと
| できること | できないこと |
|---|---|
| これまでの推移を知る | 将来を予測する |
| 地域間で比べる | 個別の土地の価格を決める |
| 価格の目安を持つ | 取引価格を保証する |
| 説明の根拠にする | 条件の特殊な土地に当てはめる |
「○年連続上昇」は、これまでそうだったという事実にすぎません。
上昇が続いた後ほど、実需との乖離が生じている可能性があります。
顧客に説明するときは、「これまでの推移はこうです。今後は要因次第です」という形にとどめてください。
将来の値上がりを前提とした説明は、後で責任を問われます。
場面別の使い分け
| 場面 | 使うデータ |
|---|---|
| 売買価格の妥当性 | 成約事例+近隣の標準地・基準地 |
| 地域の傾向を説明する | 市町村別の変動率、数年分の推移 |
| 取得時の諸費用 | 固定資産税評価額 |
| 相続の見通し | 相続税路線価(判断は税理士へ) |
| 融資の相談 | 成約事例、鑑定評価 |
| 争いが想定される | 不動産鑑定士による鑑定評価 |
成約価格を必ず併せて見る
公的価格は基準であって、実際の取引価格ではありません。
- 不動産情報ライブラリ 取引価格の情報、公示地価、基準地価を地図上で
- レインズ・マーケット・インフォメーション 成約価格の目安
いずれも無料です。公的価格だけで説明すると、実勢との差を説明できません。
資料を作るときの注意
数字の扱い
- 出典と時点を必ず明記する 「令和○年地価公示」のように
- 単位をそろえる 円/㎡か、円/坪か
- 変動率と価格水準を混同しない
- 継続地点で比較しているか確認する
- 地点数を併記する 少ない地点の平均は代表性が低い
複数の地域の変動率を単純に足し合わせた数字には、意味がありません。
たとえば47都道府県の変動率を合計しても、その数字が何を表すのかを説明できません。平均か、中央値か、加重平均か。どれを使うのかを決めて、その旨を明記してください。
また、都道府県は47です。集計結果の件数が合わない資料は、どこかで数え違いが起きています。公表する前に検算してください。
表とラベルを一致させる
「最も減少」という見出しの下に、増加している地域を載せてはいけません。
「増加幅が最も小さい」なら、そう書いてください。ラベルと内容の食い違いは、資料全体の信頼を損ねます。
地価データが答えない問い
ここまで見てきたデータは、地域の傾向を示すものです。
しかし、実際の取引で問題になるのは、その土地の個別の条件です。
| 問い | 地価データで分かるか |
|---|---|
| 建て替えられるか | 分からない。接道を調べる |
| 境界は確定しているか | 分からない。地積測量図を確認する |
| 越境はないか | 分からない。現地と公図で確認する |
| 擁壁は問題ないか | 分からない。現地で見る |
| 地盤はどうか | 分からない。履歴と地形で推測する |
| 災害の危険性は | 分からない。ハザードマップで確認する |
| 買い手に融資が付くか | 分からない。上記の条件で決まる |
地価データが示すのは地域という面の傾向です。
実際に売買するのは一つの点、特定の土地です。
面の数字がどれだけ上がっていても、その点が接道を満たしていなければ、建て替えられません。境界が未確定なら、売却に数か月かかります。
面の情報と、点の調査は、両方必要です。どちらか一方では判断できません。
説明するとき
| 避けるべき言い方 | 適切な言い方 |
|---|---|
| 「熊本は地価が上がっています」 | 「この地区の直近の数字はこうです。県内でも地域差があります」 |
| 「全国的に上昇傾向です」 | 「全国平均は上昇ですが、下落している地域もあります」 |
| 「今後も上がります」 | 「これまでの推移はこうです。今後は要因次第です」 |
| 「公示地価が根拠です」 | 「公示地価と成約事例の両方を見ています」 |
| 「資産価値が上がります」 | 「地域の傾向とこの土地の条件は、分けて見る必要があります」 |
第6章のまとめとして
この章では、地価に関する数字の読み方を扱いました。
| 回 | 扱ったこと |
|---|---|
| 一 | 地価が動く仕組み。産業立地の影響が伝わる順序 |
| 二 | 四つの公的価格。目的が違うため水準も違う |
| 三 | 変動率の読み方。平均に隠れるもの |
| 四 | 標準地・基準地。公表価格と自分の土地の距離 |
| 五 | データの使い分けと、限界 |
共通しているのは、公表された数字をそのまま結論にしないという姿勢です。
どういう前提で作られた数字か。何を含み、何を含まないか。これを確認する習慣が、判断の質を決めます。
毎年の更新について
地価公示は毎年3月、都道府県地価調査は毎年9月に公表されます。
その時点の数字は、公表されたときに確認してください。この章で扱った読み方は、どの年の数字にも当てはまります。
- 平均だけでなく、中央値または上昇・下落の地点数を見た
- 集計の階層を確認した全国/県/市町村/地点
- 対象地の地点から確認した全国の数字から下りていない
- 用途別に分けて見た
- 数年分の推移を確認した
- 継続地点で比較されているか確認した
- 公的価格と成約事例の両方を見た
- 場面に応じたデータを選んだ売買/税/融資/争い
- (資料作成)出典と時点を明記した
- (資料作成)単位をそろえた
- (資料作成)地点数を併記した
- (資料作成)集計方法を明記した平均か中央値か加重平均か
- (資料作成)件数を検算した
- (資料作成)表のラベルと内容が一致しているか確認した
- 将来の値上がりを前提とした説明をしていない
- その土地の個別条件を、別に調査した接道・境界・越境・擁壁・災害
まとめ
- 平均と中央値が食い違うときは、少数の地域が全体を押し上げている。
- 集計の階層が上がるほど、地域差は見えなくなる。対象地の地点から確認する。
- 地価データが示すのは過去の結果。将来を前提とした説明はしない。
- 意味のない集計を作らない。集計方法を明記し、件数を検算する。
- 統計は面、取引は点。個別の土地の条件は、どの統計にも現れない。
登記・測量と物件調査を実際に行っている立場から、数字の前提になっている土地の条件をお話ししています。特定の商品を勧めることはありません。
構成のご提案とお見積りまで、費用はかかりません。